山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 58

Column

国立でのイベントを終えて / ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Some Kinda Love」

国立でのイベントを終えて / ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Some Kinda Love」

長く咲き続けた桜も美しく散り、まちは緑に息づき始めた。
樹齢を重ねた木はその風格で圧倒するだけでなく、その根で土を耕し、生きとし生けるもののいのちをつなぐ。
4月6日、7日に行われたこの連載の番外編ライヴを振り返りながら、R&Rの源流を辿り、その先の未来を展望する。


満開の桜並木。まるで天国へと続くハイウェイ。三多摩地区、国立市の大学通りにて。

昨年に続いて、この連載のトーク&ライヴ・イベントが2日にわたって行われた。文化度が高い国立ならではのオーガニック・フードもふるまわれ、オーディエンスはそれぞれの愉しみ方で、プレシャスな時間を過ごしてくれた(と思う)。

Webメディアに文章を書くことは、中空にボールを投げ続けているようなこころの不安定さが常にある。果たしてこれでいいのかと、自問自答は尽きない。日頃、ライヴで直接オーディエンスとコミュニケートして、自らの道筋を判断している身としては、このイベントがもたらしてくれるものは大きい。音楽と言葉の力、そして至らなさを再認識させてくれるから。

オーディエンスの人生に、音楽や言葉はどのような影響を及ぼしてきたのか? 未来に向けて音楽の裾野を拡げていくために、どのような言葉を選び、切り取って、伝えていけばいいのか。彼らが目前に居てくれることで、道筋が見えてくる。

エゴを捨てて、ただの媒介になる。ある種の霊的なインスピレーションを頼りに。ロックンロールから手渡されたものを、誰かに手渡していく。やりがいのある役目。関わってくれたスタッフも、誰ひとり個人の利益のために動いてはいないから、それが清々しい風になって、会場を吹きぬけていく。

ロックンロールの源流を辿ると、アフリカとアイルランドに辿りつく。一方は奴隷として、もう一方は移民せざるを得なかったことにより、アメリカで、哀しみの上に、両者が結びついて、ロックンロールという歓びの音楽が生まれ、その大河は流れはじめた。

20代の終わり頃からしばらくの間、年に半分は日本にいなかった。自分がロックンロールを続けていく上で、この河がどこから流れてきて、どこに行こうとしているのか。それを知りたくて旅を続けた。アフリカは予防注射の都合で行くことが叶わなかったけれど、アイルランドは何度も訪れて、ついに源流と思われる場所に辿りついた。

ヨーロッパの最果て。断崖に大西洋の荒波と強風が打ちつけて、草木さえ満足に生息することを許されない場所。そこにはほんとうになにもなかった。けれど。

なにもかもがあった。

ああ、これで続けていける、と思った。夜になると人々は村のパブに繰りだす。そこで他愛のない話をし、日々を詩歌にたくし、歌を歌う。ともだちのスティーヴンの職業は、詩人。彼の家には電気も水道もない。昼間、海岸を散歩して言葉をつむぐ。それを夜にパブで披露して、ギネスの報酬を得る。居合わせた老人は僕にこう教えてくれた。「町に肉屋や八百屋が必要なように、詩人だって必要なんだよ」。

こういうことを、手渡していきたい。

2日間のイベントを終えて、僕は小さな旅に出た。

ホテルで1969年に書かれた愛の歌を、自分で歌えるように意訳していた。この歌はシンプル極まりないのだけれど、初めて聞いた若いときから「何か」がひっかかっていた。“between thought and expression”= “思考と表現の間”。その単語がひっかかりの原因であることがようやくわかった。思考と表現の間にあるものは、願わくば愛、であってほしい。

人の落下を止めるのは愛だけだ。何も求めず、何も願わず、何も追求しなければ、ぽかんと空いたこころの真ん中にはそれが存在している。クリシュナムルティが言っていたことが今ならわかる。

ロックンロールは僕をここまで連れてきてくれていた。頭はクリアで、霊的で、冴えていた。

The Velvet Underground「Some Kinda Love」(1969)
意訳 : 山口洋

Some Kinds Of Love、マルガリータはトムにこう言った
思考と表現の間に 君のしがない人生がある
そして天候のせいで いつだって君を取りまく状況は変化していく
どんな種類の愛も ロクでもないものばかりさ

Some Kinds Of Love、マルガリータはトムにこう言った
フランスの小汚い小説のように 君は理不尽さと下品さを兼ね備えている
そしてSome Kinds Of Love、君の可能性は無限大かもしれないってこと
見逃していることは いつだって根拠がないことばかりなのさ

Some Kinds Of Love、マルガリータはトムにこう言った
君は退屈でまったく魅力的じゃない
退屈は分割払いで 富を見つけるための直線なんだって
そしてSome Kinds Of Love それはまっとうなビジョンと誤解されているのさ

