山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 56

Column

「日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく」/ 山口洋

「日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく」/ 山口洋

今年結成40周年を迎えるHEATWAVE。
人生は旅にたとえられるが、これほど旅と存在がリンクしたバンドもないだろう。
リスナーからのリクエストで構成する“YOUR SONGS”ツアーを収録したライヴ盤が誕生する過程を振り返りながら、“いま”という時代と風を見つめる。


自分のことを。

2017年にHEATWAVEとして、初めてのセルフ・カヴァー・アルバム、『YOUR SONGS』をリリースした。過去に書いた曲たちが、また新しい服をまとい、再び稚魚として、ひとびとの大海に漕ぎだしていく。

制作の過程を通して、楽曲たちがひとびとの暮らしの中で、さまざまな形で響いていたことを知った。なんというか、悪くなかった。曲を書いて、演奏し続けてきて良かったと、こころから思った。もっと言えば、音楽家として、社会がファンクションしていくことに、ほんのわずかだけれど、寄与できたの(かも)しれない、と。

アルバムをリリースして、なんだかモーレツに、音楽をできるだけ「宅配チック」に届けたくなったから、旅に出ることにした。全国のオーディエンスからリクエストを募り、日本のあちこちに届けにいく旅。今一度、この国を感じてみることで、これから音楽に向きあう理由も見えてきそうな気がしたから。

ギター3本をクルマに積んで、町から町へと、現代の音楽寅さんは股旅をする。マネージャーを連れないのが寅さんの流儀。けっこうなおトシなので、連ちゃんのライヴはできるだけやらない。土日は地方のハコの奪い合いなので、平日にもライヴをやる。だって、土日が休みじゃない人だっているわけで。ソロだったら、そういうリスクもなんとかクリアできるわけだし。

自力で移動することには意味がある。まず、誰の制約も受けない。出発時間を交通機関に合わせる必要がない。青空の下で、風に吹かれながら、ギターの弦を換えることができる。なによりも、その町の歴史や成り立ちが近づきながら、おぼろげに見えてくる。

僕はどこでも同じ演奏をしたいのではなく、甚だ土地に引っ張られたいと思っている。だから、食べ物や言葉や風土や歴史に思いっきり影響されたい。

どうしても伝えたかったこと。

アメリカ大陸を一日に自力で1600キロ移動しても、大して変わらないことが多い。でも、小さいと言われているこの国はどうだろう。わずか30キロ移動したなら、微妙に言葉も食べ物も気質も変わっていく。つまり多様性に富んでいる。長い時間をかけて育まれてきた豊かな文化があるのだ。

それを大型郊外店が根絶やしにしていく。どの町の郊外にも目立つためだけの看板が林立し、同じ風景になっていく。それを子供たちが原風景として記憶するのなら、ほんとうに哀しい。

駅前の商店街はほぼシャッター通り。おじいさんが遺した店だけは私が生きているうちは守ると、いつから売れていないのかわからない履物屋さんの奥におばあさんがひとり。そんな風景はどこにでもある。

ほんとうに、それでいいのだろうか?

少し熱くなったので、話を音楽に戻すね。

オーディエンスからのリクエストには「どうしてその曲を聴きたいのか」ってことを明記してもらった。演奏の前に、ステージでそのリクエストを読んでから、音楽に移行する。古き良き時代のラジオDJチックにね。そうすると、居合わせたひとびとに「個人的な事情」が共有されていく。プライベートなことがパブリックになっていく。

ツアーも半ばに差しかかったころ。これは録音した方がいいと思った。

もうすぐ平成も終わる。オリンピック前の消えゆく日本の2018年の姿。音楽によるたったひとりの平成新日本紀行。1本のライヴを愉しむように、2018年の各地の風景を愉しむように、忙しくて旅をする暇がない人たちが旅情を感じられるように。そんなアルバムを創りたいと思った。

たった1人だから、録音方法も考えなきゃいけない。高性能でコンパクトな録音機材を厳選して手に入れた。軽くて、音が良くて、シンプルで、壊れないシステム。

通常アンビエンス(会場の音)はPAスピーカーの横に設置するものだが、今回は考えた。ステージに立っている僕の場所の音をステレオで。それにラインのギターとヴォーカルを加えて、合計4chで収録。それ以上のチャンネルは演者としてのパフォーマンスに影響しそうだったからやめた。

