プレイバック・平成アニメの31年  vol. 3

Column

今からでも観るべき平成の傑作SFアニメ3選。“より現実的な近未来”を描いた名作群の、とある共通点とは……

今からでも観るべき平成の傑作SFアニメ3選。“より現実的な近未来”を描いた名作群の、とある共通点とは……

平成アニメを振り返る上で欠かせないテーマのひとつは「SF」。昭和時代のSFアニメが、巨大ロボットバトルや宇宙戦争など、“遙か遠いまだ見ぬ未来”が多く描かれていたのに対し、平成時代のSFアニメは、加速度的に進化するコンピュータ社会を基盤とした“より現実的な近未来”を描く作品が主流になっていったのは、大きな特徴だ。そこで今回は、数ある平成のSFアニメの中から、現代のリアルを印象的に示唆した作品をピックアップ。今こそアニメファンに観返してほしい3作を、あらためて振り返る。

文 / 阿部美香


GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊(1995)

1991年に発売された士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』(雑誌連載は1989年開始)を原作に、1995年11月に公開された劇場アニメ作品。内務省・首相直属の秘密機関・公安9課に所属する“少佐”こと草薙素子が、認定プログラマーの国外亡命を斡旋する外交官暗殺を遂行した事件を発端に、他人の電脳をゴーストハックして操る国際手配中の凄腕ハッカー=「人形使い」を追うサスペンスフルなストーリーが展開する。

アニメーション制作を手がけたのは、当時新進気鋭のスタジオとして活躍を見せていたProduction I.G。監督は、アイジータツノコ時代の同社と『機動警察パトレイバー the Movie』『機動警察パトレイバー 2 the Movie』で大ヒットを飛ばし、本作で世界にその名を知らしめた押井守だ。

原作をもとにした先見性にあふれた設定――人間がサイボーグ化された機械の“義体”を持ち、ネットと肉体的に繋がることによる進化、インターネットを代表とする“電脳ネットワーク”が発達した未来社会だからこそ起こりえる犯人の姿の見えないテロ事件などを網羅しつつ、物語では「人間とは何か、肉体とは何か?」に迫る問いを放った。さらに映像としても、セルアニメの弱点を補うCG技術を駆使したそれまでにない斬新でサイバーなビジュアル表現によって、アニメーションとしての進化も見せつけた。

そういった様々なクリエイティブが重なった『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が日本のアニメーション業界、世界の映像業界に与えた功績は非常に大きい。とくに、1996年にビデオソフトがアメリカ「ビルボード」誌のセルビデオチャートで全米1位を獲得するなど、海外での高い評価は昭和SFアニメ映画の傑作『AKIRA』(1988年)と並び、“ジャパニメーション”の金字塔を打ち立てた。あの『マトリックス』で、監督のウォシャウスキー兄弟(当時/現在は姉妹)が、本作から大きなインスパイアを受けていたというエピソードも有名だ。

本作がいかに魅力的であり、アニメファンの心を掴み続けてきたかは、ここを出発点にした映像としての“攻殻”ワールドが、平成時代、尽きることなく制作が続けられていることからも図り知れる。

2002年~2006年にかけて原作と『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の基本設定を融合しながら、エンターテイメント色を高めてパラレルワールドの“攻殻”を描いたTVアニメシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)』『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society(S.A.C. SSS)』が人気を博し、2004年には再び押井守監督の手によって、草薙素子不在の公安9課が少女型ガイノイド(アンドロイド)暴走の謎を追った続編映画『イノセンス』が公開。2008年には元祖“攻殻”である本作の全カットをCGを中心に完全リニューアルした『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊2.0』も作られ話題を呼んだ。

さらに2013年には、黄瀬和哉を総監督に迎え公安9課設立の前日譚を描いた劇場版『攻殻機動隊 ARISE』4部作が公開され、TVシリーズとして『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』が放送に。2015年には『ARISE』のその後を描く『攻殻機動隊 新劇場版』も作られた。また2017年にはスカーレット・ヨハンソンが草薙素子役を演じたハリウッド実写映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』が話題になったことも記憶に新しい。昨年末には、フル3DCGによる新作アニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』がNetflix独占で2020年に全世界配信されることも発表になり、平成を越えて “攻殻”シリーズの映像化は続く。

コンピュータ(電脳)社会が浸透した現代における“この先、起きうる圧倒的リアリズム”を叩きつけた『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、Production I.GがサイバーSFアニメ路線の礎も作った。あまりにも有名過ぎて観る機会を逸してしまっていたという人にこそ、あらためて体験してほしい作品だ。

図書館戦争(2008)

ベストセラー作家・有川浩が2006年よりスタートさせた同名小説シリーズを原作に、2008年4月~6月まで良質なアニメを提供するフジテレビの「ノイタミナ」枠で放映されたTVシリーズ。Production I.Gが、『テニスの王子様』を手がけた浜名孝行監督とタッグを組んだ。

有川浩ファンからも絶大な人気を誇る本作の舞台は、公序良俗を乱し、人権侵害の表現を取り締まる「メディア良化法」が施行されたとされる時代。原作が描かれた頃から数えて13年後の2019年だ。武力による超法規的措置を厭わず、強権的な手段で図書と言論を弾圧する「メディア良化委員会」と、その実行組織である「良化特務機関」に唯一対抗する存在が、本の自由を守る図書館。全国の図書館は専守防衛を旨とする武装防衛隊「図書隊」を組織し、メディア良化委員会と図書隊が熾烈な抗争を繰り広げるなかで、図書隊の精鋭部隊「ライブラリー・タスクフォース(図書特殊部隊)」初の新人女性隊員・笠原郁の成長物語が描かれる。

