原田泰造xコトブキツカサの<試写室噺(ばなし)>  vol. 3

Interview

クリント・イーストウッドが真実の裏側をリアルに描く『ハドソン川の奇跡』

クリント・イーストウッドが真実の裏側をリアルに描く『ハドソン川の奇跡』

前代未聞の航空事故に巻き込まれながら、機長が究極の選択をとったことで乗客乗員155名が全員生還を果たした。この実際にあった事故の裏側にあった様々なエピソードや、英雄と称された機長の葛藤を丹念に描いた映画『ハドソン川の奇跡』。2度のアカデミー監督賞を受賞したクリント・イーストウッドがメガホンをとり、こちらも2度のアカデミー主演男優賞をとっているトム・ハンクスが主役のチェスリー・“サリー”・サレンバーガー機長を演じ、興行的にも批評的にも高い評価を得ている本作。感動必至の“実話モノ”を名監督と名優がどう表現しているのか? 原田泰造さんとコトブキツカサさんが、映画を観た直後の試写室で、余韻の冷めやらぬまま語り尽くします。


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コトブキ この作品は実話の映画化ということで、事件そのものは観る前からみんな知ってるわけじゃないですか。それを“クリント・イーストウッドがどう撮ったか”っていうところがポイントだと思うんですけど、泰造さんはいかがでしたか?

原田 予想してた映画とまったく違ったよ。もっとニュースを観てるような感じで、“奇跡”が描かれるのかと思ってた。僕はこのサレンバーガー機長が疑われてたことも知らなかったからさ。

コトブキ 僕はアメリカのドキュメンタリーで観て、機長に対する疑惑があるみたいなことは知ってました。でも、それでも本当に面白かった。そもそも全員が助かるのはわかっている話なんですけど、事故のシーンとかずっとドキドキしますからね。

原田 これはやっぱりイーストウッド監督の演出によるものだよね。

コトブキ 僕がクリント・イーストウッドを語るのは本当に僭越なんですけど、改めて思ったのは、この人ほど行間を読ませるというか、ムダを省いた演出をする人はいないですね。

原田 それにリアルなんだよね。トム・ハンクス演じるサレンバーガー機長が事故から助かって家族に電話をするシーンがあったじゃない? 電話に奥さんが出て「テレビをつけろ」って言われるんだけど、普通だったらひとつのテレビの前に家族が集まるシーンにすると思うんだ。

コトブキ 事故のニュースを見て驚く顔を撮りたいから、みんなをひとつの場所に集めるのがセオリーですよね。

原田 でもこの作品だと、機長の家にテレビが2台あって、電話を受けた奥さんは自分の近くのテレビをつけて、離れた場所にいる娘さんに「テレビつけて」って言って、その音がそれぞれのテレビからちゃんと出てるんだよね。

コトブキ 何気ないシーンだけど、凝ってますね。

原田 なんであれを2台のテレビでやる必要があるのかと思うと、そのほうがやたらとリアルで怖いんだよね。無駄を省きながら、相当高度なことをやってるなって思った。

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コトブキ トム・ハンクスも無駄を省いたすごい演技でしたよ。イーストウッド監督もトムを信頼してるのか、1ショットが長いんですよ(笑)。でも、彼の眼の動きだけで、感情が全部伝わってくる。155人が全員助かったってわかるシーンの表情とかスゴすぎましたよ!

原田 あそこはホントに大事な場面じゃない? 救助後に病院で(自分が)脈拍とかを計られてるときに「生存者155人だ」って言われてさ。“155”って数字を聞いて安心するんだけど、それでもまだ混乱してるような表情なんだよね。でも、その戸惑う姿から、逆に全員生存したってことが本当に奇跡なんだなっていうのが伝わってくるんだよ。

コトブキ 普通のアメリカ映画なら「ひとりも犠牲者いませんでした」って言われたら「イエス! みんな生きてた!」って抱き合うところですよ。でもこの映画のトムは「155……?」。

原田 そう! でも、それがリアルなんだろうなって思えるんだよね。演技で言うと、副機長もすごくうまかったし、CAの女性たちひとりひとりまで全員うまかった。

コトブキ 副機長役のアーロン・エッカートは、この映画におけるコメディリリーフになってますよね。最後のセリフまで、彼がオイシイところを持っていっちゃう。

原田 トム・ハンクスってもともとコメディアンなのに、自分は一歩引いて笑いを提供するっていうのがカッコいいよね。

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コトブキ ふたりの掛け合いが公聴会のシーンで輝くんですよね。この作品の最大のアイデアは、あの公聴会をメインに持ってきたところですよ。

原田 それはホントにそう思う!

