Interview

岸谷香 テーマは80’s ガールズバンドプロジェクト初のアルバム完成! その手応えと制作について訊く。

岸谷香 テーマは80’s ガールズバンドプロジェクト初のアルバム完成! その手応えと制作について訊く。

岸谷香が、プリンセス プリンセスの大ヒット曲「Diamonds<ダイアモンド>」がリリースされた1989年に生まれた3人のガールズとの新しいバンドを披露したのは一昨年の2月、自身の50歳を祝うアニバーサリー・ライブだった。後にUnlock the girlsと名づけられたそのバンドは、昨年1月にミニアルバムを発表し、全国ツアーも果たした。
それから1年余り。届けられた新作『Unlock the girls 2』は、米オルタナティヴ・シーンで活躍するアラン・ヨハネスのプロデュース曲2曲も含み、1980年代に青春期を過ごした岸谷と、その時代の音楽を憧れの対象として聴いてきたガールズと、その両者の感覚が融合したからこそ生まれる「ネオ80’s」とでも呼ぶべきサウンドが、なんとも心地よく楽しい仕上がりだ。
ここでは、岸谷自身にその制作を振り返ってもらいながら、そこで感じた手応えとガールズバンドの魅力についてたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢

ちょうど1年前くらいですけど、闇雲にスタジオに入って、作り始めました

新作の制作はどんなふうに始まったんですか。

岸谷 去年1月から2月にかけてツアーをやって、そこでだいぶ“バンドになったなあ”と感じていたので、ツアーが終わってすぐに「曲を書こう」という話になりました。ガールズたちに「昔のバンドでは、どうやって作ってたの?」と聞いたら、「スタジオに入って、“こんな感じで”とか言いながら、みんなで合わせていくんです」と言うんですけど、それは私にしたら「“こんな感じで”って、誰がどういうふうに指示を出すの?」という感じなんですよ。プリプリは「この日に曲の選考会をやりましょう」と決めた日に各自が作った曲を持ち寄るというやり方で、私はそれが普通だと思ってたから。それでも、とにかくやってみようと思って。ちょうど1年前くらいですけど、闇雲にスタジオに入って、作り始めました。そのなかで出来上がったのが「LOVE FLIGHT」です。そういうふうにバンドでリハをやるなかで曲が出来上がっていって、それを録音した曲が数曲あります。

私が変だと思うところは絶対生かそう”と思って

「BLACK MARKET」という曲は、ギターのYukoさんとの共作クレジットになっていますね。

岸谷 あれはみんなにまず「曲は作らなの?」と聞いたんです。そしたら、「作らなくもないです…」みたいな感じだったから、「作ったの、持ってきてみてよ」と言って、それでまずYukoが持ってきたんです。その曲は、どこがAメロでどこがサビなのかよくわからない不思議な曲で、“この半端な3小節は何なんだろう?”みたいなところもあったりするんだけど、でも“それを私が気持ちいいように直しちゃったらいつもと同じ。私が変だと思うところは絶対生かそう”と思って、そこにメロディを付けたのが「BLACK MARKET」です。そんなこんなで、7、8曲できちゃったので、「これだったら、アルバムできちゃうね。レコーディングを始めちゃおうよ」という話になって、まず3曲くらい録りました。そうなってくると、「こういう曲が欲しいよね」という発想が出てくるわけですよね。それでまた、何曲か曲を書いて、それをみんなで合わせてみて、というような時間を過ごしていました。

ニューヨーク録音も、最初から予定していたことですか。

岸谷 いやいや、とんでもない。ここ数年、私がニューヨークに年に何度か行ってるのを知っている友達兼スタッフみたいな人がある時、「どうせ行くなら、ニューヨークで録音してくれば?」と言ったんです。私としては「そんなに簡単に海外レコーディングってできるものなの?」という感じだったんですけど、そこからさらに親しい友人が骨を折ってくれたり、レコード会社の理解もあって、やっと実現したんですよ。

アラン・ヨハネスのサウンド・プロデュースも、その話が進むなかで出てきたことですか。

岸谷 そうなんです。どの曲を彼に頼むかすごく悩んだんですけど、いかにもロックっぽい曲だったらかっこよくなるのはわかってたから、むしろ「メロディ重視のオーソドックスなポップスという感じの曲がどうなるか?」という感じでやってみたいと思ったんですよ。それで書いたのが「レミニセンス」と「リアルファンタジー」ですね。

