Interview

角松敏生、架空のミュージカル舞台を先行音楽化した異例の作品『東京少年少女』に見せた飽くなき挑戦のカタチ

角松敏生、架空のミュージカル舞台を先行音楽化した異例の作品『東京少年少女』に見せた飽くなき挑戦のカタチ

今回の角松敏生の新しい作品は約5年ぶりのオリジナル曲である。オリジナル作品としては2014年のプログレッシッブ・ポップ・アルバム『THE MOMENT』以来。今回のコンセプト・ミニ・アルバム『東京少年少女』は、架空のミュージカル舞台を先行音楽化した異例の作品である。
恒例のCDブックレットでの本人執筆による長文ライナーは今回はなし。代わりに、発売日にFacebookにて楽曲紹介が掲載された。(Facebook掲載原稿を、ソニーミュージック オフィシャルサイトにも掲載。記事はこちら)このインタビューはその内容を知った上で行った発売日当日にしたアルバムインタビュー。
このオリジナル作品が持つ意味とは!?角松本人の言葉からくみ取ってほしい。

取材・文 / 井桁学

僕自身、“物語が想像できる音楽を作りたいんだ”ってKOUTAさんに話しました

「東京少年少女」の楽曲には、 “KOUTA”という名が角松さんと共に作詞にクレジットされていますが?

舞台作家/演出家の方です。2年半ぐらい前ですかね、酒席で “東京少年少女”というタイトルとなんとなくの物語がKOUTAさんの頭の中にあると聞かされたのが始まりです。高校の吹奏楽部の話で、音楽中心の舞台という漠然としたものでした。KOUTAさんのイメージする音楽がビッグバンドジャズ的なものだったのですが、ちょうど僕自身もビックバンドをもう一回勉強し直そうと思っていた時期でしてね。去年の『Breath From The Season 2018~Tribute to Tokyo Ensemble Lab~』ですね。その経験からビックバンドのリアルなミュージカル化はなかなかハードルが高いと感じました。キャスト人数や表現区域の制限とかね。そこで僕が管楽器のピースを減らして「ブラスロックを演る吹奏楽部」というのが面白いんじゃないか、その物語を音像化してみたい、という提案をしたのがことの始まりです…。

角松さん自身、ミュージカル舞台との関わりあいは?

2016年にサンリオピューロランドで初めて原案脚本音楽という形でミュージカルライクな舞台に携わりましたが、一番最初の経験は1993年頃にバレエダンサー橋浦勇さんが主宰する男性ばかりのバレエ集団「青山ダイナマイトバレエ団」を中心とした舞台の音楽を依頼された時のことです。会場は今は無くなってしまった青山円形劇場。ヴィリヴィリダンスという作品でした。バレエとモダンダンス、ジャズダンス、ヒップホップの各ジャンルのダンサーをミクスチャーしたもので、中心はバレエ、そこに各種ダンス、さらにコントとお芝居を入れるという企画。その音楽をまとめていく作業をさせていただいて。音楽を作っているうちに脚本にも関わらせていただきましてね。その経験から音楽を中心とした総合エンターティメントへの興味が高まりました。そんなバックグランドが93年当時からありまして、そうしたものへの実現に向けた温度だけは今でも静かに保ち続けているのですがね。

ミュージカルにおける音楽の役割はどう考えていますか?

音楽はミュージカルや映画には「絶対必要なもの」でありながら、主演というより助演という性質が高いと思うのです。舞台では表現不可能なことを映像に託した「グレイテスト・ショーマン」のような作品の場合は音楽中心であることがしっかり伝わりますが。オペラなどは別として、様々な舞台では表現される情報が多岐にわたるので、印象として音楽ありきという作品は少ないと感じています。過去のミュージカル作品で音楽が先行していることってないのかなって、ある時KOUTAさんに聞いたんですよ。そうしたら“アンドリュー・ロイド・ウェバーの「ジーザス・クライスト=スーパースター」とかあるじゃないですか”と言われて、確かにそうだと気付きました。そういえば、アンドリュー・ロイド・ウェバーが若き日に作曲した「ジーザス・クライスト=スーパースター」、イエス・キリスト最後の7日間を描いたロックミュージカルは、最初にミュージックトラックがあって、レコードが世界で300万枚以上売れて、それから舞台になったんですよ。そんな話をしたときに、僕自身、“物語が想像できる音楽を製作してみたいんだ”とKOUTAさんに話しましてね。まぁよもやま話程度ですが。
それからまた2018年に入って彼から再び「東京少年少女」のストーリーの詳細を聞きました。それは、ある高校でいじめや校則に縛られて自分達の出口を見失っているような、混沌としている高校性達がいて、その学校のつぶれかけた吹奏楽部を新任の教師が立て直し、子供たちの絆をまた取り戻していくという、大ざっぱに言うとそんな話でした。今年のツアーに向けて何かちょっと作品をリリースしたかったので、ミュージカルの勉強の一環としてKOUTAさんの頭の中にある物語を先に音像化した作品を製作するアイディアが生まれ、それをKOUTAさんにも伝え、賛同していただきました。舞台も脚本もできていないから、彼の頭の中に漠然とあるものを言葉にしてもらいました。KOUTAさんが伝えようとしているシーンは伝わるようにディテールは崩さないように、そして角松敏生が歌ったときに格好がまとまるようにKOUTAさんの文言(歌詞)を加筆修正してそこに音楽をつけていきました。

舞台よりも先に音楽を先行することで気をつけたところは何ですか?

