Report

“自分が変われば世界が変わる”。小池徹平&三浦春馬らが歌い踊る、ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』開幕

“自分が変われば世界が変わる”。小池徹平&三浦春馬らが歌い踊る、ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』開幕

4月16日(火)に東急シアターオーブにて幕開きしたブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』。
本作は、倒産寸前の靴工場の若き社長のチャーリーとドラァグクイーンのローラが織りなす波乱万丈のストーリー。2013年にブロードウェイで初演され、同年のトニー賞では13部門にノミネート、作品賞、主演男優賞など6部門を受賞した。日本版の初演は2016年。今作も音楽・演出・振付はブロードウェイ版を引き継ぎ、初演と同じくチャーリー・プライス役に小池徹平とローラ役に三浦春馬を主演に迎え、共演者には、靴工場で働く従業員のローレン役をソニン、チャーリーのフィアンセのニコラ役を玉置成実、靴工場の現場主任のドン役を勝矢、工場長ジョージ役をひのあらたが顔を揃え、初演のキャスト陣と共にカンパニーを引っ張る。
4月15日(月)、初日を前に行われた公開ゲネプロと囲み取材の模様をレポートする。

取材・文・撮影 / 竹下力

父親という存在を乗り越え“ここではないどこかへ”たどり着く

“父殺し”。古くから文学や音楽、もちろん舞台も、様々なものが多くこの主題を扱っている。父親と対峙し、父親を乗り越え、新しい自分に出会う。“ここではないどこかへ”向かうために。それが大人になることとも簡単には言えないけれど、我々を子供から大人へと導いてくれる、それがミュージカル『キンキーブーツ』だ。

ただ、ミュージカルの本当の面白さというものはテーマだけでは括れない。“本物”のミュージカルは、腰にくるグルーヴがあると思っている。観ているだけで、誰でも歌って踊って笑顔になれる“ノリ”がある。今作は初演よりもはるかにグルーヴィーで濃密だった。

トラッドな靴を作っていた靴会社が極彩色のブーツを作り、時代を塗り替えようとするストーリーで見せる1幕、登場人物たちの内面を掘り下げ、苦悩とそこからの解放を描き大円団を迎える2幕という近代的なミュージカルのスタイルを踏襲しながらも、カンパニーが生み出す“キンキーブーツ”なるグルーヴで誰も見たことのない舞台に仕上げるあたりは、“本物”のミュージカルたる所以。

個人的なことを言うと、このミュージカルに出会わなければ、“ここではないどこか”にいざなわれることはなかった。初演時、大病をした父親の看病に疲れ果て、正直、父親のことを疎ましく思っていた時期がある(ある種の“父殺し”だ)。そんなときにたまたま観に行ったのが本作で、そのグルーヴに当てられ一発でノックアウトされた。チャーリーの父親に対する複雑な想いや、ドラァグクイーンであることへの信念と同等に自分を認めてくれない父親への葛藤を抱くローラに大いに共感ができた。そして2幕のラスト、これまでのストラグルを超えてたどり着く壮絶なるカタルシスに、涙を流しながら父親を助けたいと決意したものだ。

ミュージカルは演劇のグルーヴを表現する。だから、シンプルなストーリーが音楽のベースラインのようにボトムを支えて活きてくる。

イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗靴工場“プライス&サン”4代目のチャーリー・プライス(小池徹平)は、父親の意向に反してフィアンセのニコラ(玉置成実)と共にロンドンで生活することを選んだが、その矢先に父親が急死し、跡を継ぐことになる。しかし、会社が経営難に陥っていることを知り、途方に暮れていた。そんな最中、従業員のローレン(ソニン)から、新商品の開発に打って出たらどうかと諭され、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(三浦春馬)にヒントを得て、彼女たちのためのブーツ“キンキーブーツ”を作る決意をする……。

“父殺し”がテーマということは、本作はチャーリーとローラの成長物語でもあり、父親という存在を乗り越え“ここではないどこかへ”たどり着くまでの道のりが丁寧に炙り出されている。突き詰めれば、今作で描かれているのは結果ではなく、あくまで過程なのだから、人の人生を刻印したアクチュアルな舞台とも言えるだろう。人生の答えはつねに未知なるものだ。

演出・振付のジェリー・ミッチェルは、芝居から歌へ絶妙なテンポでスムーズに転換していく。初演のときにも思ったけれど、本人がミュージカルの楽しみ方を知っている。だからそれをみんなにも知ってもらいたいという熱情をひしひしと感じる。

音楽・作詞のシンディ・ローパーの楽曲は、メロディやリズムに普遍的なものが流れ、アレンジにパンチも効いて、とてもポップな構造になっている。2幕でのチャーリーとローラそれぞれのソロは白眉の出来栄えで、“これまでの過去と決別して新しい自分を手に入れる”と宣言する曲は、イントロを聞くだけで涙腺が崩壊する。カンパニー全体的にもそうだが、特に小池徹平と三浦春馬は、心に訴えてくるゴスペルソングを朗々と歌い上げて見事だった。