ニューヨーク・レコーディングの時点で、「テーマは80’s」という方向性は決まっていたんですか。

岸谷 そうですね。なので、アランにも「80’sっぽいテイストを入れてね」という話はしました。

僕が、このアルバムで一番80’sテイストを感じたのは「リアルファンタジー」なんです。

岸谷 面白かったのは、アタマのシンセは私が弾いたんですけど、彼は(ヴァン・ヘイレンの)「JUMPだ」って笑ってました。アメリカ人もやっぱりそう思うんだと思っておかしかったんですけど、私やアランからするとちょっとパロディみたいな感覚もあるんですよね。

考えに考え抜いて、それで考えてないような歌詞にする

「よくわかんないけど、行っちゃえ!」みたいな感じの歌詞も、すごく80年代的だなと思いました。

岸谷 まさにそういう感じがテーマだったんです。あまり深いことは言わないって決めて書いたら、逆に難しくて。だから、考えに考え抜いて、それで考えてないような歌詞にするっていう。それは本当に難しかったですけど、でもアメリカで歌入れするから、それまでに絶対書いていかないといけないっていう、その勢いでがんばれた感じです。

タイトルも、あの時代には現実がよく言えばファンタジック、悪く言えばバカみたいなことを大人が真剣にやってて、だから「リアルファンタジー」というのは言い得て妙、という気がします。

岸谷 ♪それはファンタジー/でもリアリティ♪という一節からそのタイトルにしたんですけど、私も本当にそうだなと思ったんです。そのタイトルになったのは必然的だったと思いますけど、私もマドンナの初期とかシンディ・ローパーとか80年代の歌詞をいろいろ見てみたんです。そしたら、取るに足らないことを歌ってる歌詞ばかりなんですよね。でも、あの時代はこういうことだったんだなと理解して、だからいろいろ言うんじゃなくて、「踊ろうよ」とか「楽しければ、いいじゃん」という感じを初めて目指して書きました。

印象的なのは、アルバムの前半の主人公がみんな一人なんですよね。

岸谷 それは考えてなかったけど、確かにそうですね。ということは、私が只今の時点では気分的に一人ということなんでしょうか(笑)。ただ、私の中では“好きな人と二人でいて、幸せ”というのが歌詞になるのかな?という感覚はあるんです。例えば“あなたが死んだら、どうしよう?”とか“私が死んだら、あなたはどうするの?”とか、そういうことを歌詞にしようと思っても、何か書ききれないんですよね。自分でグッと来ないというか。安泰な感じは詞になりにくいでしょ。やっぱり「レミニセンス」みたいに、「安泰に見えて、ちょっと危ないかも」みたいなシチュエーションを選んでしまうのかもしれないですね。

ガールズといると、やっぱり気分は20代というか(笑)、私一人だったら絶対その立ち位置では書けなかったなと思うところでもう一度書けてしまう

一つの想像として、80’sというテーマで出来上がってきたオケに歌詞をつけるという局面で、80年代というのは岸谷さん自身がまだ10代から20代の時期で、それはつまり岸谷さんもこれから何者かになっていく時期だったから、そういう時代のサウンドを受けて出てくる言葉の世界もそういう何者でもない、あるいはまだ居場所が定まっていない一人の人間が主人公になったのかなと思ったんです。

岸谷 私のなかで明らかなのは、ガールズと一緒にやるに当たって、詞を書くときの自分の立ち位置が変わったんですよね。具体的に言えば、以前は「ウェディングベル ブルース」みたいな歌詞は書けなかったと思うんです。昔ああいうシチュエーションを書こうとすれば、例えば「今は楽しいかもしれないけど、どんな思いも消えちゃうんだから、今思いきり楽しむといいよ」みたいな。そういう上から目線の(笑)、歌詞になってたんじゃないかなと思うんです。でもガールズといると、やっぱり気分は20代というか(笑)、私一人だったら絶対その立ち位置では書けなかったなと思うところでもう一度書けてしまうっていう。それは確かにあると思います。「ウェディングベル ブルース」は、HALNAが結婚して、(作詞家の)木村ウニちゃんが結婚して子供を産んだんですけど、そういう人が近くにいるとやっぱり“嬉しいな、おめでとう!”と思うし、“お祝いに、何か曲を残したいな”と思いますよね。そこで、さっき言ったような上から目線の詞じゃなくて、というか結婚を語るのではなく、結婚した彼女に語る詞がいいなと思ったんですよ。それは、間違いなくこのガールズバンドのマジックですね。ガールズバンドって、いついかなる時も恋していい、っていう(笑)。非現実的でいいっていう感じがあるんですよね。