扱う時代性とジャンルが多岐に渡る「SF」は、じつに定義づけするのが難しい。その中で『図書館戦争』は、直接のSF色こそ強くないが、現代の日常と地続きの社会問題をリアルな近未来として描いたことがじつにSF的。有川浩が『図書館戦争』以前に出した本格ハードSFな“自衛隊三部作”(『塩の街』『空の中』『海の底』)でも培われたディストピア的世界観は、確実に本作にも受け継がれている。

原作小説で世界観がしっかり構築されている『図書館戦争』だが、アニメ版もぜひ観てほしい理由のひとつは、原作のエッセンスを過不足なく凝縮した構成の妙にある。原作同様の一話完結の連作スタイルを貫き、リアリティあるミリタリー物としての戦闘表現もエンターテインメントとしての節度が保たれて、映像としての表現も秀逸。物語の見どころは、主人公・笠原郁と直属の上司・堂上篤との不器用で胸キュンな恋愛ストーリーと、それを取り巻く図書隊員との友情、愛情あふれるドラマが主軸となるが、声優陣の巧みな演技力とアニメとしての魅力的なキャラクター表現が織りなす、テンポのいい会話劇はアニメならではの魅力を発揮している。

SNSが言論弾圧的要素を擬似的に再現し、コンプライアンスの重視が様々なメディア規制と重なり合う昨今、『図書館戦争』は、それが投げかける社会的テーマを一考してみたいと思わせてくれる作品だ。その社会問題の中には、現代日本の自衛隊が抱える存在論も含まれることだろう。劇中で描かれる架空の日本は、1989年に元号が昭和から「正化」に変わったとされている。今リアルタイムで昭和から令和への元号改正を経験中である我々にとって、また別の意味での感慨も巻き起こる平成アニメだ。

PSYCHO-PASS サイコパス(2012)

アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の歴史は、2012年10月から翌年3月まで、フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送された同名TVシリーズから始まる。『機動戦士ガンダム』や『機動警察パトレイバー』のファンとしても知られる、TVドラマ『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督が企画のきっかけを作って総監督となり、Production I.G、塩谷直義監督とのタッグで制作された本作シリーズは、ストーリー原案にヒットメーカー・虚淵玄を迎えて鳴り物入りで制作された。

シリーズ開始から多くのアニメファンの支持を獲得し、常に次回作を熱望される『PSYCHO-PASS サイコパス』は、以後、続編や劇場版、スピンオフ作を展開し、いずれもヒットを記録している。さらに、今年10月からは、TVシリーズ第三期となる『PSYCHO-PASS サイコパス 3』も放映予定。平成アニメ後期を代表するSFアニメであり、“令和のSFアニメ”の先陣を切る人気シリーズとなっている。

ファンの心を掴み続ける『PSYCHO-PASS サイコパス』最大の魅力は、ハードSF的な緻密な設定をしっかりと積み重ね、強固な近未来社会の世界観を構築していることだ。人間の心理状態や性格の傾向を計測し、数値化・データ化する(数値化されたデータを“サイコパス(PSYCHO-PASS)”と呼ぶ!)「シビュラシステム」に支配された社会で、犯罪係数が規定値を超える「潜在犯」の取り締まりを行う公安局刑事課の刑事たちの活躍を描く本シリーズ。それは、サイコパス測定のためのスキャナーに監視されながらの治安維持、都市部への人口集中、合成食物をメインとしたITを活用した食糧供給のオートメーション化、ドローン兵器による軍事など、今、我々が暮らす社会が、科学の発達によって近々に到達しようとする未来の、写し絵のように思える。

実際にイギリスでは、AIにより全国の警察データベースから過去の犯罪者データを収集し、定められた指標をもとに犯罪を犯す可能性のある人物をスコアリングするシステムが実用化を迎えているという。まさに『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界が、現実になりつつあるのだ。だから、劇中で展開する破天荒とも思えるテロ事件が、「ない話じゃない」とリアルに迫ってくる。その上で、エリートの“監視官”と“執行官(=高い犯罪係数を持つ潜在犯がなる)がバディを組んで捜査に挑むなかで、刑事たちそれぞれが葛藤に苦しむという、深みのある人間ドラマが描かれる。

本作を第一期TVシリーズから手がけている塩谷監督によれば、現在進行中である『PSYCHO-PASS サイコパス』の新プロジェクトは、例えるなら“大河ドラマ”のようだという。その“大河”の源流は、まぎれもなく平成の『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズが作り上げたものだ。虚実がせめぎ合うダークな物語背景、秀逸なキャラクター造型、様々な伏線が張り巡らされたストーリー、Production I.Gと塩谷監督がとことんこだわったクオリティの高いアニメーション体験は、TVシリーズ第一期から順を追うことで、より大きな物語が浮かび上がっていく面白さがある。新キャラクターと、最も新たなエピソードが描かれる『PSYCHO-PASS サイコパス 3』の開始前に、ぜひ一度、遡っておいてほしいシリーズだ。

こうして3作を挙げてみると、奇しくもすべてProduction I.G作品が並ぶラインナップとなった。日本のアニメスタジオの中でも、いち早くオリジナリティあふれる作品で海外進出に乗り出し、新技術を積極的に導入してきた同社の未来への視点には、「SF」スピリッツが根付いているのかも知れない。平成アニメのSFアニメジャンルで秀でた力を見せたProduction I.Gが、次はどんな令和アニメを生み出すかも楽しみだ。

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