LIVE SHUTTLE  vol. 341

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King Gnuとオーディエンスのエネルギーの好循環。ツアーファイナルに見た、彼らが織りなすグルーブの美しさ

King Gnuとオーディエンスのエネルギーの好循環。ツアーファイナルに見た、彼らが織りなすグルーブの美しさ

3月3日にスタートした〈King Gnu One-Man Live Tour 2019 “Sympa”〉が、ついにファイナルを迎えた(注:追加公演アリ)。会場はツアー初日と同じ新木場STUDIO COAST。オールスタンディングでは有数の規模を持つこの会場を、ひとつのツアーで2回使うのはかなり珍しい。しかも両公演とも瞬時にソールドアウトさせたKing Gnuという怪物の勢いは、増すばかりだ。

取材・文 / 平山雄一 メイン写真 / 小杉歩

King Gnuは全員、高い演奏技術とエッジーな音楽的アイデアを持っている

4月12日、足を踏み入れたSTUDIO COASTは、期待と不安の入り混じる雰囲気だった初日とは打って変わって、オーディエンスたちはリラックス&エキサイトして開演を待っている。このザワザワ感はハンパない。メンバー4人がステージに登場すると“怪物”を歓迎する圧倒的な拍手と歓声が上がった。

撮影 / 伊藤洸祐

それに対して常田大希(guitar, vocal)も井口 理(vocal, keyboards)も勢喜 遊(drums, sampler)も新井和輝(bass)も、全身で喜びを表わす。この素直な反応に、僕は感動した。初めての大規模な全国ツアーで、彼らは自分たちの音楽を楽しんでくれる多くの人々に出会った。そのことを、メンバーはまっすぐに喜んでいる。King Gnuは全員、高い演奏技術とエッジーな音楽的アイデアを持っている。普通なら、この急激な人気上昇に「僕たちの音楽が本当にわかるの?」という疑問を持ってもおかしくない。しかし、4人にそんな感じはまったくなく、まるでツアーの成功はここに集まったみんなのお陰だと言わんばかりの喜びようなのだ。

撮影 / 伊藤洸祐

ちなみに、“ヌー”はサバンナでは最も弱い動物のひとつ。群れで暮らすことで肉食動物からのリスクを軽減している。およそヒーローやポップスターからはほど遠い生き物だが、King Gnuはいかにしてヌーの群れの王になったのか。そして、このツアーで彼らにいったい何があったのか。そんな楽しいクエスチョンが僕の頭に次々と浮かぶなか、ライヴは始まったのだった。

撮影 / 伊藤洸祐

屈指のグルーヴを発するKing Gnuが、その全貌を現わそうとしている

最新アルバム『Sympa』のオープニング「Sympa Ⅰ」が流れると、暗転になったステージの後ろに、いつものライヴと同じ“King Gnu”の文字が描かれたシンボルマークと、高層ビル群のシルエットが浮かび上がる。

何の気負いもなく、メンバーがぞろりと現われた。常田はトラメガを持って、中央に陣取る。始まったのは「Slumberland」だった。「目を覚ませ 目を凝らせ」とアジテーションし、「所詮ロックンローラーは愛と人生しか歌えないんだ」と本音を吐くこの歌のコーラス・パートで、いきなりオーディエンスの大合唱が起こる。

撮影 / 小杉歩

2曲目「Sorrows」の次は、井口がイントロで「コースト、踊ろうぜ!」と叫んで、彼らのジャンプアップの原動力になった「Vinyl」。オーディエンスはパワー全開で身体を揺らし、King Gnuの演奏に応える。続く「McDonald Romance」では井口が「みんなで大合唱しましょう!」と呼びかけて、さらに会場を巻き込む。まずはこの思いきりのいいセットリストに驚かされた。

撮影 / 小杉歩

キラーチューンを惜しげもなく繰り出して、序盤からライヴの主導権を握る。ヘンに策を弄さずに、真正面から攻める。キャリアのないバンドに、正攻法はなかなかできないものだが、King Gnuは堂々とやってのける。それは演奏力に自信があるからこそ可能なことだ。良い曲を作り、それをライヴでしっかり伝える。初めてKing Gnuを体験するオーディエンスのことを考えて、このセットリストは組まれたのだろう。狙いは的中して、早くもSTUDIO COASTに強い一体感が生まれたのだった。

