山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 55

Column

夢に取り組むこと。デモクラシーとロックンロール

夢に取り組むこと。デモクラシーとロックンロール

音楽も、日常生活も、すべてが政治と無縁ではない。
民主主義とは、多くの犠牲を払って創り出された一つの仕組みだけれど、一方で多くの問いを私たちに突き付ける。
社会システムの根幹が揺らぐいま、山口洋が難しいテーマにあえて切り込む。


デモクラシーとロックンロール。そんなテーマを投げかけられる。

ふぅむ。

ずっと前から、そして最近とみに、世界は狂っていると感じている。特に舵取りをしている連中。そして彼らを選んだのは我々。嗚呼、なんてアイロニック。彼らと自分、いったいどちらが狂っているんだろう? たぶん、両方だね。狂っているというか、あまりにも無責任というか。

自分のことの前に誰かを思いやる。たった、それだけのことなのに。

僕は政治的な人間ではまったくない。ノンポリ。ただし、モラルや礼節は自分で判断する。それは法律や、世間のルールとは違うところにある。だって、それがロックンロールじゃん? だから、他人様からみて突拍子もないことでも、自分のモラルに反していなければ、なんとも思わない。

僕の家にはでっかい楽器車が横付けにされて、殺人兵器に見えなくもない堅牢なケースに格納された楽器がしょっちゅう運び込まれる。ずっと家にいるかと思えば、とつぜんいなくなる。平日の昼間にクルマを洗っている。事情を知らない人が見たら、さぞ不気味だろう。

ある日、町内会長のおじいさんがやってきた。彼はキンチョーした面持ちでこう言った。「あ、あ、あなたは何ですか?」。僕は苦笑いとともに、生業や生活パターンを説明する。安堵の表情を浮かべて彼は帰っていく。それから近所の視線が柔らかなものになったことは否めない。苦笑。いつだって家の前を通る人には挨拶するし、小学生に「おじちゃん! おはよう!」と言われたら、「おす!」といかりや長介みたいに返事をする。ミュージシャンだって、それなりに町には溶け込めなくもない。

話が逸れた。

スローガンってやつが苦手だった。声高に煽ったり、叫んだりすること。スローガン ! 実にごもっとも。父親が国立大学に勤務していたから、幼い頃、赤いヘルメット系の学生たちがよく家に遊びにきた。ひとりひとりはとてもナイスガイ。当時、学内はラジカルな立看板に溢れていて、学生運動、安保闘争のまっ最中。でも、僕は言いたい。あなたたちが掲げた理想はどこに行ったのか? 多くの若者は髪を切って、スーツを着て、結婚して、生活に巻き込まれて……そして、この世界を作ることに加担した。責める気も、そんな資格もないけれど、僕は、そういう人が好きじゃない。

そんなこともあって、僕は「そういう歌詞」を書きたくない。もう少し、パーソナルなことで訴えたい。ともだちの造語だけれど、プライベートなことを突き詰めるとパブリックなことに行き着くことがある。それを僕らはプライ・パブリックと呼んでいるのだけれど、そこを目指したい。

スローガンを声高に歌っている人物に限って、自分がヒエラルキーを作り出し、小さな集団の頂点に君臨しているのを見る。一人じゃ何もできないことが見苦しい。集団ではなく「個」が先だろ、と言いたくなる。

これは音楽のコラムだったね。話を音楽に戻す。

ディランが1974年にザ・バンドを従えてツアーしたときのライヴ盤『Before The Flood』(邦題:偉大なる復活)。レコード盤でいうSide3に収録されている弾き語りの「It’s Alright, Ma(I’m Only Bleeding)」にこういう一節がある。

言葉の砲弾の中、彼は珍しくこう叫ぶ。

“But even the president of the United States
Sometimes must have to stand naked”

“ときにはアメリカの大統領でさえ、公衆の面前では裸で立たねばならない”(拙訳)