それにガールズバンドには、あの歌詞にも表れているように、「具合が悪くなったらいつでも戻って来ればいいから」という“同志感”があるような気がします。

岸谷 そうですね。確かに“相手の旦那よりもこっちのほうが付き合いは長いし、また時間が経てばこちらとの関係のほうが深くなるもんね”という気持ちもありますよね。私自身、結婚して20年とか経つと、一番大事なのは女友達だと思ってるとこがあるんです。それは、旦那が大事じゃないということではなくて、やっぱり同性の友達というのはすごく大事だと思うから、そういう気持ちで歌詞を書けたのは、やっぱりガールズバンド・マジックだと思いますね。

「覚えておいてほしいの」はちょっとエキゾチックな感じのナンバーです。

岸谷 あの曲は、去年の暮れの忘年会で、ビルボード・ライブでガールズとアコースティック編成でやったライブの話になった時に、私もYukoもアコギを弾いたという話をしたら、「それだったら12弦も良かったのにね」と、高野(勲)さんがポロッと言ったのがきっかけなんです。私は12弦ギターを持っていないから、選択肢の中になかったんですけど、でも12弦ギターって鳴らした途端に世界観があるから、それで曲を作りたいなと思っちゃったんですよね。

(奥田)民生くんに聞いてみたんです。「12弦、持ってない?」って。もちろん、持ってるから、それを借りて作りました

楽器始まりですね。

岸谷 そう! 楽器始まりって、けっこういいんですよ。ただ、楽器自体は当たりハズレもあるものだし、焦って買うのも良くないなと思って、(奥田)民生くんに聞いてみたんです。「12弦、持ってない?」って。もちろん、持ってるから、それを借りて作りました。

それで、Special Thanksに彼の名前があるんですね。

岸谷 そうなんですよ。例えば何かのアンプを試したい時に「○○、持ってない?」と聞くと、彼はたいてい持ってるから、借りるんですよね。後で、ちゃんと菓子折とか贈るんですけど(笑)。その借りた12弦で曲を作り始めた時は、まずチューニングでテンパっちゃって、果てしなく時間がかかりましたけど、チューニングできたら、あとはあっという間に曲はできました。今年になってから、その「覚えておいて欲しいの」と、「バタフライ」「ウェディングベル ブルース」をレコーディングしたんですが、「バタフライ」は、ずいぶん前に書いていた曲です。ベン・フォールズにハマってる時期に実家にCP-1(電子ピアノ)を持って帰って、めちゃめちゃ引き倒したことがあって、その時に多分3、4曲作った中の1曲です。

ということは、この曲も楽器始まりですね。

岸谷 そうですね。ただこの曲みたいに、作ったけど世に出さないまま、マネージャーがキープしてるという曲がかなりあって、それをマネージャーがいいなと思うタイミングで曲の選考会に出してくるんです。私にしたら“こういう曲もあったね”という感じなんですけど、「バタフライ」についてはレコード会社のディレクターが「すごくいいですね」と言うわけです。確かに、私はマイナーの曲はあまり書かないので、こういうマイナーのコード感の曲がアルバムに1曲入るのもいいかもね、とは思ったんですけど、ただ最初は全然違う感じだったんですよ。出来上がりはギター・サウンドですけど、元はピアノのリフ中心の感じだったのを、そのディレクターは「もっと派手にしましょう」と主張するんですよ。私は“どうかな?”と思ったんですけど、でもそういうふうにすごくこだわって意見を言う人が大事だったりすることもあるじゃないですか。だから、この曲については「好きにしていいよ」と言ったんです。そしたら、あの派手なギター・サウンドを高野さんにリクエストしたんですよね。