機材は僕が歌うマイクスタンドの横に設置した。それゆえ、ステージに上がって最初の仕事は録音ボタンを押すことだった。

青森県弘前市から沖縄県石垣島まで。シンプルな機械は一度もトラブルを起こさなかった。僕がときどき録音ボタンを押し忘れたことをのぞいては。笑。

すべてのテイクから20曲を選んで、ミックスし、マスタリングを施した。つまり、移動、歌唱、演奏、録音、ミキシング、マスタリング。すべて寅さんが担当した。今回は人の手を借りない方がいいと思ったのだ。

もうひとつ。録音を開始したのとほぼ同じ時期にインスタグラムを始めた。SNSは好きじゃないけれど、インスタは押しつけないところが性にあっていた。ハッシュタグでフォロワーを増やす気もなし。見たい人が見てくれれば、それでいい。

ジャケットはインスタの写真で構成した。消えゆく平成、2018年。

「日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく」。愉しんでくれたら嬉しい。

感謝を込めて、今を生きる。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。2019年2月公開の映画『あの日のオルガン』(監督:平松恵美子、主演:戸田恵梨香、大原櫻子)でアン・サリーによるカヴァー「満月の夕(2018ver.)」が起用されたことでも話題に。現在、名古屋を皮切りにスタートしたソロ・ツアー“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”で全国に歌を宅配中。会場では2018年ツアーのライヴCDの発売も。4月6日〜7日には東京・国立で本連載の番外編ライヴ・イベント第2弾を開催。トークとライヴの2部構成で、連載で書き下ろしたアーティストの楽曲紹介をはじめ、HEATWAVE結成40年秘話、カヴァー曲、新曲などを各日異なるテーマで披露する。2011年東日本大震災後から仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと続けている“MY LIFE IS MY MESSAGE”の今年の開催は6月28日に決まった。

オフィシャルサイト

ライヴ情報

“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”
4月1日(月)大坂 南堀江 knave(ネイブ)
4月3日(水)静岡 LIVEHOUSE UHU(ウーフー)
5月5日(日)千葉 Live House ANGA(アンガ)*アンガ22周年
5月11日(土)長野 ネオンホール
5月13日(月)豊橋 HOUSE of CRAZY
5月15日(水)奈良 Beverly Hills(ビバリーヒルズ)
5月17日(金)福山 Boggie Man’s Cafe POLEPOLE(ポレポレ)
5月19日(日)高知 シャララ
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「Seize the Day/今を生きる」番外編トーク&ライヴ
“Long Way For Freedom”
4月6日(土)国立 地球屋
“Long Way For 40th”
4月7日(日)国立 地球屋
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HEATWAVE SESSIONS 2019
4月18日(木)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
4月20日(土)京都 磔磔(takutaku)*磔磔45周年記念 HEATWAVE SESSIONS 2019 in 磔磔
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ARABAKI ROCK FEST.19
THE ARABAKI ROCKERS SATURDAY NIGHT ROCK’N’ ROLL SHOW 1969→2019

4月27日(土)・28日(日)みちのく公園北地区「エコキャンプみちのく」(宮城県柴田郡川崎町大字川内字向原254番地)
*出演日、ステージは後日発表。
出演:池畑潤二(ROCK’N’ROLL GYPSIES/HEATWAVE)
陣内孝則 / 澄田健 / 百々和宏 / 穴井仁吉 / 田中元尚(TH eROCKERS)
山口洋 / 細海魚(HEATWAVE)
花田裕之 / 下山淳 / 市川勝也(ROCK’N’ROLL GYPSIES)
仲井戸”CHABO”麗市 / 土屋公平 / 早川岳晴(From麗蘭)
ARABAKI ROCK FEST.19 オフィシャルサイト

MY LIFE IS MY MESSAGE 2019
Brotherhood

6月28日(金)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
出演:山口洋(HEATWAVE)×仲井戸”CHABO”麗市
詳細はこちら

vol.55
vol.56
vol.57