Interview

映画『怒り』で名だたる俳優陣に並び、難役に挑んだ佐久本宝とは?

映画『怒り』で名だたる俳優陣に並び、難役に挑んだ佐久本宝とは?

映画『怒り』を構成する3つの異なるエピソード【千葉編】【東京編】【沖縄編】のうち【沖縄編】に登場する佐久本宝は、本作で俳優デビューを果たす沖縄出身のニューカマー。1,200名のオーディションを経て、広瀬すず演じる小宮山泉の同級生にして、物語において重要な役回りを果たす高校生・知念辰哉役を射止めた。
インタビューの現場にやってきた彼は少年の面影が色濃く残る、つねに笑顔を絶やさない純粋さを絵に描いたような18歳。映画の記者会見用に買ってもらったという人生初のスーツに身を包んでの、ややぎこちない振る舞いが初々しい。名うての俳優陣も身構える、李 相日監督の容赦のない演出に、この目をキラキラさせた少年は、どうこたえていったのだろうか。

取材・文 / 千葉一郎 撮影 / 冨田 望


この映画を観たあとに何か考えたり、感じてもらえたら嬉しいです

まずは、映画出演の経緯を教えていただけますか?

李監督が、僕が沖縄でやっている舞台の現場を観に来てくれて、「この子、オーディションに呼んだら?」って言ってくださったみたいで。その話を聞いて、なんか楽しそうだなと思ってオーディションを受けました。受けたときは“映画のオーディション”ということだけ知っていて、何の映画かもよくわからなかったんです。オーディションは沖縄と東京で2回あって、最終オーディションを受けたあとに、両親と一緒に監督と会って話をして。その翌日に「宝で辰哉をやりたいと思った」という監督からの手紙がポストに入っていました。決まったときは、お父さんとお母さんも「監督を信じてついて行きなさい」と背中を押してくれて、本当に嬉しかったです。

映画『怒り』 佐久本宝

佐久本宝

出来上がった映画をご覧になられてどうでしたか?

まず自分が映ってることにびっくりしました(笑)。ただ、後半になるにつれて不思議と自分がいるという感じじゃなくなって、客観的に映画を観ることができて。観終わったあとにそういう自分が不思議な感じがしました。

だんだん物語に没入していったんですね。これだけの錚々たるキャストの方たちが「李組はヤバイ」って言っている状況で、そこにポイッと入れられて、率直にどんな感じでした?

最初のリハーサルのときから、助監督の方に「李組はほんとに厳しいからな」って繰り返し言われてて(笑)。最初のリハではやっぱリ何もできない状態でした。李監督に『2001年宇宙の旅』の映像を観せられて、サルみたいな原始人の縄張り争いが始まってだんだん進化していく内容なんですけど、「宝、お前、サルをやれ。恥を捨てるんだ」って言われて。会議室で助監督と一緒に二人で必死に縄張り争いをやりました。そのあと監督から「時間をあげるから、あとで衣装合わせのときにみんなの前でやれ」って。そのときに「ああ、こういう厳しさがあるのか」って思いました。監督からはあとで「あれは、お前が肩張って緊張して入ってきてたから、やわらげてあげるためにやったんだよ」って言われましたけど、逆に緊張しました(笑)。

映画『怒り』 佐久本宝

佐久本宝

実際に撮影が始まってからはどうでしたか?

初日は一回もカメラを回さなくて、ずっとリハーサルだけで終わりました。監督は「うーん、なんか違うな」っておっしゃっていて。でも、絶対に「こうしろ」とは言わないんですよ。「もう少し考えてみて」「もう少し自分で“受け取って”やってみて」って。考えてやろうとしたら、「 “やろう”としなくていいから。やろうとしたら、もうダメだから。(自分が)辰哉だと思ってやって」とずっと言われてましたね。「考えるな、感じろ」みたいな感じでした。でもスタッフの人たちが本当に優しく接してくれて、現場の居心地はとても良かったです。最初は不安もあって固くなってしまいましたが、スタッフの人たちと打ち解けてからは、あまり無理にやろうとはならなくなりました。

最初は余計なものがいっぱいくっついていて、それを一個ずつはがしていくことで、本来の力を発揮できるようになっていったってことですかね。

みんな言うんですけど、李監督と一緒にいると本当に安心感が出てくるんですよ。監督は本番の前に必ず背中に手を当てて「よし、行ってこい!」って言ってくれるんですけど、その手から出るパワーみたいなものが、自分の心の支えになっていました。

映画『怒り』 佐久本宝

佐久本宝

広瀬すずさんは「現場でとにかく混乱して、何がなんだかわからなくなった」というようなことを会見で話されてましたが、佐久本くんはどうだったんですか?

あまりにわからなくて、混乱するヒマがなかったです(笑)。映画の現場はこういうものなんだって思いながらずっとやってました。でも、すずちゃんに聞いたら「こんな現場はほかにはないよ」って言ってましたけど。

印象に残っているシーンはどこですか?

船を運転するシーンです。映画のために2級の船舶免許をとりました。このシーンだけは、すべてのものから解放されている気がして楽しかったです。広い海をどんどん一人だけで行く、ここだけは監督も入ってこれない領域だなって(笑)。実は、僕は台本をもらってなくて、当日に監督が「今日この場面をやるから、覚えて」という感じだったんです。そういうこともあって、どのシーンも広瀬さんと森山(未來)さんにすごく助けられて、引っ張ってもらいました。

映画『怒り』 佐久本宝

佐久本宝

最後に、佐久本くんが考える“怒り”とは、どういうものだと思いますか?

撮影中も撮影が終わってからも、そのことはずっと考えてました。でも、なかなか答えが出ないんです。3組のストーリーの中でも、悲しみとか、あきらめとかいろんな感情がある中で、やっぱり前を向かなきゃいけないっていう部分もあったり。つらいことがあっても、翌日からまた生活していかなきゃいけないとか……そういう、いろんな感情が混ざってるものなんだろうなと。だから、これからも答えを探していこうと思ってます。この映画を観たあとに何か考えたり、感じてもらえたら嬉しいです。観終わって、僕もしばらく席から立てなかったですから。

佐久本宝

1998年生まれ、沖縄県出身。沖縄県うるま市の中高生で構成される現代版組踊(沖縄版ミュージカル)“あまわり浪漫の会”に所属。今作のオーディションで大抜擢され、スクリーン・デビュー。

映画『怒り』

映画『怒り』

2016年9月17日公開

【STORY】
八王子で起きた残忍な殺人事件。その現場には“怒”という文字が血塗られ、残されていた。犯人は捕まることなく逃亡を続け、事件から1年経過しても行方不明のままだった。そんななか警察はあらたな手配写真を公開。時を同じくして、千葉と東京と沖縄に素性のわからない3人の男が現れる。手配写真にどこか似た男たち。目の前の彼は殺人犯なのか? 愛する人をどこまで信じることができるのか─。

【監督・脚本】李相日
【原作】吉田修一(中央公論新社刊)
【音楽】坂本龍一
【主題曲】坂本龍一 feat. 2CELLOS 「許し」
【キャスト】
渡辺 謙 森山未來 松山ケンイチ 綾野剛
広瀬すず 佐久本宝 ピエール瀧 三浦貴大 高畑充希 原日出子 池脇千鶴
宮﨑あおい 妻夫木聡

オフィシャルサイト


M21 – 許し forgiveness
坂本 龍一

2016年8月31日配信開始
全1曲

「怒り」オリジナル・サウンドトラック