“平成”を駆け抜けた音楽たちのちょっとイイ話  vol. 5

Column

アーティストの素顔が脳裏に焼き付いている、いくつかのシーン

アーティストの素顔が脳裏に焼き付いている、いくつかのシーン

記憶能力に重大な欠陥が有る(要するに忘れっぽい)のと、ノスタルジーに喜びを感じない性格故、過去を振り返る事は普段は全く無い。しかしそれでは様々な体験を授けてくれた平成という時代に申し訳なく、折角の依頼なので記憶の糸を手繰って脳裏に焼き付いたいくつかのシーンを思い出してみようと思う。脈絡は全く無く、深い意味も無い。スナップ写真のようにワン・シーンを切り取ったものを並べたと思って頂けたら良いと思う。

降谷建志の目

1997年のまだ寒い時期だった。原宿ピアザビルの会議室にふらりと入ってきた18歳の小柄な青年は重いコートを着込んでいた。全身から発する緊迫感が物凄く、無駄な挨拶もせず、ニコリともせず、目を合わせてくれなかった。質問には礼儀正しく答えてくれたが、終始「おまえは俺のやってる音楽の味方か敵か?」と問われているようで、非常に緊張した。時代はパンク、ミクスチャー、ラップなどストリート・ミュージックが若者の間に浸透しつつあった時期で、バブリーなヒット・チャートなどは敵だった。終始目を伏せたままにも関わらず、その眼光の鋭さに圧倒された。あんなに鋭く澄んだ目のミュージシャンは、その後見た事が無い。

椎名林檎の葉書

たぶんデビューの年の事だったと思う。彼女が体調を崩して休養した事が有った。それまで1、2度面識があったので、復帰した彼女に快気祝いのつもりでクッキーだがチョコレートだかの手土産を渡した。そして次の取材時だったか郵送だったかは忘れたが、彼女から葉書をもらった。体調が戻った事と手土産への感謝が丁寧に書かれた文章に、ぺこりと頭を下げる可愛いイラストが添えてあった。その後の大ブレイクを経て会う事は無くなったが、今も机の引き出しのどこかに有るだろうあの可愛いイラストを思い出すと何だかほっこりする。フリーライターは23年程やっているが、アーティストに何かを貰ったことはこの一回しかない。たぶん。

向井秀徳の赤ら顔

向井秀徳はご機嫌だった。というか、飲んでいた。レコード会社の会議室で、赤ら顔のミュージシャンにインタビューするのは初めてだったが、誰も特に気にしていなかった(ように見えた)。たった20年前の事だが、時代の空気は随分大らかだったのかもしれない。僕はナンバーガールの、狂的で鋭角的な面よりも、ポップでユーモラスな面が大好きだったので、彼のそうした表情を見られるのが嬉しかった。しかもアコースティック・ギターをボロンとやりながら、1曲歌ってくれた。何の曲だったっけ? 取材テープに残っているはずだが、もう何処かに埋もれていてよくわからない。

忌野清志郎の優しさ

覚えている人は少ないかもしれないが、2002年ごろにLOVE JETSというグループがあった。一応覆面バンドだったが、忌野清志郎がやっているのはバレバレだった。確か東北沢あたりの居酒屋での取材だったと思う。既に飲んでいた3人は終始ご機嫌で、憧れの人もとても気さくだった。憧れの人が僕に「いつ頃からライター、やられてるんですか?」と聞いた、その優しい口調は今も耳に新しい。とにかく冗談ばかりで真面目なプロモーションにならず、レコード会社と編集者にはこの場を借りて今更お詫びしたいが、僕のせいじゃないとも思う。その後、ソロ作品の取材で会った憧れの人は、メイクをばっちり決めたロック・スターで、人が変わったように寡黙で孤高のオーラを身にまとっていた。それはそれで思い出深いが、僕の中での憧れの人は、居酒屋で優しく語りかけてくれたあの顔で記憶している。

FUNKY MONKEY BABYSの全力

ファンモンを、型にはまったポップ・ラップの典型のように揶揄する表現を度々見かけたが、僕はその意見に与しない。ライブを見れば解ると思うのだが、そう言う人はきっと見ていないのだろう。同じ「ガンバレ」でも同じ「さくら」でも、人生かけた気迫と願いを込めて放てば重みは変わる。それが短期決戦なら尚更だ。結成当初から、DJケミカルの家庭の事情で近い将来グループに終わりが来ることは決まっていたと、解散間際に知った時の切ない感慨は今も忘れない。限られた時間と解っていて出来る限り一番遠くまで走り抜いた、2013年初夏の東京ドームでの解散ライブは完璧なフィナーレだった。感動したかったのだが、加藤がケミカルの奇妙な衣装をしげしげと眺めて「おまえ、本当に坊さんになるの?」と真顔で聞いた時には笑った。ドームでもあんなに素のままだったグループは他に無いと思う。

他にも「ケツメイシのバンジージャンプ」「佐野元春の“いい質問だね(にっこり)”」「Dr.StrangeLove長田進の凄み」「矢沢永吉の自然体」「Diggy-MO’の3時間トーク」等いろいろ思い出されるが記憶が曖昧なのでこの辺で打ち止め。令和の時代も平成と同じく多くの出会いがありますように。

文 / 宮本英夫

Dragon Ash(降谷建志)の作品はこちらへ。

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