佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 87

Column

デビューから56年目を迎えたローリング・ストーンズの奇跡を体感して考えたこと

デビューから56年目を迎えたローリング・ストーンズの奇跡を体感して考えたこと

東京・五反田で3月から開催中の“エキシビショニズム”と名づけられたローリング・ストーンズの展示会は、ロックの歴史の中で最も影響力があるバンドの、結成時から現在までの足跡をたどることが出来る貴重なイベントだ。

彼らの歴史はアメリカの黒人のブルースをレコードで聴いて、歌や演奏を完全にコピーすることから始まった。

その当時はブルース発祥の地であるアメリカでも、オールド・ジャズやブルースはほとんど忘れられかけていた。

ところがどういうわけかロンドンでは一部の若者の間で、それらが注目を集めていたのである。

偶然に会場で顔をあわせたピーター・バラカン氏から、そんな話を聞くことが出来たのも収穫だった。

さて、展示会場にはその頃にストーンズのメンバーが住んでいたロンドンのフラットにあった、小さな部屋が再現されていた。

撮影自由だったので、貴重な展示物を筆者が写した写真を交えながら、デビューから56年目を迎えたローリング・ストーンズの奇跡を体感した後に、あれこれと考えたことを述べてみたい。

もともとは1962年にバンドが結成されたばかりの頃、初期のリーダーだった ブライアン・ジョーンズが、友人とシェアして住んでいた部屋だった。

そこにキース・リチャーズとミック・ジャガーがやってきて、将来の夢を語り合うようになり、キースとブライアンは興が乗ると24時間でも、二人でギターの練習をしていたという。

当時のストーンズは決まった収入はなく、きちんと昼間は大学(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)に通っていたミックの奨学金が頼りという状態で、ひどい貧乏暮らしだった。

やがて自然に3人(プラス友人)の共同生活になって、そこからあの独特なギターリフによる、唯一無二のストーンズ・サウンドが誕生してくる。

そして1963年6月7日、ストーンズはデビュー・シングルの「Come On」を発売することになった。

ただし、それはストーンズが目指していたブルースではなかった。

ザ・ビートルズの爆発的な成功を目にしたデッカ・レコードと、バンドのマネージャーに名乗り出た19歳の野心家、アンドリュー・ルーグ・オールダムが選んだのは、チャック・ベリーのカヴァーで、軽いビートポップスだった。

手早くヒット曲がほしいアンドリューとデッカのスタッフたちは、この楽曲をプロモーションするために、テレビ出演を利用することにして売り込んだ。

テレビ局から出演のOKは出たものの、アンドリューに対してひとつだけ、“制服”タイプの衣装を着て来るようにという条件が付けられた。

何ごとにも縛られるのを嫌っていたストーンズは、決まったステージ衣装などなかったし、撮影のときでもそれぞれが好きな格好をしていた。

アンドリューは収録前の週末に、メンバーをソーホーのカーナビー・ストリートに連れていった。

そして黒いベルベット襟に千鳥格子柄のジャケットを仕立てて、シャツやネクタイも揃えた。

その時の衣装が1着だけ、“エキシビショニズム”に展示されていた。

バンドのメンバーたちはプロになるとはこういうことかと納得したものの、心の底では「制服なんて」と嫌がったのは当然だ。

“エキシビショニズム”の展示会場で流れていたインタビューのなかで、ミック・ジャガーがこう述べていた。

「制服とか押しつけられて わけがわからなかった」

なお番組収録時の様子については、海外のライターが書いたコラムが詳しいので一部を紹介したい。

その日、ザ・ローリング・ストーンズが当て振りでシングル曲を演奏する為に用意されたセットは、まるで西部劇に出て来る酒場のベランダのような作りで、そこにミック、キース、ブライアン、ビル、そしてチャーリーが、お揃いの千鳥格子のジャケットを着て、彼らの中では非常にスマートなルックスで登場したのだが、髪型だけが浮いていた。

ザ・ローリング・ストーンズの髪型は長髪でこそなかったものの、悪く言えばボサボサだったのだ。彼らの出演スポットが終わった後、審査員のピート・マーレイは、バンドが去年から髪を切っていないから、理髪師協会が面会を希望しているとコメントした。

そして『Thank Your Lucky Stars』への出演の2週間ほど後、ようやく「Come On」はUKトップ40の32位に登場。テレビの出演効果は見事発揮されたのである。
1963年7月、ストーンズ初の歌番組出演 – https://www.udiscovermusic.jp/stories/thank-your-lucky-stars-its-the-stones

しかし「Come On」はUKトップ40では21位に終わり、ヒット曲にはならなかった。
だから“制服”タイプの衣装としては、これが最初で最後になったようだ。

早くヒットを出してビートルズに対抗するバンドの地位を確保したいアンドリューは、セカンドシングルのA面曲を、意を決してビートルズに頼むことにした。

当時は共同でソングライティングを行っていたジョンとポールは、ストーンズのメンバーとも交友があったので、リンゴ・スターのために準備していた「彼氏になりたい」を提供してくれた。