Some Kinds Of Love、マルガリータはトムにこう言った
君の肩の上にゼリーを置き去りにする 君が最も恐れていることをやって
君の肩の上にゼリーを置いて カーペットの上に放置してやる
思考と表現の間で 犯人にキスをさせ、それをどこかに放置してやるのさ

雑音と俗のない場所で。こころの声を聴き、誰かが天に召され、僕は空に描かれたメッセージを読みとる。自分が霊的であるとき、すべてのことは納まるべき場所に還っていく気がする。

これもまたロックンロールが教えてくれたこと。

トーク・イベントの最後に、サプライズでバンドの40周年を祝う映像が映しだされた。そういうの、とっても苦手だけれど、嬉しかった。ぐっと来た。生まれてきて、この道を歩いてきてよかった。

ありがとう。行けるところまで、生きます。

感謝を込めて、今を生きる。


ヴェルヴェット・アンダーグラウンド / The Velvet Underground
1964年、ニューヨーク州ブルックリン生まれのルー・リードが、ウェールズ出身で現代音楽を学びにNYに来ていたジョン・ケイルと出逢って結成。スターリング・モリソン(g)、モーリン・タッカー(ds)が加入し、本格的な活動を始める。グリニッジ・ヴィレッジのカフェ・ビザールを拠点に演奏していたとき、アンディ・ウォーホルに見出され、彼のブロデュースで1967年『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ / The Velvet Underground and Nico』でデビュー。性的タブーやドラッグにまで切り込み、人間の内面を深く抉った歌詞、前衛的で挑戦的なサウンドは、デヴィッド・ボウイやストゥージズ、ドアーズ、パティ・スミスをはじめ、その後のパンク〜ニューウェーヴ、オルタナティヴと呼ばれるロック・シーンに絶大な影響を及ぼした。発売当初、商業的成功とは無縁だったデビュー作は、後にロック史に残る名盤に。1970年発表の4thアルバム『ローデッド / Loaded』を最後に実質的にバンドは解散。バンドの中枢を担ったルー・リードはソロとして活動、ワイルドサイドを歩き続けながら多くのフォロワーを生んだ。「Some Kinda Love」は1969年発表の3rdアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド / The Velvet Underground』に収録。1996年、ロックの殿堂入り。ローリング・ストーン誌が選ぶ「歴史上最も偉大な100組のアーティスト」第19位。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。2019年2月公開の映画『あの日のオルガン』(監督:平松恵美子、主演:戸田恵梨香、大原櫻子)でアン・サリーによるカヴァー「満月の夕(2018ver.)」が起用されたことでも話題に。5月5日千葉を皮切りにソロ・ツアー“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”後半戦がスタートする。会場では2018年ツアーのライヴCD『日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく』、2018年12月22日HEATWAVEライヴを収めた『The First Trinity』の発売も。6月5日には今年2回目となるHEATWAVEの実験的ライヴ“HEATWAVE SESSIONS”を、6月28日には2011年東日本大震災後から仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと続けている“MY LIFE IS MY MESSAGE”を、横浜で開催する。

オフィシャルサイト

ライヴ情報

ARABAKI ROCK FEST.19
THE ARABAKI ROCKERS SATURDAY NIGHT ROCK’N’ ROLL SHOW 1969→2019

4月27日(土)みちのく公園北地区「エコキャンプみちのく」HANAGASAステージ
出演:池畑潤二(ROCK’N’ROLL GYPSIES/HEATWAVE)
陣内孝則 / 澄田健 / 百々和宏 / 穴井仁吉 / 田中元尚(TH eROCKERS)
山口洋 / 細海魚(HEATWAVE)
花田裕之 / 下山淳 / 市川勝也(ROCK’N’ROLL GYPSIES)
仲井戸”CHABO”麗市 / 土屋公平 / 早川岳晴(From麗蘭)
ARABAKI ROCK FEST.19 オフィシャルサイト

“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”
5月5日(日)千葉 Live House ANGA(アンガ)*アンガ22周年
5月11日(土)長野 ネオンホール
5月13日(月)豊橋 HOUSE of CRAZY
5月15日(水)奈良 Beverly Hills(ビバリーヒルズ)
5月17日(金)福山 Boggie Man’s Cafe POLEPOLE(ポレポレ)
5月19日(日)高知 シャララ
詳細はこちら

HEATWAVE sessions 2019 ②
6月5日(水)横浜 THUMBS UP(サムズアップ)
詳細はこちら

MY LIFE IS MY MESSAGE 2019
Brotherhood

6月28日(金)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
出演:山口洋(HEATWAVE)×仲井戸”CHABO”麗市
詳細はこちら

VORZ BAR & GROOVE COUNCIL presents MIX UP&BLEND vol.3
7月13日(土)仙台市 市民活動サポートセンター B1F シアター
出演:山口洋(HEATWAVE)/ 藤井一彦(THE GROOVERS)/ 大江健人
Opening Act:堀下さゆり&佐山亜紀
詳細はこちら

vol.57
vol.58
vol.59