連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 2

Interview

草刈正雄は朝ドラ『なつぞら』の“裏の主役”!?視聴者の琴線に触れる役に対する手応えを語る

草刈正雄は朝ドラ『なつぞら』の“裏の主役”!?視聴者の琴線に触れる役に対する手応えを語る

節目となる100作目、そして平成最後にして令和最初の“朝ドラ”こと連続テレビ小説『なつぞら』。スタート初週からヒロイン・なつの少女時代を演じた粟野咲莉の名演、そして草刈正雄扮する頑固じいさん・柴田泰樹と心を触れあわせていくシークエンスが大反響を呼び、好調な滑り出しを見せている。“本役”の広瀬すずも登場した「北海道編」も佳境を迎え、ますます注目を集めている。ヒロインはまぎれもなく広瀬の演じる奥原なつだが、裏の主人公とも言えるくらい存在感を放っているのが、まさしく草刈演じる泰樹じいさんだ。一見、頑固ながら根は優しく、実は甘いモノが大好きというチャーミングなキャラクターと、要所要所で紡ぎ出される名セリフの数々で、お茶の間を魅了中。話題となった大河ドラマ『真田丸』の真田昌幸と双璧をなす役どころに対する思いや、演じていて感じている手応えなどを、草刈に答えてもらった。

取材・文 / 平田真人

とてつもない努力と何があっても諦めない精神力。開拓者たちの魂を心に、柴田泰樹を演じています。

草刈さんが演じられている柴田泰樹は、『なつぞら』に宿された「開拓」というフレーズの体現者でもあると思いますが、この言葉をご自身はどう落とし込んでいらっしゃるのでしょう?

撮影に入る前に、依田勉三(よだ べんぞう)さんという開拓者(※『なつぞら』本編でも紹介された晩成社の代表発起人でもある)の方のドキュメンタリーを偶然見ましてね。「開拓」と口にするのはたやすいですけど、本当に大変なことなんだなと少なからず感じました。ほとんどの開拓者の方が志半ばで挫折して、故郷に戻っていった中、勉三さんの一団は粘り強く開墾を続け、礎を築きました。…何にしても、開拓というのは並大抵のことじゃないぞと、しみじみ思いました。泰樹さん自身もそうなんですけど、のちのち(広瀬すず演じるヒロインの奥原)なつが東京へ出て行ってアニメーションをやるというのも、僕から開拓精神を受け継いだからこその選択なのかなぁ、と。セリフにはありませんけど、とてつもない努力と何があっても諦めない精神力といったところを、ドキュメンタリーなどから感じ取れたこともあって、それを心して柴田泰樹という人を演じています。
この現場に入ってうれしかったのは、大河ドラマ『真田丸』(2016年)のスタッフがたくさんいたことですね。演出家も3人(木村隆文ディレクター、田中正ディレクター、渡辺哲也ディレクター)一緒ですし。それで…大森(寿美男)さんの台本を読んだ時に、「あ、これは僕がやっていた“真田”の雰囲気が入ってるな。楽しそうだな」と思いましてね、小躍りしてよろこびました(笑)。セリフの中にも、『真田丸』で(真田)昌幸が言っていたフレーズが入っていたりする遊び心もそうですが、頑固じいさんの役というのが初めてなもので、僕もそういう年齢になったんだなぁという感慨もありまして。究極の頑固ジジイみたいな役どころなものですから、思いきり楽しめるかなと思いましたね。

第1話より ©NHK
戦地から帰還した剛男の横に立つ見知らぬ少女(なつ)のことを見つめる泰樹。

『真田丸』では夫婦役だった高畑淳子さんが演じていらっしゃる小畑とよとのやりとりも、ニヤリとさせられますね(笑)。

あれはね、大森さんが“狙ってる”と思います(笑)。演出の木村さんも、高畑さんと僕がリハーサルをしているとニコニコしていらっしゃってね。でも、役者にとってみると、そうやって遊び心をきかせた芝居ができるというのは、すごくうれしいことなんです。まさしく役者冥利に尽きますね。

高畑さんと再びご一緒されて、新たに感じられたことなどございますか?

そうですね…高畑さんも見ての通りの女優さんですから、彼女とのシーンは安心して芝居ができるんですよ。いや、高畑さんに限った話じゃなく、泰樹を演じているのは本当に楽しいですね。(第3週で農協との諍いが起きた時、なつに向かって言ったセリフの)「わしを調略する気か」だとか、時々、昌幸を彷彿させるセリフが入ってくるのが、何ともおかしいんですよね(笑)。

その泰樹さんを少しずつ変えていったとも言えるのが、ヒロインの奥原なつですが、演じている広瀬すずさんとご一緒されていて、いかがでしょうか?

