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崎山つばさ「粗末にしていい命はない」。優しい人生訓に満ちた舞台『幕末太陽傳 外伝』上演中!

崎山つばさ「粗末にしていい命はない」。優しい人生訓に満ちた舞台『幕末太陽傳 外伝』上演中!

45歳の若さでこの世を去った天才映画監督・川島雄三の生誕百周年を記念した舞台『幕末太陽傳 外伝』が4月18日(木)から東京・三越劇場にて上演中だ。
原作はフランキー堺や石原裕次郎らが出演し、1957年に公開された映画。幕末の品川遊郭を軸にストーリーが展開していく喜劇だが、“外伝”と銘打っているだけあって、映画が影響を受けた元ネタの落語の手法を絡めたり、様々なキャストが歌って踊って一生懸命ふざけるという、映画とも落語とも違う、2019年版の「幕末太陽傳」となっている。
出演者は、本作で舞台初主演を務める崎山つばさをはじめ、入江甚儀、愛原実花、小松準弥、磯貝龍虎、蒼木陣、小坂涼太郎、鐘ヶ江洸、三浦海里など今をときめくメンバーたち。
公演初日に行われたゲネプロと囲み取材をレポートしよう。

※ゲネプロではWキャストの語り部 役は柳亭小痴楽が務めた

取材・文・撮影 / 竹下力


人の命はどんなときも粗末にしてはならない。命あっての人生

開演前、崎山つばさとのインタビューで出た“佐平次は市井の人”なる言葉を思い出していた。重厚な雰囲気のある歴史ある劇場。会場は観客の喋り声で賑わっている。その中で“普通の人”で在ることはなかなかに難しい。崎山つばさが、佐平次という“普通”をどのように演じ切るのだろうか。

緞帳が下り、明転したままの状態で、客席の後方から語り部の噺家ニシガミ(柳亭小痴楽)がツツツと歩きながらマクラ(舞台と関連する小咄)を始める。「舞台が始まったんだ」という緊張感が薄く、観客も“市井の人”の一員といった趣のなかで、「三越という名前の由来をご存じでしょうか……」と劇場の歴史を語り、絶妙なオチで笑いをかっさらっていく。

すると、佐平次 役の崎山つばさが舞台袖から出てきて、今度は舞台の時代背景を話し出す。ちょっとした劇中劇が目の前で繰り広げられ、舞台脇を駆けていく異国の男と攘夷の志士たちとのいざこざを尻目に、佐平次が見得を切ると、緞帳が上がり始め、軽快な音楽とともにキャスト一同が歌って踊りだす。世界が極彩色に瞬間的に変わる。これが2019年の、脚本・演出 なるせゆうせいのつくりたかった舞台『幕末太陽傳 外伝』だ。

原作が影響を受けたという落語「居残り佐平次」のオマージュから始まる1幕ものの喜劇。外国から翻訳された言葉である“恋”や“愛”とはまったく違う、“恋愛”という概念もほとんどない、“惚れた腫れた”の江戸末期。“男”と“女”がむき出しになってぶつかり合う色街にセンチメンタリズムと粋な風情が漂う。そんな世界観が叙情溢れるセットで再現されている。

文久2(1862)年。文明開化まで6年という品川宿の遊郭。時代のうねりがここにも押し寄せてきている。あるとき、遊郭の裏通りで拳銃の発砲事件が起き、岡っ引きたちは、攘夷派と異国の男たちの小競り合いだと推察し、その行方を追う。そんなどさくさに紛れ、ある攘夷志士が落とした金目になりそうな懐中時計を拾った「日本一ツイテイル男」佐平次(崎山つばさ)は、老舗の女郎屋「相模屋」に意気揚々と仲間を連れて、金の目算も立てずに居候を決め込む。しかし、その懐中時計を手にしたことでいろいろな騒動に巻き込まれていく……。
高杉晋作(入江甚儀)や志道聞多(鐘ヶ江洸)、白井小助(三浦海里)ら攘夷派の物騒な連中、相模屋の跡取りで道楽三昧の息子・徳三郎(小松準弥)、父親の借金の肩代わりに使用人として働く女中おひさ(中野あいみ)。遊女のトップである板頭の称号を争う女郎おそめ(愛原実花)と女郎こはる(武藤十夢)。色とりどりな人物が登場して、スラップスティックなストーリーが展開していく。

この舞台は幕末を舞台にした群像劇だ。グランドホテル方式だからこそ、様々な人物たちが見せる心の機微や複雑な人間関係が幾重にも繊細に重なり合い、“喜劇”をメルクマールとして、常識なんて時代の変遷とともに変わり、いつの世も盛者必衰の理に満ちているという川島雄三の思想が表現されているようだ。場面転換は素早く、人々は何度も入れ替わり、心模様は幕末さながら激しく変転していく。川島雄三の愛した井伏鱒二の遺した言葉「サヨナラダケガ人生ダ」ではないけれど、どこかシニカルでいて情感に溢れ、“刹那”的な雰囲気を醸している。

ただ、通奏低音として流れているのは“人情”だろう。佐平次がその支柱を担い、彼によって普遍的な感情が舞台に生まれる。その感情は突き詰めれば“優しさ”になると思う。佐平次は「人の命はどんなときも粗末にしてはならないし、命あっての人生だ」とことあるごとに語りかけていく。だが、佐平次自身は命に関わる病を患っているらしく、“死”がつねに彼の背中には張りついている。その危うい“生と死”の欄干をフラフラしながら渡っていく様に緊張させられながら、ひと悶着もふた悶着も起こる人間たちを佐平次が温かな目線でカラフルに染めていくところにカタルシスがある。

