佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 84

Column

楽しくて明るい歌が妙にもの悲しくて、しっとりとしたバラードが何故か妙に明るい、それが「かもめ児童合唱団」の魅力だ!

楽しくて明るい歌が妙にもの悲しくて、しっとりとしたバラードが何故か妙に明るい、それが「かもめ児童合唱団」の魅力だ!

逗子葉山新聞にこんな記事が掲載されたのは去年の12月の後半だった。

葉山に「ミサキドーナツ」の4店舗目 三浦半島最南端の港町、三崎で創業

葉山町の葉山元町交差点のすぐそばに、「ミサキドーナツ葉山店」(葉山町堀内)が12月19日、オープンした。 「ミサキドーナツ本店」(本社=スウィート・スプエスト)は三浦半島最南端の港町、三浦市三崎で2012年に開業し、今年「神奈川県優良小売店舗」として表彰された。

ドーナツの特徴は、本店と鎌倉店で一つ一つ手作りしていること、季節感を大事にしていること、そして元パティシエの監修による見た目のかわいらしさ。
今年10月に逗子店が5周年を、11月に鎌倉店が4周年を迎え、葉山店は4店舗目となる。
 

そのニュースと共に「ミサキドーナツ」のオーナーである藤沢宏光氏からは、彼がプロデュースしている「かもめ児童合唱団」の新曲として、「ずっと好きだった」の音源がメールで届いた。
すぐに聴いてみたところ、このロックンロールの曲がいつまでも耳に残って、離れなくなったのである。

この町を歩けば 蘇る16才
教科書の落書きは ギターの絵とキミの顔
俺たちのマドンナ イタズラで困らせた
懐かしいその声 くすぐったい青い春
 

特に始まってすぐの歌詞の一部、「蘇る16才」というフレーズに、ぼくはすっかりやられてしまった。
何回聴いても、聴くたびにそこが妙に心に響いてきた。
はっきりとした理由はわからないが、ロック・アレンジのサウンドとメロディ、そして子どもたちの純朴な歌声のマッチングによって、「蘇る16才」という歌詞から音楽のマジックが生じていると思った。

それ以来、アルバムの完成を楽しみに待っていたのだが、全12曲入のCDがようやく届いた。

初めて耳にしたアルバムの曲のなかで、とりわけ歌詞がメロディとともに鮮やかに心に響いてきたのが、友部正人の「朝は詩人」である。

オートハープを抱えた少女が
駅で電車を待っている
 

このフレーズの歌声から、不意に地方都市の情景が立ち昇ってきて驚かされた。
これもやはり歌詞とメロディに子供の歌声がマッチングしたことで、オリジナルにはなかった新しい魅力をかもし出していたからだった。
それが次の展開にまでつながって、歌の世界に不思議な深みを与えていたのだろう。

君が歌うその歌は
世界中の街角で朝になる
君が歌うその歌の
波紋をぼくはながめてる
 

アルバムの12曲を最後まで通して聴いても、まったく飽きないで楽しめるのは、抑制のきいたアレンジと選曲がいいからだろう。

しかも小学生の合唱団のアルバムなのに、ジェーン・バーキンのカヴァーが2曲も入っている過激さもいい(!)。
もちろんソングライターはセルジュ・ゲンズブールで、「思いでのロックンロール」の日本語詞は大貫妙子だ。
もう1曲の「MELO MELO」では子供たちのたどたどしいフランス語と、日本語詞がじつに良かった。

メロメロメロディー モトワギトンファ
メロメロメロディー ワンディーマボウコウ
振り向かず ただ走る 世界の果てまでも

メロメロメロディー モトワギトンファ
メロメロメロディー ワンディーマボウコウ
何もかも 灰になる 炎に包まれて

メロメロメロディー モトワギトンファ
メロメロメロディー ワンディーマボウコウ
 

「かもめ児童合唱団」は神奈川県三浦市在住の声楽家・小島晁子先生の指導の下で1972年に結成された。
4歳から13歳までのメンバーで構成されているが、当初は地元である三崎にゆかりの北原白秋の作品などを中心に歌って活動していた。

