Interview

Suchmos 6人が全力で音楽と向き合った3rdアルバム『THE ANYMAL』の突出した個性と完成度

Suchmos 6人が全力で音楽と向き合った3rdアルバム『THE ANYMAL』の突出した個性と完成度

今まで見たこともない生き物=『THE ANYMAL』

Suchmosが新作『THE ANYMAL』を完成させた。これは彼らのフル・アルバムとしては、『THE KIDS』以来2年2ヶ月ぶりの3作目となる。少年から新しい生命体へと進化したと想像したくなるようなアルバム・タイトルだが、『THE ANYMAL』はそんな想像をさらに掻き立てるスケールの大きなサウンドで聴くものを包み込む。小さなスケッチブックでは描ききれない大きさと緻密さを持った絵のようだ。

私は本作がまだ製作中だった2月初旬に「ミュージック・マガジン」誌の取材で彼らにインタビューの機会を得たのだが、その時点で聴かせてもらうことができた6曲で、彼らがとんでもなくスケールアップしたバンドになっていることを感じさせた。10分を超える長い曲もあり、楽曲の構成と演奏が描き出すドラマティックなヴィジョンに、聴き始めたら最後まで目をそらすことができない映画のように引き込まれてしまう。まだこれから曲を作る、と言いながらもHSU((Ba)は「間違いなく最高傑作になる」と自信のほどを言葉にした。その時点で、アルバム・タイトルは『THE ANYMAL』と決定していたのだが、約1ヶ月後に知ったその全貌は今まで見たこともない生き物だった。

「現時点で一番真ん中を射抜けることを考えていたい」

『THE ANYMAL』の意味するものを、前述のインタビューでYONCE(Vo)はこう説明している。

「世の中に生きている人の多くは、理性と本能の間で葛藤している。そことそもそも付き合っていかないといけない生き物になってるよね、というのがすごくあって。そういう動物として、僕らは名乗りをあげる段階なんじゃないかって」

弱肉強食の生物界で人間は理性で本能をコントロールして生きている。だが「In The Zoo」で”We’re just animals”と歌っているのは、檻に入れられた動物園の動物たちのように、決まった形やレールに乗って生きるのが良しとされる世の中に対しての皮肉だろう。だから”計り知れないことが幸せだと知っているから生きている”と切り返す。彼らがそう思うのは、彼らが愛する音楽が感じさせ信じさせてくれる揺るがないものがあるからだ。だから”救ってよロックミュージック”と歌い、現実を見据えた上で先に進んでいく、今までとは違う生き物=ANYMALと自分たちを定義づけたのだろう。OK(Dr)はこんな風に言った。

「俺の個人的な意見だけど、現時点で一番真ん中を射抜けることを考えていたい。不貞腐れず、かといって先を見過ぎて堕落していくような感じにもならないようにしたいと言うのが、すごくある」

YONCEが歌い綴るドラマティックな歌と幻想的なサウンドスケープ

不満を吐き出し反発するのでなく冷静に自分たちの答えを探している。『THE ANYMAL』は、そんな思いを凝縮させた作品なのだと思う。例えば彼らが広く知られるきっかけとなった「STAY TUNE」のように軽快なステップを踏みたくなるような曲は、この12曲には見当たらない。けれどもカチコチとアナログ時計の音から始まる「WATER」が開く扉は、豊かで深いロックミュージックの海へと繋がっている。キラキラと輝くようなピアノに華やかなハーモニー、”いっそ聖地リバプール”という一言でニヤリとしたら、あなたも彼らの仲間だ。

YONCEがファンであるサッカーチームのリバプールFCのホームであると同時に、ザ・ビートルズ誕生の地でもあるリバプール。そこから始まる本作の旅は「ROLL CALL」で竜宮城に、「You Blue I」では砂漠へと足を伸ばし、「HERE COMES THE SIX-POINTER」に至っては最終電車で月を目指す。そんなトラベル・ガイド並みのドラマティックな歌を、YONCEは巧みにファルセットを織り交ぜながら歌い綴っていく。

そんな歌を彩る幻想的なサウンドスケープはザ・ビートルズを連想させ、ピンク・フロイド並みの深淵で重厚なドラマを浮かび上がらせる。オーセンティックなロックへのオマージュも感じさせながら、彼らならではのスタイルで消化し新たなものへと進化させている。この6人にしかできないことを全力で作り上げているのだ。

