モリコメンド 一本釣り  vol. 110

Column

大橋ちっぽけ “アコギの弾き語りシンガーソングライター”というイメージを気持ち良く裏切る、20才

大橋ちっぽけ “アコギの弾き語りシンガーソングライター”というイメージを気持ち良く裏切る、20才

“曲がいい、歌心がある”と評価されるシンガーソングライターは多いが、海外のシーンとリンクしながら、現代的なポップミュージックにまで昇華できるアーティストはまだまだ稀という日本の音楽状況において、久々に「歌もいいし、音もカッコいい」と素直に楽しめるニューカマーが登場した。大橋ちっぽけ。名前は“ちっぽけ”だが、その才能はめちゃくちゃデッカイと、ベタなことを言いたくなる愛媛県松山市出身の20才の青年だ。

大橋ちっぽけの音楽キャリアのスタートは、投稿動画サイトの“歌ってみた”だった。小学生のときにクラスメイトの女の子に“歌ってみた”の存在を教わった大橋は、メジャー契約もない、世間的にはアマチュアのボーカリストの歌が何百万、何千万回も再生され、SNSを中心に大きな影響を持っていることに衝撃を受け、「自分もやってみたい」と思い立つ。ハチ(米津玄師のボカロP時代のアーティスト名)、古川本舗といったボカロP、さらに秦 基博、清竜人のカバーを投稿し、鋭さと温かさを併せ持ったボーカリゼーションによって少しずつ注目を集め始める。初めてオリジナル曲を書いたのは、16歳のとき(タイトルは「sixteen」)。高校3年のときに10代限定オーディション「SCHOOL OF LOCK! 未確認フェスティバル」に参加し、セミファイナルまで進出。2017年春に本格的な音楽活動のために上京し、ライブ活動を活性化させる一方、バラエティ番組「水曜夜のエンターテインメントバトル エンタX」内のオーディション企画で優勝し、一気に知名度を上げる。そして2018年6月には『僕と青』でインディーズデビューを果たした。

リードトラック「君と春」は、大橋ちっぽけのアーティスト性の本質がまっすぐに伝わってくるナンバーだ。アコースティックギターと歌を中心としたナチュラルなアレンジ、豊かな叙情性と解放的なポップネスを内包したメロディライン、後悔と切なさ、未来に対する繊細な希望がひとつになった歌詞。

まだ10代とは思えないほどのクオリティを備えた楽曲、そして、「彼の歌声だけで音楽になる」というキャッチコピー通りのボーカルは、さらに多くのリスナーの心を捉えることになる。しかし、この作品はほんの序章。ここに彼の原点があるのは確かだが、その音楽性はこちらの想像以上に大きく、奥深いものだったのだ。そのことを証明するのが、メジャー1stアルバム『ポピュラーの在り処』である。

まず紹介したいのは、アルバムのリード曲「テイクイットイージー」。軽やかなソウルネスを感じさせるトラック、軽やかに上昇していくメロディを軸にしたこの曲は、これまでの“アコギの弾き語りシンガーソングライター”というイメージを気持ち良く裏切るダンサブルなナンバー。MVにはアコギで歌うシーン、街中で踊りながら歌うシーンの両方が収められているが、この質の高いポップチューンは、“ここから自分は変わっていくんだ”という意志が反映されているように思う。だからこそ「君のセンスだけで それだけでいい」という歌詞が強く心に響くのだ。

「アイラブユーにはアイラブユー」も、大橋ちっぽけの最新モードを示す楽曲だ。「アイラブユーにはアイラブユーで/応えたいんだ」という超キャッチーなフレーズもいいが、注目すべきはアレンジとサウンドメイク。ネオソウルの要素を感じさせる心地よいトラック、飛び跳ねるように展開していくメロディ、言葉の響きをしっかりと活かしたフロウなど、耳と身体で楽しめるポップミュージックを具現化しているのだ。ここ数年はThe 1975をはじめとする海外のインディーロックもよく聴いているという彼。さらに打ち込みによるトラックメイクを少しずつ手がけるようになったことで、イメージするサウンドを具体的な形にできるようになったことも、本作の変化に結びついているのだろう。

故郷・松山に対する思いをノスタルジックに綴った「マツヤマ」、上京して1年が経った“ボク”と、小さな町でがんばっている“あなた”の切ない関係性を描き出した「ふみの日」、“狭い世界で苦しむのではなく、大事なものだけを持って、自由になってほしい”という願いを込めた「楽園」など、20代になり、歌詞の世界もグッと深みを増している。現時点における“ポピュラー(ミュージック)の在り処”をはっきりと提示した本作は、大橋ちっぽけの存在を新しいフェーズへと押し出すことになるはず。聴き手のイメージや先入観を軽々と越え、さらに奔放なポップミュージックを追求してほしいと心から願う。

文 / 森朋之

その他の大橋ちっぽけの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://columbia.jp/artist-info/chippoke/

大橋ちっぽけさんのインタビュー記事はこちら
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2019.03.13

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