Interview

上野樹里&リリー・フランキー&藤竜也で奇妙な共同生活を描く『お父さんと伊藤さん』

上野樹里&リリー・フランキー&藤竜也で奇妙な共同生活を描く『お父さんと伊藤さん』

34歳の彩は、勤務先で知り合った54歳の伊藤さんと穏やかな同棲生活を送っている。そこに、彩の74歳になるお父さんが突然やってきて、「しばらくこの家に暮らす」と言い出し、3人の奇妙な共同生活が始まる……。 中澤日菜子による人気小説を『百万円と苦虫女』(08)、『ふがいない僕は空を見た』(12)、『ロマンス』(15)などを手がけたタナダユキが監督。世代の違う3人がそれぞれ向きあう現実と葛藤を、ユーモア溢れる会話の掛け合いに、優しく温かな視点を交えて描いた珠玉のドラマに仕上がった。 それぞれのキャラクターをリアルに、そして絶妙なアンサンブルで演じた娘役の上野樹里、伊藤さん役のリリー・フランキー、そしてお父さん役の藤竜也の3人が揃い踏み、それぞれの役柄について、そして“家族”について語った。

取材・文 / 大谷弦 撮影 / 吉井明

それぞれの立場で印象が変わるような、不思議な魅力のある映画になったかな

お父さんと、伊藤さんと、彩さんの関係性が素敵で、観たあとに自分の家族のこと考えてしまうような作品でした。

上野 彩と伊藤さんは一緒に暮らしてるけど、籍を入れてるわけじゃないので、伊藤さんは「お父さん」って呼べる間柄じゃないんだけど、なんとなく家族みたいな感じになっていくお話です。

 彩ちゃんを中心にして考えると、正式な結婚はしてないけど家庭みたいなものがあって、そこにお父さんという血を分けた肉親が転がり込んでくる。たぶん、あと数年したらお父さんを葬るわけだけども、それまでの時間で彩の人間力が問われると思うんですよね。そこにはものすごい戸惑いがあるんだけれども、そこに“伊藤さん”っていう不思議な名ガイドがいてくれて。

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リリー 彩さんくらいの歳になると、ある程度社会的にも自活できるようになってて、そうなったと思った瞬間に親の面倒をみなきゃいけなくなる。これはみんなに起きることなんですけどね。

 お父さんにとってみたら、たぶん、これは一種のハードボイルドだと思う。その要素が、このドラマを上質なエンターテインメントにしてるんじゃないかと僕は思うんですけどね。

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それぞれの役柄についてはいかがですか?

上野 彩を演じるのは面白かったです。コミカルにやってないし、シリアスにやろうとも思ってない。その塩梅、さじ加減が本当に絶妙な作業でした。やっぱり映画って長いですし、大きなスクリーンで観てもらうものなんで、人の気持ちを重くしたくないし、かといって滑稽にしすぎてコントみたいになるのも違うし。クスっと笑って心がほぐれて、でも気づかされたりとか、それぞれの立場でグッとくるポイントが変わったりとか、不思議な魅力のある映画になったかなって思います。

 お父さんの世代で言うと、“家族”とか“父親”ってテンプレートがあったと思うんですよね。それがやっぱり崩れてきてるって言い方もおかしいけど、どこか変質してきてると思うんです。そんな時代のお父さんの孤独というか、居場所のなさっていうのが、非常にうまくできてる。僕も日々、老いと向き合ってますから、共感して演じることができました。

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リリー 僕も役と重なりましたね。実際に歳の離れた人と付き合うこともあったので、いままで俺はこういうふうに思われてたんだろうなって(笑)。こういう二人は、だいたい男のほうがちゃんとしてないんですよ。

上野 映画を観た人は、みんな伊藤さんがカッコよかったって言ってますよ。優しくて、野菜育てて、ご飯作ってくれてて、怒らなくて、いろいろ知識があって。

リリー 映画の中の伊藤さんは、いいところばっかり映ってるんですよ。やっぱりなんかありますよ、あの人。

上野 裏というか、過去が(笑)。

リリー でも、女の人にはそういうふうに見えるんでしょうね。伊藤さんは、お父さんから見たら相当食い足らない男だと思うんですよ。プラプラしてるわけじゃないですか。コンビニでバイトしてると思ったら給食センター行ってるし。その前は何してるかわかんないし。

 でも、長野の家で伊藤さんから「ダメな人たちだなぁ、あなたたちは」って言われるシーンはこたえたね。ほんとにそうだなぁって思ったもの(笑)。

リリー あのセリフは抵抗あったんですよ。伊藤さんは唐突にハッキリと言うじゃない。僕個人だったら、お父さんと一緒に住んでもいいくらいに思ってたから(笑)。

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藤さんは、御自身と“お父さん”の姿は重なりましたか?