だがビートルズの力を借りた「彼氏になりたい」でも、最高位は12位、ベスト10入りさえ叶わなかった。

そこで、アンドリューはマスコミから異端というレッテルを貼られたことを利用して、行儀の良い青年のイメージで売り出されていたビートルズの逆を狙って、不良的な匂いを振りまいてアピールする方法をとっていく。

やがて音楽雑誌や大衆紙を通して、「ワル」や「危険」なイメージが広まると、思惑通りに世間の関心が高まっていった。

それについては“エキシビショニズム”のインタビューで、キースが自分なりの真相をこう述べていた。

これには本当に「なるほど!」と感心させられてしまった。

「周りが勝手に不良扱いしたんだ 俺はそういうのが得意でね 役にハメてもらえりゃなりきるぜ」

まだヒット曲は出ていなくても、ビートルズに対抗するライバルとしての存在感が前面に出ていくにつれて、彼らが自分たちの血となり肉となるように努力していたブルースが、一般にまで受け入れられ始めていく。

1964年に入るとボ・ディドリーの代表作をカヴァーした「ノット・フェイド・アウェイ」が、UKトップ40で3位にまで上昇した。

そしてソウルシンガーのボビー・ウーマックをカヴァーした「イッツ・オール・オーバー・ナウ」が、UKトップ40で初の1位を獲得する。

さらにはハウリン・ウルフの代表曲だった渋いブルース、「リトル・レッド・ルースター」をカヴァーし、周囲の反対を押し切ってシングル発売した。

これが2曲連続の1位に輝いたのだから、音楽関係者は驚きを隠せなかった。

すっかり忘れられていた「リトル・レッド・ルースター」を、ストーンズは自分たちなりに血肉化して、ついにその会心のテイクで、イギリスのポップチャートの1位に輝いたのである。

彼らは単に音楽業界の流れや常識に逆らったのではなく、自分たちが純粋に好きで始めたブルースを信じて、イギリスの若者にそれを訴え続けて、ついに結果を出したのだった。

それと同時にR&Bやブルース中心にしたセカンド・アルバムも大ヒットしたことから、ストーンズはいよいよ次のステップに向かって足を踏み出していく。

ローリング・ストーンズはこうして反逆児や異端児のイメージと共に、独自の音楽性を追求することによって、1965年からは世界中に知られていくロックバンドに成長していく。

そこからは激動の時代と並走するように、次々にオリジナルの問題作をヒットさせて、世界最強のモンスターバンドとして現在もなお、現役で活動を続けている。

みんな音楽が好きで、仕事が好きなのだ。

“エキシビショニズム”の会場では、そうしたストーンズの歩みを支えるメンバーの人間性が、あらゆるところから感じ取ることが出来た。

5月のゴールデンウィークまで開催しているので、あと2回か3回は足を運ぶつもりでいる。

ザ・ローリング・ストーンズの楽曲はこちら

Exhibitionismーザ・ローリング・ストーンズ展

delivered by DHL / official Japan sponsor 才能発掘アプリ Fairchance

開催会場:TOC五反田メッセ(東京都品川区西五反田 6-6-19)
開催期間:2019年3月15日(金)~5月6日(月・振休)
【平日・土・祝前日】11:00~20:00 ※最終入館時間 19:30まで
【日・祝日】11:00~18:00 ※最終入館時間 17:30まで

★入場チケット
●一般[当日券] ¥3,500
●学生(中・高・大・専) ¥2,000
※小学生以下入場無料(保護者同伴に限る)
※ご入場の際に学生証のご提示をお願いいたします
●グループ(10名以上) ¥3,000
※INFORMATIONダイヤルでのみ受付
●土日祝限定 優先入場チケット ¥4,000
※土日祝限定、11:00-1時間ごとに時間指定
●VIPチケット ¥8,800
※期間中いつでも2回入場可、優先入場/VIPパス付き
※VIPパスは当日窓口にてお渡しいたします
※シリアルナンバー入り

★グッズ付チケット(このチケットでしか手に入らないオリジナルグッズ付き!)
A:トートバック付き 入場チケット ¥5,500
B:ピンバッジセット付き 入場チケット ¥13,500
※会場での販売はございません。グッズは当日窓口にてお渡しいたします

※全て税込価格
※小学生以下入場無料(保護者同伴に限る)
※再入場不可
※会場内は撮影可能

チケット:ローソンチケット、ぴあ、会場(一部券種を除く)にて発売

★詳細、及びチケットの購入はオフィシャルサイトにて
https://stonesexhibitionism.jp/

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

ウェルカム!ビートルズ 1966年の武道館公演を実現させたビジネスマンたち

著者:佐藤剛
ボイジャー

ビートルズ来日をめぐる人間ドラマを丹念に描く感動のノンフィクション。

1966年のビートルズ来日公演、それは今になってみれば、奇跡的といえるものだった。いったい誰が、どのようにしてビートルズを日本に呼ぶ計画を立てて、それを極秘裏に進めて成功に導いたのだろうか? これは日本の経済復興の象徴だったリーディング・カンパニーの東芝電気と、その小さな子会社として生まれた東芝レコードにまつわる、歌と音楽とビジネスをめぐる物語である。

vol.86
vol.87
vol.88