連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 3

Interview

ヒロインから四半世紀、母親役で朝ドラに帰ってきた松嶋菜々子。『なつぞら』を通じて深まった想いを明かす

ヒロインから四半世紀、母親役で朝ドラに帰ってきた松嶋菜々子。『なつぞら』を通じて深まった想いを明かす

節目となる100作目、そして平成最後にして令和最初の“朝ドラ”こと連続テレビ小説『なつぞら』。スタート初週からヒロイン・なつの少女時代を演じた粟野咲莉の名演、そして草刈正雄扮する頑固じいさん・柴田泰樹と心を触れあわせていくシークエンスが大反響を呼び、好調な滑り出しを見せている。
放送第三週となる4月15日(月)からは、いよいよ“本役”の広瀬すずが登場。北海道での「青春篇」を清々しく描き、ますます注目を集めている。その広瀬が演じる奥原なつが暮らす柴田家の母親にして、なつの育ての親である富士子を、かつて自身も朝ドラ『ひまわり』でヒロインを務めた松嶋菜々子が演じている。約四半世紀ぶりの朝ドラで、深まった想いとは何だったのか? 撮影を通じて感じたことや広瀬とのエピソードなどを、ぞんぶんに語ってもらった。

取材・文 / 平田真人

朝ドラから始まった私の女優人生。歩んできた時間は長かったような、短かったような──。

朝ドラはヒロインを務められた『ひまわり』(1996年前期放送)以来の出演となりますね。

リハーサルの香盤表を見るたびに、ものすごいスケジュールをこなしていたことを思い出します。今、(広瀬)すずちゃんがまさにヒロインとして奮闘していますが、スケジュールの過密さに懐かしさを覚えているという…(笑)。あの当時の自分を振り返ると、やはり、あの20代の時だったからこそ、「とにかく走るしかない!」と、がむしゃらに取り組めたんですよね。そんな当時の必死さを懐かしみながら、「なつぞら」の現場に臨んでいます。

『ひまわり』から『なつぞら』までのインターバルは四半世紀近くありますが、その間に外側からご覧になっていた朝ドラと、こうしてまた内側から見るのとでは感覚的な違いがあったりするのでしょうか?

どんな時も朝ドラは話題に上がって、「今はこういう話で、ここが面白いんだよ」ということを耳にしてきたように思います。『ひまわり』から約四半世紀が経っていますが、今も変わることなく、みなさんの生活の一部として毎朝の15分間を楽しみに観てくださることに歴史を感じますし、再びお声がけいただいて、自分が母親役を演じていることも感慨深いですね。当時、「次に朝ドラに出る時は母親役だね」「それなら、だいぶ先かな」という話をスタッフさんとしていたのですが、それが現実になったことが信じられなかったりもします。自分が歩んできた時間が長かったような、短かったような──。本当に、朝ドラから私の女優人生が始まったので、25年近い時間を思い返すと、区切りと言いますか、ひと枠の期間として自分の中に落とし込めている気がします。

第8話より ©NHK
姿を消したなつを心配し、警察を訪ねる柴田家。

しかも、『なつぞら』は朝ドラ100作目という節目の作品でもありますね。

節目の作品にお声がけいただいたのはとても光栄ですし、まだまだこの先、新しい元号「令和」になっても、朝ドラはどんどん面白い作品をつくり続けていくと思っています。その幕開けとして、朝ドラらしく「見て落ち着く」「応援できる」「ほのぼのとする」といった温かい気持ちをお届けすることで、新しいスタートをきる作品になれたら嬉しいですし、そんな機会をいただいたことに感謝しています。

