
平成の30年間の映画を3回に分けて振り返ってきた連続企画も今回が最終回。ネットもSNSもなく、映画館には並んで入った平成の始まりから30年。最後の10年は記憶に新しい作品や現象も多いかもしれない。しかし、”10年ひと昔”どころか今では”3年前でも懐かしい”時代。ここで少しだけ振り返ってみる。
平成21年から平成30年までの興行収入No.1作品(洋画・邦画)
【洋画】 | |
公開年 | タイトル |
平成21年 (2009年) |
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』 |
平成22年 (2010年) |
『アバター』 |
平成23年 (2011年) |
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』 |
平成24年 (2012年) |
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』 |
平成25年 (2013年) |
『モンスターズ・ユニバーシティ』 |
平成26年 (2014年) |
『アナと雪の女王』 |
平成27年 (2015年) |
『ジュラシック・ワールド』 |
平成28年 (2016年) |
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 |
平成29年 (2017年) |
『美女と野獣』 |
平成30年 (2018年) |
『ボヘミアン・ラプソディ』 |
【邦画】 | |
公開年 | タイトル |
平成21年 (2009年) |
『ROOKIES-卒業-』 |
平成22年 (2010年) |
『借りぐらしのアリエッティ』 |
平成23年 (2011年) |
『コクリコ坂から』 |
平成24年 (2012年) |
『BRAVE HEARTS 海猿』 |
平成25年 (2013年) |
『風立ちぬ 』 |
平成26年 (2014年) |
『永遠の0』 |
平成27年 (2015年) |
『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』 |
平成28年 (2016年) |
『君の名は。』 |
平成29年 (2017年) |
『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』 |
平成30年 (2018年) |
『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』 |
※データはいずれも日本映画製作者連盟が発表したもの
この10年間は過去の2回の記事で挙げた傾向(ジブリ映画、日本映画の隆盛、80年代から続く人気シリーズ)が”全部盛り”になっている印象。ピクサーやルーカス・フィルムをグループに巻き込んだディズニーがヒット作を連発しており、日本映画は相変わらずジブリ作品が強く、彼らがひとまずの休止を宣言すると『君の名は。』と『名探偵コナン』がランキングの首位に踊り出た。

©2016「君の名は。」製作委員会
当時の映画事情:“映画館で観る”ための様々な施策
平成の映画はその始まりから”家庭で映画が楽しめる環境”との戦いだった。当時はレンタル”ビデオ”だったが、その後にメディアはDVD、ブルーレイになり、現在はネット配信が拡大中。自宅で気軽に安価に映画が楽しめる状況で、どうやって映画館に観客を呼び込むか?人はどんな時であればチケット代を払って映画館にまで足を運ぶのか?
平成22年公開の『アバター』は大ヒットを記録し、映画館でしか楽しめない3D映像が今後の映画界の一大潮流になると宣言した。本作のヒットを契機に映画館も設備投資を行い、史上には3D映画が次々に登場。過去の映画が3D化されて再上映される動きもあったが、現在は最盛期ほどの盛り上がりはない。現在、ジェームズ・キャメロンは『アバター』の続編を3Dで製作しており、この映画が今後の3D映画の行方を左右することになりそうだ。
一方で、3D以外にも観客を呼び込む映画館の”設備”は増えている。視界いっぱいに広がる巨大スクリーンが特徴のデジタルIMAX、映画に連動して座席が動き、水や風などのエフェクトが楽しめる4DX、MX4D、映画を観ながら盛り上がる応援上映や試合やコンサートをリアルタイムで映画館に生中継するライブビューイングなどが登場した。映画は自宅で、手元のデバイスでいつでもどこでも気軽に観られる時代。映画はわざわざ出かけいって、みんなで楽しむ”イベント”になっていくのかもしれない。
今だからわかる! 平成映画の”チェックポイント”
熱狂的なファンを生み出した『マッドマックス』は“平成”最高クオリティ
・平成21年、上田慎一郎が最初の短編を発表
京都で生まれ、映画監督になりたくて悪戦苦闘していた青年が映画製作団体を立ち上げ、短編映画をYotubeにアップした。この男はその後も作品を重ね、2017年に初の劇場用長編映画『カメラを止めるな!』を発表。口コミで動員を伸ばし、奇跡的なヒットを記録する。

「カメラを止めるな!」©ENBUゼミナール
・平成22年、『怪盗グルーと月泥棒』公開
この年の夏、2007年に設立されたばかりの新興スタジオが制作したアニメーション映画『怪盗グルーと月泥棒』が公開される。本作はアメリカだけでなく日本でも興行的に成功したが、その後の展開が意外だったのは主人公のグルーや子供たちよりも、グルーの子分”ミニオン”が人気を集めたこと。この映画が公開された段階で、ミニオンのアトラクションができるほどの人気が出ると予想した人間が一体、何人いただろうか?
・平成24年、『バトルシップ』公開
アメリカで発売されていたボードゲームの世界を題材にしたアクション映画『バトルシップ』は浅野忠信が出演したことで日本でも話題を集めたが、本作とその翌年に公開された『パシフィック・リム』は映画の興行規模そのものよりも、観客の熱がネットを通じて広がっていった作品として記憶されるのではないだろうか。かつては”口コミ”と呼ばれるも、その実態は曖昧だった観客の熱がSNSによって可視化され、さらに観客を増やしていく。近年のメガヒットの方程式はこの辺りに確立され、広がったのかもしれない。
・平成27年、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』公開
3回に渡って続いた連続の企画の最後を飾る映画はやはり本作しかないだろう。平成の30年間に公開された星の数ほどの映画の中でクオリティ、熱量、観客を魅了した度合い、完成度、メッセージの確かさ、後世に与えるであろう影響の大きさ……すべてにおいて超トップクラスの本作は現在も熱狂的なファンを生み続けており、その評価は今後、さらに高まることになるだろう。
こうして過去を振り返ってみると、多くの人が目を向けていないものの中に”次の時代”を担う流れや作品が眠っていることがわかる。そして、多くはないけれど、その作品を発見し、支持している観客が確実に存在する。
ヒットしている作品を観るのは確かに楽しい。しかし、”さらにもう1本”知らない映画を観てみることで、未来の映画界を席巻するような才能や作品に出会えるかもしれない。知らない、ヒットしていない、わからない、新しいものの中に”未来”はある。「令和」の日本を代表する映画はどんな作品になるのだろうか?
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