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伊藤健太郎 初主演舞台で熱演。14歳少年の思春期に揺れ動くこころを描く『春のめざめ』

伊藤健太郎 初主演舞台で熱演。14歳少年の思春期に揺れ動くこころを描く『春のめざめ』

話題のドラマや映画に立て続けに出演し、大きな注目を集めている若手俳優の伊藤健太郎が舞台初主演を務める『春のめざめ』。
この舞台のもとになっている戯曲『春のめざめ』は、ドイツの劇作家・フランク・ヴェデキントが1981年に書いた戯曲で、思春期の少年たちの性への目覚め、生きることへの葛藤、それに対する大人たちの抑圧が赤裸々に描かれている。舞台『春のめざめ』は、KATT神奈川芸術劇場が手がける近現代戯曲シリーズの中の演目のひとつとして、2017年に同劇場で志尊 淳主演で上演されていて、今回はそのシリーズ初の再演となる。栗原 類など一部キャストが初演時と同じ配役で参加し、新たな才能の発掘を目指し実施したオーディションからも新メンバーを起用。その中で、伊藤健太郎は新キャストとして自身2度目の舞台出演となる本公演で初主演を果たした。
初演に引き続き本公演の構成・演出を手がけた白井 晃、主人公・メルヒオール役の伊藤健太郎、オーディションでヒロインのヴェントラ役に選ばれた岡本夏美、初演での好演が話題を呼んだモーリッツ役の栗原 類が登壇した囲み取材でのコメントをはさみながら、初日前日に行われたゲネプロの模様をレポートする。

取材・文 / 松浦靖恵 撮影 / 宮川舞子

自分なりのメルヒオールをつくれたら

フランク・ヴェデキントの戯曲『春のめざめ』をもとに、白井 晃の演出によって新たに構成された舞台『春のめざめ』。寒い冬から暖かな気候へと移り変わる春を思い浮かべてしまうようなタイトルだが、この舞台は思春期の青少年の“性”と“生”をテーマに、子供たちが抱える不安定な感情や大人に対する不信感、他者との違いに気づくことで生まれる自己嫌悪、変化し始めている身体への戸惑いや性への目覚めなど、14歳の生徒たちが抱える葛藤や激しく揺れ動く姿が描かれている。

演出を手がけた白井 晃も囲み取材で「130年も前に書かれた作品ですけど、子供たちの社会との対峙の仕方や性の悩みは、今を生きる子供たちと何も変わっていないんだなということをあらためて感じました」と言っていたが、今まさに思春期の真っ只中にいる人も、かつて思春期を経験した大人も、きっと『春のめざめ』に登場する人物たちの誰かと自分を重ね合わせてしまう場面がいくつもあるはずだ。

稽古期間は約1ヵ月。伊藤健太郎をはじめ、若手俳優たちは白井 晃の厳しい指導に食らいつきながら、自分たちにしかつくれない『春のめざめ』をつくり上げてきた。

伊藤健太郎 僕は舞台経験が少なくて、今回が2回目なので、根本的な舞台での声の出し方や体の動かし方をイチから白井さんに教えていただきました。苦戦する部分もたくさんありましたけど、キャストの皆さんとたくさん話をして、『春のめざめ』という舞台をつくり上げていく期間が本当に楽しくて。白井さんが「健太郎の中にあるメルヒオールをつくってくれ」と言ってくださったことで、どこか気持ちがラクになった部分もありましたし、だからこそ難しい部分もたくさんあるんですけど。自分の中のメルヒオールっていったい何だろうと思ったときに、身動きがとりやすくなった。外枠だけでメルヒオールという人物像をつくろうとしている部分が出てくると、そこを白井さんが見抜いてくれて、そう言われたのはすごくありがたかったですし、そこに向かって頑張ろう、と思いました。

伊藤健太郎が演じる主人公・メルヒオールは、初演時(17)にはブレイク目前の志尊 淳が抜擢されているが、「僕は初演を観ていないので、僕にとっては今回の『春のめざめ』がすべて。自分なりのメルヒオールをつくれたらいいなと思います」と、伊藤は囲み取材でおだやかな表情で意気込みを語っていた。

そして今回の再演でも初演と同じ役(モーリッツ)を演じる、栗原 類。

栗原 類 初演から約2年経ちますが、役者が変われば自然と空気も変わるので、僕もイチから新鮮な気持ちで皆さんと稽古をしてきました。今回のメルヒオールは初演と違う部分がたくさんある。彼の世間に対する見え方も印象も根っこから違うので、そこがすごく面白くて。稽古をするたびにお互いが出すものが違って、そのキャッチボールが楽しかったです。最後はメルヒオールとモーリッツの関係がこの物語のキーのひとつになるので、健太郎のことを信じるという気持ちでずっと稽古をしてきました。そして、僕ら自身がこの芝居を楽しむというのを大事にしたいなって。僕はこの芝居を楽しみます。

降谷健志(Dragon Ash)が手がける劇中音楽は、キャストたちの感情を揺さぶり続けているように見えた

伊藤健太郎が演じるメルヒオールは“子供をつくる方法”を図解入りで説明できるほど、性の知識を頭の中では理解していて、少なからずそれらに対して羞恥心を抱いているせいか、同級生たちよりも少し大人びた雰囲気があった。男子たちが“○○がアレを経験したらしいぞ”などと、性体験したかしないかの噂話で盛り上がっていても、そこに積極的に加わることはせず、少し距離を置いているような生徒だ。そんな彼も親から見ればまだ子供の枠に閉じ込められていて、“優等生でいい子”の自分に窮屈さを感じている。

