佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 86

Column

大賞に選ばれた折坂悠太が弾き語りで唄った「さびしさ」と、星野源が語った強烈なメッセージに心を打たれたCDショップ大賞授賞式

大賞に選ばれた折坂悠太が弾き語りで唄った「さびしさ」と、星野源が語った強烈なメッセージに心を打たれたCDショップ大賞授賞式

2009年から制定されたCDショップ大賞は、商品=作品を販売する店の現場で働いている人たちが、キャリアのなかで培われた音楽に関する経験と知識をいかして、さらにブレイクが期待される作品とアーティストを、自分たちの店頭から全国に向けて発信することを目指していた。
したがって第1回の大賞が相対性理論の『シフォン主義』、 第2回の大賞がTHE BAWDIESの『THIS IS MY STORY』、第3回がandymoriの『ファンファーレと熱狂』と、当初はネクストブレイク・アーティストのアルバムが選ばれていた。
しかしアルバムCDの売上は減少に歯止めがかからず、統計を始めた1999年からの20年でおよそ3分の1になってしまった。
そうした環境の変化からなのだと考えられるが、大賞に選出されるのがネクストブレイク・アーティストから、すでにブレイクしているアーティストへと移っていく。
ここ3年の動きを見ると星野源の『YELLOW DANCER』、宇多田ヒカルの『Fantôme』、米津玄師の『BOOTLEG』と、その傾向は明らかである。
そこには実際に商品=作品を店頭で販売している人たちが、日頃から感じている危機感や、「素晴らしい作品をもっと知ってほしい」という切実な思いが込められていたに違いない。
そこで今年から選考のルールに変更があり、これまでの大賞・準大賞ではなく、大賞作を2作品にしたという。

これは現実に即していて、しかも理にかなった方法だと思う。
大賞の<青>は発足時のイメージを引き継ぐもので、受賞をきっかけにしてブレイクが期待されるアーティストの作品『平成』だった。
そして大賞の<赤>は何回でも聴きたい素晴らしい作品、すなわち神アルバムと呼べるような、永遠のスタンダードとなりうる作品の『POP VIRUS』が選ばれたのである。

3月18日に行われた授賞式に出席したが、そこで何度も心を打たれるシーンがあった。
そのひとつが星野源のビデオメッセージで、喜びと感謝の気持ちが素直に伝わってきた。

「全国のCDショップの店員さんが選んでくれたこの賞は特別で、現場の実感がこもっている感じがして、それがすごく嬉しいんです。しかも2回もいただけると思っていなかったので、選んでくださった皆さんありがとうございました」
 

だが、その後にさりげなく語った言葉に込められた強い意志と決意に、目を見張らされた。
星野源はそこで、このような趣旨のことを述べていたのである。

世界のどこで聴かれても恥ずかしくない音楽をつくりたかったし、これからもそういう思いで音楽をやっていきたい。
 

これはもう、とてつもなく真剣で、しかも本音の発言だと思った。
1960年代の植木等やクレージーキャッツの音楽が持っていた日本の音楽ならではの歴史や文化を引き継ぎ、1970年代の細野晴臣が追求していた方法論やエッセンスをも学んで咀嚼し、その本質を理解したうえで自分の音楽を世界に発信しているということが、はっきりわかったのである。
そう考えると『POP VIRUS』は日本語のポップスを次世代へ継承したにとどまらず、世界にも発信し始めたという意味でも、まさに平成の最後を飾る“神アルバム”なのかもしれないと思った。

おそらく星野源はそこまでの覚悟と情熱で『POP VIRUS』というアルバムをつくり、わずか2日前のドームツアーで長かったプロジェクトに、ようやくピリオドを打ったところだった。

星野源が『POP VIRUS』を掲げ、初のドームツアーを実現! 彼にしかなし得ないエンターテインメントが広がるライヴ

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2019.03.11

そして折坂悠太の『平成』もまた、11年目のCDショップ大賞に最もふさわしいアルバムであった。

「あんまり賞をもらったことがないので驚いています。知らされたときはあまり実感がありませんでしたが、この賞を以前に受賞したことのある小山田壮平(andymori)に話したら、その場でぎゅっと抱きしめられて、事の重大さがわかりました」

今年の授賞式が感動的だったのは、選ばれた作品が素晴らしいからだけではなかった。
大賞の折坂悠太だけでなく、部門賞や地域ブロック賞に選出されて出席していたアーティストのほとんどが、歌や演奏をライブで披露してくれたのである。
これは今までにはないことであり、プロの音楽家が新人からベテランまで、渾身の思いを込めて1曲を生で聴かせるパフォーマンスは、実に清々しいものだった。
とりわけ、沖縄の宮古島からやってきた下地イサムが、ギターの弾き語りで唄った「GAFU」には感銘を受けた。

日本以外からCDが消えるかも知らないといわれる危機のなかで、2019年のCDショップ大賞の授賞式は、日本の音楽の未来に希望が持てる明るい一日となった。

折坂悠太 / 『平成』
星野 源 / 『POP VIRUS』
下地イサム / 『GAFU』

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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