Interview

鈴木雅之 ラブ・ソングの王様が多彩なプロデューサーとタッグを組み、古希ソウルを目指して掲げた新作『Funky Flag』

鈴木雅之 ラブ・ソングの王様が多彩なプロデューサーとタッグを組み、古希ソウルを目指して掲げた新作『Funky Flag』

その圧倒的な歌唱力でラブ・ソングの王様として30年以上に渡り、日本の音楽界に歌声を響かせてきた鈴木雅之。オリジナル・アルバムとしては3年ぶりとなる最新作のタイトルはその名も『Funky Flag』。マーチンが掲げるファンキーな旗の下に集結したのは、1曲ごとに異なるプロデューサーたち。布袋寅泰、高見沢俊彦 (THE ALFEE)、小西康陽、冨田恵一、萩原健太、西寺郷太 (NONA REEVES)などのプロデュース陣に加え、水野良樹 (いきものがかり)、堀込高樹 (KIRINJI)、金子隆博(米米CLUB)らが作詞、作曲を手がけているのだから面白くないはずはない。このジャンルや世代、時代さえ超えた楽曲を見事に歌いこなすことができるのが、鈴木雅之というヴォーカリストの凄みであるのと同時にベテランらしからぬ軽やかさでもある。還暦を超え、来年はシャネルズ/ラッツ&スターのデビューから40周年を迎える鈴木雅之に聞く、『Funky Flag』の新しい幕開けとは?

取材・文 / 佐野郷子

「俺を染めてくれ」と最初に声をかけたのは布袋寅泰だった。

ソロ・デビュー30周年と還暦を記念した前作『dolce』は豪華な作家陣が話題を呼びましたが、新作『Funky Flag』も当代切ってのプロデューサーが参加。その狙いは?

前作のときは、「目指せ、還暦ソウル」を掲げて、ステップ1、2、3としてツアーをまわり、『dolce』で完結するというストーリーを組み立てたんですよ。そこで気がついたのが還暦はゴールではなくて新たなスタートなんだということ。じゃあ、これからどういうカタチで自分の音をつくればいいのかと考えたら、次は「目指せ、古希ソウル」だなと。来年は東京でオリンピックもあるし、新作が古希への開幕宣言のようなアルバムになったらいいなと。それと、今まで鈴木雅之は、どんなコンポーザーの楽曲も自分色に染めることを身上にしてやってきたんだけど、ここで1曲ごとにプロデューサーを立てて、プロデューサー色に「俺を染めてくれ」というアプローチをとってみたかった。

先ずプロデューサーの人選からスタートしたんですか?

そう。今、自分が気になる、日本の音楽界で一流と呼ばれる人たちに自分を染めてもらいたいと思ったんだ。いちばん最初に声をかけたのは布袋寅泰。というのも、布袋は俺のソロ・デビュー・シングル「ガラス越しに消えた夏」や1stアルバム『mother of pearl』にギターで参加してくれていたし、あれから33年、お互いに現役で音楽を続けていることに感謝しながら、縁みたいなものを確認したかったのかもしれない。

布袋さん作曲/編曲の「愛のFunky Flag」は、アルバムのテーマをリードするご機嫌なファンキー・チューンですね。

カッコいいでしょ? 「鈴木雅之の旗の下で、人生という名の道をパレードしたい」というコンセプトと、布袋のギターのカッティングが好きだから、それは頼むということだけ伝えて、あとはお任せ。彼がロンドンで録りたいというから、「じゃあ、俺がロンドン行くわ」って。ロンドンは1991年にポール・ヤングとデュエットして以来だったんだけど、生音で一緒にレコーディングできて楽しかったし、行く意味と意義は十分あった。それがベーシックにあったから、すごく良いスタートが切れたんですよ。

作詞は森 雪之丞さんですが、「Funky Flag」というワードもこの曲から?

そう。実は森さんに作詞をお願いするのは初めてで、色んなディスカッションをしながら歌詞は詰めていったんだけど、今回のアルバムはどのプロジェクトでも妥協しないで粘ることにしたんだ。おかげで森さんから出て来た「Funky Flag」がアルバムのタイトルになり、60代にしてファンキーに大人の背中を押してあげられる歌詞になったんじゃないかと思う。

冨田恵一プロデュース「スクランブル交差点」は「渋谷で5時」のその後?