そんなメルヒオールの大人なのか子供なのかよくわからない立ち位置への戸惑いを、伊藤健太郎は彼と関わる様々なキャラクターとのやりとりの中で距離感をその都度変えながら、メルヒオールが心の中に爆発寸前のマグマのような思いを抱き続けている男の子であることを観る者に感じさせてくれた。

また、降谷健志(Dragon Ash)が手がける劇中音楽は、重低音を場内に響かせ、激しい鼓動を打ち鳴らし、平原慎太郎の振付と相まって、メルヒオールをはじめとする生徒たちを演じるキャストたちの感情を揺さぶり続けているように見えた。

メルヒオールと劇中で一番接する場面が多いモーリッツは、努力をしても成績が思うように上がらず、進級が危ぶまれている落ちこぼれの生徒。将来への不安を抱え、なりたい自分になれない自分、大人の期待に応えられない自分に苦悩し続け、自殺してしまう。

栗原 類 僕が稽古中に白井さんに言われていたのは「抑えるな」です。モーリッツは好奇心がすごくある子で、ものすごく喋る子なんですね。喋る子っていうのは演じる僕の集中力、エネルギーをすごく使うので、(白井さんに)そこは押さえなくていいよと言われたことで、ここはもっとリミッターをはずしていいんだ、もっとエネルギーを使っちゃっていいんだなって思えました。

大人なのか子供なのか。いったい自分はどっちなんだろう

今回、オーディションでヒロイン・ヴェントラに選出された岡本夏美は、初演を観劇したその日の日記に「ヴェントラをやりたい」と書くほど、熱く惹かれた役を射止めたが、「やってみたいなんて軽く言える役ではなかったと、役をいただいて思いました」と囲み取材で言っていた。

女友達と集まっては男子生徒のことや結婚や子供について、興味の延長線で楽しく会話しているヴェントラは、今の時代の女子生徒たちと重なり合う。ありとあらゆることに興味を抱き、「ひと足飛びに二十歳になりたいわ」と、ちょっと背伸びしてみせたり、子供のように親に甘えたりもする。しかし、ヴェントラのあまりにも無邪気な言動や行動が非劇の扉を開ける要因になってしまうのだ。

メルヒオールに向かって「私、親に叩かれたことがないから、叩かれるという感覚がわからないの。私を叩いてみて」と、無邪気にスカートをめくり太ももをあらわにしたヴェントラの姿を見て、押さえつけることのできない衝動に駆られたメルヒオールは彼女の太ももを何度も激しく叩いてしまう。そして、そのときメルヒオールは自分の手を見つめ、叩いた自分の手も痛いのだということに気づく。どんなに知識があっても、どんなに頭の中で想像や妄想を膨らませても、実際に経験してみなければ何も知らないのと同じだということに気づいてしまったメルヒオールは、ある日、偶然出会ったヴェントラと強姦のように肉体関係を結び、彼女を妊娠させてしまう。しかし、タブーを犯してしまった娘が子供を産むことは許されるはずがなかった──。

少しでも子供じみたことをしたり、わがままを言うと、「もう子供じゃないんだから」と怒られ、身体が大人とそんなに変わらないほど成長しても、大人にとって都合が悪いことをたずねれば、「子供はまだ知らなくていい」とたしなめられる。大人なのか子供なのか。いったい自分はどっちなんだ、どっちでもないのかという中途半端なポジションは、とても居心地が悪いものだ。今回、この舞台に立った若い俳優たちも、そんなに遠くない過去に同じような感情や感覚を抱いたことがあるからこそ、その共感を武器にすることができ、自分が演じる役に体当たりすることができたのだと思った。

終演後、キャストたちがステージ前に一列に並んでカーテンコールをしたとき、伊藤健太郎は大きな拍手に包まれながら、最後におじぎをしたあと、きっと無意識にやったことだとは思うが、ふう~っと大きく息を吐いた。人は集中していると自分が呼吸をしていることを忘れてしまうと聞いたことがあるが、息をふう~っと吐いたあとの彼は、ほんの少しだけやわらいだ表情になり、そこでようやく“14歳のメルヒオール”から“21歳の伊藤健太郎”に戻ったように見えた。

舞台『春のめざめ』

東京公演:2019年4月13日(土)~4月29日(月・祝)KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
東広島公演:2019年5月6日(月・休)東広島芸術文化ホールくらら 大ホール
兵庫公演:2019年5月11日(土)〜5月12日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

STORY:
ドイツの中等教育機関“ギムナジウム”で学ぶ優等生のメルヒオール(伊藤健太郎)、友人で劣等生のモーリッツ(栗原 類)、幼馴染のヴェントラ(岡本夏美)。
ある日の帰り道、メルヒオールはモーリッツに「子供の作り方」を図解で説明すると約束する。成績のさえないモーリッツは、学校での過度な競争にたえられず、米国への出奔を企てた。しかし、それが果たせなかった彼は、将来を悲観して自殺してしまう。一方、メルヒオールは半ば強姦のように幼馴染のヴェントラと関係をもつ。
やがて自殺したモーリッツの遺品からメルヒオールからのメモが見つかり、モーリッツを自殺に追い込んだとして両親に感化院へと送られるメルヒオール。その後ヴェントラの妊娠が発覚、彼女の両親の知るところになり、ヴェントラは……。

原作:フランク・ヴェデキント
翻訳:酒寄進一
音楽:降谷建志
構成・演出:白井 晃

出演:
伊藤健太郎 岡本夏美 栗原 類
小川ゲン 中別府葵 古木将也 長友郁真 竹内寿 有川拓也 川添野愛 三田みらの
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良

企画製作・主催 KAAT神奈川芸術劇場

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