Interview

FINLANDS よりバンド感を深めた新作のサウンドはしかし、なぜこんなにも切なく響くのか?

FINLANDS よりバンド感を深めた新作のサウンドはしかし、なぜこんなにも切なく響くのか?

昨年7月にリリースしたフルアルバム『BI』でその音楽世界の深まりを感じさせ、さらにはその後のツアーでバンドとしての充実ぶりを印象づけたFINLANDSが、初めてのEP「UTOPIA」を完成させた。2015年のミニアルバム『JET』から7月リリースを続けていた彼女たちが、敢えてこの時期に発表する新作には果たしたどんな思いが込められているのか。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

『BI』は変化がありつつもちゃんと芯を残せていて、その芯を客観的に見ることができるアルバム

昨年7月にフルアルバム『BI』をリリースし、そのアルバムを携えてのツアーを10月までやりました。そのプロジェクトの全体を今振り返ってどんなことを思うか?というところからまず聞かせてください。

塩入 『BI』はフルアルバムとして発表して、初めて自分たちでツアーを作って、それを完走してみると、もちろん満足の気持ちもあったんですが、まだまだやれることがきっとあるなという、今まで見えてなかった先々のことがチラッと見えたような、満足だけで終わらない出来事だったなというふうに思います。

塩入冬湖(Vo、Gt)

前回のインタビューで、「フルアルバムというのは1曲目から長い道のりを辿って最後に行き着くという感じのもの」という話がありましたが、そのアルバムから始まった一連の流れも実際にやり終えてみると考えていた以上に大きさや奥行きを感じたということですか。

塩入 そうですね。本当にいろんなことを感じました。やっぱり想像だけでは補えない部分というのがすごくあって、想像していたよりも良いほうに転ぶこともあれば想像していたより難しかったこともあって、それはツアーに関する部分で特に多かったんですが、初めてワンマンを交えたツアーをやってみて、“自分たちなりに満を持して作った『BI』というアルバムをどうやったら望んでいる通りに聴いてもらえる形が出来上がるんだろう?”ということを考えることが多かったんです。そういうふうに、壁にぶつかることも多々ありましたね。

コシミズさんは、『BI』のプロジェクト全体を振り返ってどんなことを感じていますか。

コシミズ 出来上がった時の『BI』の印象とツアーを完走した後の『BI』の印象がガラッと変わったんです。作っている最中には、アレンジをどんどんシンプルにしていったような感覚があったんですけど、でも時間が経って、歌詞も含めて染み込んでくると、シンプルでは確かにあるんですけど「作り込んだシンプルさ」というようなものが作れたなと思ったんですよね。今までのFINLANDSにはない作品にはなったと思うんですけど、それでも芯は残せているというか、変化がありつつもちゃんと芯を残せていて、その芯を客観的に見ることができるアルバムだな、とツアーを完走してから思いました。

コシミズカヨ(Ba、Cho)

では、FINLANDSのディスコグラフィーの中ではあの作品はどういう作品だというふうに今の時点では感じていますか。

コシミズ 素直な作品、でしょうか。けっこう尖った印象の作品がこれまでは多かったと思うんですけど、『BI』は言葉自体も素直ですし、音の作り方やアレンジも素直な感じになっていると思います。

とすると、「それまでは素直じゃなかったんですか?」と聞きたくなりますが(笑)。

コシミズ (笑)、素直は素直だったんですが、以前は棘を隠さない感じがあったと思うんです。でも『BI』は、わかりやすいのはやっぱり歌詞だと思いますが、言葉がまるくなったり、そういう変化が見えた作品だと思います。

EPという“容れ物”はすごく大変でした。EPというものに対する理解度が低かったんです。

そういうアルバムのプロジェクトが終わって、その次に向かうとなった時に、FINLANDSはここのところずっと7月に作品をリリースしてきたわけですが、今回はどうしてそれよりも早くこの3月の時期に作品をリリースすることにしたんですか。

塩入 私たちのなかに7月にリリースするということがルーティーンのようにあって、それは別に悪いことではないと思うんですが、今回はシンプルに新しい季節に作品を発表してみたいという気持ちだったんです。それは、単純に好奇心みたいなことなのかもしれないんですが。そういう話をしているなかで、私たちFINLANDSはEPというものを作ったことがなかったので、「それを作ってみれば」という提案をもらって、そこから今回の作品を考え始めました。

「新しい季節にリリースする作品を作る」という気持ちは、その中身に何か影響をおよぼしましたか。

塩入 季節によって作る作品が変わるか?と聞かれれば、それは変わらないと思うんですが、私自身がリスナーとして音楽を聴く時に、例えばどんなに冬のことを歌っていても夏にリリースされた曲は、聴いた時にどうしても夏の風景や夏の思い出を思い浮かべるということがあるし、それはきっといろんな人にもそういうことがあると思うんです。その意味で、私たちの音楽はどうしても夏に紐づいてしまうものだなと思うので、それを一新させたいという気持ちもありました。だから、そのことを考えながら作ったんですけど、でも私自身はそういうことにはあまり左右されないんだなということを作り終えた後に思いました。

