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B'z 松本孝弘、「楽器が歌う」至極のライブ映像レビュー

B'z 松本孝弘、「楽器が歌う」至極のライブ映像レビュー

「楽器が歌うインストゥルメンタル・ライブ」という果てなき物語、ここに完熟せり。

文 / 佐伯 明

僕は、ライブ映像作品を頻繁に鑑賞しない。いや、正しく言えば映像を“消した”、つまり音声トラックのみを再生し、それを鑑賞することは、頻繁にある。

1970年代に多くリリースされた“ライブ・アルバム”の影響を受けた世代ゆえ、音声=演奏トラックのみで、その歌唱演奏がとてつもないある種の満ち足りた情報になり、我が脳内を潤すからである。
ライブ・アルバムが先か? ライブ自体が先か? と問われるならば、古(いにしえ)の洋楽ファンとしては、ほぼ間違いなくライブ・アルバムが先だった。

音楽史に残るであろうディープ・パープルの名盤『ライブ・イン・ジャパン』(72年リリース)を熟聴し、その3年後の75年に彼らのライブを日本武道館で体験したが、アルバムの時と較べボーカルとギター(というメンバー)は変わり、挙げ句ギターリストの左腕は故障していた。「こんなはずではないだろう?」と思いながら、またも『ライブ・イン・ジャパン』を繰り返し聴いてしまっていた。

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ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの名ライブ・アルバム『バビロン・バイ・バス』がリリースされたのは78年のこと。その翌年、僕は中野サンプラザでボブ・マーリーのライブを観た。素晴らしい度合いを通り越して、今でも燦然と輝く生涯最高級のライブだった。『バビロン・バイ・バス』を熟聴するだけではわからなかったザ・ウェイラーズのリズム感覚がライブを通してわかったため、嬉しくなり、さらに何回も『バビロン・バイ・バス』を聴いてしまう自分がいた。
ことほど左様にライブ・アルバムとライブ自体は密接な関係を持っているのだ。

今では、ライブ・アルバムという存在はずいぶんと希薄になり、代わりにDVDやBlu-rayの映像作品が当たり前のパッケージとなったが、「音だけで想像と分析をする」僕らの世代は、音声トラックから逃れられないのである。

今回の映像作品『Tak Matsumoto Tour 2016 -The Voyage- at 日本武道館』は、5月7日の日本武道館公演を収録したものだ。そして、僕は幸運にもそのライブを観ることができた。ゆえに、その時の熱気や瞬間の感銘を含め、武道館の空気を知っている。観ることのできなかった人を責めるつもりは毛頭ないけれども、そうした空気は再現されることがないことを踏まえた上で、このライブ映像作品を捉えることが肝要だろう。それは、古の洋楽ファンからの忠告でもある。5月7日のライブ・レポートは当サイトの「【ライブレポート】楽器が歌う、それこそが松本孝弘のライブの真骨頂だった」にも記したが、レポートとて武道館の空気は再現できないのである。

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Disc-1は、忠実なライブの映像だ。
5月7日を思い出しながら、かつてライブ・アルバムを反芻したように観る、そして聴く。

「今日は楽器が歌うライブである」ことを松本さんがMCしたあとの「恋歌」、「華」が、個人的に我が心の琴線に触れる。
トラ目のギブソン・レスポールを肩から抱え、繊細なアップストロークを「華」にて繰り返す松本さんを本作を通して観ていると、どうにも切なくなる。切なさを生む根源は何かと言えば、「ギターと接する方法」を彼が確立しているかのように見えるからである。そこには、ギターを自分で操るという穿った姿勢は全くなく、かと言って、自己表現欲がないわけではもちろんなく、双方が調和を形成しながら、彼の指と音に結ばれていくからだ。

以前、インタビューにて松本さんは(自分への理解のされ方に関して)「日本にもこんな〜僕のような〜ブルース・ギターリストがいるんだって、思われたら幸いですね」と発言したけれども、ブルースとは、悲哀を版画のように刷り込むことによって跳ね返ってくる希望を描いた音楽だと規定するならば、悲哀と希望をコントロールするのでなく、そのどちらも絶えず感じているからこそ音楽表現できるブルース・ギターリストに、松本孝弘は匹敵する存在と言えるだろう。
「THE WINGS」は、B’zのシングル楽曲「永遠の翼」をインストに組み替えたものだが、歌メロを正確にギターでトレースしていくのではなく、より松本さんのブルース・フィーリングが強化されたところは、注目に値する。

