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一見地味そう?→かなりの良作でした 大学駅伝アニメ『風が強く吹いている』、完結した今からでも全話観てほしい理由

一見地味そう?→かなりの良作でした 大学駅伝アニメ『風が強く吹いている』、完結した今からでも全話観てほしい理由

2018年10月から2019年3月まで、日本テレビほかで全23話に渡って放送されたアニメ『風が強く吹いている』(以下、『風つよ』)。本作は、陸上未経験者がほとんどのチームがひたむきな努力を重ね、箱根駅伝に出場する青春スポーツストーリーだ。原作は『まほろ駅前シリーズ』や『舟を編む』などの人気作で知られる直木賞作家・三浦しをんによるヒット小説。これまで実写映画化、漫画化、舞台化も果たしている名作だ。そのアニメ化は、観れば誰もが感動の涙を流す群像劇となって丁寧に描ききられた。

派手なバトルや衝撃的な展開が目白押しというようなジェットコースター的作品ではなかったものの、キャラクターたちの心の襞と仲間たちの絆を、アニメならではのオリジナル要素を盛りこみ、巧みな演出とストーリー構成で描いた『風つよ』は、大人にこそじっくりと観て欲しい人間ドラマになった。そんな『風つよ』の魅力を、シリーズが完結した今だからこそ、あらためて振り返ってみたい。

文 / 阿部美香


2クールを費やし丁寧に描かれた「なぜ走るのか」というテーマ

真の感動に出会った時、人は言葉を失い、ただただ「いい!」としか発せなくなるものだ。本作未見の方には、ただ一言、「とにかく観て欲しい」としか伝えられない。ライターという立場からすると、立派な仕事放棄だが、それが許される作品というのもある。筆者にとっての『風つよ』は、まさにそういう作品なのだ。

2018年10月、三浦しをんの人気小説『風つよ』が、出版より10年以上の時を経てアニメ化されると聞いたとき、「いよいよ来たか」という想いが湧いた。だがその一方で、スポーツ物でありながらも分かりやすい熱血スポ根というわけではない原作、しかも大学駅伝が題材という(失礼に聞こえたら誠に申し訳ないのだが)地味めな題材を、どうやって制作スタッフがアニメとして描いていくのか、ほんの少しの不安もあった。だが、それはただの杞憂に過ぎなかった。

『風つよ』の魅力はいくつもあるが、やはり連続2クールという昨今のアニメではなかなかお目にかかれないボリュームで、丁寧にキャラクター達を追っていったことは大きい。まったく陸上に縁のなかった青年たちが、「なんだかんだ頑張って箱根駅伝に出場しました!」とストーリーの上辺だけを追うのではなく、キャラクターひとりひとりの葛藤や悩みや反発、挫折と、それを支え合う仲間たちの優しさと強さによって、いつの間にか築き上げられていく絆を、多くの話数を使って細かく掘り下げてくれた。

駅伝メンバーは10人いるが、その全員の心の奥に横たわるのは、自分自身に対する不安やいらだち、そして「自分はなぜ、こんなに苦しみながらも走るのか?」という問いだ。本作は幾度となく、それぞれのキャラクターに「なぜ、走るのか?」を自問自答させ、彼らはその答えを、記録のためだけに走る高校の陸上部に嫌気がさし、暴力事件を起こして陸上を離れていたカケル(蔵原走)、才能がありながらもケガのため挫折を経験したハイジ(清瀬灰二)を筆頭に、それぞれの苦しみや悩みを持つ立場から、ひとりひとりの答えを見つけさせていく。

もちろん、原作小説でもそのあたりはきちんと描かれていくのだが、アニメ版はよりドラマティックにその問いを投げかけているところがまた秀逸だ。彼らそれぞれが個人的な悩みを抱えながらの「なぜ、走るのか?」という問いは、なぜ仕事をするのか、なぜ生きるのかという、観る者の根本的な問いにもしっかりとリンクする。だから、彼らが苦しみながら出した答えが、胸を打つのだ。

脚本、演技、劇伴、そして作画のすべてに見どころがある

同時に、描き込まれた映像や大胆な演出、原作のエピソードをより鮮烈に見せる設定・脚本上のいくつかの変更点により、さらにドラマティックにエンターテインメント性を高めたアニメ版ならではの脚本、演出の力に揺さぶられる。

シリーズ構成・脚本を担当したのは、劇団ナイロン100℃所属の俳優・声優であり、映画『桐島、部活やめるってよ』の脚本家(吉田大八と共同で担当)としても知られる喜安浩平。原作では淡々と結果が語られる箱根駅伝予選会の様子も、たっぷりと尺をとり、仲間同士の絆の美しさや努力の尊さを強調する演出が施されたり、原作にあったカケルの恋愛要素を大胆にカットし、より駅伝にかける情熱にスポットを当てるなど、アニメ『攻殻機動隊 新劇場版』など人間の深みを描く作品で腕を振るった野村和也監督とのタッグは、とても効果的な映像を作り出した。

