LIVE SHUTTLE  vol. 64

Report

森とキャンドルに囲まれた世界遺産を舞台に MISIAの歌声が遥かなる時空を超えた夜

森とキャンドルに囲まれた世界遺産を舞台に MISIAの歌声が遥かなる時空を超えた夜

【LIVE SHUTTLE】第31回JTB世界遺産劇場 春日大社第六十次式年造替奉祝 「Misia Candle Night」@奈良・春日大社2016.9.11

取材・文 / 平山雄一 撮影 / Masaya Tanaka

「世界遺産劇場・春日大社 第六十次式年造替奉祝―Misia Candle Night―」。この長いタイトルの意味するものは、大きい。奈良を代表する神社、春日大社は、20年に一度、本殿を建て替える。今年はその60回目。つまり1200年続く“式年造替”の節目が、今年やって来た。そしてその節目を“奉祝”するイベントとして“Misia Candle Night”が開催されることになったのだ。

鹿が群れる春日大社の入口付近にある飛火野に特設舞台が作られた。開場時間の16時半に行ってみると、ライブ会場の外にも5000個以上のキャンドルが置かれ、点灯作業が始まっていた。陽が落ちたら、飛火野に一体どんな光景が広がるのだろう。そんな想像をしながら会場に入った。

入口でキャンドルを手渡される。会場後方のテントに寄って、自分のキャンドルに火を着けてもらう。それを持って席に座る。周囲のオーディエンスたちも、それぞれのキャンドルを持って席に着いている。

ドラムセットやキーボード、各種のアンプが置かれたステージは、筒抜けになっていて、背後には飛火野の森がそのまま見えている。またステージ狭しと、キャンドルがたくさん置かれている。ここでMISIAが歌うことになるのだ。椅子席がいっぱいになり、やがて開演時間がやってきた。

バンドのメンバーが拍手しながらステージに入って来る。それを追って、MISIAも続いて入って来た。オープニングは、卓球日本代表公式応援ソングに起用された新曲「SUPER RAINBOW」。タイムリーな選曲に、オーディエンスは立ち上がって両手を上げ、左右に振って応える。いきなり遠慮なしの、アッパーな立ち上がりだ。

MISIAはシルバーグレーのワンピースを身にまとい、ローズピンクの大きなスカーフで頭を覆っている。スカーフは何か2本の角のような棒状のもので支えられていて、MISIAの頭上に美しい布のラインを形作っている。まるで古代エジプトの歌姫のようだ。

続いては「真夜中のHIDE-AND-SEEK」。最初からトップスピードに乗るMISIAに合わせるように、ドラムのTOMOとベースのJINOが爆発的なグルーヴを供給する。16ビートを4ビートのニュアンスで刻むJINOのベースと、16ビートの中に8ビートの重さを加えるTOMOのドラムが、他では聴いたことのないリズムを繰り出す。終演後、キーボードの重実徹が「この丸いグルーヴは、この2人にしか出せない」と語っていたが、まさにその通り。ドライヴ感が抜群だ。さらにはギターの山口周平の小気味よいカッティングが、そのドライヴ感に拍車をかける。

サビでMISIAが掌で片目を覆い、いつになくセクシーなポーズを取る。すると今度は鈴木明男が、火の出るようなサックス・ソロを吹き出した。この気合いの入ったプレイには、バンドリーダーの重実も大喜び。キーボードを弾く手を止めて笑顔で声援を贈る。

まだ2曲目なのに、バンドがこれだけヒートアップするのは、これまでのMISIAのライブではあまり見たことがない。前日もここでライブを行なっているので、2日目のアドバンテージなのかもしれない。しかし、それ以上に「MISIAに世界遺産はよく似合う」と言いたくなるシーンだった。MISIAは昨年、高野山檀上伽藍で世界遺産劇場を行なっている。それも素晴らしかったが、春日大社でのMISIAは、高野山とはまったく違うアティチュードで、歌を古来の神に捧げているように感じられた。そのエネルギーがバンドのメンバーに伝わって、彼らの体温を上げているのだ。

「こんばんは、世界遺産劇場・春日大社 第六十次式年造替奉祝―Misia Candle Night―へ、ようこそ!」と、MISIAは長いタイトルをすらすらと言った。さっきはあれほどエキサイティングなパフォーマンスをしていたのに、この切り替えの速さはさすがだ。