この叫びの後、歓声が巻き起こる。そこに音楽の力と、アメリカの良心を見る。このことを教えてくれたのは音楽評論家のともだちなのだけど、僕らの中で、この一節はデモクラシーかくあるべしという指標になっている。

ザ・ウォーターボーイズを脱退したカール・ウォーリンジャーが1986年に作ったバンド、ワールド・パーティー。そのデビュー盤の名前が『Private Revolution』。つまり、「世界党による個人的革命」。それだけで正直、負けたと思った。そのヴィジョンに。

彼らのプライ・パブリックな曲を紹介しておく。

最後にブルース・スプリングスティーン。

2001年、9.11の同時多発テロの影響を受けて作られた作品『The Rising』(2002年)。発売当時は正直に言って、ピンと来なかった。けれど、東日本大震災を経験し、聞き直してみたなら、響いてくるものがぜんぜん違う。なんというか、腹の底からこみ上げてくるものがある。その力を喚起するのが、たとえば「Lonesome Day」。強い逆風が吹く日、この曲を聞きながら走っていると、自分の中から推進力がこみあげてくる。それは僕にとって、スローガンよりはるかに力強いものだ。

彼の近年の歌に「Working On A Dream」がある。僕は「夢に取り組む」と訳してみる。降りかかる理不尽に対して、こころの隙間を、怒りで埋めてしまうのはあまりにも簡単すぎる。怒りで自分を忘れてしまうのは、大人がやるべきことではない。

それよりも。それぞれの夢に取り組むこと。取り組めない人がいたら、取り組める状況を作っていくこと。それがデモクラシーのために、ロックンロールができることだと僕は信じている。

感謝を込めて、今を生きる。


『Before The Flood / 偉大なる復活』
Bob Dylan & The Band / ボブ・ディラン&ザ・バンド

ソニー・ミュージック

“バングラデシュ・コンサート”への出演こそあったものの、バイク事故以来8年間本格的なステージから遠ざかっていたボブ・ディランが、盟友のザ・バンドを従えて敢行した1974年の全米ツアーの模様を収録。同ツアーは21都市40回のステージを廻り、65万人を動員。ディランにとっては通算17枚目、代表曲はもちろん、ザ・バンドの名曲も収録し、歴史的名盤の呼び声も高い作品(全米3位/全英8位)。「I Shall Be Released」、「Like a Rolling Stone」、「Blown’in the Wind」など全21曲(2枚組)を収録。2008年にデジタル・リマスター化、紙ジャケット仕様での発売も。


『Private Revolution』
ワールド・パーティー

クリサリス

元ザ・ウォーターボーイズのメンバーでマルチ・ミュージシャン、カール・ウォーリンジャーによるプロジェクト、ワールド・パーティーのデビュー盤。牧歌的な空気と洗練されたテイスト、ポップの粋を詰め込んだ音楽性は、絶妙に手入れされた庭のように清新な風と安らぎを運ぶ。9曲目「All I Really Want To Do」はディランの作品。シンニード・オコナーも参加。1987年発表。


『The Rising / ザ・ライジング』
Bruce Springsteen / ブルース・スプリングスティーン

ソニー・ミュージック

『Born In The U.S.A. / ボーン・イン・ザ USA』(1984年)以来18年ぶりに盟友Eストリート・バンドとレコーディングされた2002年発表のオリジナル・アルバム。全米に限らず世界を衝撃と深い哀しみで包んだ9.11を真正面から取り上げながら、愛国心を鼓舞するものとは対極に、愛する者を失った人々の絶望、喪失感、いたわり、救い、祈り、そして希望を歌う。全米1位を記録。