では、『なつぞら』で演じられていらっしゃる柴田富士子という役柄について、思いをお聞かせいただければと。

3週目の放送で、富士子が自分の母親に対する思いを話す長めのシーンがあるのですが、その時に、(『ひまわり』で母親役だった)夏木マリさんのことを思い出していました。当時も同じように家族に対して話をする中で、母が娘に想いを伝えるシーンがあったんですね。その役目を今は自分が担ってはいるけれど、「どこまで自分が表現できるのだろうか、はたして、できたのだろうか?」とグルグルめぐるものがありました。ただ、どんなに考えたところで私にできることは変わらないので、今の自分が感じるままに表現すればいいんだというスタンスで、お芝居に取り組んでいます。
富士子というキャラクターについては、戦災孤児で試練を背負っているなつが、この先どうやって自分で人生を切り拓いていくかがメインのストーリーであることを踏まえて、母親としては娘に新たな試練を与える必要はないと思っています。なつにとって本当の母親ではありませんが、どれだけ彼女が安心できる愛情を注げるかを一番に考えて接しているのが富士子なのだろうなと、とらえているので。もちろん、お互いに遠慮や葛藤もありますが、そういった感情も素直に表現していきたいんですね。
それは、自分がこれまで子育てに向き合ってきた時に日々考えてきたことがベースとなっているように思っていて、今まで自分が一生懸命にやってきたことを信じて、それを活かせればいいと。ちょっと迷いながらも自分を励ましつつ自信を持ってるように演じさせていただいています。

富士子という人を俯瞰して見た時、どんな女性像に映りましたか?

生きていた時代や環境もありますが、「女の幸せは、年ごろになったら伴侶を見つけ、結婚をして、子どもを産み育て、普通にご飯が食べられて、家族みんなが笑っていられたら幸せ」というのが、富士子の人生観なんですよね。1人の母親として共感できる部分もありますが、時代を現代に移すと、女性も社会進出をしていますし、どちらかという娘の夕見子(福地桃子)が言うことの方が感覚的にしっくりくるところもあります。ただ、富士子の考える女性の幸せは、『なつぞら』の時代では理想に近いものだと思うので、そこには疑問を抱かず、富士子としては夕見子に対して「何を言ってんだべさ、この子は」というスタンスが自然な流れのような気がしています。

第9話より ©NHK
「どうして私には家族が居ないの?バカ野郎!チクショー!!」と泣きながら怒るなつを「もっと怒れ!」と抱きとめる泰樹。

そんな松嶋さんの目に、今回のヒロインの広瀬すずさんはどう映っているのでしょう?

しばらくぶりに柴田家でのシーンをまとめて撮った時、すずちゃんが「久しぶりに会えてうれしい。何だかホッとする〜」って言ってくれたんですけど、私も同じ思いでした。3週間くらい撮影で一緒になることがなかったんですが、そういう時に気になるのは「体調、大丈夫? ちゃんと食べてる? 風邪はひいてない? 気をつけてね」って、身体や健康のことばかり(笑)。朝ドラは毎日放送されるということもあって、何しろ撮る量が多いんです。単純に計算しても6日間で90分もあるわけですから、どうしても、特にヒロインのスケジュールは過密になってくるんですよね。逆に言うと、朝ドラを乗り越えれば怖いものはなくなる、と言われているくらいで…。でも、それだけ心身が鍛えられるということでもありますし、すでに経験豊富なすずちゃんにとっても新たな環境に身を置くことで、さらに経験値が増えるんじゃないかなと思っています。

一方、少女時代のなつを演じた粟野咲莉さんの名演も光りました。松嶋さんはどのように思われたのでしょうか?

咲莉ちゃん本人も、なつのようにすごく大人びていて、周りに気配りができて細かく物事を考えている子でした。本当に「精神年齢は何歳なんだろう?」と思わせるところと、戦災孤児として苦労したことで大人に対して計算っぽく見えてしまうこともある、なつの姿と重なって見えた時は、本当に感心しました。かと思うと、お芝居が上手にできて、スタジオに来ていた本当のお母さんに抱きつく姿は無邪気でとても可愛らしくて(笑)。
お芝居にすごく一生懸命なので、本人が納得いかないシーンなどは「もう1回やらせてください」と申し出たり、食べ方ひとつにしても、すごくいろいろと考えて来ていて意識が高いです。子どもはちょっと気になることがあると、そっちに意識が向いて集中力を欠いてしまうことがありますよね。けれど彼女は、食事のシーンでもお口の中が見えないようにとか、すごくいろいろなことを考えながらお芝居に取り組んでいて。その姿を見てひたすら感心していました。

