Interview

「“再現”が脚本や演出の主軸ではない」吉谷光太郎(演出家・脚本家)×横川良明(ライター)2.5次元対談 前編

「“再現”が脚本や演出の主軸ではない」吉谷光太郎(演出家・脚本家)×横川良明(ライター)2.5次元対談 前編

「2.5次元舞台」という言葉が生まれて久しい。今やテレビ番組や一般誌に取り上げられるなど衆目にふれる機会も増え、限定的なムーブメントとは言えない様相を呈している。
一方で、どんどん進化・多様化する2.5次元シーンに対し、その解説は「原作を忠実に再現する」という初期の概念から更新できていない側面も。周辺からのネガティブな先入観もいまだ根強い。
そこで今回は、ミュージカル『スタミュ』、『ミュージカル封神演義-目覚めの刻-』、舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌』など数々の2.5次元舞台を手がける演出家・脚本家の吉谷光太郎と、2.5次元シーンを取材するライター・横川良明が対談。まずは改めて2.5次元を理解するために、前編ではライター・横川が聞き手となり、吉谷流「2.5次元舞台のつくり方」を紐解く。

構成 / 横川良明 撮影 / 冨田望

一番、その作品に興味のない人間になって見ることで、作品の魅力が明確になる

横川 まずは2.5次元舞台のつくり方についてお話を聞いていきたいんですけど、吉谷さんの場合、脚本を書く段階でまず原作の存在はどれぐらい意識するのでしょう?

吉谷 それはもう100%意識しますね。まずは原作を見て、というところから入るので。

横川 そのときの視点はつくり手としての視点ですか? それともファンがどういうポイントが好きなのかを読み解くつもりで見ますか?

吉谷 1回目は何も考えず、一般の読者なり視聴者と同じ感覚で見て。必ずもう1周はするんですけど、2回目はどんなふうに舞台にすればいいだろうっていうつくり手の視点が入る感じですね。

横川 2回目で変わるんですね。

吉谷 舞台化されるぐらいなんだからきっと面白い作品なのだと思いますが、でも、脚本を書く人間が最初からそこを信奉しすぎると良くない気がして。気持ちとしては、一番その作品に興味のない人間になったつもりで見ますね(笑)。

横川 そうすると見え方も変わってくるんですか?

吉谷 変わります。敢えて疑って見ることで、この作品の魅力が何なのか明確になるんです。

横川 そこなんですけど、多くの作品の場合、2~3時間の上演尺に対して圧倒的に原作の方がボリュームが大きいじゃないですか。それを決められた尺にまとめるには、省略や抜粋をしなくちゃいけない。そのときに、物語のコアとなる部分ってどうやって決めるんですか?

吉谷 結構、そこは自分が引っ掛かってくるものというか、自然発生的に決まってくるというのが正直なところなんですよね。

横川 その基準は、吉谷さんから見て面白いということですか? それともお客さんが面白いと思うところですか?

吉谷 まずは自分ですね。やっぱり自分が面白いと思うものを目指した方がアイデアも膨らむし、作品としても広がるんですよ。そして、それがお客さんが面白いと思うところとズレていないと信じたい(笑)。

2.5次元をつくる上で、男性向け/女性向けはそこまで意識しない

横川 そこがまた面白くて、たとえばミュージカル『スタミュ』なんかを拝見していても、ちゃんと女性の観客が見て喜ぶポイントが盛り込まれている気がするんですね。男性の吉谷さんがどうしてそのあたりの感覚をこんなにちゃんと理解できるんだろうと不思議に思うこともあります。

吉谷 僕自身、女性の感覚は圧倒的にないと思っています。たとえば昔、ある惹かれ合うキャラクターがいて、僕はそのふたりが手をつないでいる方がグッと来ると思って演出をつけたんですけど、女性スタッフに言わせると離れている方が断然名シーンだと。そういう感性の部分での男性/女性の違いを正確に理解できている自信はない。ただ、つくる上で男性向け/女性向けを意識することは、そこまでない気がしているんです。

横川 そのお話、ぜひ聞かせてください。

吉谷 大事なのは真髄の部分。たとえば悲しいとか楽しいっていう感情は、突きつめていけば万人に共通だと思っていて。失恋して悲しい気持ちや、親が亡くなって悲しい気持ちに、男女は関係ないじゃないですか。人気の作品って、そういう普遍的なものがしっかりと描かれているから、世の中に広がっていく。つくり手にとって大事なのは、男性的であるとか女性的であるとかではなく、そういう確たるものを見つけることなんです。

横川 たとえば先ほど名前を挙げたミュージカル『スタミュ』ならその確たるものを何だと置いたのでしょうか?

吉谷 それはもう作品のメインテーマになっていますが、「夢を諦めないこと」です。夢を見る大事さと、困難があっても信じて乗り越えていくこと。そこに性別の差は感じないし、僕自身、今まで夢に挫けたり信じていたものに裏切られたりしてきたので(笑)、十分理解できる。そういう経験が糧になっています。

横川 一見するとキラキラしていますし、ステージングも華やかなので、女性客の歓声を集めることを目的にしているふうに見られやすいですが、決してそうではないと。

吉谷 そうすると物語の本筋からブレちゃうと思うんですよ。大事なのは、あくまで物語としてどうか、という視点。そこは決してブラしていないつもりです。

大事なのは「再現」することではなく、「物語」を見せること

横川 一般的に2.5次元って「原作を再現する」というふうに説明されることが多いんですけど、僕はこのフレーズが本当に正しいのかちょっと疑問に思うことも多くて。吉谷さんはどれぐらい「再現」について意識しますか?

吉谷 どうだろう……。正直に言えば、「再現」をメインでやっているつもりはなくて。それよりも、さっきも言いましたけど、「物語」が重要だと思っている。物語と画は切り離せるものではないですけど、画をそのまま再現することより、ちゃんと「物語」を見せる方が大事。そのために原作と違う構図でやる方がベストなら、そっちを選択しますね。

横川 じゃあ、あまり俳優さんにも再現度を求めるわけではなく?

吉谷 そこで言うと、最近は俳優がちゃんと勉強をしてきてくれるので、そもそも敢えて自分から言うことがあまりないのかもしれない。別に再現を否定しているわけではないんです。ビジュアルディレクターさんや衣装さん、メイクさんは原作の画をどう再現するかに力を注いでくれているわけですし。
だからこそ、脚本や演出はそこが主軸になってはいけないというか。もっと別のことを考えるのが、脚本や演出の役割なんじゃないかと思うんです。

横川 そうおっしゃる方は増えてきた印象があります。

吉谷 もちろんキャストの演技を見てあまりに原作と違ったら言いますけどね。でもそれも声色を変えてというような言い方はしない。そうするとどうしても表層的になるので。

横川 似た音を出すことが目的になっちゃうからですね。

吉谷 そうです。だから声色を変えてほしいなと思ったときは、立ち位置だったり相手との距離感だったり、そこに変化をつけます。そうすると出る音も変わるし、より自然にキャラクターに近い声になる。僕のやる作業としては、そういうことが重要なのかなと。まあそこまでやっても難しかったら言いますけど、「1回アニメ観て」って(笑)。

横川 奥の手(笑)。

吉谷 それでも伝えるのは「観てほしい」ということであって、「この声でやってほしい」とは言いません。これが答えですというものを明示してしまうと、どうしても広がりがなくなる。答えに辿り着くまでのプロセスがより生っぽい方が、そのシーンだけじゃなく他のシーンも良くなるし、結果的に早いんですよね。

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