ラスト・トラックとなった「#1090 ~Million Dreams~」も“時間を吸って”とても含蓄あるナンバーになった。長く聴き続けられるインストを生むことは、長く聴き続けられる歌を生むことよりもむずかしいと思う。しかしながら、例えばデイヴ・ブルーベック・カルテットの「TAKE FIVE」やパーシー・フェイス楽団の「夏の日の恋」のように、ひとたび大衆に浸透すれば、まるで循環する地下水のようになって、返すがえす地表=世の中に現れてくる。「#1090 ~Million Dreams~」は、そうした楽曲になってほしいし、すでになりかけているとも思う。

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Disc-2ではボーナス映像として、“Stage View”というものと“Close-up View”というものが、収録されている。前者は“迫力のサウンドと映像のスケール感を堪能する”ためであり、後者は“松本孝弘のギタープレイを間近で体感する”ための映像である。簡略化して説明すれば、Stage Viewは“遠景=引き”であり、“Close-up View”は、その名の通り“極端な近景=寄り”となっている。

早速、Stage Viewから観ていくこととしよう。「enigma」は、最新アルバムの中で〜アルバム・タイトルになっていることもあり〜主要な楽曲と言っていいだろう。僕自身も大変に好きな楽曲だ。アルバム中の1曲であり、今年のツアー名にもなったThe Voyageとは航海を意味し、enigmaは謎を意味するが、どちらも人生を形容するワードとして感じられるのは、僕だけではあるまい。つまり、複合させると「人生は謎に満ちた航海」ということになる。ある程度以上、人生を生きた者にとって、自分の足跡は言わば航跡となっており、その航跡を振り返りつつ、羅針盤が指し示すこの先の方向を探るために、ステージ後方の円形LEDには、帆船が海原を進む映像が映し出される。
してみると、LEDが円形なのには必然性がある。つまり、船窓から見える航跡を含めた風景を映し出す装置の形としての円=サークルなのであろう。

これまで離島でのB’zのLIVE-GYMを取材するため、僕は魅力ある島々に行った。
時系列をたどれば、沖縄本島、佐渡ヶ島、隠岐の島、壱岐の島、奄美大島となる。空路で向かった記憶よりも海路で到着した記憶が鮮やかなのには、理由がある。時間経過に従って、ゆっくりと変化する風景や海模様が心の印画紙にさまざまなことを焼き付けるからだ。
その風景や海模様は、目的地に向かって進んでいく際に立ち現れる単純なものというばかりでなく、人生模様とも言える“あの時・この時”に出現した風景や光景を無作為に抽出してくれる。
つまり、船窓からの風景を引き金にして、思ってもみなかった人生の点描画を確かめることができるのである。それは、僕にとって幸福な時間だ。そして、もしかすると松本さんも演奏と映像、そして照明の融合によって、その種の幸福な時間を創り出そうとしていたのかもしれない。“ライブという名の船窓”は、僕らに忘れがたき心象風景をもたらしてくれることを明記しておく。

“Close-up View”は、松本さんのフィンガリング=指板上での動きがつぶさにわかる映像の連続となっている。
僕はギターという楽器のファンではあっても、ギターリストではないため、おそらく記す文言にさしたる説得力は出ないだろう。にしても、ダブル・チョーキングとレガート奏法、そして針の穴を通すが如き的確かつ迅速に指板に触れる左手の小指は観ものだと断言できる。「観ていると、とてもギターを弾いてみたくなるが、おそらく弾けない至芸」とだけ、記しておこう。