この一体感を生むのに、初日はもう少し時間がかかっていたが、この日はとてもスムーズにライヴが運ぶ。これはツアーの成果と言うべきだろう。オーディエンスを乗せることで、追い風を得て、それを自分たちの力に変える。このバンドとオーディエンスのエネルギーの好循環が、素晴らしいライヴを生む。それにしても、King Gnuがこれほどライヴのアプローチがうまいとは!

撮影 / 伊藤洸祐

演奏力も目に見えて上がっている。もともとテクニシャン揃いなのだが、ライヴのここぞという場面でのリズムの爆発力がすごい。バンドシーンの中で屈指のグルーヴを発するKing Gnuが、その全貌を現わそうとしている。特に新曲「白日」が良かった。ユーモアさえ感じさせるファンキーなリズムを、落ち着いてプレイ。勢喜のへヴィーなドラムに、弾力のある新井のベースが絡む。そこに常田のアグレッシヴなギターが割って入る。エンディングは井口のロマンチックなピアノで締める。それぞれが思いきり自分の演奏をしながら、ひとつのグルーヴを織りなしていく様子は、例えようもないほど美しかった。

撮影 / 小杉歩

中盤ではニューアルバムからの「Hitman」が輝く。エフェクトをかけた常田のノイジーなボーカルと、透明感のある井口のボーカルが、時にソロを取り、時にユニゾンで一緒に歌うのがKing Gnuの魅力だが、日本のバンドには珍しいそのスタイルを何の違和感もなく聴かせる。違和感どころか、ふたりはステージングを含めてそれぞれが充分な存在感を持っていて、歌詞とメロディのイメージを交互に膨らませる。何ものにも代えがたいツインボーカルだ。「Hitman」の「人知れず重荷を背負って それでも前を向いて 歩いているのでしょう」というセンシティヴな歌詞が、ふたりの歌声によって深く心に刻まれたのだった。

撮影 / 伊藤洸祐

ギアが変わったのは、3曲の“アコースティック・コーナー”だった。「Don’t Stop the Clocks」を、常田はアコギ、新井はウッドベース、勢喜はなんとフィンガー・パッチングで応じる。シブい演奏に、客席はシーンと聴き入る。スゥイングするリズムの「It’s a small world」では、オーディエンスから手拍子が起こり、「破裂」では常田がジャジーなギターで音楽的底力を見せつける。日本のバンドによくある“なんちゃってアンプラグド”とは一線を画す、クオリティの高いパフォーマンスとなった。

撮影 / 小杉歩

「僕らはツアーを周ってきて、初日のコーストから進化してますが、皆さんも仕上がってますね」と井口が嬉しそうに言う。本当に井口の言うとおり、バンドとオーディエンスのコミュニケーションが、初日とは比べようもないほど良くなっている。客席もそれを実感しているのか、同感の大きな拍手が起こる。バンドの演奏よりも歌よりも、このツアーで一番成長したのは、この“コミュニケーション”なのだ。それはKing Gnuにとって、今後、最も重要な財産になるはずだ。

撮影 / 伊藤洸祐

壮観ですね、この景色は。ここに立つべきは今と思ってます

「ここからは“カメラ、オッケー”ですよ。ケータイを片手で持って、片手を上げて、声を振り絞って帰るよ。今日はファイナル、行きまっせ!!」と言って、ライヴは終盤戦に突入。「Tokyo Rendez-Vous」のグルーヴィーなイントロが流れると、STUDIO COASTは遠慮なしの大騒ぎとなった。

「Prayer X」、「あなたは蜃気楼」、「Teenager forever」と一気に畳み込む。ライヴでお馴染みのアッパーチューンの破壊力が増し、会場が揺れに揺れる。4つ打ちロックの縦ノリではなく、ファンキーな横ノリの揺れなのが、このバンドらしい。「Teenager forever」では、メンバーもステージを縦横無尽に動き回り、ライヴのフィナーレを一緒に楽しんでいた。