「Misia Candle Nightは、2012年から始まりました。震災への鎮魂と復興の願い、あの時感じた大切なものを忘れないようにとの思いからスタートしました。奈良では初めての開催になります。今年は熊本と大分で地震があり、そんなときにこのお話をいただいて光栄です。みなさんの大切な人に思いを馳せて、楽しんでいってください。心を込めて歌います」。大きな拍手が起こる。すかさずMISIAが「次の歌に行く前に、このカブリモノを取らせてください」と言ったから、会場から笑いが起こった。

スカーフを外して現われたのは、鹿の角をかたどったヘアバンド。「“MISIAせんとくん”でした」とMISIAが笑って言うと、会場からも笑いと拍手が上がったのだった。

160910_0784_medium

3曲目「あなたにスマイル:)」を歌い終わると、MISIAが「ここで飛び切りの笑顔を届けてくれる人を紹介します」とスペシャル・ゲストの清水ミチコを呼び込む。極彩色のドレスをまとった清水とハグして、MISIAはいったん退場。清水はピアノの前に座って「それでは皆さん、着席! 素敵な休憩時間になりますように」とユーモラスに“清水ミチコ・ショー”の開会を宣言する。一気に“ミチコ・ペース”に持っていく。

童謡「サッちゃん」を綾戸智恵など、いろいろなボーカリストのモノマネで歌う。特に面白かったのは「私のフォークメドレー」で、陽水や清志郎、研ナオコなど、ネタが満載。観客の中にはツボにハマってしまって、笑いが止まらなくなった人も続出したのだった。

そして、ふと気が付けば、陽が暮れて、キャンドルがちらちら揺らめいている。いちばんオイシイ時間を持っていくなんて、ミチコさん、ズルい!(笑)

途中でMISIAが清水ミチコ・ショーに合流する。一緒に荒井由実の「雨の街を」を歌う。ユーミンのデビュー・アルバム『ひこうき雲』に収められている隠れた名曲だ。ユーミンのモノマネに徹する清水に対して、MISIAは“自分の声”で歌っていたのが興味深かった。これまで歌ったことのないタイプの曲を歌うMISIAは非常に魅力的で、これを引き出したミチコさん、エラい!!! 「いろんな人の歌が聴けて、嬉しい! 清水さんの“一人フェス”でしたね」とMISIAは楽しそうに清水を送り出した。

「Misia Candle Nightは、カバー曲をやるんですが、今日はあと2曲歌います。“Candle Night”で歌いたい歌詞を選ばせてもらいました」と言ってカバー・コーナーへ。槇原敬之の「僕が一番欲しかったもの」は、自分の拾った大切なものを、それを必要としている人に上げて、素敵な笑顔に出会う歌。堂本剛の「街」は、堂本が生まれた奈良に対する歌だった。MISIAの言うように、どちらも歌詞が深く響く歌で、歌いながらキャンドルを掲げるMISIAの仕草によく似合っていた。

160910_0855_medium

「ありがとうございます。Candle Nightでは、いつも最後に願いを込めてキャンドルを吹き消すんですが、音楽を聴きながら自分の願い事を考えておいてくださいね。その願いの中に、自分以外の誰かのことを一つ入れて欲しいなと思います。次は久保田利伸さんが作って下さった歌です」と「Let It Smile」へ。

その時、ステージの背後の森に照明が当てられた。それまで真っ暗闇だったところへ、うっそうとした木々が現われる。こちらから見ると、一人一人がキャンドルを持った客席、少し暗がりがあって、MISIAとバンドがいる明るいステージがあり、その向こう側に春日の森が浮き上がる。この絶景にオーディエンスから「うわぁ…」というため息に似た歓声が上がった。以前、MISIAは生きている植物でステージを飾りつけしたライブをやったことがあったが、それを上回る規模の自然のセットに会場中が感激している。世界遺産とMisia Candle Nightがぴたりと重なったシーンだった。

そんな下地があるから、時空を超えた愛を歌う「逢いたくていま」が、古都の空に朗々と響き渡る。続く「オルフェンズの涙」も壮大なバラードで、MISIAの歌が会場を圧倒する。終わった瞬間、照明が落とされ、背後の森が掻き消えたから、オーディエンスは息を呑んだのだった。

