“平成”を駆け抜けた音楽たちのちょっとイイ話  vol. 1

Column

平成を体現した“TK”という音楽スタイル

平成を体現した“TK”という音楽スタイル

今年2月に公開された『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』が観客動員数100万人、興行収入15億円を超えたという。「Get Wild」「STILL LOVE HER(失われた風景)」「RUNNING TO HORIZON」、小室哲哉楽曲が3曲使用されている。

また、4月21日、全国24会場で開催された『TMN final live LAST GROOVE 1994』プレミア上映会も盛況だったらしい(5月に追加上映会が決定)。他にも完全受注生産『TETSUYA KOMURO ARCHIVES PROFESSIONAL PRODUCTS』が発売されるなど、平成の終了とシンクロした小室経済効果はいかほどだろうか。今さらながら、CD総売上1億7000万枚超の偉大さを思い知る今日この頃だ。

1月20日放送のNHKスペシャル『平成史スクープドキュメント 第4回 安室奈美恵 最後の告白』にしても、裏軸は小室哲哉だった。平成J-POPのアイコンだった安室と平成J-POPのショーランナーだった小室。番組を見ながら、誰も踏み込むことを許されない聖域と誰にも理解できない阿吽の呼吸を保っていた二人なのだろう、と思わずにはいられなかった。だから、安室は小室が書く詞の意味を一度も尋ねなかったと想像する。小室も説明しなかっただろう。

あれはいつのことだったか。小室と渋谷界隈を歩いた日のこと。まるで独り言みたいに、いつもの小さな声で、唐突に言った。「奈美恵ちゃんの「HimAWAri」の歌詞。このあたりが舞台なんだよ」。以来、そのあたりを通るたび、そのつぶやきが甦り、ありふれた街角が特別な景色になった。それがどのあたりかは、きっと安室は知らない。おそらく小室も伝えていない。だから、歌が作り手からも、歌い手からも、時代からも解き放たれたのではないだろうか。

21世紀になってから特に、画(映像)が見えるわかりやすい歌詞が偏重されてきた。しかし、その手の歌詞は、ともすればアーティストとそのファンの符牒に陥ってしまう危険性を、つまり排他的になってしまうことを、小室は知っていたに違いない。自分の中で見えている映像の何を描き、何を描かないか、その選択があのインディビジュアルな、あのオルタナティブな歌詞を生んだ。さればヒット曲らしいヒット曲がほぼ姿を消した今、令和の扉が開いた今、小室詞の再検証が音楽制作者の急務かもしれない。

安室の後を追うかのようにTRFが1993年にデビュー。シンガー+DJ+ダンサーという編成は、昭和を一気に過去へと押しやるほど斬新だった。そう、あの頃だったかもしれない、小室が「エレキギターって他に言い方ない?エレクトリックギター?エレキだと、どうしてもテケテケ(ベンチャーズ)から進化してない印象だから」と言ったのは。確かにエレキって…。昭和臭がしみついている。この小室ならではの違和感がTRFにつながっている気がしてならない。

定説としては、カラオケ+ダンス=TRFだが、小室が表現したかったのは、昭和生まれのカラオケ・カルチャーではなく、平成の世に訪れるであろう、DJカルチャーとダンス・カルチャーだったと、平成が終わる今、改めて思いを馳せる。新時代・平成を体現するスタイルとは?という自問、もしくは旧態依然としたバンド・スタイルへの疑問からTRFは誕生した、という視点も強引ではなさそうだ。

だからこそ、令和の音楽業界は、小室に学べるだろうか。ポスト誰それ、二番煎じも手堅いビジネスとしては理解できる。ただ、アニメ、アイドル、韓流の牙城を崩すほどの力にはなり得ない。アンチ平成の旗を掲げるニューカマーを放てるだろうか。平成を一気に過去へと押しやるほど斬新なアイデアとは…。やはり小室再検証が急がれる。

小室が平成に残した、もうひとつの大きな足跡がglobe。当初のイメージは、女性ボーカルと男性ラッパーの2アンリミテッドだった。その日本版を作ろうとした。ユニット名はORANGE。ここからがいかにも小室流だ。原案のまま進むと、何が起こるか、どういう経緯を描くか、頭の中でシミュレーションをした。シナプスが音を立てるほどフル稼働。結果、自らもメンバーに加わることを決定。歴史に「たら」「れば」はないが、もしも小室がいないglobeだったら…。Every Little ThingもDo As InfinityもMy Little LoverもGIRL NEXT DOORも違う形になっていたかもしれない。

globeは、4thシングル「DEPARTURES」が売上230万枚、1stアルバム『globe』が売上400万枚以上を記録。デビュー4年目の1998年には、「wanna Be A Dreammaker」で第40回日本レコード大賞を受賞。この短い間にも、デジロックやオルタナティブロックなど、さまざまジャンルのエッセンスを楽曲に反映させた。それからもライブハウスツアーやX JAPANのYOSHIKIの加入など、さまざまな展開を見せる。この高速展開もまた小室流だ。

中でも2001年の東京ベイN.K.ホールでのライブは金字塔だった。テーマはトランス。ステージ上の小室ブースでは、キーボードやシンセサイザーよりミキシングコンソールが場所を占拠。自分たちの音をリアルタイムでミックスする試みだったから。キーボーディスト3割、ミキサー7割のパフォーマンス。こんな規格外のライブを「我儘」や「愚行」の一言で片づけてはいけない。なぜなら、日本の音楽史上、J-POP史上といってもいいが、ミリオンセラーを連発し、レコ大まで受賞したアーティストがここまで革命的なステージに挑んだのは、後にも先にもglobeだけ。新しい扉をこじ開けようとする挑戦を「無謀」というなら、それはもはやアーティストではない。過去のヒット曲の再生だけがお客様への誠意だと信じるなら、そこにもはや創造はない。

正直、昭和と平成に隆盛を誇ったレコード会社は、歴史的役割を終えようとしている。ローリング・ストーンズを頂点とするクラシカルなバンド・スタイルも、このままだとプロ野球同様、メジャーの座を追われ、マニアックな存在になってもおかしくない。歌姫+ダンサー・チームによる煌びやかなライブエンターテイメントだって、何がどうなるか、誰もがほぼほぼ想像できる。だから、どうだろうか、そういうものはいっそのこと、平成に置いてきては。いやいや、とはいってみても、なかなか手放せないのが現実だ。それでも、音楽が消える日を見たくはない。そうしたものに引導を渡し、平成を一気に過去へと押しやってしまう、「令和のTK」は現れるだろうか。それとも…。

文 / 藤井徹貫

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