Interview

若手俳優の中でめきめき頭角を現してきている笠松将。映画『ラ』に込めた想いと役者としての覚醒

若手俳優の中でめきめき頭角を現してきている笠松将。映画『ラ』に込めた想いと役者としての覚醒

人懐っこい笑顔。地元の街にもいそうな自然な空気感。そして、その内側に流れるある種のふてぶてしさ、危なっかしさ──。笠松将は、どこか多面的な魅力を感じさせる若手俳優だ。最近では、山田孝之が初の全面プロデュースに挑んだ『デイアンドナイト』(2019年1月公開)に出演。主人公の明石(阿部進之介)が関わる犯罪集団のメンバーを無垢な存在感で演じて、鮮烈な印象を残した。また映画『響 ─HIBIKI─』(2018年)、ドラマ『平成物語 ~なんでもないけれど、かけがえのない瞬間~』(2019年)などの話題作で、その独特な表情と姿を記憶している人も多いだろう。
4月5日公開の映画『ラ』は、そんな注目株が「今できるすべてを注いだ」という音楽青春エンターテインメント。バンドの夢を諦めきれない主人公・慎平(桜田通)と“腐れ縁”の元メンバー・黒須(黒やん)を演じている。ブレイク必至の26歳に、本作に込めた情熱や、役者という仕事への思いを語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 荻原大志

自分にとっては、1年に1回あるかどうかのチャンスだなと

今回の『ラ』で演じた黒須彰太、通称“黒やん”。とても存在感のあるキャラクターでしたね。元親友を利用しようとする、けっこう悪いヤツなんですが、なぜか憎めない。何もかもがうまくいかない青年の強がりと屈折が、スクリーンから滲んできました。

ありがとうございます。初めて脚本を読んだとき「あ、これって俺のことじゃん」と感じたんですよね。たぶん僕だけじゃなくて、世の中の99%くらいはどこか“黒やん”に共感する部分があると思います。挫折して、いろんなことが嫌になったり、昔の夢をまだ追ってる友だちが逆に鬱陶しくなることは誰にでもあると思うんです。

そうですね(笑)。たしかに。

僕自身、これまでずっと“黒やん”側の人生を歩んできた自覚がありますし(笑)。だからこそ演じてみたいと思いました。単に出番が多いとか、役として大きいとか、そういう次元ではなくて。自分にとってはたぶん、1年に1回あるかどうかのチャンスだなと。

撮影したのはいつ頃だったんですか?

去年(2018年)の初頭です。藤井道人監督の『デイアンドナイト』の撮影が終わってしばらくした後、たしか2017年末に台本を手にしました。年が明けてすぐに高橋(朋広)監督とお会いしました。ちなみに『デイアンドナイト』も、僕にとってはものすごく大きな経験だったんです。役者も演出も、美術も衣装も、すべてのレベルが尋常じゃなかった。

プロデューサーの山田孝之さんが脚本段階から参加し、台詞のひとつまで徹底的にブラッシュアップされたそうですね。

はい。僕が演じた青柳という窃盗団のメンバーは、出演シーンはそれほど多くなかったんですけど、藤井監督や山田プロデューサーととことん話し合いディテールまで作り込んでいます。監督と他の役者さんのやりとりも刺激的でした。それを横で聞き学べたことも多かったです。そんな奇跡的な作品に参加できた直後に、 “黒やん”のような演じがいのある役に巡り会えたのは嬉しかった半面、限りある人生の“ツキのカード”を1枚ずつ使っちゃってる気すらしました(笑)。どちらも僕にとって大事な作品ですが、そこで得たものはけっこう真逆だったかもしれません。

どういう部分が違っていたんですか?

単純な話、『デイアンドナイト』の現場ではスタッフや共演者のレベルに付いていくのが必死で、とにかく見て学ぶ感覚が強かったんです。一方で『ラ』の方は、もっと素の自分に近いっていうか……。僕自身も意見をぶつけながら、仲間と一緒にいいものを作っていく感覚でした。今までいろんな作品に細々と出させてもらってきましたが、こういう関わり方は初めてだったと思います。

その意味でも、貴重な経験だったんですね。

本当にそうですね。撮影していたのはもう1年以上前だけど、『ラ』の共演者やスタッフさんとは今でもすっごく仲がいいんですよ。新しい仕事が決まったら「今度こういう作品に出るんです」と真っ先に連絡しますし。このメンバーにまた一緒にやりたいと思ってもらえる自分でいたいです。『デイアンドナイト』とはまた違った部分で、仕事に対する向き合い方を変えてくれた気がします。

映画『ラ』はバンドの演奏シーンから始まりますね。主演の桜田通さんがヴォーカルとギター、笠松さんは見事なベースを披露していますが、もともとバンド経験があったりしたんですか?