先行シングル「ラブ・ドラマティックfeat. 伊原六花」は、いきものがかりの水野良樹さんが作詞/作曲、初のアニメ主題歌にもなりました。

水野くんにも1曲書き下ろしをしてもらいたかったし、本間昭光のプロデュースもうまくハマったと思う。水野くんも色んな人に楽曲提供をしているけど、俺はいきものがかりの「じょいふる」が大好きでね。彼に会うたびにそれを言ってたから、期待していたんだよ。世間には鈴木雅之=バラードというイメージがあるのかもしれないけど、「DRY・DRY」や「違う、そうじゃない」のようなノリのいい曲もあるし、これは久しぶりのファンキーなシングルになったし、何よりもアニメファンに受け入れられたのも嬉しかったね。

「スクランブル交差点」は、冨田恵一さんプロデュース。KIRINJIの堀込高樹さんが作詞を手がけ、今様に洗練された新鮮な曲になりましたね。

こういうミディアムバラードは、冨田ラボのところで熟成させることができるんじゃないかと思ったんだ。ラボには「俺がアル・グリーンになるから、ウィリー・ミッチェル(アル・グリーンなどメンフィスソウル手がけた重鎮プロデューサー)になってくれ」と伝えたんだ。ウィリー・ミッチェルの楽曲ってすべてフェイドアウトで、その理由が「その方が夢があるから」だとある人から聞いてね。つまり、フェイドアウトの向こうにあるストーリーを聴き手が自由に想像することができる。そんな話を彼にしたら、「じゃあ、ザ・ルーツのクエストラブが手がけた頃のアル・グリーンにしましょう」と。彼もマニアックだよね。

昨年の『DISCOVER JAPAN III 〜the voice with manners〜』で、キリンジの「エイリアンズ」をカヴァーされていたのも伏線だったような?

「エイリアンズ」は大好きな曲だったからね。歌詞は兄貴の高樹くんに頼んだんだけど、「スクランブル交差点」の歌詞は「渋谷で5時」のその後のストーリーなのかな? と思わせるものがあるね。

「鈴木雅之をどれだけ好きか」を熱く語った西寺郷太

キリンジとは同世代の西寺郷太さん(NONA REEVES)は、今どきのフューチャー・ファンクを提供。

郷太とは今回のプロデューサーの一人でもある松尾潔の出版パーティで初めて会ったんだけど、いきなり隣に来て「自分が鈴木雅之をどれだけ好きか」という話を延々語ってくれたんだよ(笑)。その後も会うたびにその続きを熱く語るもんだから、今回のアルバムへのサブリミナル効果はあったかもしれない。郷太と組んだらブルーノ・マーズがやっているような今のニュー・ジャックスウィング的なノリに近づける気もしたし、旬の感覚を注入することで何かが見えたりする瞬間があるからね。

郷太さんにとっては、憧れの大先輩のプロデュースと楽曲提供になったわけですね。

郷太は「DRY・DRY」みたいなキャッチィな言葉がサビに出て来る曲が好きだと言ってくれたから、歌詞はそれを尊重した。「BAZOOKA」の歌詞に出て来る「デコったビーサン」ってどうなのよと思ったんだけど、「いや、このデコったビーサンは、パリス・ヒルトンのイメージなんです」ってあいつの得意な蘊蓄に説得させられた(笑)。それも新鮮だった。

ナイアガラ門下生の意識とソロ活動の引き金になった米米CLUB

米米CLUBのフラッシュ金子こと金子隆博さんが作曲・編曲、その米米のアルバムをプロデュースしていた萩原健太さんによる「どんすた」には意表を突かれました。

健太さんとはお互いに大瀧詠一さんのナイアガラ門下生の感覚があるんですよ。大瀧さんが亡くなってから俺は大瀧さんのことをあまり語ってこなかったんだけど、後世のためにも大瀧さんの作品や我々の関係も含め、歌い、語り継いでいくべきかなと思うようになってね。健太さんとならその思いが共有できると思ったんだ。

金子さんの起用は萩原健太さんのアイデアだったんですか?