では、EPという“容れ物”が中身に何か影響したところはありますか。

塩入 EPという“容れ物”はすごく大変でした。アルバムやミニアルバム、それにシングルの定義というのはある程度知っているつもりだったんですけど、でもEPについてはきちんとした定義を知らないまま使い続けていた言葉だったと気づいて。つまり、EPというものに対する理解度が低かったんです。私は、最初の根源を理解しないと、それに取り組めないので、EPとはどういうものなのか?ということを、すごくググったりしました。「何の略なのか?」とか「何分以上、何分以内のものなのか?」とか。ただ、そういうことをちゃんと理解してからは、すごくすんなり進めることができました。

EPという“容れ物”についてまだ理解が十分でなかった時期の塩入さんは、どんな様子だったんですか。

コシミズ 曲の作り方として、元になるものを聴かせてもらって、それでデモを作って、そこから制作に入っていくんですけど、その段階ではちょっと迷っている感じはありましたよ。その段階では何曲も候補があって、そのなかにはこの4曲とは全然違う雰囲気の曲もあったりして、「EPに入れるのはこれでもない!あれでもない!”という感じで、どの曲を作り上げるかということについてはすごく迷っていたというか、考えたと思いますね。ただ、「これだ!」という曲が揃ってからは、冬湖も言ったように、出来上がるまでは速かったです。

「UTOPIA」は、私以外の3人の音楽的な要素がこれまで以上に色濃く出てるんです。

制作が一気に加速するポイントになったのは、どういうタイミングだったんですか。

塩入 「UTOPIA」という曲が出来上がったことによって、その周りをどういう布陣を組めばいいのかということがすごく見えた気がします。EPというものの定義を理解した後に、スタジオでふと“デモは作ってないけど、昨日作った曲があるから、それをやってみよう”と思い立って、私がギターで弾き語ったんです。そしたら、それにメンバー3人が合わせてくれたんですよね。それで出来上がったのが「UTOPIA」という曲で、本当に1、2回のスタジオ・セッションで全て出来上がって、そこから見えてきたものがすごく大きかったです。

「UTOPIA」という曲のどういう特性が、そういうふうに一気に視界を広げさせてくれたんだと思いますか。

塩入 この曲は、言ったようにデモを作らなかったので、私以外の3人の音楽的な要素がこれまで以上に色濃く出てるんです。なので、これまでで一番、曲に関しての安心感があって、出来上がった時に“いい曲だな”と思うと同時に、“私は歌詞を書くことに専念していいな”ということを強く感じました。歌詞を書くのにすごく時間がかかることもありますけど、この曲の場合は歌メロが出来上がってきた時に歌いたいことがすごく明確に見えてきて、あとは言葉をどれだけきちんと組み合わせられるかだなって。すごく伸びしろのある曲だと感じたんです。その時に、演奏は彼女たちに任せられるから、私がその伸びしろをどうするか決められるなと思ったんです。そこが、このEP全体をどうするかも見えてきた要因かもしれないですね。

コシミズさんは、今回の制作を振り返って、特に印象に残っている場面や楽曲はありますか。

コシミズ 「衛星」という曲ですね。この曲は、去年お酒のメーカーの企画でハロウィンをテーマに作り始めたんですが、冬湖はハロウィンからの連想で、「怖いこと」、そして「精神的に支配されること」というふうに考えていって、出来上がった曲です。歌詞の内容はちょっと重めな印象だったんですけど、でもFINLANDSの曲はやっぱりポップに仕上げたいという気持ちがあって、それに最初に聴かせてもらったデモがちょっとスロウなテンポで横に揺れるような感じの曲調だったので、リズム隊でいろいろ試行錯誤してFINLANDSらしさは残しながら横に揺れる感じは活かすっていう。Aメロなんて、すごくシンプルなんですよ。ちゃんと歌が引き立つようになってますし。ギターとドラムはサポート・メンバーなんですが、その二人の要素もちゃんと出せた曲になったなと思います。

「FINLANDSの曲はやっぱりポップに仕上げたい」と言われましたが、どんな曲でもポップということは意識するんですか。

コシミズ 曲はポップなんだけど、歌詞をよく見てみると“えっ!?”となるような感じがすごく好きですね。

今回の4曲の歌詞を見ると、3曲は恋愛のある局面を描いているように受け取ったんですが、それは結果的なことですか。それとも、作っている当時の気持ちがそういうところに向かっていたんでしょうか。

塩入 確かに恋愛の要素が多いとは思うんですけど、ただ私は何かがあった時にそれを恋愛に置き換えることがよくあるんです。1対1という関係性は恋愛が一番わかりやすいし、その相手が何かの事柄だったとしても、それを自分と対峙させてしまうことが多くて、今回は昨年“BIツアー”が終わった時に、ずっと出続けていたアドレナリンが切れた瞬間の虚無感とか、そういう絶対的な孤独との対峙ということが出ているかもしれないですね。

例えば、「絶対的な孤独」ということが主題として意識された時に、それを恋愛局面に置き換えて描くのではなくて、そういうものとして描くということに気持ちが向かうことはないですか。

塩入 さっきカヨも言ったように『BI』というアルバムはすごく素直に全てを書き記した作品だと思うんです。それは、意図してそういう表現をしてみたい、もうそろそろそういう表現をしてもいいかなという気持ちがあったからなんですが、それを経ての「UTOPIA」は、新しい自由を与えられたというか、“すごくストレートな言葉を使った作品を作ったんだから、次はますます好きなようにやってもいいよ”という気になったんです。だから、今回は“裏の裏の表”みたいな(笑)、そういう書き方をしたかったというのはあります。

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