2クールの前半部分でじっくりと、箱根駅伝を目指すと宣言するハイジと、そんなのは無理だと反発しながらも徐々に駅伝に熱心になっていく他メンバーの気持ちの変化を描いていった展開は、一見、進行がゆるやかすぎると感じるかも知れないところ。だが、それがあるからこそ、後半でガッチリと絆で結ばれたメンバーたちが与える感動が加速度的に強まる。

ただひたすら走るだけになってしまいそうなレースシーンを、各キャラクターにスポットを当てた臨場感あるカット割りや、役者の息づかいによる演技、様々な曲調が用意された劇伴(時には、キャラクターのセリフなしで、映像と劇伴のみで魅せる映画的な演出も!)で、けっして飽きることなく魅せてくれたのも、丁寧な演出あってこそ。また、こうした巧みな演出が際立つのは、クオリティの高い作画があってこそでもある。とくにランナーの走りのシーンでは、個々のフォームの違いや脚がアップになったときの筋肉の動きなど、細かいところにもこだわりが感じられ、走りのリアリティを増していた。

また、本番の箱根駅伝シーンには、本物の日本テレビアナウンサーが実況アナウンサー役で出演。映像にも生の箱根駅伝中継を彷彿とさせるリアルなカメラワークを導入し、駅伝ファンにも見ごたえを提供してくれたことにも、ちゃんと駅伝の素晴らしさを伝えようとする制作者の本気が伝わり、感動を深めた。

声優ファンとしても目が離せなかった、十人十色の魅力的なキャスト

そして、絶妙なキャスティングも見逃せないポイントだった。ハイジ役の豊永利行は今までにない抑えた演技で、ソフトで飄々としながらも芯の強いキャラクターを好演。カケル役の大塚剛央は新人ながらも、言葉少なで頑ななカケルが仲間と触れ合うことで心を開いていく様を、瑞々しく演じてくれた。

王子(柏崎茜)役の入野自由の静かな芝居も新しい魅力を醸し出し、イマドキな双子のジョータ(城太郎)&ジョージ(城次郎)を、どちらの声か区別が付かないほど息ピッタリに演じた榎木淳弥と上村祐翔の熱演も見事。興津和幸演じるクールなユキ(岩倉雪彦)、内山昂輝演じる努力家の神童(杉山高志)らが、新しい引き出しの芝居を見せてくれていたのも印象的だ。

ニコチャン役の星野貴紀、キング役の北沢力、テレビドラマや舞台でキャリアを積んだムサ役の株元英彰ら、新しい魅力を発揮する実力派の役者に出会えたのも、個人的には嬉しい出来事だった。それぞれの役者が、キャラクターを大切に演じていることが、テンポのいい掛け合いからも感じられ、作品の魅力を芝居として体現してくれていたのは、いち声優ファンとして、とても見ごたえがあった。

UNISON SQUARE GARDEN「Catch up, latency」、Q-MHz feat. 日高光啓 a.k.a. SKY-HI「風強く、君熱く。」の疾走感ある軽快な2曲のオープニングテーマ、向井太一による「リセット」「道」の、ハートウォーミングでメロディックなエンディングテーマの起用も、アニメ本編の入口と出口を統一感を持ったまま2クール連続でイメージを保っていて、視聴者としてはとても好感が持てた。(Q-MHzはUNISON SQUARE GARDENのソングライター・田淵智也が結成した作家ユニットだ)

『風つよ』の良さは、細かいところではまだまだあるのだが、「随所に張り巡らされた制作陣のこだわり」そのものが、本作の魅力といっていい。アニメを観たら、ぜひ原作にも触れてほしいし、まだアニメ版を知らない人にも、大いに布教して欲しいとファン心理がつい働いてしまう本作。毎話、泣けること請け合いの本作を、筆者ももう一度、ゆっくり見直してみたいと思う。きっとまた、新しい発見と感動があるはずだから。

TVアニメ『風が強く吹いている』

Hulu、dアニメストアほかにて見放題配信中

Blu-ray & DVDシリーズ好評発売中(Vol.5は5月22日発売)

Blu-ray/DVD Vol.5 初回生産限定版

■キャスト
蔵原 走[カケル]:大塚剛央
清瀬灰二[ハイジ]:豊永利行
杉山高志[神童]:内山昂輝
柏崎 茜[王子]:入野自由
城 太郎[ジョータ]:榎木淳弥
城 次郎[ジョージ]:上村祐翔
岩倉雪彦[ユキ]:興津和幸
ムサ・カマラ[ムサ]:株元英彰
坂口洋平[キング]:北沢 力
平田彰宏[ニコチャン]:星野貴紀

■スタッフ
原作 三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮文庫刊)
監督:野村和也 シリーズ構成・脚本:喜安浩平 キャラクターデザイン:千葉崇洋
キーアニメーター:高橋英樹 向田 隆 音響監督:菊田浩巳 音楽:林ゆうき
制作:Production I.G
企画協力 新潮社

オフィシャルサイト

©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会

原作小説

風が強く吹いている