コトブキ ベタにやるんだったらラストは家族の物語で盛り上げるじゃないですか。機長の家族とか、助かった人たちが感動の再会を果たすシーンをやるはずなんですよ。でも僕たちのクリント・イーストウッドはそんなことしないんですよ!

原田 たしかに、あれだけ引っ張っといて機長と家族が合うシーンすら描いてないよね。

コトブキ 僕たちのイーストウッドはそれを省くんですよ! 9.11とか、金融危機とかニューヨークの負のイメージもベッタリ出さないで、匂わせる程度に抑える。それでしっかりとエンターテインメントに昇華してるのがスゴいですよね。特に実話モノって難しいじゃないですか。権利とかも含めて。

原田 実際に事故にあった方々が映画に協力していることとかも含めて、そこはやっぱりクリント・イーストウッドだからっていうのが大きかったんじゃないかな。

コトブキ イーストウッドなら間違いないっていう安心感があるんでしょうね。

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原田 映画の中で救助を手伝ってくれるフェリーの人たちとかもサラサラっと描いてるんだけど、みんな印象に残るんだよね。最後に、機長が「この奇跡は自分だけの力じゃない。みんなで起した奇跡だ」というようなセリフがあるんだけど、そのとき画面にはトム・ハンクスしか映ってないのに、ホントにみんなの顔が浮かんでくるんだよね。いやぁ、感動したね。

コトブキ それが本作のテーマのひとつですよね。

原田 あと、自分の行動が正しかったのかどうかっていうテーマもあるじゃない? 僕はこんな立派な機長とかじゃないけど、瞬間の出来事や判断で、褒められたり、容疑者みたいになっちゃったりすることって、日常で自分の身に起こりそうな感じもするんだよね。

コトブキ それはありますよね。何かあったらすぐに持ち上げたり、叩き落としたりする最近の世の中の風潮もありますからね。

原田 「自分のやってきた仕事は間違ってるのか」ってずーっと自問自答を続けてるから、ラストに向かって映画としてのカタルシスがあるよね。

コトブキ そもそも実話なんで、オチはわかってる。でもそこを盛り上げる脚本と演技と演出ですよね。

原田 未解決の殺人事件とか、本当にあった事件を映画化すると、犯人が捕まらないからモヤモヤするじゃない? でもこの作品はちゃんとスッキリして終わるんだよね。クリント・イーストウッドの映画って、観て良かったとかそういうレベルじゃなくて、観なきゃいけない映画なんだって思うことが多いんだけど、これは本当にそう感じる作品だったよね。

取材・文 / 大谷弦 撮影(連載写真) / 吉井明

映画『ハドソン川の奇跡』

2016年9月24日公開

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2009年1月15日、極寒のニューヨーク。160万人が住むマンハッタンの上空850メートルで突如起こった航空機事故。全エンジン完全停止。制御不能。機長は高速で墜落する70トンの機体を必死に制御し、目の前のハドソン川に着水させ、“乗員乗客155名全員無事”という奇跡の生還を果たした。着水後も浸水する機内から乗客の避難を指揮した機長は国民的英雄として称賛される。だが、その奇跡の裏側では彼の判断をめぐり国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われていた……。

【製作/監督】クリント:イーストウッド
【脚本】トッド・コマーニキ
【原作】チェスリー・“サリー”・サレンバーガー
【キャスト】
トム・ハンクス アーロン・エッカート ローラ・リニー

【配給】ワーナー・ブラザーズ

【公式サイト】
http://www.hudson-kiseki.jp

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原田泰造xコトブキツカサの<試写室噺(ばなし)>

原田泰造

1970年生まれ。“ネプチューン”のメンバーとして、バラエティ番組などで活躍。俳優としてもドラマ、映画、舞台などで高い評価を得ている。出演作の映画『ボクの妻と結婚してください』が2016年11月5日より公開予定。

コトブキツカサ

1973年生まれ。日本工学院専門学校放送・映画科非常勤講師。映画パーソナリティとしても注目を集め、コメンテーターやイベントMCなどで活躍。雑誌連載やテレビレギュラーも多数。年間鑑賞本数は500本を超える。

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