耳で聴いて心地よくなければならないことですね。実際の舞台の音の場合は、視覚聴覚併せて一体化して感じるものなので、例えば音楽が単体としてアグレッシブに変化しても、視覚としてシーンチェンジなどがあると視覚に奪われて、音楽自体の細密な変化を感じにくい。また、聴覚単体で聞くと不自然であったりする場合もあるのです。あるいは、退屈なものになることもミュージカルトラックは多くて。だから、音楽だけ聴いていても飽きない、退屈しない、音楽の世界に入り込める作品作りをしなくてはいけないと。

それでは収録6曲分についてお話を伺います。まずは疾走感溢れる「to be or not to be」。

シェイクスピアのハムレットに登場する言葉としても演劇の世界では有名です。KOUTAさんからこのタイトルがきた時に、“生きるべきか死ぬべきか”、“なすべきかなさざるべきか”という意味合いよりも、“to be or not to be”という語幹の持っているリズム感から、サビのメロディーが降りてきました。なおかつ、古典の持つ意外な人間臭さを、ソウルフレーバーでやりたいなと。タワーオブパワー的なリズム感が浮かびましたね。

Dメロで劇的なシーンチェンジの展開があります。

KOUTAさんの文言がミュージカル舞台を意識したものですから、言葉の配列が急激に変わるんですよ。通常我々が作曲しているAメロ、Bメロ、サビというような構築の仕方では表現しきれない。だから、途中で全く違う曲想に変えてしまうことも必要で。でも、実はBPMは変わっていないんですよ。ハーフにしたり、逆に二倍のテンポにしたりね。「東京少年少女」もそうですが、テンポチェンジをスムーズに違和感なく感じていただくこと、また、転調などにしてもコード進行が和声上、なるべく心地よく流れるように工夫はしています。
本作では曲想から曲想への転換のブリッジとして、セリフを配して、テーマに戻る…。などという、まさにミュージカルトラック的な作り方をしていますね。

「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018“BREATH from THE SEASON”」より

「まだ遅くないよね」は、ディズニーソングを彷彿とさせる大人のデュエットソングです。

最近のディズニートラックのプログラミングはとても良く出来ているんですよ。キャンプ・ロックとかハイスクール・ミュージカル、ゾンビーズとか、娘が好きで一緒にテレビを観ているんですよ。なかなかいい曲が流れているのだけど、どこかで聴いたことのあるエバーグリーンなメロディーを巧妙に配していてね(笑)。我々世代にも心地よく感じるメロディラインが、最近のディズニー作品にはあるんですよ。こういう発想を惜しげもなく出していいのだなと。逆にディズニー海外ドラマを見ていて参考にしましたね。そして、吉沢梨絵と95年の「Never gonna miss you」以来、約20年ぶりのデュエット作品となりました。

ハーモニーが複雑に構築されているデュエットソングも角松さんならでは。

単純なデュエットではなく、主旋律的なものとハーモニー的なものが男女めまぐるしく入れ替わります。でも一応一方の歌だけを聞いてもリードメロディーに聞こえるように作っているんですよ。梨絵一本で聴いても成立するし、僕一本で聴いても成立するのだけど、ふたりで歌うとハーモニーになるという形です。このやり方は、対位法的な方法論もある意味用いているんですけど、以前、チアキとのデュエット「Smile」(2006年シングル)でもやっていますが、歌のうまい人とデュエットするときはこのような挑戦的アプローチができて楽しいですよね。

「大人の定義」はアコースティックな雰囲気から一転してシーンチェンジがあります。

KOUTAさんと話したときに“これはこの詞のところでキャラ変がしたい”って言われまして。彼としてはギター1本で、途中でジャカジャカ弾いて叫び出すイメージだったのでしょうね。ただ僕自身が自分の作品とするなら、もっとゴージャスなキャラ変をしたかったんです。

「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018“BREATH from THE SEASON”」より

テンポチェンジをしています。

後ろで鳴っているドラムンベース的なジャングルビートのループが倍テンになっているだけで、ドラマーの山本真央樹は倍テンで感じながらも同じテンポで8ビートを叩いています。

シーンチェンジ、いわゆるキャラ変が2度あります。

そうですね。倍テンになってから、その後にズッシリしたロック調のクワイア的合唱が出てきますね。そこで大きなメッセージを一瞬伝えると即座に静寂に戻る。子供がキレたあと、また我に返って、戻るようなイメージです。

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