『Working On A Dream / ワーキング・オン・ア・ドリーム』
Bruce Springsteen / ブルース・スプリングスティーン

ソニー・ミュージック

2007年の傑作『MAGIC / マジック』からわずか1年、2009年1月にリリースされた通算24作目、スタジオ・アルバムとしては16作目にあたるアルバム。プロデュース&ミックスは4作目のコラボとなるブレンダン・オブライエン。レコーディング終盤からアトランタのサザン・トラックス(スタジオ)でレコーディング&ミックスされ、翌年ニューヨーク〜LA〜ニュージャージーでEストリート・バンドとのツアーの合間をぬってレコーディングされた。米国のビルボード・アルバム・チャートで初登場1位、その他世界17ヵ国のアルバム・チャートで1位にランクイン。2010年のグラミー賞では最優秀ロック・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞、収録されているシングル曲「Working On A Dream / ワーキング・オン・ア・ドリーム 」は、最優秀ロック・ソングにノミネートされた。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。2019年2月公開映画『あの日のオルガン』(監督:平松恵美子、主演:戸田恵梨香、大原櫻子)にアン・サリーによるカヴァー「満月の夕(2018ver.)」が起用されたことでも話題に。3月25日からは名古屋を皮切りにソロ・ツアー“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”をスタートさせる。会場では2018年のツアーのライヴCDの発売も。4月6日〜7日には東京・国立で本連載の番外編ライヴ・イベント第2弾を開催。トークとライヴの2部構成で、連載で書き下ろしたアーティストの楽曲紹介をはじめ、HEATWAVE結成40年秘話や、カヴァー曲、新曲などを各日異なるテーマで披露する。2011年東日本大震災後から仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと続けている“MY LIFE IS MY MESSAGE”の今年の開催は6月28日に決まった。

オフィシャルサイト

「Rock’n Roll Goes On!Vol.3」

3月21日(木・祝)東京 代々木 Zher the ZOO
出演:リクオwith HOBO HOUSE BAND(ベース:寺岡信芳/ギター:高木克/ドラム:小宮山純平/ペダルスティール:宮下広輔)
ゲスト:山口洋(HEATWAVE)
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“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”

3月25日(月)名古屋TOKUZO
3月26日(火)京都coffee house拾得(Jittoku)
3月28日(木)高松 Music & Live RUFFHOUSE
3月30日(土)広島 音楽喫茶ヲルガン座<SOLD OUT>
4月1日(月)大坂 南堀江 knave(ネイブ)
4月3日(水)静岡 LIVEHOUSE UHU(ウーフー)
5月5日(日)千葉 Live House ANGA(アンガ)*アンガ22周年
5月11日(土)長野 ネオンホール
5月13日(月)豊橋 HOUSE of CRAZY
5月15日(水)奈良 Beverly Hills(ビバリーヒルズ)
5月17日(金)福山 Boggie Man’s Cafe POLEPOLE(ポレポレ)
5月19日(日)高知 シャララ
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「Seize the Day/今を生きる」番外編トーク&ライヴ

“Long Way For Freedom”
4月6日(土)国立 地球屋

“Long Way For 40th”
4月7日(日)国立 地球屋
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HEATWAVE SESSIONS 2019

4月18日(木)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
4月20日(土)京都 磔磔(takutaku)*磔磔45周年記念 HEATWAVE SESSIONS 2019 in 磔磔
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ARABAKI ROCK FEST.19
THE ARABAKI ROCKERS SATURDAY NIGHT ROCK’N’ ROLL SHOW 1969→2019

4月27日(土)・28日(日)みちのく公園北地区「エコキャンプみちのく」(宮城県柴田郡川崎町大字川内字向原254番地)
*出演日、ステージは後日発表。
出演:池畑潤二(ROCK’N’ROLL GYPSIES/HEATWAVE)
陣内孝則 / 澄田健 / 百々和宏 / 穴井仁吉 / 田中元尚(TH eROCKERS)
山口洋 / 細海魚(HEATWAVE)
花田裕之 / 下山淳 / 市川勝也(ROCK’N’ROLL GYPSIES)
仲井戸”CHABO”麗市 / 土屋公平 / 早川岳晴(From麗蘭)
ARABAKI ROCK FEST.19 オフィシャルサイト

MY LIFE IS MY MESSAGE 2019
Brotherhood

出演:山口洋(HEATWAVE)×仲井戸”CHABO”麗市
6月28日(金)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
詳細はこちら

vol.54
vol.55
vol.56