父親の不遇で不幸にも跡を継ぐことになるチャーリーは、嫌々ながらも会社を再建しようとする。時に垣間見せる彼のやけっぱち具合は、小柄な体躯の小池徹平の芝居で、可愛らしく“子供”っぽさを強調する。そして、死んでしまった父親と対峙し、我々の前に屹立する小池の姿には、“大人”として圧倒的な迫力が醸し出されていた。たった2時間で人間が大きく成長するという様を役者が演じるだけで見せられる、そのすごさを改めて実感した。役者とはやはりすごい生き物だ。

三浦春馬は、“本物”の役者だ。ドラァグクイーンという存在を自らの中に取り込んで、“そのもの”になってしまう。先頃の『罪と罰』(19)では内面をひたすら切り刻むような痛々しいまでの姿で、“自己=私”という存在を見つめ直させてくれたけれど、今作では、ポップでカラフルな容姿で、セクシーに立ち振る舞う。初演とはまた違ったエロスを醸し出している。なんというか、性差を超えて惚れてしまうエロさなのだ。もちろん、彼の絞り上げた肉体だからこそ見せらるものでもあるけれど、発せられるキレのある台詞と色香のある芝居が、とにかくリアルで“エロ・かっこいい”のだ。自分の運命を受け入れた悲しみを背負いながらも、華のある芝居は観る者を惹きつける。

父親を超え、自分というアイデンティティを見つけると、同時に、目的を失ってどこへ行っていいのか不安になってしまうことがある。人生の摩訶不思議な逆説。けれど、ふと道に迷ったとき、振り返れば、そこにローラとチャーリーが笑いながら手を振っている。“安心して自分の信じる道を進めばいい”と我々の背中を優しく押してくれる。この作品に触れれば、あなたの明日への道標がきっと見えてくる。

“お互いを素直に受け入れる”というテーマも盛り込まれている

ゲネプロの前には囲み取材が行われ、チャーリー役の小池徹平、ローラ役の三浦春馬、ローレン役のソニン、ニコラ役の玉置成実、ドン役の勝矢、ジョージ役のひのあらた、演出・振付のジェリー・ミッチェルが登壇した。

まず、3年ぶりに再演することについて、ジェリー・ミッチェルが「3年前と同じメンバーなので嬉しいですね。それだけお客様がこのカンパニーを愛してくれたからだと思います」と挨拶。三浦春馬は「この3年で成長してきたものをみんなで分かち合いながら稽古をしてきました」と語り、小池徹平も「3年経っても安心感のあるカンパニー」と述べた。

三浦の身体づくりが話題に上がり、ソニンが「春馬がずっとトレーニングをしているのを見てきました。初演とは違う身体づくりをしていたんでしょ?」と尋ねると、三浦は「初演は洗練された身体をつくろうとしましたが、今作では、美を追求した、曲線で見せる身体づくりをしました」と語った。
それを受けて勝矢は「その努力をよそに、僕はデザートばかり食べていましたけれど」と笑いを誘い、「ローラは外見的にも目立つけれど、チャーリーもよく動いているよね?」と声をかけられた小池は「稽古中に4キロ痩せましたね」とハードな稽古を皆で振り返った。

カンパニーについて聞かれると、ひのあらたは「3年経って再び集まっても家族のように仲良くなりました」と語り、玉置成実は「みんなと違うシーンに登場することが多くて、そのぶん、客観的にみんなを見ているのですが、パワーがあって楽しいですね」と雰囲気の良さをうかがわせた。

最後に、ジェリーからは「今作を通して“自分が変われば世界が変わる”というメッセージを伝えていきたいですし、これは家族のストーリーですから、皆さんもシェアしやすいと思います。これからも世界中に“キンキーブーツ”のファミリーをつくっていきます」と意気込みがあり、小池が「歌やダンス、すべてにおいてハッピーになれますし、皆さまに楽しんでいただけるストーリーになっています」と続けると、三浦が「ジェリーが言ったこと以外にも、“お互いを素直に受け入れる”というテーマがふんだんに盛り込まれています。素晴らしいミュージカルですので、ぜひ劇場に足を運んでください」と締め括った。

東京公演は5月12日(日)まで東急シアターオーブにて上演。大阪公演は、5月19日(日)から5月28日(火)までオリックス劇場にて上演される。

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』

東京公演:2019年4月16日(火)~5月12日(日)東急シアターオーブ
大阪公演:2019年5月19日(日)~5月28日(火)オリックス劇場

脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗
訳詞:森 雪之丞

出演:
チャーリー・プライス 役:小池徹平
ローラ 役:三浦春馬
ローレン 役:ソニン
ニコラ 役:玉置成実
ドン 役:勝矢
ジョージ 役:ひのあらた
ほか

オフィシャルサイト