モリコメンド 一本釣り  vol. 116

Column

アイラヴミー 気持ちよく踊れるサウンド、胸の奥底を揺さぶり、グッと来る歌。注目すべきニューカマー

アイラヴミー 気持ちよく踊れるサウンド、胸の奥底を揺さぶり、グッと来る歌。注目すべきニューカマー

YouTubeとかサブスクで音楽を聴く(観る)ことが当たり前になって以来、時代、国境、ジャンルといった区分けはほとんど意味がないものになった。あらゆる時代、多くの国、様々なジャンルが融合し、すべては“いい曲だから聴く”(そして飽きたら止める)というユーザーのシンプルで直観的な判断に委ねられた状況は、功罪を含め、現代のアーティストに大きな影響を与えている。もちろん日本も例外ではない。しっかりアンテナが立っているアーティストは海外の音楽の潮流に敏感になっているし、特にR&B、ヒップホップ、エレクトロなどのテイストを取り入れるケースも増えている。それはもちろん良いことだし、必要なことでもあると思うが、筆者が気になるのは“まんま洋楽みたいになっちゃったら、個性とかアイデンティティみたいなものってどうなるの?”ということ。それを回避するのは、極論すると“歌がしっかり際立っているかどうか?”だと思う。トラックのテイストには流行があるが、歌に関しては、その人自身の個性が大事。チャイルディッシュ・ガンビーノもビリー・アイリッシュも宇多田ヒカルもそうだが、優れたアーティストには“イケてるトラックとその人にしか歌えない歌”が必ず備わっているのだ。

と、そんな当たり前のことをツラツラと考えてしまったのは、今回紹介する“アイラヴミー”の楽曲「セーブミー」を聴いたのがきっかけだった。鋭利にしてポップなストリングスから始まるこの曲は、生々しい響きを持ったギターフレーズ、4つ打ちのビートがきわめて自然に混ざり合ったアッパーチューン。現在進行形のエレクトロ、00年代以降のJ-ROCK、そして、切なさと愛らしさを含んだJ-POP的メロディがバランスよく含まれていて、すべてのオーディエンスに向かって開かれているのだ。

特筆すべきは、ボーカリスト・さとうみほの歌。主人公は、最終電車に乗っている女の子。何かをがんばったようでもあり、ぜんぜんがんばってない気もする(要はハッキリとした手ごたえが感じられない)。劣等感に苛まれ、“別に私じゃなくてもいいじゃないか”なんて思ったりもするが、じつは“こんな私がいちばん嫌いだ”ということに気づく——簡素な言葉で現代を生きる人たち(こういう気持ちになるのは、若者だけではありません)の心を射抜くこの歌は、“この人にしか歌えない”と“誰もが共感できる”という魅力的なポップスの条件を完全にクリアしている。特に「誰かのせいにして生きてたかった」というフレーズには、思わずドキッとしてしまう人も多いはずだ。

さとうみほの(Vo.& Gt.)、野中大司(Gt.)井嶋素充(Ba.)によってアイラヴミーが結成されたのは、2016 年。同年 10 月に渋谷 GUILTY にて初企画「アンコールまで、泣くんじゃない。」を開催し、Demo Album『アイラヴミー!』をライブ会場限定リリース。サウンドメイクの質の高さ、訴求力抜群のボーカルによって注目を集め、2018年12 月に「セーブミー」がbayfm「NEXT POWER ON!」のレコメンド曲に選出、さらに音楽コンシェルジュのふくりゅう氏がセレクトするSpotify のプレイリスト「キラキラポップジャパン」のトップカバーに抜擢されるなど、メディア、サブスクでも存在感を強めていく。

2019年9月にメジャー進出を果たすアイラヴミーは、まず3月、5月、7月にデジタルシングルを連続リリース。その第一弾となる「負け犬戦士」を聴けば、3人が生み出す音楽のクオリティがさらに上がっていることがわかるだろう。冒頭はブラックミュージック経由のギターリフとフィンガースナップ。心地よいグルーヴを放つトラック、思わず身体を揺らしたくなるフロウとともに「そんな所にうずくまってないで 部屋から早く出ておいでよ」というラインが聴こえてきた瞬間、こわばっていた心がフッと緩むような感覚に包まれる。この曲に対して、さとうみほは「自分の弱さが嫌でした。 ずっと自分の弱さと闘って勝ってやろうと足掻きました。 でも、そんなものにいちいち勝つ必要はなかったんだなぁ。そんな弱さも認めてあげたい」と語っている。ここでも共通しているのは、個人的なリアルな思いを間口の広いポップソングにつなげるセンスだ。

気持ちよく踊れるサウンド、胸の奥底を揺さぶり、グッと来る歌。繰り返しになるが、アイラヴミーの音楽には現在のシーンに対応し、多くのリスナーを魅了する条件が内包されている。2019年後半にかけて、もっとも注目すべきニューカマーだと思う。

文 / 森朋之

その他のアイラヴミーの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
http://iloveme.info

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