モリコメンド 一本釣り  vol. 114

Column

神山羊 まるで彼とふたりで会話をしているような気分になる世界。注目のサウンドクリエーター&シンガーソングライター

神山羊 まるで彼とふたりで会話をしているような気分になる世界。注目のサウンドクリエーター&シンガーソングライター

初音ミクの登場から10数年が経ち、ボーカロイド及びボカロPは(いまさら言うまでもなく)日本の音楽シーンを大きく変貌させた。いまや国民的なアーティストとなった米津玄師もボカロ・シーンがなければ登場してなかった可能性が高いし(念のため説明しておきますと、米津さんはボカロP“ハチ”として人気を得て、その後、シンガーソングライターとしてのキャリアをスタートさせました)、2019年のブレイク候補と目されている歌い手出身のEve、ボカロP“バルーン”としてスタートした須田景凪などもボカロ・シーンから音楽活動を始めている。小学生、中学生の頃に初期のボカロP系ヒット曲(40mP、DECO*27、ryo、そして、先日急逝してしまったwowakaなどの楽曲)にどっぷりハマり、音楽に興味を持った世代のクリエイターは、それ以前のアーティストとはまったく感性が違う。緻密に組み立てたられたトラック、起伏の激しいメロディライン、リアルとファンタジーを行き来するような歌詞など、“ボカロ以降”をルーツに持つ彼らの音楽は今後、さらに大きく音楽シーンを変化させていくだろう。その旗手の一人が、今回紹介する神山羊(かみやま・よう)だ。

ボカロP・有機酸として「カトラリー」、「quiet room」などを発表、投稿動画サイトで急速に支持を高めていた彼が“神山羊”名義として活動をスタートさせたのは、2018年11月。最初の楽曲「YELLOW」のMVは約5か月が経った現在、1460万回再生を突破。その影響は10代を中心に人気のTikTokにも及び、4つ打ちに合わせたパフォーマンスなど、15万を超える動画がユーザーから投稿されている。また今年2月にアップされた「青い棘」も、最新のR&Bテイストを取り入れた楽曲、King GnuやTempalayなどの作品を手がけるクリエイティブレーベル・PERIMETRONの制作による初の実写MVのクオリティによって大きな注目を集めている。

盟友ともいえる須田景凪のライブをベーシストとしてサポート、話題のニューカマー“ずっと真夜中でいいのに。” の「君がいて水になる」にアレンジャー参加、さらにDAOKOの「涙は雨粒」で作編曲を担当し、「24h feat.神山羊」に楽曲提供と歌唱で参加するなど、昨年以降、アーティストとしての活動の幅を大きく広げている神山羊。その最初のCD音源が、4月3日にリリースされたミニアルバム『しあわせなおとな』だ。「YELLOW」「青い棘」を含む全8曲で構成された本作には、豊かな音楽性を備えたクリエイターとしての才能、そして、さまざまな色彩に溢れた楽曲の世界を表現するボーカリストとしての魅力が刻み込まれている。

では『しあわせなおとな』に収められた新曲をいくつか紹介したい。「journey」はザラついたギターサウンド、荒々しさを感じさせるトラックを軸にしたナンバー。90年代あたりのオルタナティブ・ロックの雰囲気を反映させたアレンジからは、彼のルーツの一端を感じ取ってもらえるだろう。諦念にも似た感情を綴った歌は、“現代のグランジロック”と称したくなる攻撃性をたたえている。

「ユートピア」はヒップホップ、レゲエ、90年代のJ-POPなどが混ざり合ったトラックのなかで“願わくば紛い物であろう/ここは、ぼくらのユートピア”というフレーズが響くミディアムチューン。独特のミクスチャー感覚に貫かれたサウンドメイク、詩的な言葉遣いで生々しい現実社会を映し出すリリックなど、神山のクリエイターとしての資質が見えてくるような楽曲である。

もう1曲、「シュガーハイウェイ」についても触れておきたい。煌びやかなイメージをもたらすサウンド、バウンシーに飛び跳ねるメロディがひとつになったこの曲は、神山のポップサイドを象徴するナンバーと言えるだろう。寓話的な雰囲気を醸し出しつつ、どんな人も先を見通すことができない“人生”を照らし出す歌詞も秀逸だ。リズム、音としての気持ちよさ、そして、思わず自分の生活や人生を振り返ってしまうような深い意味をナチュラルに結びつける言葉選びも彼の魅力。それは『しあわせなおとな』という(かわいくて意味深、親しみやすいのにドキッとするような)タイトルの付け方にも活かされていると思う。

さらに特筆すべきは、“シンガー・神山羊”の個性。全編を通して、感情を押し付けることなく、あくまでも曲を伝えることに重点を置いているのだが、曲を聴き終わったあとには“神山羊”自身の思いが心に残り、まるで彼とふたりで会話をしているような気分になる。音楽を通した豊かなコミュニケーションが生まれる——彼の音楽の本質は、もしかしたらそんなところにあるのかもしれない。

文 / 森朋之

その他の神山羊の作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://yohkamiyama.com

vol.113
vol.114
vol.115