Interview

iri、熱さを秘めたクールな歌声とサウンドで自らの“影”をあるがままに表したアルバム『Shade』

iri、熱さを秘めたクールな歌声とサウンドで自らの“影”をあるがままに表したアルバム『Shade』

昨年2月にリリースされた2ndアルバム『Juice』がApple Musicアルバムランキングで最高位2位を記録、iTunes Store のヒップホップ/ラップチャートでは1位を獲得するなど、大きな注目を集めているiriから、3rdアルバム『Shade』が到着! シングル「Only One」(国際ファッション専門職大学 TVCMソング)、ソニー h.ear × ウォークマン CMソング「Wonderland」を含む本作には、大沢伸一、tofubeats、grooveman spot、Shingo.S、三浦淳悟(PETROLZ)、澤村一平 & 隅垣元佐(SANABAGUN.)のほか、これまでもiriの作品を手がけてきたケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)、STUTS、ESME MORI(Pistachio Studio)、Kan Sano、Yaffleらが参加し、彼女のアーティスト性を最大限に引き出すことに成功している。「自分の中にある影をあるがままに表現しました」という本作について彼女自身に語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 中原幸

自分の歌が、いろんな人に届いていることを実感する機会が増えました

初めてiriさんのライヴを観たのは、2017年4月のコリーヌ・ベイリー・レイのオープニングアクトだったんですよ。

あ、そうなんですね。もう2年くらい前ですね。

その後、iriさんの環境は大きく変わって。今の状況をどう感じていますか?

去年、初めて全国ツアーをやって、自主企画イベントもあって。自分の歌が少しずつ、いろんな人に届いていることを実感する機会が増えました。

やりたい音楽性も変化している?

そうですね。そのときに聴いている音楽、「いいな」と思っているサウンドに近づけることもあるし、今回の3rdアルバムもそうですけど、制作前後に聴いていた音楽の影響みたいなものも入れているので。「こういう感じで自分がやったら、どうなるんだろう?」という興味があるし、試してみたいんですよね。

なるほど。最近はどんな音楽を?

ヒップホップを結構聴いていました。海外の女性ラッパーで、ラップもやるし、歌もしっかり歌うというタイプの人が増えているので、そのスタイルに憧れもあって、自分の音楽に取り入れたり。あとはバンドサウンドも好きなので、プレイヤーと一緒にスタジオでセッションして、「どういう曲にする?」というところから作った曲もあります。今まではトラックメイカーの方にトラックをいただいて、そこに歌詞と歌を乗せるやり方が多くて。もちろんそれも好きなんですけど、もともとはギターの弾き語りだったり、ジャズクラブでバンドと一緒に歌ったりしていたので、どっちかと言うと、そっちがスタートなんですよ。

ジャズもルーツのひとつ?

そんなに詳しくないですけどね(笑)。地元(逗子)に近い鎌倉のジャズクラブでアルバイトをしていて、時々セッションをしたり、ライヴをやらせてもらっていたんです。

ライヴの見せ方も変化はあったりしますか?

今はライブのやり方も広がっています。一時期はDJとふたりとか、DJとドラマーだけということが多かったんですけど、生楽器が大事な曲も増えてきて、ベース、キーボードなどにも入ってもらったり。このあとはどうしようかなと考えているところですね、今は。

「Shade」は大沢さんに「音数を引く」提案をもらった

いい意味で過渡期なのかも。今回のアルバム『Shade』も、徐々にサウンドが変化していることが伝わってきました。前作『Juice』に比べると、かなり生音の比率が上がってますよね。

そうですね。制作自体は、トラックメイカーの方と「どういう曲にしたい?」という話をして進めていくんですけど、あとはアルバム全体を見て、必要な曲を作ったり。そのなかで、今、自分がやりたいことが自然に出てきたんだと思います。

楽曲についても聞かせてください。まずタイトル曲「Shade」は大沢伸一さんのプロデュース楽曲。

大沢さんと一緒に制作するのは初めてだったんですけど、まずは大沢さんのスタジオに行かせてもらって、「最近はどんな曲を聴いてるの?」みたいな話から始まりました。自分としては2ndアルバムの楽曲よりもさらにパンチのある曲にしたくて、そのためにはちょっと違うアプローチが必要だったし、だから大沢さんにお願いしたんです。なので最初は「バキバキな感じでやりたいです」と言っていたんですが、いろいろ話をするなかで、「激しくてノレる曲もあるけど、それよりも音数を引いて、声がバンと伝わる曲のほうが新しいし、聴きたくなると思うけど。そのほうがインパクトがあるんじゃない?」という提案を大沢さんからもらって。その引くというアイデアは私にはまったくなかったので、それでぜひやってみたいと思いました。実際に出来上がった「Shade」のトラックは、“そんなに引く?”というくらい、極端に音数が少ないんですけど、そのぶん歌が前に出ていて。だけど、最初は歌うときに勇気が必要でしたね。

音数を押さえて、ベース、キック、歌を中心に構成するのは、ここ数年の海外のR&B、ヒップホップの流れとも重なっていて。このトラックで歌ってみて、発見もあったのでは?