この人の言うことをやってみたいなって。それでやってみると、だんだん自分でも楽しくなってきたんですよね

高野勲さんが、ニューヨーク録音以外の7曲のサウンド・プロデュースを担当しています。この人選は、どういう流れで決めたんですか。

岸谷 高野さんは、1枚目も半分やってもらったんですが、彼にやってもらったら、私たちが育つなと思ったんです。高野さんは忍耐力もすごくあるし、ずっと変わらないテンションでいつまででもスタジオで作業ができる人だから、この人とやったら、私たちをすごく育ててくれるかも、と思ったんですよね。だから、私も高野さんの言うことはなるべく受け入れようと思っていました。歌入れにも全部来てもらったんですけど、高野さんの好みの歌というのは私がこれまで歌ってきた歌とは全然違うんですよ。「今までやったことがないようなことをしてほしい」と言うんです。最初は“ええっ!?”と言う感じだったんだけど、せっかくだからやってみようかなと思って。死ぬまで同じスタイルでやっててもつまらないし、この人の言うことをやってみたいなって。それでやってみると、だんだん自分でも楽しくなってきたんですよね。

岸谷さんにとっても、ミュージシャンとしての新しい経験が詰まった制作だったんですね。

岸谷 そうですよ。そもそも、“こんなにギターを弾く予定じゃなかったんだけどなあ”という感じですから(笑)。前作では、鍵盤を弾いてギターを弾いていない曲もあったんだけど、今回はもうYukoのギターと私のギターがあるというのがこのバンドの音楽になってきちゃったから。自分でも、すごく驚いています。ギターは自分でもレコーディングを通してすごく上手くなったなとも思うし。本当に楽しかったですよ。バンドとしても、今はもう面白くてたまらない時期ですよ。

時期を分けてレコーディングしたことが最高に良かったと思うんです

まさにバンドの旬を凝縮した1枚になりましたね。

岸谷 出来上がってみて思うのは、時期を分けてレコーディングしたことが最高に良かったと思うんです。ニューヨーク・レコーディングもあったりして、その都度最高のテンションでレコーディングに臨めたんですよ。それに、一人が曲を書いてると、10曲もまとめて書くと、やっぱりどこか似てたり、キーになるアイデアがどの曲にもちょっと顔を出したり、みたいなことがあるでしょ。それに、“アルバムとして聴くと、こういう曲もありだから”みたいな感じになっちゃう曲が出てくるのが私はあまり好きじゃないんです。プリプリ時代は、みんなが持ち寄るから最終的に2、3曲は私以外の曲も入って、それがお互いにいい感じに収まってたんですよね。その感じを一人で出すのはなかなか難しいんですけど、今回のように分けてレコーディングすると、その時期の流行りみたいなものに没頭して作るから、それぞれのカラーが出て、それが結果としてすごく良かったんですよ。これからもこのやり方だな、と思っています。一度に10曲とか、そういうやり方は絶対しない!と思ってるくらい、良かったですね。

「えっ、プリプリのこんな曲をやるの!?」というような曲を選びたいなと思っています

リリース後のツアーでは、昭和、平成、そして令和という時代の流れのなかでの岸谷さんの楽曲の歴史を振り返るということで、プリプリ時代の曲や、ソロになったばかりの時期のも、今回の新作と合わせて披露するそうですね。

岸谷 プリプリの曲については、今回は「Diamond<ダイアモンド>」とか「M」とか、いわゆる代表曲ばかりやってもつまらないから、「えっ、プリプリのこんな曲をやるの!?」というような曲を選びたいなと思っています。

どんなセット・リストになるか、すごく楽しみです。

岸谷 実際に昭和の時代や平成初期の頃に聴いていた人が多いだろうから、ゾワっとしちゃうでしょうね。その頃の匂いとか空気に戻っちゃうでしょうから。そういう音楽のマジックもたっぷり楽しんでいただけるライブになると思います。

その他の岸谷香の作品はこちらへ。

ライブ情報

KAORI KISHITANI 2019 LIVE TOUR
52nd SHOUT! -Unlock the girls 2-

5月17日 <名古屋>DIAMOND HALL
5月19日 <大阪>なんばHatch
5月22日 <東京>マイナビBLITZ赤坂
5月23日 <東京>マイナビBLITZ赤坂

*その他の情報はオフィシャルサイトで。

岸谷香

1967年東京都生まれ。
86年にプリンセス プリンセスのボーカルとしてデビュー。
96年に解散後結婚、2児の母に。現在はソロ活動を行う。
5月1日、アルバム『Unlock the girls 2』をリリース。
5月17日、名古屋DIAMOND HALLからツアースタート。

オフィシャルサイト
http://kaorikishitani.com/

Blog
https://ameblo.jp/kaori-kishitani/

Instagram
@unlockthegirls

Twitter
@unlockthegirls