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山崎育三郎が人間の“平等”と“自由”を高らかに歌う。ミュージカル『プリシラ』ただいま上演中!

山崎育三郎が人間の“平等”と“自由”を高らかに歌う。ミュージカル『プリシラ』ただいま上演中!

ミュージカル『プリシラ』が、3月9日(土)から日生劇場にて上演中だ。初演は2016年12月で、今作は約2年ぶりの再演にあたる。オーストラリアのドラァグクイーン3人組が織りなす悲喜こもごものロードムービー風ミュージカルだ。
初演から引き続き、主人公のティックを山崎育三郎、旅仲間のアダムをWキャストでユナク(SUPERNOVA)と古屋敬多(Lead)、バーナデットを陣内孝則が演じる。演出は、ミュージカル界の顔と言ってもいい宮本亜門が前作から務める。
初日前の3月8日(金)に、ゲネプロと初日前会見が行われた。

※ゲネプロでは、アダム 役を古屋敬多(Lead)が務めた。

取材・文・撮影 / 竹下力

後悔や失敗を積み重ねた先に希望がある

開演待ちの劇場にマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」が流れ出したとき、大学時代、女の子にフラれてメソメソ泣いている私を慰めてくれた演劇好きの友達のことを思い出した。彼は「フランスに空前絶後の面白い作品をつくる劇団がある」と、1964年にアリアーヌ・ムヌーシュキンが創設した太陽劇団(Théâtre du Soleil)を紹介してくれた。その劇団は「どんな人間でもどんな役を演じてもいい。スタッフ・キャストはすべて平等」という強い信念と平等主義が根づいていた。彼は「演劇とは自由である。つまるところ、人間とは平等だからである」とアジったのだ。要は「みんなフラれるんだからメソメソするな」と慰められたとも言える。

そう、演劇には正解なんてどこにもない。ルールさえいらない。“平等”で“自由”なものだ。どんな荒唐無稽なことが起きても構わない。天井から宙づりになったDIVAたちが高らかに歌い、オーケストラピットから演奏者が飛び出して楽器を鳴らし、アンサンブルが踊りまくれば、日生劇場は即席のクラブに早変わりする。観客だってウキウキした気分になって踊りだす。どんな不可能も可能になる気がしてしまう圧倒的な多幸感。演劇ってなんてすごいんだろう。どんなマジックも起こすことができる。

舞台の始まりはオーストラリアのとある町。そんな町でショーをして働いているドラァグクイーンのティック(山崎育三郎)。でも、彼のショーは絶望的にウケない。そんなときに別居中の妻・マリオン(三森千愛)から電話がかかってくる。最近、息子のベンジーがティックのことを知りたがっているという。ドラァグクイーンである自分には父親の資格がないと思っていたティックは、ベンジーに会わないと決意していた。しかし、マリオンはティックに対し、自分が支配人を務めるカジノでショーをして欲しいと依頼する。渋りながらも心が揺れ動いたティックは、恋人を亡くしたばかりの中年のトランスジェンダーのバーナデッド(陣内孝則)と、若くて破天荒なゲイのアダム(古屋敬多)のふたりに声をかけ、「プリシラ」と名付けられた古びたバスに乗ってカジノへ向かう──。

なにより目を見張るのがカラフルな衣裳。そして早替えだろう。山崎育三郎は「22回も着替える」と言っていたけれど、ワンシーンで何度も着替えることがある。きらびやかな衣裳から動物の着ぐるみもあるけれど、そこには自分自身が何者かに変身すること、自由の象徴という意味があるような気がする。それからオーケストラの生音が奏でる往年のヒット曲のアレンジが楽しい。音楽監督の前嶋康明の手腕が存分に発揮されて、マドンナやドナ・サマーのヒット曲に新鮮な驚きや発見がある。

初演に引き続き、バーナデッド役の陣内孝則もアダム演じる古屋敬多も活き活きしていた。旅を続ければ喧嘩もするし、思うようにいかなくてめげるときもある。なのに、全編通して輝いて見えるのは、彼らが役を生き抜いていたからだと思う。個人的には中年の車修理工のボブを演じていた石坂 勇に思い入れをしてしまった。THE CONVOY SHOWでよく観ているからかもしれないけれど、彼の独特の喋り口がなぜかツボにはまってしまう。そして、なによりバーナデッドとの中年同士の恋が実に巧みに描かれているところに惹かれる。恋に老いも若きもないのだ。

その中でもやはり目がいってしまうのが山崎育三郎のティックだ。山崎はインタビューで「ティックは自己探しをしている」と語ってくれたけれど、たしかにキレのある台詞、思わしげな表情から、それらをうかがい知ることができる。今作は人間の平等と誰でもどんな人間にも変わることができる変身というテーマを訴えるだけでなく、彼が旅という過程を通して、様々な経験をして成長していく青春ストーリーとしても捉えることができるだろう。

彼はいつだって思い悩んでいる。彼がある失敗をして沈み込み、アダムとバーナデッドとしっとり歌うナンバー「トゥルー・カラーズ」が彼の魂を表現する。この舞台では唯一、内省的に聴こえるバラードが、オーストラリアの果てしないハイウェイの夜空に響けば、一瞬で涙を誘う。

