【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 121

Column

CHAGE&ASKA コーラスの録音に、1曲で2〜3日かけるからこそ、“チャゲアス”なのだろう

CHAGE&ASKA コーラスの録音に、1曲で2〜3日かけるからこそ、“チャゲアス”なのだろう

ビートルズの名作を生み出したことで知られるロンドンの「アビーロード・スタジオ」。目の前の横断歩道でジャケット撮影が行われこともあり、世界中からファンがやってきて、同じ場所で記念撮影をする。この日、僕はそのスタジオへ向かっていた。セント・ジョンズ・ウッド駅から行ったのか、タクシーで行ったのか覚えてないが、定刻の少し前、無事、到着する。

スタジオのなかで待っていたのはCHAGE。彼はロンドンで制作中の新作『GUYS』のマスタリング作業のため、スタジオに詰めていたのだ。ちなみに、マスタリングとはレコーディングの最終工程であり、どんなバランス、どんな音の佇まいでその作品が届けられるのかを決定づける作業だ。なので、生かすも殺すもここに掛かっているといっても過言じゃない。

取材場所は、スタジオの地下のコーヒー・ルームみたいなところだったが、いきなりデジャヴュがおこった。“来たことある”気がしたのだ。でも、なんのことはない。『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』の映画には、このスタジオの様子が写っており、それを観ていただけだったのだ。

あの映画は1964年。僕が訪ねたのは1992年。それなのに、当時も使ってたとおぼしき機材が、通路に置いてあったりもした。まさにタイムスリップ、なのだった。

CHAGEは首から大きなペンダントを下げていて、最初は伝説のロック・フェス「ウッドストック」のWの文字かと思ったが、MULTIMAXのMが、たまたま逆さに見えたのかもしれない。

そして彼は、僕より数倍、「アビーロード・スタジオ」に居る自分に興奮気味なのだ。特にビートルズが名作を生んだ第二スタジオに入ったときは、思わず立ち尽くしたという。立ち尽くすなんて、人生のなかで、何度もあることじゃない。その時、CHAGEは万感の想いだったろう。

ところで『GUYS』には、先行シングルの「if」が収録されているが、よりアンビエントなアレンジに録音し直されている。オリジナルはサビへ向かってリズム隊が闊達にお客さんも参加しやすく盛り立てるが、ロンドン・ヴァージョンは全体がたゆたうようにひとつの世界観を形作っていく。最後のほうに出てくるジェス・ベイリーのフルートに似た音色のシンセのソロも、実に印象的な仕上がりである。

時間が経ってセルフ・カバーをやるのは珍しくないが、つい数ヶ月前の作品となると、これは異例なことだ。ASKAは当初、リミックスで対応しようとしたが、楽曲の色合いをアルバムに統一させるためには、録り直すしかなかった。でもこれ、アルバムの世界観が確固たるものとして見えていたからこその英断だったのである。

一度やった曲だからラクだったかというと、寧ろ、だからこそ困難を極めたようだ。すでにオリジナルのヴァージョンが存在していると、そこから完全に“根っこを分かつ発想”が、なかなか出てこないらしい。この場合、CHAGEもコーラスに、三日間を要したそうだ。

コーラスを試し、手を抜かないからこそ、CHAGE&ASKAはCHAGE&ASKAなのだろう。ここではコーラスと表記しているが、実際にはASKAの主旋律に対するCHAGEの“対位的な別メロ探し”のことだ。でも、ASKA自身も“主”でありつつ“副”へも行くし、もちろん“主”を二人が分け合い歌うスタイルの曲も多い。こうした二人の“メロディあやとり”(これはあくまでASKAがメイン・ボーカルの楽曲の話だが)は、他の追従を許さないものである。

彼ら自身の回想としては、「恋人はワイン色」あたりから今に至るスタイルが確立されていったそうだが、私達が曲を聴いていて、“ああこれ、正しくチャゲアスだなぁ”と思う瞬間というのは、この“メロディあやとり”の真っ最中であることが少なくない。

さらに『GUYS』にはもう1曲、「if」のカップリングだった「CRIMSON」も収録されていて、こちらもミックスをやり直し、ギターのパートに関しては、新たに録音し直している。

さきほど、楽曲の色合いをアルバム『GUYS』に統一、みたいな話が出てきた。それは具体的にはどんなものだろう? 様々な繙き方があるだろうが、ここではアルバムに参加しているミュージシャンに注目してみたい。

日本でレコーディングされた「CRIMSON」以外、すべての曲をドラムのニール・コンティとベースのマーク・スミスが演奏している(「今日は…こんなに元気です」を除く)のである。これは紛れもなく、このアルバムのひとつの“色”だろう。

ドラムのニール・コンティだが、このヒトといえば洋楽ファンがまっさきに想い出すのがプリファヴ・スプラウトのドラマーとしての経歴である。名作『スティーヴ・マックイーン』や『ラングレー・パークからの挨拶状』で演奏しているのが彼だ。

彼のドラムといえば、機械のように正確だ。なにしろASKAが、「常に一定のパーン、パーンっていう音が気持ち良くてね。今回、ドラムがハウスっぽいって思われる人もいるみたいですけど(後略)」(『月刊カドカワ』1992年12月号)と発言しているくらいだ。このアルバム、ドラム・マシーンは「WHY」で少し使用したくらいで、あとはニールの人間技なのだが、聴いたヒトによっては、“機械のように聞えた”ということだ。

ベースはマーク・スミスだ。このヒトはイギリスのセッション・ミュージシャンとしてトップ・クラスの実力者だった。ブライアン・フェリーやヴァン・モリソン、ジョージ・マイケルなどとの仕事でも知られるが、一時期、マイク・スコットのザ・ウォーターボーイズに加わっていたこともある(マイクといえば、日本の漫画家ろくでなし子と結婚したことで話題となった)。ただ、マーク・スミスは2009年に、若くして亡くなった。

彼の演奏の凄さは、「GUYS」を聴いてみれば分かるだろう。まさに縦横無尽に響き渡る魂のプレイだ。また、「HANG UP THE PHONE」も震えるほど凄い演奏なのが分かる。ちなみにこの曲、「モナリザの背中よりも」で一度試したけど却下したリズム・パターンを再度やってみたら上手くいった、とのことである。

なにやら最後はミュ−ジシャンの話ばかりになったが、これも『GUYS』の大きな聴きどころのひとつなのだ。次回は収録された楽曲の世界観に迫りたいと思う。

文 / 小貫信昭

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