もしも、3作目の朝ドラ出演の機会があるならば、やっぱり、おばあちゃん役でしょうね(笑)。

北海道・十勝の方言で話すセリフも、富士子さんの人柄を柔らかく見せているようにも思いますが、いかがでしょうか?

自信はないです。けど、全国の視聴者のみなさんが聞き取りやすく極端な表現にならないように方言指導の先生も考えて下さって、抑えているところもあるんですね。北海道の方言に慣れ親しんだ方が耳にすると少し違和感もがあるかもしれません。けれど、時に見せる激しい感情なども十勝の言葉になるからこそ、少し柔らかく聞こえるのかなと思っているんですね。地元の方々の独特の温かい雰囲気は、方言を話す環境に生まれ育ったことにも通じている気がしていて。そう思うと方言で話すのは、すごく奥が深いことなんだなと実感しています。
ちょっと余談になりますが…マイナス30℃の中で息をたくさん吸うと肺が凍りそうというか、息苦しくなってしまいますよね。これは私の東北に住む親戚たちを見ていて勝手に抱いた感想なんですが、あまり声を荒げないと言いますか、一気にまくしたてることが少ないイメージがあるんです。言葉の響きひとつでつくられる人となりもあるんだなと、今回の『なつぞら』であらためて感じたりもしました。

言葉、というところでは、大森寿美男さんの脚本の力も大きいと思います。どのように読みとっていらっしゃるのでしょうか?

新しい台本をいただくと、すぐにでも読みたくなるくらい面白いです。ストーリーはもちろんのこと、会話のやりとりが絶妙でちょっとしたことでもテンポがすごく気持ちいい。そこに“朝ドラならではの明るさ”を加えていらっしゃるんじゃないかな、と思っているんです。一方で、物語や人物それぞれの心の動きは緻密に計算されていて、わかりやすくもあり、明るくもあり、大森先生の力量を遺憾なく感じさせてくださる素晴らしい脚本です。
たとえば…柴田家のシーンで、夕見子から「そんなこと言っているから、お母さんはつまらないんだ」と言われた時に、夫の剛男(藤木直人)が「それはお前のためを思って、つまらないことを言っているんだ!」と注意し、そこですかさず、富士子が「あなた、つまらないと思っていたわけ、私の話が?」とツッコミを入れるのですが、このやりとりがいくつかのシーンで繰り返し出てくるんですね。いかにも「ここでドンと笑わせる」とかではなくて、芯をとらえた話をしている最中にも、軽いやりとりがポンポンと入ることで、家族の会話っぽさが増してクスッとなるんです。実際、家族と話していると、突然関係のないことを言ったり、脈絡のない会話になったりもするじゃないですか。話を流してみたり、うるさいと言ってみたり、ツッコんでみたり──その絶妙な会話のやりとりが、毎回とても“効いて”いるような印象があります。

第18話より ©NHK
「母さんはどうして父さんと結婚したの?」というなつの問いに「あら、なつには父さんの魅力がわかんない?」と富士子。

では、『なつぞら』という作品そのものの面白味は、どういったところに感じているのでしょう?