本当にビックリするくらいプロフェッショナルですね。よく言われますけど、朝ドラのヒロインは本当に大変なんですよ。出ずっぱりだからセリフの量も多いですし。でも、すずちゃんはいつでも平気な顔をしているんですよね。「すごいな、この子の根性は」と思います。どんなこともやりますし…何よりしっかりしているから、一緒に芝居していて安心するんですよ。僕にとっては、なつが彼女で本当にラッキーでした。

泰樹さんは酪農家ということで、牛や馬とのシーンが多いですが、動物が相手というのはやはり大変ではないかと思われます。

そうですね、特に搾乳がなかなかうまくいかなくてね。馬車を引いたり、乗馬のシーンというのは、元が男の子なものですから楽しんでやれるんですけど、搾乳は難しかったですね。女性の方がうまいのかな…これまた、すずちゃんが、すごく上手なんですよ。一方、僕とか小林(隆=柴田牧場で働く戸村悠吉役)さんはなかなかうまくいかなくて、ずいぶん時間がかかりました。乳が出るようになったと思ったら、バケツの中にうまく入らなかったりして、なかなかコントロールが大変なんです(笑)。

第4話より ©NHK
「ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る。そのアイスクリームはお前の力で得たものだ。お前なら大丈夫だ。堂々とここで生きろ。」泰樹の言葉に涙するなつ。

ちなみに、十勝のロケで思い出深いことは何でしょう?

僕は北海道でのロケが大好きなんですよ。あの広大な雰囲気が本当に素晴らしくて、楽しみました。宿からロケ地まで移動に3時間ぐらい掛かるんですけど、眺めがいいから全然飽きなくてね。食べ物も美味しいですし(笑)。

柴田牧場のオープンセットは、もともと酪農家さんの敷地なのでしょうか?

そうです。元からある建物のほかに、美術(スタッフ)さんたちが新たに建てたものもあって。昭和の雰囲気が出ているなと思いました。

その広大な北海道の景色や空気が、今回のお芝居に滲んでいるといったことはありますか?

そういった要素が直接、役を変えたということはないですけど、馬車の引き方や搾乳のやり方を教えてくださる現地の方々とお会いできたことが、僕としてはうれしかったですね。人のスケールが大きいんですよ。そういったところを知ることができたので、「あぁ、良かったんだ、これで」と、僕としては気持ちが楽になりましたね。

僕も歳をとって涙腺が緩くなったところがあって、胸に来るセリフがあると、いちいち涙ぐんでしまうんです(笑)。

第一週の“チビなつ”とアイスを食べるシーンからして、泰樹さんのセリフは要所要所でズシンときまして…語録ができそうな勢いです(笑)。

本当に…なかなかいいセリフを言わせていただいているんでね、ありがたいなと思います。ただ、自分としては役者としても年齢が年齢なものですから(笑)、そういった役回りがくるようになったのかな、なんて思っていますけどね。そこも元をたどっていくと、やっぱり『真田丸』で真田昌幸を演じたからこそ、今回の『なつぞら』の柴田泰樹につながっているんです。そこは本当にありがたいですし、だからこそ僕はとびきり楽しもうというふうに考えているんですよ。

その含蓄のあるセリフを書かれている大森寿美男さんの脚本については、どのような思いがありますか?

僕も実は、あの(第一週の)“アイスのシーン”は台本を読んだ時点で泣きました。そこだけに限らず、台本を読んではオロオロと涙を流していて(笑)。そういうシーンが大森さんの台本には、たくさん描かれているんですよね。それと…『なつぞら』では、ほとんどアドリブを入れてないんですけど、それが必要ないくらい、大森さんの描かれる会話は絶妙だということです。もっとも方言もあるので、アドリブを加えちゃうとワケがわからなくなっちゃいますしね。

一見、頑固な泰樹さんの“ギャップ萌え”要素として、甘いモノに目がないところが挙げられますが、草刈さんご自身は…?

僕も甘いモノは好きですよ。お酒も飲みますけど、甘いモノも…大好きとまではいかないですけど、結構食べる方だと思います。そこは特にアテ書きというわけでもなさそうですけどね。

第9話より ©NHK
「どうして私には家族が居ないの?バカ野郎!チクショー!!」と泣きながら怒るなつを「もっと怒れ!」と抱きとめる泰樹。

そうでしたか…。ちなみに、草刈さんからご覧になって泰樹さんのどこに魅力を感じるのでしょうか?