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……松本さんはライブ本編の最後に「長い旅を続けていきましょうよ」とMCした。人生は長い旅であり、それを航海=船旅に置き換えると、船旅は、乗船中に魅力があるばかりではない。港に着いてから三々五々散っていく人々、誰もいない薄暮の海面、灯台の間欠灯、そして薄ぼんやりと遠くに見える人家の明かりなどが、すべて詩情に満ちている。旅の詩情はTAK TONEと響き合うものであり、本作を観ていると、そのことが十全にわかってくるのであった。

リリース情報

「Tak Matsumoto Tour 2016 -The Voyage- at 日本武道館」

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DVD <2枚組>
BMBS-5001~5002 ¥7,560(税込)

Blu-ray
BMXS-5001 ¥7,560(税込)
9月21日発売

【収録内容】
01. Dream Drive
02. enigma
03. Vermillion Palace
04. Step to Heaven
05. 恋歌
06. 華
07. Theme from Fist of the North Star ~The Road of Lords~
08. Theme from ULTRAMAN
09. THE THEME OF B.J.
10. THE WINGS
11. 99
12. Wanna Go Home
13. Hopes
14. Under The Sun
15. Drifting
16. The Voyage
17. Mystic Journey
18. Ups and Downs
19. enigma ~epilogue~
20. RED SUN ~ SACRED FIELD
21. GO FURTHER
22. #1090 ~Million Dreams~

本編の日本武道館公演とは異なるカメラアングルで迫力のサウンドと映像のスケール感を堪能する【 Stage View 】9曲と松本孝弘のギタープレイを間近で体感する【 Close-up View 】8曲をボーナス映像として本作のみに特別収録!!

プロフィール

Tak Matsumoto

高校入学と同時にギターを始め、既に学生時代から音楽コンテスト、ライブハウス、学園祭などに出演。
その後、通っていたギター・スクールの講師に実践での演奏を勧められ、同時期に作成していたデモテープが音楽プロデューサーの目に留まったことがきっかけで、セッション・ギタリストとしてプロ活動をスタート。 数多くのミュージシャンのスタジオワークに参加しながら、次第にスタジオ以外にも活躍の場を広げていく。
複数のコンサートでサポート・ギターを務めながら、1988年5月にソロギタリストとしてアルバムをリリース。 ギタリストとしての知名度を高めていく一方、兼ねてからの目標であったバンドでの活動をスタート。
同年9月、B’zでバンドデビューを果たす。

1999年6月、世界ナンバーワンのギターメーカーGibson社から、世界で5人目、日本人として初のLes Paul “シグネチュア・アーティスト” に選ばれる。卓越したギタープレイとサウンドは、ファンのみならず、数多くのアーティスト、ギター・プレイヤーを魅了。
B’zのギタリストとして、バンドでの創作・ライブ活動を行なう傍ら、精力的にソロ作品のリリースや、他アーティストへの楽曲提供・ギター演奏の参加も行なっている。

2004年はTMG(Tak Matsumoto Group)として、ソロプロジェクトを始動。
11月24日には、松本自身がギタリストを中心とした弦楽器奏者のためのレーベル “House Of Strings” を立ち上げ、同年7月にクラシックの殿堂・サントリーホールで行われた東京都交響楽団とのコラボレーションライブでの演奏曲を新たにスタジオレコーディングしたアルバム「House Of Strings」を発表。
ギターとオーケストラによる繊細かつ雄大な、“弦”-Strings- が生み出す音世界を体感できる本作に続き、2005年10月には、レーベル第2弾「Theatre Of Strings」をリリース。
この作品は日本を代表するギタープレイヤー、春畑道哉(TUBE)、増崎孝司(DIMENSION)らが参加した豪華ギター・オムニバス・アルバムで、タイトルが示すとおり、それぞれが、名作映画のテーマ曲や主題歌をギターで奏でる全13曲を収録。
ハイ・クオリティなプレイはもちろん、美しいメロディーラインを個性豊かに、情感溢れる“弦”の魅力をあます事なく堪能できる作品に仕上がっている。

2010年、ジャズ・フュージョン界の名匠、ラリー・カールトンとの共作アルバム「TAKE YOUR PICK」を発表。作曲家としても比類なき日米を代表するトップ・ギタリストの共演は、世界的に高い評価を得て、第53回グラミー賞 “最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム” 受賞という栄誉に輝いた。

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