それにしても、本当にティックは悩む。失敗と間違いを繰り返す。後悔だって積み重なる。それが人間だと言わんばかりに。でも、後悔や失敗を積み重ねた先に希望があると教えてくれる。人は自由に間違い、平等に失敗する。だからこそ、どんな人にも新しい道が見つかる。やがてそれが、自分だけの生きる道になるのだ。その証拠に彼は失敗を認め、仲間によく謝る。「失敗して泣きっ面になるなんてごめんだ、だったら思いっきり笑顔になればいい」、そう宣言して、つねに立ち上がり前を見据えている。

もちろん、アンサンブルやR&BシンガーのDIVAだって個性的だ。そして、演出・宮本亜門の「この役をこんなふうに舞台で生かしたい」というパッションに満ちた“プリシラ愛”が押し寄せてくる。宮本亜門は、ミュージカルという特質、早替えや宙づり、新劇時代から続く古典的要素、メタ的な演出、見立てなど日本や海外のありとあらゆる演劇の手法を本作にぶち込んで、片時も目の離せないエンターテインメントショーに仕立て上げた。登場人物たちが笑っていれば、観客は笑うし、泣いていれば泣いてしまう。彼は、演者と観客がどこで魂を共鳴させられるのかを熟知している。その地点を探す嗅覚が本当に優れていると感心してしまった。

こんなハイテンションでアクロバティックな舞台を観たことがあるだろうか。演劇は一回性の奇跡として積み重なるものだ。公演ごとに、成功も失敗も消えてしまう喜びと悲しさがある。でも、一日一日、その積み重ねが、ほかでは観たことのない舞台へと昇華していく。そして観客を明日へと連れて行ってくれる。後悔や失敗を恐れずに積み重ねて、“ここではないどこか”で新しい自分を見つけよう。そう問いかけるポジティブなメッセージに溢れた作品だった。

前回から何倍もパワーアップした舞台

このゲネプロの前には初日前会見が行われ、山崎育三郎、ユナク(SUPERNOVA)、古屋敬多(Lead)、陣内孝則、演出の宮本亜門が登壇した。

まず約2年ぶりに再演を迎えることについて山崎育三郎は「僕らの着る衣裳は“プリシラ”の世界に入るためのスイッチですね。僕だけで22着用意されているので、着替えるごとに気持ちが変わります」と語った。

見どころを尋ねられた宮本亜門は「前作でさえ“メガ愛情”が詰まっているのですが、今回はそれ以上に僕の愛情を注ぎ込んで、一部の隙のない作品になっています」と意気込み、役づくりを問われた陣内孝則は「ムダ毛の処理かしら?」と笑いを誘い「水着にもなりますから注目してください」と述べた。

そして、Wキャストであるユナク(SUPERNOVA)と古屋敬多(Lead)にお互いの印象を尋ねると、ユナクは「ふたりともボーカルグループに所属していますし、僕が持っていないことを古屋くんが持っていて、古屋くんが持っていないことを僕が持っています」と答え、古屋は「かっこいいお兄さんです」とひと言。すると宮本が「少し真面目に言っていいですか?」と話に割り込み、「この2年で社会の意識が大きく変わり、言葉の持つ意味合いも変化し、作品がより深くなりました。“人間愛”を感じてもらえますよ」と今作の見どころを改めて強調した。

最後に山崎が「衣裳も音楽も振り幅の大きい前回から何倍もパワーアップした舞台になっています。ぜひ劇場で体感してください」と真面目に言うと、古屋が「待ってるわよ!」と笑顔で締め括った。

公演は3月30日(土)まで日生劇場にて上演される。

ミュージカル『プリシラ』

2019年3月9日(土)~3月30日(土)日生劇場

STORY
舞台はオーストラリア。仕事も私生活もうまくいかないドラァグクイーンのティック(山崎育三郎)に、別居中の妻・マリオンから電話がかかってきた。最近、息子のベンジーがティックのことを知りたがっているのだという。ティックはベンジーと会ったことがない。ドラァグクイーンである自分には父親の資格がないのではないかと悩んでいた。マリオンはそんなティックに対し、自らが支配人を務めるカジノでドラァグクイーンのショーをやって欲しいと依頼。そこでベンジーにも会って欲しいと伝える。内心迷いながらもティックは、誇り高いトランスジェンダーであるバーナデッド(陣内孝則)と、若くエネルギッシュなゲイであるアダム(ユナク/古屋敬多)のふたりに声をかけ、共にカジノへと向かうことを決める。向かう先に別れた妻子が待っていることを秘密にしたまま……。

演出:宮本亜門
翻訳:エスムラルダ
訳詞:及川眠子
音楽監督:前嶋康明

出演:
ティック(ミッチ)役:山崎育三郎
アダム(フェリシア)役:ユナク、古屋敬多(Lead)
バーナデット 役:陣内孝則
DIVA 役:ジェニファー
DIVA 役:エリアンナ
DIVA 役:ダンドイ舞莉花
ミス・アンダースタンディング 役:大村俊介(SHUN)、オナン・スペルマーメイド
ボブ 役:石坂 勇
マリオン 役:三森千愛
シンシア 役:キンタロー。、池田有希子
シャーリー 役:谷口ゆうな
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