 全然違いますねぇ。このお父さんは、真面目ですもんね。僕は自分を追い込むとかしないし、まぁいいかって、すぐに順応しちゃうほうなので。

上野 藤さんは真面目ですよ。ロケ地巡りにひとりで行かれたり、自分で移動して、メイクも自分でやって、朝もすごい早起きされるっていうのを聞いて。すごく真面目な方だなって思います。

 ただ僕は俳優って仕事が好きなんですよ。趣味ですね。

リリー 僕はもうずっと藤さんのファンだったので、現場では「あの映画どうだったんですか? 撮影はどんな感じだったんですか?」っていうことをずっとお聞きしてました。

  撮影は昨年の10月ぐらいでしたっけね。3人で椅子を並べて待ってる間、雲や青い空なんかがあって、ボーッと見ながら、時々誰かがぽそっと話したりして。個人的には、また映画の現場で僕は椅子に座っているんだなっていう、説明し難い幸せを感じてましたね。

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タナダ監督の印象は?

上野 タナダさんの演出って、細かく味付けをする料理じゃなくて、圧力釜に材料を入れて、そのまま蓋をして、美味しくなるのを待つような感覚なんですよ。こっちは不安にもなるんですけど、脚本がある時点で間違ったことはできないし、どれだけやっても“彩”に収まるんだと思ってやらせてもらいました。

リリー タナダさんは空気感を演出する人ですよね。あと「人の靴を踏むな」ってことはすごく言われた(笑)。みなさんが現場でたくさん靴脱ぐじゃないですか。そこで誰かの靴を踏むことを、ものすごく許さない監督で。その但し書きだけは監督の直筆で毎日貼られてました。

 僕はもう全部やりやすかったですよ。リリーさんと樹里さんと一緒だし、なんかやりやすくてね。

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3人で食事をするシーンが特に印象的でした。

リリー 3人でご飯食べて、ギクシャクはしてるんだけど、ちょっと幸福感があるというか。俺みたいに家庭のない人からすると、憧れてしまうようなシーンですよね。

上野 レストランでひとりで食べるよりも、みんなで家で食べるご飯が一番美味しいと思う。あのシーンは私もいいなぁと思います。

リリー でも、彩は家事をやってるほうですよね。今の同棲してる人たちって、もっとやらなそう。「柿をむけ」って言ったら、それだけでケンカになりそうじゃないですか(笑)。

上野 彩は意外と家庭的なんですよね。

リリー だからああいうことを抵抗なくやってることには、あのお父さんの子供だなっていう感じがありますよね。

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上野 この映画はこういう何気ないシーンが多くて、ストーリーの起伏というか、ビッグイベントがあんまり起きない作品なので、お客さんをどうやって運んでいくのかすごく不安だったんですよ。でも観ると本当に愛おしくて、いままでの自分の中で一番楽しめた映画になりましたね。

映画『お父さんと伊藤さん』

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2016年10月8日公開

息子夫婦の家を追い出されてしまった山中家のお父さんは、ボストンバッグと謎の小さな箱を持って、娘の彩と20歳年上の彼氏・伊藤さん(伊藤康昭)が同棲するアパートへとやってきた。そうして、3人の共同生活が、嵐のように、突然始まる。爆弾のように激しい性格のお父さんは、彩たちの穏やかだった日常を一変させてしまう。それでも毎日のちょっぴりおかしなハプニングを経て、3人がひとつの家族のようになりかけた矢先、「しばらくでかける」と情けない文字で書かれた置き手紙が机に置かれ、お父さんは行方不明に。お父さんが彩たちの家にやってきた、本当の意味とは……?