すごく勉強になりました。これまではプロデューサーの方にしっかり入ってもらうことが少なくて、トラックに合わせて自由に歌っていたんですが、「Shade」のボーカルのレコーディングには大沢さんにも立ち会っていただいて、「もっとこういう感じで歌ってみて」というアイデアをもらって。好きな歌い方とかクセもあるんですけど、そのままではなくて「こうしたらメリハリが出るよ」というアドバイスもあったし、「なるほど」と思うことも多かったですね。あと、toufbeatsくんにトラックを作ってもらった「Flashlight」も同じような感じでした。「そんなに(ボーカルに対する意見は)言わないよ」と言いながら、「もっとニュアンスを出してみて」みたいなこともあって(笑)。そこでも気づくことがいろいろありましたね。

等身大でありつつ、洗練されたフロウを伴ったリリックも印象的でした。何気ない日常を描いた「Common」も、ゆったりとしたグルーヴが気持ちいいなと。

ありがとうございます。「Common」はまさに、日常の中でふと感じたことをそのまま書いているんです。平凡な日々の中にこそ幸せはあるんだなっていう。家族と過ごす休日だったり、友達とくだらない話をしてるときだったり。全然特別じゃない時間こそが大事なんだなと思うようになったし、そのことを歌いたいと思ったので。

メジャーデビュー以降も、そういうおだやかな時間はちゃんとキープしてる?

そこはバランスよくやっています。もちろん、こもって制作してることもあるんですけど、基本的には作りたいときに作って、歌いたいときに歌うという感じなので(笑)。ただ、目にする景色は少しずつ変わっていますね。地元にいた頃は、逗子の風景を歌詞にすることが多かったんですけど、最近は東京の街の風景が増えていて。全然違いますからね、時間の流れ方とかも。逗子はユルいので(笑)。

「mirror」の冒頭のフレーズは「踊り出した 儚いね tokyo city」ですね。

モロに東京の風景ですね(笑)。これはたしか、東京に住んでる友達とご飯に行って、いろいろ話したことがもとになっていると思います。そこで将来のことだったり、「こういうことをやりたいんだよね」という話をして。友達はミュージシャンだけじゃなくて、ファッション系の人もいるんですけど、みんなわりと大きい夢を持っているんですよ。だからそういう話を普段から結構していて。私も「スタジオ欲しいんだよね」って言ってますし(笑)。

プライベートスタジオですか?

そうですね。海の近くにスタジオがあって、友達のミュージシャンと音を出せたら最高だなって。仕事とは違うところで、楽しみながら音を出せる場所が欲しいんですよね。少しずつ頑張ろうかなと思っています(笑)。けど、「mirror」が、まさにそういう作り方をしていて。SANABAGUN.の澤村一平 さん、 隅垣元佐さん、PETROLZの三浦淳悟に参加してもらったんですが、お三方とも地元が結構近くて、好きなジャンル感も似ているので、一緒にやったら絶対良くなるだろうなってお声がけをしたのがきっかけで。まず一緒にごはんを食べて、いろいろ話をして、そのあとスタジオでセッションして、そこで録音した音をもとにトラックを作ってもらいました。こういうやり方はやっぱり楽しいんですよね。生楽器の中で歌うとグルーヴも全然違うので。「mirror」みたいな作り方は、今後もやっていきたいです。

「Shade」(“影”)というアルバムタイトルについても聞かせてください。このアルバムに対してiriさんは「自分の中にある影をあるがままに表現した」とコメントしていて。それが「Shade」というタイトルに繋がっていると思いますが、影の部分、ネガティブなところも含めて表現したいと思ったのはどうしてですか?

そうですね……曲を作り始めたのは18歳くらいだったんですけど、最初はそういう感じの曲が多かったんです。「会いたいわ」という歌はまさにそうで、失恋したときに友達と遅くまで話し込んで、夜中の3時くらいに勢いのままiPhoneにレコーディングしたんです。その瞬間の自分の気持ちを吐き出すように作った曲というか。だけど、メジャーデビューしてからは、当たり前ですけどリリースする作品も増えていくし、聴いてくれる人が増えるにつれて、「リスナーに何かを伝えなくちゃ」「ポジティブなワードを入れなくちゃ」という気持ちが出てきたんですよね。それももちろん間違っていないと思うんですけど、もっと力を抜いて、リアルなことをそのまま歌いたいなと思い始めて。そっちのほうが自分らしいし、「私らしいな」という言葉が出てきやすいんですよ。だから、今回は全体的にサウンドも明るさを意識しすぎず、ちょっと暗い感じ……もともとそういう音が好きなんですけど、ただ、暗いだけではなくて、たとえネガティブな雰囲気があったとしても、どこか前を向いている曲が多いんですけどね。

リリック、トラックを含めて、iriさんの本来の個性が発揮されたアルバムなのかも。全編を通してiriさんのキャラクターが反映されていると思いますが、自分の性格ってどう思います?

うーん、何ですかね? 自分ではよくわからないです(笑)。歌詞を見ると、わりと強気だなって思いますけどね。自分はダメだと言いながらも、なんだかんだ前向きなんだなって。

iri LinkFire

iri Spring Tour 2019 “Shade”

4月5日(金)東京 EX THEATER
4月7日(日)札幌 DUCE SAPPORO
4月11日(木)高松 DIME
4月13日(土)梅田 CLUB QUATTRO
4月14日(日)名古屋 CLUB QUATTRO
4月16日(火)仙台 MACANA
4月18日(木)浜松 FORCE
4月20日(土)広島 セカンドクラッチ
4月21日(日)福岡 BEAT STATION

iri(いり)

神奈川県逗子市在住。自宅にあった母のアコースティックギターを独学で学び、アルバイト先の老舗 JAZZ BAR で弾き語りのライヴ活動を始め、2014 年に雑誌『NYLON JAPAN』と「Sony Music」が開催したオーディション「JAM」でグランプリを獲得。2016 年 10 月にアルバム『Groove it』でデビューし、iTunes Store にてトップ 10 入り、ヒップホップ/ラップチャートでは 1位を獲得。 2017 年3月には、Nike Women「わたしに驚け」キャンペーンソング「Watashi」をシングルリリースしているほか、2018年2月にリリースした2ndアルバム『Juice』もiTunes Store のヒップホップ/ラップチャートで1位を獲得している。

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