ないです。1か月猛練習して、オープニング曲だけ弾けるようになりました。携帯電話に(リズムをキープする)メトロノームのアプリを入れ、指先が水ぶくれになるくらい頑張ったんですけど、映画内では冒頭5分も使われてなかったです(笑)。そんな贅沢な作り方にも、この映画に対する高橋監督の思い入れや気合いが出てるのかなと思います。

たしかに(笑)。個人的に印象的だったのは、その先です。演奏のシーンは実は主人公・慎平の回想で、現実のバンドは空中分解している。元メンバーの“黒やん”とやり直したい慎平は居酒屋で久々に再会しますが、親友だったはずの“黒やん”はもはや別人の雰囲気になっている。冒頭のたった数分で示されるこのギャップが、切ないくらいに強烈で……。

本当ですか! あの居酒屋のやりとりは、いちばん最初に撮影したシーンです。高橋監督もこだわっていました。といっても、細かい演技指導的なものはほとんどなかったです。「最初なので観る人にインパクトを与えてほしい」と言われた程度で基本的には自由に演じさせてもらいました。今回、現場に入る前にリハーサルの時間を取ってもらえたんです。しかも(脚本の流れに沿った)順撮りだったので、“黒やん”の感情の変化を自然に追うことができた。そこはありがたかったです。

映画『ラ』より © 2018映画『ラ』製作委員会

演じるにあたって、特に意識したことはありましたか?

感覚的な部分ですけど、事前にキャラクターを決めなかったです。どんな役でもそうですけど、感情の揺れって必ず出るはずなんです。まったく迷うことなく一つの方向に向かって生きている人はいないと思っていて。“黒やん”についても、そういう行ったり来たりの部分はしっかり出したかったんです。

具体的にはどういうことでしょう?

たとえば今回のストーリーだけ見ると、“黒やん”は慎平を利用する──もっとはっきり言えばハメにいくわけですよね。だけど居酒屋で再会してから実際にある行動を起こすまで“黒やん”が一度も迷わなかったかというと、そんなの僕はありえないと思うんですよ。腹の中で計算したり、ムカついたりしつつも、ふと「こいつの言う通り、またバンドやってもいいかもな」って思った瞬間もあったに違いない。たぶん、その繰り返しだったんじゃないかなと。

その気持ちの揺れが、キャラクターの奥行きになるんでしょうね。

すべてを計算してるわけでもないのですが、悩んでるニュアンスが滲んだ方が、作品的には絶対に面白くなると思った。というか、僕自身“黒やん”側なので、そういうふうにしか脚本を読めなかったんです。監督は、脚本の時点ではもうちょっとストレートに悪いキャラを想定してたみたいですけど。思い切って相談したら「面白いね、将の方向でやってみよう」と柔軟に受け容れてくださいました。

劇中では、慎平と“黒やん”が楽しそうにじゃれ合うシーンも出てきます。あの幸せな空気感には、嘘偽りのない気持ちも混じっていたと。

はい。もちろん何%が計画で、何%が本気かはわからないけれど(笑)。少なくとも“黒やん”的には、全部が全部嘘ではなかった。もちろん、どこかの時点で必ず決裂すると思うんですよ。生き方の根本が違ってしまっているから。でもそれは、話の着地点を知っている観客の視線でもあって……。ある瞬間を生きているとき、未来の自分がどうなるかなんて、実は誰にもわからないじゃないですか。今回の“黒やん”に限らず、無理やりストーリーに沿った芝居をしないというのは、僕にとっては大事なことです。

ストーリーに沿った芝居、と言いますと?

たとえば、付き合ってる女性がいるとしますよね。で、数年後、僕がその子とゴールインしたとする。だけど、そこに至る瞬間、瞬間を切り取ってみれば、人生が一直線に進んでたわけじゃないと思うんです。むしろいろんな可能性があるなか、偶然が積み重なってその人と結婚したという方が、実はリアルだと思う。なので、こんなことを言うと怒られるかもしれないけど、脚本を何度も読み込んだりするのはあまり好きじゃないです。もちろん前後の繋がりはその都度しっかり確認しますけど。ストーリー全体から逆算して演技プランを立てると、どっか芝居が嘘くさくなっちゃう気がする。

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