【監督】タナダユキ 【脚本】黒澤久子 【原作】中澤日菜子(講談社刊) 【出演】上野樹里 リリー・フランキー 長谷川朝晴 安藤聖 渡辺えり  藤竜也 【エンディングテーマ】「マイホーム」ユニコーン 【配給】ファントム・フィルム

公式サイト http://father-mrito-movie.com

(c)中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

プロフィール

上野樹里

1986年生まれ、兵庫県出身。『ジョゼと虎と魚たち』(03/犬童一心 監督)でスクリーンデビュー。初主演映画『スウィングガールズ』(04/矢口史靖 監督)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し注目を浴びる。その他の主な出演作品に『亀は意外とは速く泳ぐ』(05/三木聡 監督)、『サマータイムマシン・ブルース』(05/本広克行 監督)、『笑う大天使』(06/小田一生 監督)、『幸福のスイッチ』(06/安田真奈 監督)、『奈緒子』(08/古厩智之 監督)、『キラー・ヴァージンロード』(09/岸谷五朗 監督)、『陽だまりの彼女』(13/三木孝浩 監督)、『青空エール』(16/三木孝浩 監督)などがある。また、『のだめカンタービレ』(06/CX)では主演を務め、第51回ザ・テレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞、2007年度エランドール賞新人賞を受賞。その後、映画化もされ、『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』(09/武内英樹 監督)、『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』(10/川村泰祐 監督)にも出演。また、『江〜姫たちの戦国〜』(11/NHK)では大河ドラマ初主演を果たす。近年は韓国映画『ビューティ・インサイド』(16/パク・ジョンヨル 監督)など海外の作品にも出演し、活躍の場を広げている。

リリー・フランキー

1963年生まれ、福岡県出身。武蔵野美術大学卒業後、イラスト、文筆、写真、デザイン、作詞・作曲、演出・構成など幅広く活躍。2005年に発表した長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン?』は220万部を超すベストセラーとなり、2006年本屋大賞を受賞、テレビドラマ、映画化され話題となった。また、『ぐるりのこと。』(08/橋口亮輔 監督)では第51回ブルーリボン賞新人賞を受賞。その他の主な出演作品に『モテキ』(11/大根仁 監督)、『野火』(14/塚本晋也 監督)、『海街diary』(15/是枝裕和 監督)、『バクマン。』(15/大根仁 監督)、『恋人たち』(15/橋口亮輔 監督)、『シェル・コレクター』(16/石井輝男 監督)、『海よりもまだ深く』(16/是枝裕和 監督)、『二重生活』(16/岸善幸 監督)、『SCOOP!』(16/大根仁 監督)などがある。『凶悪』(13/白石和彌 監督)、『そして父になる』(13/是枝裕和 監督)では、第87回キネマ旬報ベストテン助演男優賞、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など数多くの賞を受賞。公開待機作品に、『聖の青春』(16/森義隆 監督)、『美しい星』(17/吉田大八 監督)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(17/大根仁 監督)などがある。

藤竜也

1941年生まれ、中国・北京出身。日活入社後、『望郷の海』(62/古川卓巳 監督)でデビュー。その後、1971年の退社まで、『俺に賭けた奴ら』(62/鈴木清順 監督)、『嵐を呼ぶ男』(66/舛田利雄 監督)、『反逆のメロディ』(70/澤田幸弘 監督)、など数多くの作品に出演。『愛のコリーダ』(76/大島渚 監督)では第1回報知映画賞主演男優賞、『村の写真集』(03/三原光尋 監督)では第8回上海国際映画祭最優秀主演男優賞、『龍三と七人の子分たち』(15/北野武 監督)では第25回東スポ映画大賞主演男優賞を受賞し、話題を呼ぶ。その他の主な出演作品に『愛の亡霊』(78/大島渚 監督)、『ションベン・ライダー』(83/相米慎二 監督)、『河童』(94/石井竜也 監督)、『アカルイミライ』(02/黒沢清 監督)、『許されざる者』(03/三池崇史 監督)、『海猿』(04/羽住英一郎 監督)、『ミッドナイト・イーグル』(07/成島出 監督)、『星守る犬』(11/瀧本智行 監督)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(12/瀧本智行 監督)、『私の男』(14/熊切和嘉 監督)、『柘榴坂の仇討』(14/若松節朗 監督)などがある。公開待機作品に、映画監督の河瀬直美がプロデューサーを務める『東のオオカミ』(16/カルロス・M・キンテラ 監督)がある。