LIVE SHUTTLE  vol. 343

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「待たせたねー」 ASKA、6年ぶりの全国バンドツアー開催。追加公演の日本武道館で響かせた、変わらぬ圧巻の歌声

「待たせたねー」 ASKA、6年ぶりの全国バンドツアー開催。追加公演の日本武道館で響かせた、変わらぬ圧巻の歌声

「大きなキッカケはこの曲だった」──そんなMCから始まった「はじまりはいつも雨」

場内に流れていたのは、祝典的かつアンセム的でもあるインスト曲だった。あとのMCで知ったが、これは「1964 to 2020 東京オリンピック」という、ASKAが制作した、自分だけのオリッピックのテーマだという。インスパイアされたのが、山際淳司の『たった一人のオリンピック』の主人公・津田眞男の生き様であり、津田は選手候補となりつつ出場を果せなかったモスクワ・オリンピック当時、ならばと、たったひとりで自分のための競技会を開催した人物だった。

やがてその音源は、より高らかに日本武道館の八角形を満たし始め、我々の期待感がさらにもう一段膨んだ瞬間、コンサートタイトルを示す幕が落下した。開演だ。

オープニングは「未来の勲章」。ギターを持ち上げポーズを取るASKA、ネックの角度からして計算し尽くされ、カッコいい。“計算”などと書くと褒めてないようだが、実は優秀なエンターテインメントは、すべて巧みな計算の上に成り立っているのだ。「クールでシュールでキュートな」、頭で考えたというより、口が回転して出てきたようなフレーズだ。気づけば一緒に口ずさんでいる。口ずさむという行為は、50年代から続くロックンロールの本質のひとつだ。続く「ONE」は、リズムがタテのアクセントで、レゲエのフレイバーも感じさせる。

次の曲へ移る瞬間、ASKAからあのひと言が。「待たせたねー」。文字にはこう書かざるを得ないが、シャウトしながら言うわけじゃなく、呟くようでもない。ニュアンスとしては、“僕も待ち遠しかったんだー”という気持ちが、半分は入っている。なので、あえて日本語を日本語に翻訳するなら“再び出逢えたねー”くらいの感覚だろう。ロック系シンガーで、ライヴの冒頭、これに似た言葉を放つ人は珍しくないが、ASKAのひと言は、だからちょっと違う。ステージと客席の関係は、いたってイーヴンである。

アカペラのコーラスワークを伴う「明け方の君」は、歌詞内容としては、リアルな描写の恋愛エピソードと言える。しかし軽快な曲調が、重たくさせない。バリバリCHAGE and ASKA名義の作品だが、そのあたりは特別意識しないセットリストのようである。

隠れた人気曲としてファンに知られ、音源化が待たれ、ついに実現した「Cry」も聴けた。冒頭、ASKAの足下がスクリーンにアップになったが、何気ないカメラワークも効果的だ。で、この日の歌が不満だったわけじゃないが、歌いこなすには渾身の力が必要なレパートリーだと再認識した。だから感動も大きく届くのだが……。

流麗さと力強さを併せ持つ「Girl」には、うっとりしてしまった。この曲といえば、なんといってもギターの古川昌義である。フラメンコの雰囲気だが、民族音楽的な弾き方ではなくモダンであり、目にもとまらぬ鮮やかな指の動きは驚嘆の領域だった。「憲兵も王様も居ない城」は、曲の基本パターンはポリスの「見つめていたい」のように淡々としたものだが、ASKAの歌は熱く、曲調との対比で、それがさらに際立った。

立錐の余地のない武道館の観客たちを、ここでいったん座らせて、詩集(『ASKA 書きおろし詩集』)を出したこと、憧れの谷川俊太郎との対談が実現したことを語る。常々ASKAが想っていた、“「肉体」と「意識」は別々に存在し、「意識」はやがて巡る(輪廻)」という考えは、谷川もまったく同じであった喜びも語った。そして、そうした見地からも次の曲を書いたと、「Man and Woman」を。この歌の場合、歌唱表現において重要なのは“間合い”であり、だからこそライヴでは、一期一会の“その日の歌”として届けられる。

さらに「めぐり逢い」、「MOON LIGHT BLUES」と、鉄壁のスタンダード性を有する名曲が続いていく。ステージには円形とR状の照明装置が吊され、特に「めぐり逢い」のときは、光が美しく降り注いだ。