大森先生が描かれる『なつぞら』が持っている雰囲気そのものが、「朝に見たい」と私に思わせてくれるんです。もちろん内容もそうですが、なっちゃん=すずちゃんのかわいい顔を見ると元気になりますし、北海道という舞台の背景、空ひとつにしても本当に爽やかだなぁと感じるんですね。人って、朝目覚めてカーテンを開けた時に天気がいいと、「あ、今日はいい天気だな」と、ふっと心が軽くなることがあると思うんですけど、『なつぞら』はまさにそういう気持ちにさせてくれるドラマなんです。なつという女の子が試練を背負ってはいるんですが、周りに支えられながら一生懸命に生きる姿が胸を打ちますし、「寒い地方では思いついたことを言い合うんだ。でも、傷つけるために言い合うんじゃなくて、心を開いて、お互いに本音を見せ合って温かくなって、励まし合うんだ。ケンカしているんじゃなくて、会話を楽しんでいるんだ」という泰樹さん(草刈正雄)の言葉に凝縮されているように、家族の温かみや心を見せ合うってどういうことなんだろう? 近所の人たちとふれあうって、どういうことなんだろう──と、昔ながらのいい部分がたくさん描かれているんですね。でも、見どころという意味では…全編だと思います(笑)。

全編が見どころであることを踏まえつつ…富士子さんが自然に、なつのことを家族だと感じたシーンを挙げるなら、どこになるんでしょうか?

そうですね…なっちゃんが成長してすずちゃんになってからは当然のように一緒に食卓を囲んでいますし、酪農の話をしたり、その中で遠慮なく自分の意見も言ったりするんですけど、優しい子なので、言い過ぎたと思うと「あ、ごめん!」って、すぐ謝っていますね。考えてみると、日常風景の「いってくるね〜」「いってらっしゃ〜い」といった要所要所の何気ないやりとりに、家族だなと感じられる部分がたくさんあります。なつは何か物事が起こった時に、母親の富士子にすべてを相談できるのか、まず自分の中でじっくりと考えを練ってから話すんですよね。そこが母親としてはちょっと淋しいというか、気兼ねなく悩みを話してほしいですよね。家業である大事な酪農のことは家族としてお互いにキチッと話し合い、農協と泰樹さんの関係についても、自分の意見をはっきり伝えるところは、家族らしいなあと感じています。

第23話より ©NHK
十勝の酪農を発展させようと頑張っているなつたちのために、演劇大会の会場でアイスクリームを配りたいと相談する富士子。

もし3作目の朝ドラ出演があるとすれば、どういった機会になりそうでしょうか?

やはり3作目は、おばあちゃん役ではないでしょうか(笑)。また20年後なのか、どうなるかはわからないですが、お声がけいただけるならば、ぜひやらせていただきたいと思っています。自分の私生活の軸と朝ドラの波が似ているといいますか、子育てを経験してから、母親役をいただく機会が多くなり、独身時代とは違う思いで演じることができるようになったんですね。そうして少しずつ積み重ねてきたところで、『なつぞら』に参加できたことは、私の中でちょっとした運命めいたものでもあります。『ひまわり』のヒロインに決まった時は、どちらかというとその役割を与えていただいた感じで、撮影をしていく中で自分の気持ちが「この先も女優業をやっていきたい」と動いたんですね。「こんなにお芝居が下手ではいけない、もっともっと頑張って自分をどうにかしないと」って、女優という仕事にベクトルを向けた結果、人生を変えてくれたという意味ですごく運命的です。そんな思いのある朝ドラなので、いつの日か3作目に呼んでいただけたら幸せですし、すごく光栄だと思っています。

冬季・十勝ロケ特集
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2019.02.09

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

松嶋菜々子

1973年10月13日生まれ、神奈川県横浜市出身。A型。雑誌やCMなどでモデルとして活躍後第54作の連続テレビ小説『ひまわり』の南田のぞみ役で初主演。以降、連続ドラマ『魔女の条件』『救命病棟24時』シリーズ、『やまとなでしこ』『家政婦のミタ』など、多数のヒット作に出演。映画でも『リング』『眉山』『祈りの幕が下りる時』など、話題作に出演。現在、NHK連続テレビ小説『なつぞら』にヒロイン奥原なつ(広瀬すず)の育ての親である柴田富士子役を演じている。6月7日公開の映画『町田くんの世界』(配給:ワーナーブラザーズ)では、主演の町田くんの母で出演。

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