そう。これは嬉しかったね。実はラッツ&スターがなぜソロ活動に移行していったかというと、米米CLUBが出て来たからという理由もあるんですよ。広島のイベントでデビュー間もない米米と一緒になったとき、その勢いに圧倒されて、「俺たちもアマチュア時代を経てデビューした頃はこうだったな、その気持ちを忘れかけてるな」と感じたことをよく覚えているんですよ。それがきっかけで、それぞれがソロ活動で力をつけてもう一回集まろうとなったんだ。

それは知られざるエピソードですね。

ただ、1986年にソロ活動を始めて、1996年に「夢で逢えたら」で再集結するまで10年かかったからね。そんな思いに加え、そこには大瀧さんも絡んでいるし、健太さんも米米のプロデュースをしていたりと、一回りして着地した感がある。

曲とアレンジはラテン歌謡風になりましたが?

大瀧さん寄りのアイデアも色々出たんだけど、大人のラテンに手をつけている人は今どきなかなかいないから俺も興味があってね。下手すれば古臭くなる諸刃の剣みたいなところはあるんだけど、俺としてはサンタナとロナルド・アイズレーのコラボをイメージして。なおかつ作詞がいとうせいこう。彼とは俺がバブルガムブラザーズに書き下ろした曲「毛皮を着たヴィーナス」の作詞をしていたという繋がりもあり、これは面白くなるぞと。鈴木雅之が平仮名で「どんすた」と歌っても、「Don’t Stop」になるというのもある意味ナイアガラの継承なんじゃないかと思うしね。

「マーチンと絶対合う!」。高見沢俊彦、渾身の曲で初コラボが実現

THE ALFEEの高見沢俊彦さんプロデュースの「デリケートな嘘」は強烈なインパクトを残しますね。

THE ALFEEは坂崎の幸ちゃん幸之助)と懇意にしていて、彼は俺の音楽のルーツにフォークやハードロック、もっと遡ればGS=グループサウンズにあることを知っているから、ことあるごとに「マーチンはうちの高見沢と絶対合う!」と言われていたんですよ。お互いに80年代からバンドを背負い、今回のプロデューサーの中で唯一芸能界とアーティストの部分を併せ持つ人でもあるから、Takamiyさんとは分かり合えるところが多々あると思っていたし。

ドラマチックかつドメスティックな音楽性は高見沢さんならではですね。

デモの段階でTakamiyさんのこだわりが伝わってきたからね。この曲の16小節の間奏の前半は、ベンチャーズのノーキー・エドワーズを彷彿させる加山雄三さんに頂いたというモズライトで弾き、後半はちょうど映画『ボヘミアン・ラプソディー』がブレイクしかけていたタイミングでもあったので、クイーンのブライアン・メイの感じでと、こだわり方がスゴいんだ。こういう盛り盛りの歌謡ロックも俺が歌うと新鮮だと思うし、ここは気合いを入れて挑みましたよ。

ここまで幅広い音楽性を一枚のアルバムの中で提示して、それを歌いこなしてしまうことも驚異的です。

今回はプロデューサー主導だから、それぞれのプロデューサーがシングルのような意識でつくってくるんだよね。だから、俺に対するリクエストもあって、みんな「ここでマーチンさんのフェイクが欲しい」って言うから、このアルバムほど俺がフェイクしているアルバムはない(笑)。みんな自分の作品の中の鈴木雅之は、フェイクありきのヴォーカルを想定しているんだ。

小西康陽ミーツ鈴木雅之で甦ったピチカート・ファイヴ・サウンド

鈴木さんの曲をプロデュースする、楽曲提供する側の並々ならぬ意欲がどの曲からも伝わってきますが、曲の並びやバランスは難しくなかったですか?

一瞬これは手強いかなと思ったけど、ライブのセットリストと同じくアルバムの選曲や曲順を考えるのが俺は好きなんですよ。最初に布袋に伝えたのと同じアプローチでアルバムのコンセプトを伝えたのが、小西康陽だった。小西にも「パレード」というキーワードを伝えて、いちばん最後に彼の曲を入れることによってトータルで聴けるような構成になったと思う。

「ひさびさにピチカート・ファイヴの頃のサウンド」と小西さん自身が公言している音をここで思いきりぶつけてきましたね。

そう。野宮真貴ちゃんとは彼女のアルバムで「渋谷で5時」を一緒に歌ったり、俺のアルバムにもコーラスで参加してくれたりとぐっと近づいたし、小西も「エース」というアナログ・プロジェクトで「渋谷で5時」を取り上げてくれていたしね。もっと言っちゃえば、「渋谷で5時」は、渋谷系が人気を集めていた頃、「俺もそういう感じの曲をつくるよ」と書いた曲だったから。小西もそれを薄々感じ取っていたらしく、このタイミングで彼に参加してもらうしかないと思った。

渋谷系と鈴木雅之さんがここに来て邂逅したわけですね。ソウル・マニアでもある小西さんとは接点も多かったのでは?