自分たちの音楽活動が好転していく「大きなキッカケはこの曲だった」。そんなMCから始まったのが「はじまりはいつも雨」。ファンの間では、名だたる“晴れ男”として知られるASKAだが、面白いことに、その大きなキッカケは雨の歌だった。このコーナーの3曲を収斂させるかのように、「いろんな人が歌ってきたように」が始まった。これは不思議な歌でもある。今よりさらに何年後かのほうが、より多くの意味を伝えてくれそうなのだ。

ここで10〜15分ほどの休憩になる。昨年、ビルボードでオーケストラと共演した際、あのコンサートには休憩が入るしきたりとなっており、お客さんもありがたがっていたのを知り、自分のツアーにも取り入れた。しかし一計を案じてメンバーは袖に引っ込まず、ステージに車座で座って、お喋りを始めることに。トイレに行く人たちも結構いるが、お喋りに耳を澄ましている人たちのほうが多い。そのうち、この時間帯に差し入れを申し出る“スポンサー”が現われ、“もぐもぐタイム”として確立された。これまでも日本各地で名物が食されてきたが、この日は赤坂の中華の名店「赤坂離宮 銀座店」の杏仁豆腐であった。

お客さんの歓声や拍手が、降り注ぐかのように届く

後半戦はメンバー紹介から始まる。ギターは鈴川真樹、同じく古川昌義、ベースの荻原基文、さらに、自分は喋ってる声は低いが歌のキーは高く、どうしても(楽器演奏のかたわらメンバーにやってもらうのではなく)ボーカリストに付き合ってもらわなければいけないのだと、コーラスの西司、藤田真由美を紹介。

さらにバイオリンのクラッシャー木村、ドラムの菅沼孝三を紹介する。彼はボリュームあるドラムセッティングを高速連打するスタイルで“手数王”と呼ばれているので、それをちょっと見せてもらおうと菅沼に合図すると、ドラムソロが始まる。この人のすごさは、玄人はもちろん、子供から年配の人まで、誰が見ても“スゴイ”と感じる技量である点だ。最後の最後にピアノの澤近泰輔が、いかにかけがえのない存在なのかを語りつつ紹介する。印象派的な音の滲みが心地良い、「FUKUOKA」のイントロが聴こえてくる。

座って歌い始めたASKAは、歌詞の「人並みを歩いて行く」のあたりで、実際にステージを歩き始める。言わずと知れた名曲「LOVE SONG」は、弾むようなAメロから引き込まれた。ミュージシャンの日常とステージとがシンクロを果たすような「リハーサル」の、一丸となったバンドの演奏が素晴らしい。曲調からして激しい演奏なのだが、決して粗野ではない。クラッシャー木村のエレクトリックバイオリンのソロも圧巻だった。昨今、J-POPのライヴで生のバイオリンは珍しくないが、ここまで見事にサウンドそのものをデザインし切っている者はほかにない。「と、いう話さ」も、当然のごときこのバンドのためにあつらえたかのような名演奏である。個人的にも、この歌は大好きだ。

「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」が始まると、いよいよライヴも終盤戦という自覚が芽生えていく。武道館のステージに立つと、お客さんの歓声や拍手が、アリーナのみならず、ぐるりと囲む1階席2階席も含め、降り注ぐかのように届くんだとASKAは言っていた。まさにそれを、今、ASKAは体感しているのではと想像する。

アコースティクギターのネックのペグに手を添え、チューニングを確かめ、語るように歌い始めたのが「ロケットの樹の下で」。楽曲がもし“ロケット”なら、下段から上段へと燃料が伝わるかのように、世界観が広がっていく。「今がいちばんいい」では文字どおり、そのことをリアルタイムで確認するように、ステージの上手下手を行き来しつつ、客席に呼び掛けるように歌った。もちろんみんな大きな声で、ASKAへ想いを返すのだった。

最後の最後は散文詩の朗読から、一番新しい歌である「歌になりたい」へ。散文詩はポスト資本主義的見地から火星への人類の移住なども視界に入れつつイマジネーションを働かせたものらしく、新しい歌というのは、すでにBlu-ray&DVD『PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 – THE PRIDE-』にも「パリ木の十字架少年合唱団」との共演が収録されている。

コーラスに主メロを預け、ASKAが追いかけて歌う後半のスタイルのなかで、「僕らは命のなかにいる」というフレーズが聴く者の心をノックする。アンコールがあることを匂わせつつ、ASKAはステージの袖に消えていった。

