“平成”を駆け抜けた音楽たちのちょっとイイ話  vol. 4

Column

ABEDON+OTが挑んだ奇跡の「大迷惑」

ABEDON+OTが挑んだ奇跡の「大迷惑」

平成の音楽シーンでは、本当にいろいろなことがあった。その中で何かエピソードを選べと言われたら、やはりバンドの話になる。平成の30年間で、僕は2500本以上のバンドのライブを観た。それぞれに思うところがあったが、もっともドラマティックだったのは平成27年夏に観た奥田民生とABEDONのパフォーマンスだった。

仕事柄、これまでたくさんのバンドに出会ったが、バンドたちは仕事を越えて僕の人生に影響を与えてくれた。その象徴となるライブが、平成27年、“RSRF(ライジングサンロックフェスティバル) 2015 in EZO” 初日の8月14日、“ABEDON+OT(奥田民生)”のステージだった。

昭和の末期、昭和62年にデビューしたUNICORNは、名アルバム『SPRINGMAN』を遺して平成5年に解散。抜群に個性的だったこのバンドは、大ヒットした「大迷惑」のテーマがユニーク過ぎたお陰で、当時は面白バンド的な扱いも受けた。しかし、解散後、ソロに転じた奥田民生の活躍もあって、多くのバンドがリスペクトするバンドとしてUNICORNの名を挙げたので、その評価は次第に見直されていった。それでも、彼らのバンドとしての姿を再び見られるとは誰も思っていなかった。

それが平成21年元旦の新聞に、突然“再始動”のマニフェストがでかでかと載ったから、大騒ぎになった。解散以来、実に16年ぶりの復活だった。しかもリリースされたニューアルバム『シャンブル』は、解散前をしのぐクオリティを持つ傑作で、リードシングル「WAO!」はスマッシュヒットを記録。さらにその年の春に敢行されたツアー“蘇る勤労”も、各地で即刻ソールドアウト。日本のバンドシーン始まって以来の、鮮やかな復活劇となったのだった。

普通だったら、この復活劇こそ“ちょっといい話”にしたいところだが、僕にとってそれを上回るドラマが、その後に待ち受けていたのだった。

RSRF 2015 in EZOのラインナップには、早くからUNICORNの名前が挙がっていた。僕もUNICORNを目当てに、RSRFに行こうと計画していた。ところが直前の7月にドラムの川西幸一が体調不良で倒れてしまったため、その夏のフェス出演のすべてがキャンセルになった。代わって発表されたのが“ABEDON+OT”だった。メンバーのABEDONと奥田が、UNICORNのピンチヒッターを買って出たのである。

夏フェスは、お目当てのバンドがキャンセルになってもチケットの払い戻しはできない。5人が揃ってのUNICORNだけに、2人ではどう頑張っても追いつかない。僕は楽しみ半分、不安半分で北海道に行った。一体、2人は何をやるつもりなのだろう。

「この夏、お客さんの顔を見てると、『せっかくUNICORNを楽しみにして、フェスに来たのに』っていう残念そうな表情が多かった。それに応えなきゃっていう気持ちが、どんどん強くなってきて」と、開演前の楽屋でABEDONは珍しく硬い口調で話してくれた。

UNICORNの復活を大歓迎してくれたファンたちに、ABEDONは大きな責任を感じていた。復活後、順調に活動してきたUNICORNが、初めて迎えた危機だった。それだけに、ABEDONは「どうしたらUNICORNらしい対応ができるのだろうか」と思いを巡らし、覚悟を決めた。

まだ明るい18時20分、RSRFでいちばん大きいSUN STAGE に、ABEDONと奥田がステージに現われた。奥田がドラムセットに座る。ABEDONはフライングVギターを抱えて、奥田と向かい合う。始まったのは、なんと「大迷惑」だった。

一瞬、緊張が走り、客席がざわつく。あの超絶スピードのドラムを、奥田が歯を食いしばって叩き、ABEDONがあの誰もが知っているギター・リフを刻む。たった2人だけで挑む「大迷惑」だ。

ベースはいない。ABEDONは印象的なキーボードのフレーズを、ギターを弾きながら“口”で歌っている。奥田もドラムを叩きながら、その他もろもろの楽器の音を“口”でフォローする。

ついに奥田が歌い出した。本来、5人で演奏する楽曲を2人でやるのだから、“足りない音”だらけ。しかし、それは確かに「大迷惑」だった。サビでABEDONが奥田の歌にハモを付けると、まぎれもないUNICORNのサウンドが聴こえてきた。ギター・ソロは、ABEDONがこれまた口で演奏。何しろ2人しかいないので、ABEDONはリズムギターを止めるわけにはいかない。

この奇跡の「大迷惑」に、最初は唖然としていた観客たちも大声援を贈る。2人の凄まじい気合を感じたのか、テントからオーディエンスが次々と這い出してきて、SUN STAGEの広いスペースになだれ込んでくる。

2人の渾身の「大迷惑」を聴いている途中で、僕はなぜか涙が出てきた。本来、UNICORNは「音楽で遊ぶバンド」だ。彼らは真剣に音楽で遊ぶ。だから心から笑える。僕の目からこぼれ出したのは、奥田とABEDONの真剣な遊びに触発された嬉し涙だった。

この「大迷惑」は、ABEDON+OTがファンを楽しませるために考え抜いたチャレンジだった。その超絶のアイデアと努力に、僕は涙したのだ。それは、「ファンの皆さん、大迷惑をおかけしてすんません」というABEDON+OTらしい“音楽のお詫び”だった。

僕はどうしてもバンドに、それぞれのメンバーの生き方を重ねてしまう。ひとつのバンドを長い間見ていると、音楽に彼らの生き方が表れていることがわかる。特にUNICORNは、全員が曲を書き、歌うから、それが顕著に出る。

バンドでの出演キャンセルの陳謝を、コメントで表わすことは、いくらでもできただろう。しかしUNICORNはコメントではなく、音楽でやってみせた。たった2人でバンド・ミュージックを奏でてみせた。その音の中に、不在であるはずの川西の姿を浮き彫りにした。ギターの手島いさむとベースのEBIを加えて、4人のUNICORNもできただろう。だが、それでは単なる「UNICORNマイナス1」に過ぎない。そんなハンパな形ではなく、限界ギリギリの「UNICORNマイナス3」にすることで、ファンと同じ残念さと口惜しさを表わそうとしたのではないかと思う。

この心意気こそが、バンドの真髄だと思う。昭和末期のバンドブームから誕生した日本のバンド文化が、平成に入って成熟したことを告げるライブだった。

さて、令和にはどんなバンド文化が出現するのだろうか。「大迷惑」スペシャル・バージョンが終わると大歓声が上がった。ほどなく、石狩の空から雨が落ちてきた。

文 / 平山雄一

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