そうなんだけど、実は小西はロックンロールにもすごく詳しくて、二人でシャ・ナ・ナの話で盛り上がったりして、さらに親近感を持ったんだよ。「Sugar Pie Honey Bunch Marching Band」の「Sugar Pie Honey Bunch」は、フォー・トップスの「I Can’t Help Myself」からの引用で、それをオマージュしたタイトルを持って来るのはさすがだなと思った。野宮真貴ちゃんにもコーラスをお願いして、自分なりにピチカートの世界を表現してみた。

もしかしたら、今までのアルバムの中で最もバラエティに富んだカラフルな楽曲が並んだアルバムと言えるのでは?

そうだね。俺自身もヴォーカリストとして新しい経験ができたし、新鮮な驚きや発見のあるアルバムになったと思う。他にも2012年に亡くなった佐藤博さんの未発表曲、鈴木雅之のブレーンの一人でもある松尾潔、80年代からの長い付き合いの安部恭宏の曲もあるし、初めてコラボしたプロデューサー、ソングライターもすべて何かしらの縁があったというのが大きいね。40年近く音楽を続けてきて、こういう最強のメンバーが参加してくれたのは古希ソウルを目指す鈴木雅之へのエールでもあると感じています。

その他の鈴木雅之の作品はこちらへ。

ライブ情報

masayuki suzuki taste of martini tour 2019 “Funky Flag Love Parade “

4月21日(日)静岡・静岡市民文化会館 大ホール
4月25日(木)東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
4月28日(日)北海道・苫小牧市民会館大ホール
4月29日(月)北海道・わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
5月3日(金)愛媛・松山市民会館
5月10日(金)兵庫・神戸国際会館こくさいホール
5月11日(土)京都・ロームシアター京都 メインホール
5月17日(金)宮城・仙台サンプラザホール
5月19日(日)青森・リンクステーションホール青森
5月24日(金)東京・中野サンプラザホール
5月26日(日)埼玉・大宮ソニックシティ
6月1日(土)広島・上野学園ホール
6月2日(日)岡山・岡山シンフォニーホール
6月7日(金)東京・NHKホール
6月9日(日)新潟・長岡市立劇場
6月14日(金)大阪・フェスティバルホール
6月21日(金)茨城・茨城県立県民文化センター
6月23日(日)神奈川・よこすか芸術劇場
6月29日(土)熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
6月30日(日)福岡・福岡サンパレス

鈴木雅之(すずき・まさゆき)

1956年、東京生まれ。1980年にシングル「ランナウェイ」でシャネルズとしてメジャー・デビュー。1983年にグループ名をラッツ&スターに改め「め組のひと」「Tシャツに口紅」など多くのヒット曲を残す。1986年に「ガラス越しに消えた夏」でソロ・ヴォーカリストとしてデビュー。「もう涙はいらない」「恋人」など数多くのヒット曲を送り出し、ベストアルバム『Martini(マティーニ)』は(Ⅰ)(Ⅱ)それぞれミリオンセラーを記録。2011年には初のカヴァーアルバム『DISCOVER JAPAN』が第53回日本レコード大賞の「優秀アルバム賞」を受賞。2015年にはデビュー35周年記念ベスト『ALL TIME BEST~Martini Dictionary~』がオリコンアルバムチャートで1位を獲得。2016年にはソロ・デビュー30周年、還暦を迎え、日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」を受賞。2017年には「第67回芸術選奨文部科学大臣賞(大衆芸能部門)」を受賞。2019年2月27日にはシングル「ラブ・ドラマティックfeat.伊原六花」をリリース。TVアニメ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」のオープニングテーマとして話題となり、各種音楽配信サイトで1位を獲得。3月13日にはソロ第28作となるオリジナルアルバム『Funky Flag』を発売。4月より全国ツアー「masayuki suzuki taste of martini tour 2019  ”Funky Flag Love Parade”」を開催。

オフィシャルサイト
https://www.martin.jp/