「こんなもんじゃ俺たち満足できない」。K点越えの「Indigo Blues」

前述した制作途中に聴かせてもらったテイクでは14分超えだった「Indigo Blues」は11分半ほどになったが、それでも本作中最長曲。そもそもは2年ほど前にブルックリンを訪れた時の経験から生まれた「BROOKLYN」という曲で、2017年のパシフィコ横浜のライヴで演奏している。それが「Indigo Blues」に変貌してきたわけだが、その間に詰め込まれた6人の思いが曲をこれほど大きなものにしたのだろう。振り返ってOKはこう言った。

「この曲が一番とっかかりが早かったんじゃないかな。こんなもんじゃ俺たち満足できない、みたいな6人の共通認識が生まれて。じゃK点を越えるためにはどうしたらいいんだろうって、考え出した曲ではある。そこまでで蓄えてきた音楽の感覚を、どうしても、そこまで持っていきたかった」

曲を練り上げていく中でのHSUの発言も興味深い。

「溢れ出すものが回ってるんですよね、音というか音楽が。急に止まったら振り落とされる。だから音を止めようとは思わない」

穏やかにソウルフルなグルーヴを発揮する「WHY」、太いベースと軽やかなアコギの対比が絶妙な「ROMA」、さらにはアコギの弾き語りを中心にブルージーなサウンドで聴かせる「Hit Me, Thunder」は、表情豊かに歌い上げるYONCEのヴォーカルと音の隙間の雄弁さに侘び寂びさえ漂って、音楽が持つ濃厚な魅力に酔わせてくれる。それに続く「HERE COMES THE SIX-POINTER」では,TAIHEI(Key)の弾く豊かでムーディなピアノに乗せてサッカーで言うところの決戦(シックス・ポインター)に向かう決意を固め、最後を飾る「BUBBLE」は何の迷いもなく真っ直ぐに進んでいく。

全力で音楽と向き合いながら続いていくSuchmosの旅

Suchmosはこの6人が揃って3年ほどだが、それぞれに音楽経験は豊かで演奏力も知識も愛情も半端ない。彼らのライヴを見るたびに私が感じるのは、彼らがこの6人での演奏を心底楽しんでいること、互いをリスペクトしあって全力で音楽と向き合っているバランスの絶妙さだ。そんな彼らの姿は、初回限定盤に入っているレコーディング中の彼らを追ったDVDが捉えている。屈託無く笑い合い、互いの演奏を評価したり励ましたりしながら夢中で音を作っている。KCEE(Dj)とTAIKING(Gt)が様々な民族楽器で遊んでいるシーンがあるが、そんな楽器も本作の中では生かされているのだろう。

ともすればアンバランスになりそうなバンドとしてのフレッシュさと演奏力が、不思議なほどマッチして更に彼らの可能性を大きくしている気がする。そして何よりも彼らが生み出す楽曲が、突出した個性と完成度を持っていることを示しているのが『THE ANYMAL』だ。ここに収められたのは、すでにスタートしたアリーナツアーで、そして9月8日の横浜スタジアムで鳴るのが眼に浮かぶような12曲。その日に向かってSuchmosの旅は続いていく。

取材・文 / 今井智子

その他のSuchmosの作品はこちらへ。

ライブ情報

″Suchmos ARENA TOUR 2019″

3月30日(土)宮城・ゼビオアリーナ仙台
4月6日(土)北海道・北海道立総合体育センター北海きたえーる
4月20日(土)新潟・朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター
4月29日(月・祝)福岡・福岡国際センター
5月11日(土)広島・広島サンプラザホール
5月25日(土)兵庫/ 神戸・ワールド記念ホール
5月26日(日)兵庫/ 神戸・ワールド記念ホール

″Suchmos THE LIVE″ YOKOHAMA STADIUM

9月8日(日)神奈川・横浜スタジアム

Suchmos

2013年1月結成。バンド名の由来は、スキャットのパイオニア、ルイ・アームストロングの愛称サッチモから引用。メンバー全員が神奈川育ち。2015年にEP『Essence』、1stアルバム『THE BAY』をリリース。ROCK、JAZZ、HIP HOPなどのブラックミュージックにインスパイアされた音楽性が話題となり、都内ライブハウス、神奈川・湘南のイベントを中心に活動。2017年には2ndアルバム『THE KIDS』をリリースし、自らのレーベル「F.C.L.S」を発足。YONCE(Vo)、HSU(Ba)、OK(Dr)、TAIKING(Gt)、KCEE(Dj)、TAIHEI(Key)から成る6人グループ。

オフィシャルサイト
https://www.suchmos.com/