舞台初主演の崎山つばさは、彼らしい中性的な雰囲気を出しながら、ほぼ初挑戦となる喜劇でも、終始ペーソス(物哀しさ)が感じられた。もちろん、生きるか死ぬかという瀬戸際にいる存在ゆえだけれど、彼の醸し出す哀愁が笑いのスパイスとしても効いている。崎山には、笑いの天性の資質が身体に備わっている印象を受けて、思わず「うまい」と膝を叩いてしまうほどだった。

また、崎山の歌は持ち前の歌唱力でブレもなく、ダンスにもキレがある。台詞も滑舌の良いべらんめえ口調で、ペーソスはあるけれど湿り気がない。自然と佐平次の人生が浮かび上がってくるから、観ていて清々しい。本人は自分の性格を“負けず嫌い”と言っていたように、スキのない粘り強い芝居で、複雑な人間関係をわかりやすく観客に伝えていく。

中でも、高杉晋作 役の入江甚儀とのキャラクターのコントラストには目を奪われた。クールに幕末の志士を演じる入江と、それとは対照的な崎山の芝居が衝突すると、映画では佐平次をフランキー堺、高杉を石原裕次郎が演じていたけれど、それら往年のスターに引けを取らない、なんとも言えないカッコいい佇まいが生まれていた。

何よりも、舞台『幕末太陽傳 外伝』の佐平次は、崎山の、崎山による、崎山のためのキャラクターになっていたことが感慨深い。見事な当たり役が生まれた瞬間を目の当たりにできたと思う。彼の持つ才能の花は今作で大きく開き、いつか満開の花となって咲き誇る、そんな大きなスター性を予感させた。彼は今後もさらなる飛躍を遂げ、現在の演劇界の財産と言っても過言ではない役者になるのだろう。

結局のところ、人は一直線に生きることしかできない。そんな当たり前のことはわかっているけれど、迷って踏みとどまったり、道を誤ったり、悩んだり、怒られたり、バカなこともしてしまう。それでも、そんなことはどこ吹く風と、思いきり笑って、思いきり泣いて、当たり前の日々を当たり前のように過ごして生きる。本作ではそのことがいかに大切なのかを訴えかけてくる。崎山つばさは、人生における“普通に生きることの大切さ”をこの舞台で証明してみせたのだ。

100年経っても語り継がれる舞台にするために

ゲネプロのあとに囲み取材が行われ、居残り佐平次 役の崎山つばさ、高杉晋作役の入江甚儀、女郎おそめ 役の愛原実花、女郎こはる 役の武藤十夢、女中おひさ 役の中野あいみ、語り部 役の柳亭小痴楽が登壇した。

まず、語り部 役の柳亭小痴楽は「僕は噺家なのでひとり高座に上がりますが、このような演劇の舞台に立つのは初めてで、皆さんに手取り足取り教えていただきました」と挨拶。女郎こはる 役の武藤十夢は「花魁役で緊張していますが、最後まで楽しみたいです」、女郎おそめ 役の愛原実花は「昔から大好きな映画なので参加できて嬉しいです」、女中おひさ 役の中野あいみは「初めての舞台で緊張していますが、おひさになりきれるように精一杯頑張ります! そして全力で舞台を楽しみます」と意気込んだ。

高杉晋作 役の入江甚儀は「攘夷派の人間で異国の人を排除しようとしますが、彼にとっては文久2年から未来を見据えた行動をしていたからだと思います。佐平次もそんな先見の明を持っていたひとりですが、彼とは違うタイプの人物なので、そのニュアンスを表現できれば嬉しいです。佐平次との化学反応を楽しんでいただければ」とコメント。

居残り佐平次 役の崎山つばさは「初日を迎えられて嬉しいです。歴史上の人物である高杉晋作と、架空の人物である佐平次が夢のかけ合いを繰り広げるのは、この舞台だけだと思います。千秋楽まで佐平次らしく飄々と生きたいと思います」と語った。
初主演について問われると崎山は「僕はみんなについてこいと座組みを引っ張るタイプではないし、皆さん初共演の方ですが、逆に皆さんが力添えをしてくれたからこそ、一致団結できたと思います」と述べ、「この作品が川島雄三監督の生誕百周年記念として上演されることを光栄に思います。さらに100年経っても語り継がれる舞台にするために、座組み一丸となって最後まで頑張ります」とコメントし、囲み取材は終了した。

公演は4月28日(日)まで三越劇場にて上演される。

舞台『幕末太陽傳 外伝』

2019年4月18日(木)~4月28日(日)三越劇場

原作:映画『幕末太陽傳』 ©日活株式会社
監督:川島雄三
脚本:田中啓一、川島雄三、今村昌平
脚本・演出:なるせゆうせい

出演:
居残り佐平次 役:崎山つばさ

高杉晋作 役:入江甚儀

女郎おそめ 役:愛原実花
女郎こはる 役:武藤十夢
女中おひさ 役:中野あいみ

徳三郎 役:小松準弥
貸本屋金造 役:林明寛
若衆喜助 役:磯貝龍虎
おかみお辰 役:丸山優子
やり手おくま 役:久下恵美
来島又兵衛 役:向野章太郎

久坂玄瑞 役:蒼木 陣
品川弥二郎 役:小坂涼太郎
志道聞多 役:鐘ヶ江洸
白井小助 役:三浦海里

大工の長兵衛 役:津田英佑
相模屋伝兵衛 役:野添義弘

女郎おもよ 役:あまりかなり
岡っ引き平八/異国の男 役:南米仁
若衆かね次 役:千葉一磨
女郎小岩 役:井上果歩
新公/若衆三平 役:仲野泰平
女郎はなむらさき 役:杉本真子
金坊/吉原の付き馬 役:山口翼
女郎うつせみ 役:沼田楓愛

語り部 役(Wキャスト):柳亭小痴楽 春風亭昇々

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