モリコメンド 一本釣り  vol. 109

Column

君島大空 音の洪水と官能的なボーカル、得体のしれない興奮。注目の若き音楽家

君島大空 音の洪水と官能的なボーカル、得体のしれない興奮。注目の若き音楽家

君島大空という24才のシンガーソングライターが1st EP『午後の反射光』をリリースする。まずはリードトラック「遠視のコントラルト」を紹介したい。幾重にも重ねられたノイジーで煌びやかなギターサウンド。ブルーズの感覚をたっぷりと含みながら、曲が進むにつれてポップの色合いを増していくメロディライン。ジェンダーの壁を超えるようなボーカル、美しさと儚さを同時に描き出すハーモニー。そして、“焼きついたままの化石した景色を/ただ見ている まだ見ている”に象徴される、穏やかな絶望を感じさせるリリック。音の洪水と官能的なボーカルに浸っているうちに、得体のしれない興奮がじわじわと湧き上がってくる、恐ろしく魅力的なナンバーである。

「遠視のコントラルト」を聴いて思い出すのは、80年代後半から90年代初めごろの“マッドチェスター”のムーブメントだ。ザ・ストーン・ローゼズ、ザ・シャーラタンズ、ハッピー・マンデーズ、プライマル・スクリームなどに代表される、サイケデリック・ロック、アシッド・ジャズなどを融合した“ゆったりとブッ飛べる”音楽は、日本でも大きな支持を獲得。フリッパーズ・ギターの「ヘッド博士の世界塔」など、その影響をモロに受けた傑作も生まれた。君島大空がマッドチェスターを意識しているかどうかはわからないが、「遠視のコントラルト」がもたらす心地よいトリップ感は、単なる懐古主義ではなく、現在のシーンも強い刺激を与えることになるだろう。

高井息吹と眠る星座、タグチハナ、坂口喜咲とシーパラダイスの皆さんなどのギタリストとしてサポート、さらに女性アイドルグルーヴsora tob sakanaに「燃えない呪文」(アルバム『World Fragment Tour』収録)を提供するなど幅広く活動している君島大空は、弾き語りのスタイルでライブを行う一方、、作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱などをすべて手がけた多重録音の楽曲をSoundcloudで公開するなど、アーティストとしても徐々に存在感を発揮。独創的なポップネスを備えた彼の音楽は、耳の早いリスナーの間で確実に注目度を高めてきた。その最初の作品が1st EP『午後の反射光』。前述した「遠視のコントラルト」を含む本作は、その類まれな才能をさらに多くの音楽ファンに届けることになるはずだ。

アコギ、ピアノ、声などをコラージュした、有機的なエレクトロニカと形容すべきインスト曲「interlope」で幕を開ける本作は、君島大空の多様なソングライティング、卓越したサウンドメイクがたっぷり堪能できる作品に仕上がっている。2曲目の「瓶底の夏」は、穏やかさと鋭さを同時に感じさせるギターアンサンブル、水中に漂うようなイメージを与えるトラックメイクとともに、繊細で叙情的なメロディが広がっていく楽曲。まるでポエトリーリーディングのように言葉を紡ぐボーカルも心地よいインパクトを残している。

くるり、KID FRESINOなどのサポートをつとめるジャズ・ドラマー石若駿がゲスト参加した「遠視のコントラルト」、ノイズの粒子が美しく散りばめられたインタールード「叙景#1」に続くタイトル曲「午後の反射光」は、「睫毛の隙間 踊る光を掬い取れたら すぐに見せてあげる」という台詞のようなフレーズから始まる。オーガニックなR&Bと先鋭的なエレクトロニカを行き来するトラック、手に取った瞬間に溶けてなくなりそうなデリケートで愛らしい旋律、オクターブの違うダブル・ボーカル、不思議なエキゾチズムを感じさせる効果音などが配置されたこの曲は、聴き返すたびに形を変えるような奥深い魅力を備えている。そしてEPの最後を飾る「夜を抜けて」は、彼のもっともベーシックなスタイルである“アコギと歌”を軸にしたスロウ・チューン。“いっそ君をさらい この夜を抜けて/何から終わってもいいように”というロマンティックなライン、どこか不穏な空気を呼び起こすストリングスのバランスも刺激的だ。

詩的な表現のなかに生々しい感情を宿らせるソングライティング、緻密な構築美と圧倒的な解放感を併せ持ったサウンドメイク、楽曲によって響き方を繊細に変化させるボーカリゼーションを含め、マルチクリエイターとしての資質の高さが発揮された『午後の反射光』は、君島大空の最初の集大成であると同時に、この先の大きな可能性を予感させる作品でもある。まずはゆったりと、この音楽世界を楽しんでほしい。そこであなたは、時間を忘れて音に浸ることの気持ち良さを思い出すことになるはずだ。

文 / 森朋之

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