【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 116

Column

CHAGE&ASKA 彼らは言う。「“SAY YES”は、それほどいい曲ってわけじゃない」

CHAGE&ASKA 彼らは言う。「“SAY YES”は、それほどいい曲ってわけじゃない」

続きがある。「アルバムのなかには、もっといい曲がある」。実は先日、ASKAに会った時も、ひょんなことからこの話になった。彼は、また同じこと言っていた。僕はこう返した。「その話、聞くの10回目くらいだと思います(笑)」。

なんだなんだ。あの人達は、こんな名曲を自己否定するのか。私達があの曲を聞いて心に宿した、名曲だからこその多幸感…、あれはマヤカシだったのか、と、頭から蒸気を出しそうになっているヒトもいるかと思うけど、ぜひ続きを読んで欲しい。

アーティストには、世の中が認知した“代表曲”があるけれども、本人達は“自分を代表する曲”と思ってないことが多い。彼らには彼らの“納得曲”があるからだ。でも、その納得がそのまま結果に繋がるわけじゃない。

いっけん、彼らが「SAY YES」を否定するかのように構えるのは、曲に自信がないとかそういうことじゃなく、それ以前の段階で、または同時期に、別の“納得曲”が生まれていたからだろう。

しかもCHAGE&ASKAの場合、ライブ・パフォーマンスにおいては他の追従を許さないくらいの覇者だった。でもそれを、ヒット曲という結果には結びつけられなかった。このあたりの当時の心理状態は、これから紹介するCHAGEのインタビューによく表われている。

デビューして十年経った時の印象は、常にライヴやってたなって感じが、すごく強くてね。で、レコードのセールスなんかは、確かに伸び悩んでて、「なんでレコード売れないんだろうな。でもお客さん、いつも入ってる。不思議だな、俺たちは」って。(中略)ライヴやれば、お客さんが待っててくれる。「俺たちの何かが届いてるんだ」っていうのは、すごくあったけどね。そう思ってる矢先に「SAY YES」(笑)。「なんだ、やっと結びついたな」って
(『別冊カドカワ』2000年1月号)

これは僕が彼にインタビューした時のものだが、この発言のなかの“不思議だな”と“何かが届いてる”という言葉は、あの頃の偽らざる実感だったろう。では、なぜその役割を、「SAY YES」は担うことが出来たのだろうか。ここでさらに、当時の状況を振り返ってみよう。

今更ではあるが、この歌はドラマ『101回目のプロポーズ』の主題歌だ。ドラマ共々、大ヒットを記録する。彼らにとって、デビュー12年目にして初めて掴んだチャートのナンバー・ワンであり、当時、トリプル・ミリオンに迫る売り上げを遂げた。まさにこの曲で、CHAGE&ASKAは正真正銘のブレイクを果たした。

1991年といえば、小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」なども大ヒットし、“ヒット曲はドラマ主題歌から”と言われる時代が幕開けた。カラオケで愛される楽曲になることも、ヒットの条件だった。世間的にはバブルが崩壊したとされる頃だ。そのため、一等地のビルの借り主が減り、代わりに増殖したのがカラオケ・ボックスである。歌うための“教材”としてもシングルCDが売れに売れ、遅ればせながら、音楽業界にバブルが訪れた。表面上は、CHAGE&ASKAもそれに乗っかった形となったのだ。

先ほどのCHAGEの、“不思議だな”と“何かが届いてる”という、この言葉を思いだして欲しい。彼らには、手応えはあったけど、こと音楽ソフトのセールスに関しては、実感のない時期が続いていた。しかし前述の通り、遂にブレイクの時を迎える。

でも僕は、ここで起こった現象は、よく言われる“壁を突き破った”意味でのブレイクとは、違う気がするのだ。やっとやっと、CHAGE&ASKAという巨大なタンクが容量いっぱいにまで満ちて、世間に彼らが“溢れ出た”イメージなのだ。カタカナ使えばいいってもんじゃないが、つまりはブレイクというよりオーバーフローである。その溢れ出す瞬間を担ったのが、たまたま「SAY YES」だったということだ。なので彼らは、この曲だけ特別扱いする気分にはなれないのだろう。

改めて、2019年の耳で、「SAY YES」を聴いてみよう。この作品のアレンジは、十川知司(現在は十川ともじと表記)であり、イントロの“門構え”は、とてつもなくリッパである。最近の楽曲で、こんな豪華絢爛なイントロはないだろう(まさに音楽バブルの象徴だ、みたいな、皮肉っぽい言い方を好むヒトもいるだろう)。

僕はこの曲を聴き始めると、“縄跳び”を思い出す。しかも、ゴム紐が長めの大きな弧の動きが目の前に浮かぶのだ。ぐる〜ん、ぐる〜ん…。さて弧の中に、どのタイミングで入るのか…。その時、“♪よけいな〜”と、歌が聞えてくる。

いわゆるコード進行が、感情の自然の流れをありきたりにフォローし、メロディを際立たせるのではなく、途中、程良くカクカクっとするのもこの作品の魅力であり、バラードなのに畳み掛けてくるような、程良い緊張感が伝わる。特にサビ前のあたりは、CHAGEとASKAの声の交歓が、見事な空中ブランコのように繋がっていく。

ネット上では、コード・プログレッションに詳しい方の分析も読める。なるほど、とは思うが、その知識がないと「SAY YES」が魅力的に聞えないわけじゃない。あくまでここにあるオリジナリティは、ASKAと音楽の神様との、当人達だけが入れる秘密の部屋での個人面談の結果なのである。

途中までは適度にカクカクっとするのに、サビになると大地が現われ視野が拓けていくのも魅力だ。ここで満を持して、[何度も言うよ]の決め台詞。つまりこれは、ドラマのタイトルも“101回目”なので何度も言うのかもしれない。

以前も原稿に書いたことがあるが、「SAY YES」の最大の特色は、ラブ・ソングはラブ・ソングでも一方的に告(コク)る歌じゃなく、双方向であることだ。 “I want you to say yes”でありつつ“ I say yes”と受け取れるところなのだ。そして最後の最後に、歌のタイトルである[SAY YES]という言葉が、慈しみを込めて二度繰り返される。そのひとつは主人公の心の呟きで、もうひとつは相手の呟き、そんな解釈も出来て、やがてそれが、聴き手の我々の心のなかでひとつに重なる。“SAY”と促され、“YES”と言ったわけじゃない。二人は胸の中で、同時にこの二語を浮かべたかもしれない。

しかし名曲というのは、なんかこうして文章を書いているだけでウキウキワクワクしてくる。でも次に、再び彼らに会って、ひょんなことからこの歌の話になったとしたら、彼らはきっとこう言うだろう。「“SAY YES”は、それほどいい曲ってわけじゃない」。 

文 / 小貫信昭

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