Interview

山下敦弘監督が転機作にてオダギリジョー、蒼井優の凄みを語る

山下敦弘監督が転機作にてオダギリジョー、蒼井優の凄みを語る

『マイ・バック・ページ』『味園ユニバース』など、モラトリアムな人々を描いた作品に定評のある山下敦弘監督が、没後四半世紀を迎え、再評価が高まる佐藤泰志の小説を映画化。主演にオダギリジョー、共演に蒼井 優を迎え、函館の職業訓練校を舞台に、人生にもがく人々を独特の詩情で描く。2010年に公開された熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、2014年公開の呉美保監督『そこのみにて光輝く』に続く“函館三部作”の最終章となる本作。公開を控えた山下敦弘にお話を伺った。

取材・文 / 長野辰次

『オーバー・フェンス』以前と以降で、自分の中でも確実に変化が起きているような気がします

山下監督、まずはお誕生日(8月29日)おめでとうございます。山下監督もついに40代の仲間入りですね。

ありがとうございます。子供の頃は夏休み中だったので、みんなから忘れられがちだったんですが、今年は『オーバー・フェンス』の公開前ということもあって、かつてなく祝ってもらっています。でも、リアクション慣れしてなくて(笑)。今回の『オーバー・フェンス』は40歳になるタイミングでオファーされたことが、作品にも僕にとっても大きかったように思いますね。これまでの僕の作品はユーモラスさを感じさせる作品が多かったけど、今回は全然違った内容で、撮り終わった瞬間は「すげぇ、疲れた」が実感でした(笑)。

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『オーバー・フェンス』は失業手当てをもらうために職業訓練学校に通うダメ男が主人公。いかにも山下監督らしい“モラトリアム”な題材ですが、これまでの山下作品にはなかった人生の苦味もスクリーンから伝わってきます。

いままでにないストレスも撮影中は感じました(苦笑)。でも僕の演出の基本は、出演者たちが演じるそれぞれのキャラクターを生かすということなんです。今回の作品は最初から最後まで何かしら登場人物たちは変化していくという内容だったので、役者のみなさんと確認しながらの作業でした。実際に役を演じるオダギリジョーさんや蒼井 優さんたちから、いろいろヒントをもらいながら撮影を進めていく感じでしたね。

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函館出身の小説家・佐藤泰志の作品を、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』に続いて、同じく大阪芸術大学映像学科卒業の山下監督が三部作の最終作として撮るという邦画好きには見逃せない企画。山下監督は前ニ作をどう観ていたんでしょうか?

『海炭市〜』は強烈でした。熊切さんはやっぱりすごいと改めて思いました。僕の勝手なイメージなんですが、北海道出身の表現者って何か闇を抱えているように感じるんです。帯広出身の熊切さんもそうだし、音楽だとeastern youthやbloodthirsty butchersにTHA BLUE HERBだとか。北海道は広くて、かつ自然環境が厳しいので、独特な感性を持つようになるのかなと。『海炭市〜』を観て、そう感じたんです。大学時代に熊切さんが撮った『鬼畜大宴会』を観ても、危ない衝動を抱えていることがわかりますけど、『海炭市〜』は久々に熊切さんらしいダークな世界観を感じました。ひとりの人間の力じゃどうにもならない大きな力が土地に働いていて、人間のちっぽけさを感じさせた。大学で同期だった呉さんが撮った『そこのみにて〜』は、また『海炭市〜』と違った地平を切り開いた作品で「佐藤文学でこんな切り口の作品もできるんだ」という新鮮な驚きがあるラブ・ストーリーでしたね。

熊切監督は『海炭市叙景』に続く北海道ロケ作品『私の男』でモスクワ映画祭最優秀作品賞受賞、呉監督は『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞。両監督とも函館三部作をきっかけに大きく飛躍しました。

その点は僕もすごく意識しました。ニ人ともすげぇなと。ニ人のあとの三部作最終作を撮るというのはプレッシャーでもあったんですが、ニ人が切り開いた地平がすでにあったので、やりやすくもあったんです。撮影は三部作すべて撮っている近藤龍人(大阪芸大出身)くんでしたが、脚本は映画では初めて組む高田 亮さん。『そこのみにて〜』チームに僕が参加するという形でしたが、新鮮で良かった。映画は何を撮るかも重要ですが、誰と撮るかで大きく変わるなと思いましたね。

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原作では主人公の白岩は20代前半のバツイチでしたが、映画では40歳前後に変更。オダギリさんの実年齢でもあるし、山下監督の実年齢でもある。

僕が関わるときには、すでに主人公は40代にしようということになっていて、僕もそのほうがいいなと思いました。原作が書かれた1980年代と今では年齢が与えるイメージがずいぶん違いますから。今の時代で20代だと子持ちでバツイチという設定でも青春映画っぽくなってしまう。20代前半なら、まだまだ人生のやり直しができる。オダギリさんにとっても、いいタイミングでこの作品に参加してもらえたんじゃないかな。

男の40代って、もう後戻りできない年齢ですもんね。

男の40歳ってそういう年齢ですよね。たしかに後戻りはもうできない。いろんな意味で、潰しが利かなくなるってことでしょうね……。白岩も20代、30代と駆け抜けてきて、仕事も頑張ってきたけど、いろんな澱みたいなものが溜まっていたんでしょう。そんなとき、聡(蒼井 優)という女と出会ってしまう。男の厄年って41歳でしたっけ? そのくらいの年齢で肉体的にも精神的にも一度リセットしたくなるのかもしれませんね。それは僕も薄々感じています(苦笑)。

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山下監督がかつて撮った『リンダ リンダ リンダ』や『天然コケッコー』には青春映画らしい軽やかな清涼感がありましたが、『オーバー・フェンス』からは生きることの重みや切実さが滲み出ています。

そうですね。自分は映画監督としては、まだまだ幼稚だなぁと思うんです。でも、どこか変わってきているんでしょうね。日本映画界の若手と呼ばれてきた自分もここ数年は「もう若手でもないよな」と思うようになりました。30代はまだ若手で許されていたけれど、40代ともなるとそうもいかなくなる。『オーバー・フェンス』がどのようにお客さんに受け止められるのかはまだわからないですけれど、10年後くらいには自分の代表作と呼ばれているかもしれないし、『オーバー・フェンス』以降と以前とで自分の中でも確実に変化が起きているような気がしますね。

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