泰樹さんって、僕とは真逆の人なんですよ。僕はイジイジとしてしまう方なので、泰樹のようにデカい器の人に憧れがありましてね。なので、芝居ではあるんですけど、彼のような役を演じられることが、とても楽しいんです。それは真田昌幸にも言えることだったんですけど、自分とは対照的だからこそ惹かれるんでしょうね。

そんな泰樹さんのコアとなっている部分は、どういったところだと分析されていますか?

それはやっぱり家族でしょうね。僕は若い時、(『渡る世間は鬼ばかり』などで知られるプロデューサー)石井ふく子さんのホームドラマによく出してもらっていたんですけど、演じていくにつれ本当の家族のようになっていくのが面白くて。そういう経験も踏まえまして、『なつぞら』でも若いころのことを思い出しているんですが、朝ドラのいいところは放送だけでも半年間、撮影になると1年ぐらい時間をかけられるところにあるんですね。昔の連続ドラマは2クールが当たり前で、それだけの期間をかけて一つの役と向き合えるというのは、俳優にとってすごくうれしいことなんです。それをまた、この年齢になって体感できるのが、ありがたいですね。食卓を囲むシーンなどでも、会話がすごく自然になってきますし。そういう意味でも、貴重な経験をさせてもらっていますね。

酪農においては“弟子”であり、柴田家の一員としては孫のようでもある、なつがアニメーションを志して上京していくことになるわけですが、離れた地で奮闘するなつに、泰樹としてはどんな思いを抱いていくのでしょうか?

ちょっと先の話になりますけど、遠くからいちいち心配して、その度が過ぎてしまうっていうね(笑)。でも、そういう泰樹の人間くさいところが、僕は好きで。それこそ上京していくなつと別れるシーンは、大森さんがまたいいセリフを書いてくださったので、僕は必要以上に無理することも苦労することもなく、そのまま心を入れることができたという感触がありますし、すずちゃんも力のある女優さんですから、なつとして素晴らしい旅立ち方を見せてくれたので、そこは楽しみにしてもらえればと思います。

第12話より ©NHK
天陽の家を後にするなつと泰樹。

今のお話を踏まえると、北海道編が終わっても泰樹さんはちょくちょく登場される、ということですね。

なつが上京してからの展開がまた面白いんですけど、舞台が東京に移っちゃうから、もう泰樹が登場するシーンはないかなと思っていたら…あることがきっかけで東京に行っちゃうという(笑)。そんなふうにね、ちょこちょこと顔を出すんですけど、どういうふうに最後まで展開していって完結するのか、僕自身も新しい台本ができあがってくるのを楽しみにしていまして。それと…100作目だから、というわけでもないですけど、現場もすごく力が入っているんですよ。美術(のスタッフ)さんもそうですし、メイクさんにしても…つくる側のエネルギーも本当にすごい。僕の衣装にしても、ウエスタンみたいなハットをかぶっていますけど、ああいうのも衣装さんや美術さんが寝ずに考えてくれたらしいんですよ。そういう気持ちがうれしいですし、その情熱や熱量みたいなものは、画面からも伝わっているんじゃないかなと思います。

実際、泰樹さんの生き方や言葉が視聴者の反響を呼んでいます。

本当にね、大森さんがたくさん響く言葉を書いてくださるものですから(笑)。どれも素敵なセリフなので、一つ挙げるのも難しいんですけど、きっと視聴者にも伝わるだろうなと、演じている時点で感じていたんですよ。それもあって、本当に大事な役をいただいたなと思っていますが、僕も歳をとって涙腺が緩くなったところがあって、胸に来るセリフがあると、いちいち涙ぐんでしまうんですよ(笑)。まあ、そこはわき出る感情に素直になって、深く余計なことを考えすぎず、素直な気持ちを芝居に滲ませたいなと思っています。

冬季・十勝ロケ特集
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草刈正雄と清原翔の心に焼き付いた北海道の冬景色。 4月放送朝ドラ『なつぞら』十勝ロケ便り

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2019.02.10

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

草刈正雄

1952年9月5日生まれ、福岡県出身。O型。
1970年、資生堂が男性化粧品ブランドとして初めて発売した商品『MG5』の広告で、衝撃的なデビューを飾る。その後、映画、ドラマ、舞台と話題作に続々出演。近年、NHK大河ドラマ『真田丸』をはじめ、ドラマ、舞台を中心に精力的に活動している。

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