【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 122

Column

CHAGE&ASKA ASKAの容積のある声とCHAGEの芯のある声が組み合わされ、チャゲアスという唯一無二の「構造物」となる。

CHAGE&ASKA ASKAの容積のある声とCHAGEの芯のある声が組み合わされ、チャゲアスという唯一無二の「構造物」となる。

ウタとしてもオンガクとしても聴き応えある作品こそが理想だ。CHAGE&ASKAの『GUYS』は、まさにそんな作品集である。このアルバムのサウンドの素晴らしさは、前回、リズム隊の名演にも触れ、書かせて頂いた。今回は、ウタのほうにスポットをあてたい。

リリースは1992年11月だ。オリジナル・アルバムとしては『TREE』から約1年経っていたが、前回は「SAY YES」という、世の中的な意味での彼らの認知度の急上昇があったため、どうしても、あの曲の印象に引っ張られた部分があった。しかし今回は、旅客機でいえば巡航高度に達し、水平飛行に移り、飲み物が配られた(とはいえ、その肝心の高度は、彼ら史上最高の“高み”だったわけだ)。

さっそく具体的な楽曲に触れていきたいが、まず、CHAGEとASKAという、二人のボーカリストの歌のワザの応酬が心地良いのは「野いちごがゆれるように」である。先攻はASKAで、ホーンが印象的なロッカバラード的曲調から、くいっと重心が下がり、彼の集中力ある歌声が聞える。後攻はCHAGEである。ASKAがトレースしたメロディに準じつつも、また違ったタイム感で言葉を運び、早くも語尾にフェイクを加え、歌を揺らしてみせる。

そして二人の声が合わさると、ASKAの容積ある声とCHAGEの芯のある声が組み合わされ、チャゲアスという唯一無二の構造物となる。二人の役割分担が、2コーラス目では、より細分化されていき、このあたりの構成も非常に凝っている(凝ってはいるが、けしてフクザツ風には聞えない)。

まるで童謡のように素直な[恋して燃えた日は]のメロディは、初めて聴いても既知感を芽生えさせるタイプのものだ。ASKAはこの曲を作る際に、まずこの部分が浮かんだというが、おそらくそれは、過去にも彼に訪れたであろう、“音楽の神様に呼ばれた”的な体験だったろう。

なお、[恋して〜]のあたりでは、二人の声が互いの輪郭をなくし、より混ざり合って響いていく。歌詞の構成上も、この部分を占める感情は“懐かしさ”であり、頭に浮かぶのもソフトフォーカス、色調もセピア…。声が輪郭をなくしてこそ正解なのだ。

「夢」は、CHAGEが曲のおおよその骨組みを1時間で作ったという楽曲だ。こういうヒラメキで作品が出来ることは、めったにないという。ただ、フラッシュアイデアに頼ったものというのは、“昨晩書いたラブレターを今朝読んで破り捨てる”みたいなことにもなりかねない。この曲は、今朝読んでも“名文”だったからアルバムに収録しようと決めた。

歌のテーマとしては、妖精伝説も多いイギリスの古城付近の森や湖に、いつしか迷い込んでしまった男女の物語だ。妖気が漂うというか、暖かいんだか冷たいんだかわからない不気味な風が、頬をなでる雰囲気とも言える。冒頭、聞えてくる彼のボーカルは、状況説明を主とする“語り部”風だったりもする。曲を作っているとき、CHAGEの頭にはネス湖のネッシーも出てきそうな…、というイメージもあったそうだ(僕は実際にネス湖に行ったことあるが、現地はこの歌の世界観と、似てなくもない雰囲気だった)。

しかし、しかしである。そんなわけでこの雰囲気にどっぷり浸っていると、サビでしっぺ返しを食らう。それもこれもあれも全部、夢、だというのである。つまりこれはJ-POP史上稀にみる“夢オチ・ソング”なのである!でもでも、夢だと知った時の解放感たるや凄いわけだ。

「夢」は作者のCHAGEがメイン・ボーカルで、ASKAがハモリの担当だが、ASKAはかなり大胆なことやっている。ハモリの範疇を越えたような音程の“位置取り”だ。我々はサビで初めて夢だと知るが、ASKAは当初から、当然、CHAGEから伝えられていただろう。夢だからこそ許されるようなハモリを、ここではあえて率先したのだと推測される(興味ある方は、ASKAだけに集中して聴いてみて欲しい)。

最後はこの曲に触れないわけにはいかないだろう。「世界にMerry X’mas」だ。いわゆる“メッセージ・ソング”と呼べる楽曲である。ジョン・レノン&オノ・ヨーコの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)(「Happy Xmas (War Is Over))」や、バンドエイドの「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス(「Do They Know It’s Christmas?」)の流れをくむコンセプトだろう。

1992年といえば、前年の1月から2月にかけて、湾岸戦争が勃発した。多国籍軍の空爆がTVで全世界に生中継され、与えた精神的なショックを含めるなら、これまでで最も多くの人々を“巻き込んだ”戦争だった。もし湾岸戦争を意識してこの歌を聴くなら、歌詞の[ここからはじまればいい]が重要だ。悲しいことが起こった直後だからこそ胸に誓うべきは、けして悲しいことを繰り返さない決意なのである。

パフォーマンスする二人の声は、細かい歌唱テクニックなど突き抜けて、無色透明ですらある。エンディングに、ロンドンでレコーディングに参加した子供たちのコーラスが聞える。最後に子供が加わるアイデアは珍しくない。ただ、その多くはその声を免罪符であるかのように使っている。様々なものを“漂白”しようとする。しかしこの歌のCHAGE&ASKAは、歌の冒頭から襟元が純白のシャツを着続けていてるのだ。[ここからはじまればいい]という未来志向とも、違和感なくつながっている。

こういうスタンダードな曲調をやってこそ、真の実力が分かるが、よく構成された作品である。12月以外、あまり街中に流れないだろうが、楽曲のクオリティということでいうなら、真夏にも聴きたいほどだ。

もう1曲、個人的にとても印象深いのは「no no darlin’」のカップリングだった「今日は…こんなに元気です」だ。CHAGEの曲も実にこなれたポップ性を有し、青木せい子の詞の[ 深呼吸で]のところが、まさに深呼吸するかのようにメロディにアクセントを加えている。

ASKAがレコーディングの途中で台詞を加えるアイデアを出していて、歌の主人公の心情を、うまく補足する。そういえばASKAは、ここ最近の「未来の人よ」などもそうだが、意外と台詞好きである。近い将来、彼が自作脚本でミュージカルをやってたとしても、きっと僕は驚かないだろう(まずやらないだろうけど…)。

文 / 小貫信昭

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