160910_0890_medium

「式年造替は20年に一度行われるんですが、20年といえば一世代。前後の世代が一緒に造替を行なうことで、技術も伝承されていくと思います。誰かと誰かが繋がっていきますように」。

このライブでのMCはとてもスムーズで、MISIAの伝えたいことが確実にオーディエンスに伝わっていく。これもまた、春日大社でのMISIAのライブの特徴だと思った。

ここからライブは大団円に向かう。「One Day,One Life」を歌い始めたMISIAは、キャンドルが消えてしまったオーディエンスを目ざとく見つけて、歌を止めて「私のを上げる」と客席に差し出す。振り向くと、「もう一回、Aメロね」とバンドにお願いする。一気に和んだ会場は、そのまま一体となって終盤へ。

160910_1104_medium

本編ラストの「果てなく続くストーリー」が、素晴らしかった。MISIAの歌に余裕が感じられる。その上で、MISIAは自分の声の音域すべてを使って、この名曲を歌い上げる。この夏、河口湖で観た“星空のライヴ Ⅸ”も素晴らしかったが、その時と春日大社でのMISIAはどこか違う。僕は開演して間もなく、この差異を感じ始めたのだが、「果てなく続くストーリー」を聴いてその差異の正体が分かった。

河口湖のMISIAは、ライブの中心にいる“アーティストMISIA”だった。だが今夜のMISIAは、“メッセンジャーMISIA”なのだ。彼女は何か大きな存在から預かったメッセージを、リスナーに届けるために歌っていると感じた。もちろんメッセンジャーはアーティストとしての大切な役割の一つなのだが、今、目の前で歌っているMISIAは、メッセンジャーに徹していた。世界遺産という特別なシチュエーションが、そうさせているのかもしれない。あるいはMISIAが自分のシンガーとしての直感に従っているだけなのかもしれない。どちらにしても彼女の背後にある深い森の中から、「果てなく続くストーリー」があふれ出るように聴こえてきた。

160910_1352_medium

アンコールの「Candle Of life」もまた、世界遺産劇場にぴったりの歌だった。♪風に揺れてる小さな温もりが 消えないように 見つめ続ける 愛の炎♪という歌詞そのままの光景の中で、オーディエンスはそれぞれの心の中を覗き込む。最後にMISIAの合図でそこにいる全員が願いを込めてキャンドルを吹き消すと、MISIAが「この幸せが100年後も続きますように」と最後のメッセージを贈ってライブは幕を閉じたのだった。

第31回JTB世界遺産劇場 春日大社第六十次式年造替奉祝
「Misia Candle Night」@奈良・春日大社2016.9.11セットリスト

1. SUPER RAINBOW
2. 真夜中のHIDE-AND-SEEK
3. あなたにスマイル:)
4. サッちゃん(清水ミチコ)
5. 100年の声の歌(清水ミチコ)
6. 私のフォークメドレー(清水ミチコ)
7. 雨の街を(荒井由実カバー、MISIA×清水ミチコ)
8. 僕が一番欲しかったもの(槙原敬之カバー)
9. 街(堂本剛カバー)
10. Let It Smile
11. Indigo Waltz(久保田利伸カバー)
12. 逢いたくていま
13. オルフェンズの涙
14. One day, One life
15. LIFE IN HARMONY
16. 果てなく続くストーリー
ENCORE
17. ひとつだけ(矢野顕子カバー、MISIA×清水ミチコ)
18. Candle Of Life

プロフィール

MISIA

長崎県出身。1998年、「つつみ込むように…」でデビュー。5オクターブの音域を誇る圧倒的な歌唱力で、ジャパニーズR&Bの先駆者と言われる。その後発表された1stアルバム『Mother Father Brother Sister』は、新人ながら300万枚のセールスを記録。以降、「Everything」「逢いたくていま」等、R&Bというジャンルを超えて、バラードの女王の名も確立させた。2004年には女性ソロアーティストとして初の5大ドームツアーを成功させ、その4年後には日本を含む台湾・上海・シンガポール・韓国・香港の5都市を含むアジア・アリーナツアーを敢行。2009年から2010年にかけて行われたロングツアーを含め累計250万人以上の観客を動員した。世界の子ども達への教育支援を目的に非営利団体”Child AFRICA”を設立するなど、世界を舞台とした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
オフィシャルサイト http://www.misia.jp/index_main.php

vol.63
vol.64
vol.65