藤沢氏がプロデューサーとして関わってCD制作を始めたのは2008年からで、これまで2枚のアルバム『焼いた魚の晩ごはん』(2010年)と『インターネットブルース』(2016年)をリリースしてきた。
そのほか、日本テレビ系ドラマ「泣くな、はらちゃん」の劇中歌「私の世界」を歌い、NHK朝ドラ「ごちそうさん」の主題歌「雨のち晴レルヤ」ではバックコーラスにも参加するなどしてきた。

しかし主要メンバーは成長するにしたがって、年齢の関係から順番に卒業していくことになった。

そのあたりのことがアルバムのライナーノーツに、藤沢氏の言葉で語られていたので、一部を紹介したい。

子供たちはどんどんと成長して入れ替わってきました。
中学生になってもずっと歌っていて欲しいと思うけれど、部活動や受験や思春期のモヤモヤを迎えてみんな離れて行ってしまいます。寂しいなあと思うけれどそれは仕方の無いことでした。
そんな時、僕だけが同じ場所に立ち止まっていて、僕以外のすべてが大きな回り舞台に乗ってゆっくりと動いているように感じます。
ある日、僕は舞台を降りました。
そしていつの頃からか、新しい歌を聴かなくなりました。
流行のファッションに興味が無くなったように。
すべてが同じ方向を向く時代の流れを離れたいと思ったし、現実の社会があまりにも理不尽で自然や他者に対するリスペクトを失っているように感じてしまったのです。
誰もが先へ先へと急ぐ中で、過去へ過去へと遡って行くと、そこには素敵な歌がありました。
今作に収録されている不滅の名曲たち。歌は人生を彩るサウンドトラックで、楽しかった思い出や、描いた夢や、時には悲しい出来事も含めて心に呼び戻すことが出来るのです。
 

藤沢氏は今回の選曲のポイントについてと、肝心なものが何だったのかを振り返って、このように述べていた。

ひとつひとつの歌の中のそれぞれのメッセージを、きっと子供たちなりに受け止めて歌っています。
大人の恋の歌も深遠な詩の世界も、無垢な心のどこかで折り合いを付けて歌っているのです。
面白いのは楽しくて明るい歌が妙に物悲しく感じ、しっとりとしたバラードが何故か妙に明るい。
理由はともかく、かもめ児童合唱団の最大の魅力です。
世の中は、明るさの影には闇があるし、悲しい時こそ笑顔で乗り越えなくちゃいけないことばかりです。
実はこの子たちの歌に学んでいるのは、僕自身であり大人たちなのだと思います。
 

歌というものには、気持ちが弱っている人の心に寄り添って支えたり、生きていくための希望を呼び覚ましたり、あるいは元気を与えたりするという、実に不思議な力がそなわっている。

ただしその力を十分に発揮するためには、楽曲が持っている音楽性や歌詞の魅力を引き出すために、卓越した表現力が必要になってくる。
歌は人間の本質とも、深いところでつながっているのだ。

ところがその一方で、子供であるがゆえに不十分な理解力や、いくらか頼りない歌唱力にもかかわらず、無垢な心から奏でられることで生まれてくる、楽曲本来の魅力というものがある。
そのことをこのアルバムを通して、さまざまな楽曲から教えられた気がしている。

歌に学んでいるのは、まさにぼく自身であった。

2018年10月28日に行われた「池子の森の音楽祭2018」

※このライブ映像(40分間)では、「インターネットブルース」「神様の宝石でできた島」「朝は詩人」「以心電信」「MELO MELO」「双子座グラフィティー」「ずっと好きだった」「夕日は昇る」「笑う人、泣いてる人」 全9曲を聴くことができます。

かもめ児童合唱団の楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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