佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 90

Column

リクオの「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」が訴えかけてきたのは、「勇気を出せよ」というメッセージだった

リクオの「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」が訴えかけてきたのは、「勇気を出せよ」というメッセージだった

リクオの「オマージュ – ブルーハーツが聴こえる」は4月15日に配信で発売になったが、それと同時にフルサイズのプロモーション・ビデオが公開されている。
最初にそのことを知ったのは、音楽ライターの内本順一氏がつぶやいたTwitterからだった。

音楽と映像が始まった瞬間から「力が入っている!」と感じたのは、これを制作したスタッフとミュージシャンの気迫が、画面から飛び出すように伝わってきたからに違いない。
そして曲が進んでいくにつれて、途中からさまざまな楽曲の引用や、オマージュと思える歌詞が出てきた。

ブルーハーツ、かまやつひろし、小沢健二…、「これはすごいとことろまで行くかもしれない」と期待がふくらんだ。

あれからもう30年 まだ何も終わっちゃいない
靴の踵をすり減らし 方々うろつく風来坊
あれからもう30年 ブルーハーツが聴こえる
誰かのそばで咲いてるかい 人にやさしくなれたかい

とっくの昔に言われた もう手遅れ 無理だよ
口笛吹いて答えてた あの頃のまま ひきずったまま
背中まるめて帰り道 ずっと前と同じ景色
残された時間 あとどれくらい 坂の途中で立ち止まる
 

5分を超える長い曲だったが、たたみ込むように唄うリクオが歌詞の量は多かった。
そしてどの言葉も、エッジがきいて切実だった。

それらがサウンドと共に違和感なくスムーズに耳に入ってきて、言わんとする意味がよく伝わってきたことにも驚かされた。

なぜならば今から50年前の日本では、はたしてロックを日本語で唄えるのかどうかが、真剣に議論されていたのである。

そこからたくさんの先駆者たちの力で、紆余曲折しながらも日本のロックはごく自然に、日本語のまま唄える現在まで進化してきたのだ。

とりわけヴォーカリストの果たした役割が大きかったことに、あらためて感じるものがあった。
当然だがそういった人たちへのオマージュが、全編をとおして感じられた。

そして最後まで聴き終わった後になっても、忌野清志郎の「勇気を出せよ」というシンプルかつ強力なメッセージが、ずっとリフレインして止まらなかった。
その最後の歌詞は、こうなっていた。

あれからもう30年 仲井戸”CHABO”麗市
ティーンエージャーだったあの頃と 一体何が変わったんだ
あれからもう30年 RCサクセション バッテリーはビンビンだぜ
大人だろ 勇気を出せよ
 

リクオは仲井戸麗市の後奏のギター・ソロのなかで、この「勇気を出せよ」という言葉を、合わせて4回くり返し叫んでいる。

もとになった「大人だろ 勇気を出せよ」という歌詞は、RCサクセションが活動停止した1990年に発表した最後のアルバム、『Baby a Go Go』に入っていた「空がまた暗くなる」の一節から来ていた。


これもやはり30年前の名曲に対する、リクオからのオマージュだったのである。

そのような思いがこもったレコーディングに、RCサクセションの仲井戸麗市が参加していることにも、あらためて感慨を覚えずにはいられなかった。

ぼくは昭和が終わった後の30年間の最後に誕生した、リクオの全身全霊を込めたメッセージ・ソングに、昭和を彷彿させる熱を感じながら、心のなかで静かに拍手を送った。

それから、ふたたび「オマージュ – ブルーハーツが聴こえる」をアタマから聴き始めたのだった。

そういえばこの曲は2年前からライブで唄われ始めて、リクオと森俊之との共同アレンジで完成して、5月4日にライブ会場などで先行発売されるアルバム『グラデーション・ワールド』にも収録されるという。

そのあたりの経緯を知るにつけても、RCサクセションの「上を向いて歩こう」と重なってくるところがあった。

 

作詞 作曲:リクオ / 編曲:リクオ & 森 俊之
リクオ:Vocal, A.Piano / 仲井戸麗市:E.Guitar, Chorus / 寺岡信芳:E.Bass / 小宮山純平:Drums / 宮下広輔:Pedal Steel Guitar / 大川毅(東京60WATTS):Chorus / 森利昭(東京60WATTS):Chorus

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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