本人の採点は、僕が客席で感じていた点数より低めだった

思わせぶりにアンコールの拍手&歓声を要求せず、彼はすぐに再登場した。「みんな知ってる曲だから恥ずかしがらずに参加して欲しい」と、何をやるのかと思ったら西城秀樹の歌で知られる「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」だ。ASKAの声というのは驚異の倍音構造と言われ、類似したものがないと評判だが、もしや似てる、というか、ASKAが敬愛のあまり、気づけば近づけていたのが西城秀樹の声だったのかもしれないと、ふとそう思うくらい、この楽曲を歌うとハマりまくるのだ。

みんな素直に「Y!」「M!」「C!」「A!」のポーズを合せて、ラストは指揮するようにバンドのエンディングをジャンジャンジャ〜ンとキメて、終わりかと思うとまだあって、まさにリズム&ブルースのショーのお馴染みの雰囲気になり、それでもいよいよ本当に終わりかと思うと、そこに別のコードが続けて響き、これはまさしく、そう、「YAH YAH YAH」ではないか! みんな、この曲まで聴けるとは思ってなかったのではなかろうか。しかし条件反射的に、握り拳のポーズで会場が満たされていく。照明が、この日一番の光量となり、しかも白い光に満たされた。かつてのCHAGE and ASKAのライヴのように、洪水のような白い光と「YAH YAH YAH」を関連付けて胸に仕舞っていた人も多かったのではなかろうか。

最後の最後は「UNI-VERSE」。谷川俊太郎の「朝のリレー」にも触れられている歌詞で、ガイア理論みたいなことから幼き日に鉄腕アトムに託した夢も含め、すべてを見晴らしよく見渡す気分とともに、このコンサートは終わったのだった。

終演後、ちらりとASKAに楽屋で会った。アリーナ会場では久しぶりのライヴとなったが、そのことを訊ねたら「そう簡単に、アリーナ仕様のスイッチが入るわけでもなかった」と、正直に話していた。本人の採点は、僕が客席で感じていた点数より低めだった。思えばこのヒトは、いつも自己採点はキビしい。だから続いてきたんだろうし、これからもやっていくのだろう。国内ツアーが終わればアジアである。セットリストは変えるのかもしれないが、それ以外特別な気負いなどなく、「待たせたねー」みたいな挨拶から始まっていくのは、おそらく日本と同じだろう。

取材・文 / 小貫信昭

ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA – 40年のありったけ -〈追加公演〉2019.4.23@日本武道館 SET LIST

M01. 未来の勲章
M02. ONE
M03. 明け方の君
M04. Cry
M05. Girl
M06. 憲兵も王様も居ない城
M07. Man and Woman
M08. めぐり逢い
M09. MOON LIGHT BLUES
M10. はじまりはいつも雨
M11. いろんな人が歌ってきたように
M12. FUKUOKA
M13. LOVE SONG
M14. リハーサル
M15. と、いう話さ
M16. 晴天を誉めるなら夕暮れを待て
M17. ロケットの樹の下で
M18. 今がいちばんいい
M19. 歌になりたい
ENCORE
M20. Y.M.C.A.
M21. YAH YAH YAH
M22. UNI-VERSE

日本武道館追加公演、バックステージドキュメントやロングインタビューがオンエア!

タイトル:『ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA -40年のありったけ- in 日本武道館』
放送日時:5月31日(金)22:00~23:30
放送/配信チャンネル:フジテレビTWO ドラマ・アニメ/フジテレビTWOsmart

番組サイト「フジテレビ ONE TWO NEXT」

ASKA(アスカ)

1979年にCHAGE and ASKAとして「ひとり咲き」でデビュー。「SAY YES」「YAH YAH YAH」「めぐり逢い」など、数々のミリオンヒット曲を生む。並行して、音楽家として楽曲提供やソロ活動も行い、1991年発表の「はじまりはいつも雨」がミリオンセールスを記録。同年リリースのアルバム『SCENEⅡ』もベストセラーに。また、アジアのミュージシャンとしては初めて「MTV Unplugged」へも出演。2017年には自主レーベル「DADA label」よりアルバム『Too many people』『Black&White』をリリース。2018年7月には『Black&White』のMusic Video集、10月にはファンが選んだベストアルバム『We are the Fellows』と、ASKAが選んだベストアルバム『Made in ASKA』、11月には『SCENE -Remix ver.-』『SCENEⅡ -Remix ver.-』を発表。また、11〜12月に〈billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDE-〉へ出演。2019年2月からはバンドツアー〈ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA -40年のありったけ-〉を開催。3月22日には書籍『ASKA 書きおろし詩集』も発売されている。

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