撮影 / 伊藤洸祐

「ありがとう! 思えばデカイ会場に来てしまって、もちろん自分たちが望んだものなんですけど、壮観ですね、この景色は。ここに立つべきは今と思ってます。これからももっと会場をデカくして、もっとすごい景色を見せたい。一緒についてきてください!」と井口。

撮影 / 小杉歩

彼らの記念すべきツアーのラストナンバーに選ばれたのは、「The hole」だった。この曲はアルバム『Sympa』の最後に置かれた曲で、アルバム時のインタビューでメンバーが興味深い発言をしていた。
井口が「ロマンチックな歌詞で、歌うのが怖かった」と言えば、勢喜は「ストレートなアレンジで、余計なことをしない。前だったらこういう曲をやる勇気がなかったかも」と語り、新井は「『Slumberland 』と『The hole』は今のKing Gnuを象徴する2曲になってる。『Slumberland 』にはKing Gnuたるサウンドがフルで詰まっている。それに対して『The hole』は、今までKing Gnuがやってこなかったことにトライしてる曲」。
つまり今回のセットリストは、“King Gnuの今”を象徴する曲で始まり、終わるというわけだ。そして「The hole」は、ファイナルのラストを飾る壮大なバラードとなった。

撮影 / 小杉歩

ピアノが美しく響き、「晴れた空 公園のベンチで一人」と情景描写の歌詞が始まる。ふとした日常の場面から、世界への深い洞察に移行していくのが、King Gnuの歌詞のスタイルだ。キーになるフレーズは、「僕が傷口になるよ」。まったく無駄のないアレンジで、King Gnuは改めてまっすぐにオーディエンスと繋がろうとする。サウンドやビジュアルは鋭く尖っているのに、メロディや言葉が優しくフレンドリーだ。もしかすると、その真逆なマッチングが、ヌーの群れの王にふさわしいのかもしれない。

大切なメッセージが伝わったところで、息を詰めて聴いていたオーディエンスたちが大歓声を上げた。井口が「ありがとう」と答える。この日、井口は曲が終わると何回も「サンキュー!」と言っていたが、「The hole」で初めて日本語で感謝の気持ちを表わした。そこにこの日のバンドの喜びの特別さが宿っているような気がした。

撮影 / 小杉歩

アンコールは「みんなで大きい声を出して終わりましょう」と、「サマーレイン・ダイバー」で全員歓喜のシンガロングになった。

King Gnuのアーティストとしてのスケールの大きさが伝わってくるライヴだった。未知の可能性を感じさせるライヴでもあった。そこにいたKing Gnuは、優しい怪物だった。

One-Man Live Tour 2019 “Sympa”
2019.4.12@新木場STUDIO COAST SET LIST

M01. Slumberland
M02. Sorrows
M03. Vinyl
M04. McDonald Romance
M05. ロウラヴ
M06. Bedtown
M07. NIGHT POOL
M08. 白日
M09. Hitman
M10. Vivid Red
M11. Flash!!!
M12. Don’t Stop The Clocks
M13. It’s a small world
M14. 破裂
M15. Tokyo Rendez-Vous
M16. Prayer X
M17. あなたは蜃気楼
M18. Teenager forever
M19. The Hole
ENCORE
M20. サマーレイン・ダイバー

King Gnu(キング・ヌー)

常田大希(guitar, vocal)、勢喜 遊(drums, sampler)、新井和輝(bass)、井口 理(vocal, keyboards)。 東京藝術大学出身で独自の活動を展開するクリエイター常田大希が、2015年に「Srv.Vinci」という名前で活動を開始。その後、メンバーチェンジを経て、現メンバー4名体制へ。2017年4月26日に、バンド名を「King Gnu」に改名。同年10月に1stアルバム『Tokyo Rendez-Vous』を発表。2019年1月にはアルバム『Sympa』をリリース。

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