Interview

「坂の途中の家」で苦悩する母親を力演した柴咲コウ。 息苦しさを覚える現代社会で、人として感じることを告白

「坂の途中の家」で苦悩する母親を力演した柴咲コウ。 息苦しさを覚える現代社会で、人として感じることを告白

人間の陰の部分、内向的でネガティブな面が文章に凝縮されている作家・角田光代さんと対談させていただき、一方的にシンパシーを抱いています

原作者の角田光代さんは「八日目の蝉」など、母と娘のあり方を描いた作品でも知られていますが、「坂の途中の家」に触れて、角田作品に対してどのような印象を受けましたか?

実は今回の原作は未読なんです。「坂の途中の家」に限らず、たまたま原作を読んでいない作品を映像化する際は、脚本を主軸に考えていきたいので、これから原作を拝読するつもりです。ただ、私がこれまでに触れた角田さんの作品からは…SNS社会の「映え」に象徴されるように、美しい一面やきれいな見映えだけが切りとられて目の保養となるものがもてはやされる昨今、それだけが実態じゃない、人間のドロッとした部分や陰の部分に焦点を当てている、という印象を受けました。少し前にご本人とも対談をさせていただいたんですけど、そういった人間の陰の部分、内向的でネガティブな面が文章に凝縮されているのが、お話からも読みとることが出来たところがあって。私も歌詞を書いたりと内省的なところがあるので、一方的にシンパシーを感じています(笑)。

内省という部分では、現実空間とSNSが表裏一体となった社会の中で、いかに自己を確立していくかがすごく難しくなってきているような気もしているんです。

人には必ずどこか、何かしらの違いがあります。そこを踏まえて考えると、自信過剰でも過小評価でも良くなくて…いかにして等身大の自分というものを見定めるかということが大事になってくるわけです。そうすれば、それぞれの特色が確立されていくことにつながっていくわけですけど、そこでもまた自己評価が過大もしくは過小になり得るので、そこでまた凹凸がつくられる。なかなかスムーズにいかないし、複雑ゆえに噛み合わないことが多いですけど、裏を返せば人それぞれに考える主軸が違っているからであって、そこに人間の面白さがあったりもするわけです。ただ、人ひとりの幸せを考える時に、やはり自分という人間を見定める力がある人の方が強いという印象が、私の中では大きくて。それは「他者からどう見られる」ということではなくて、「本来の自分が持っているものというのは、こういうものだ」と理解をして、活かせる人間はブレることが少ない、という意味において、です。そう考えてみると、意外とシンプルだったりもするんですけど…そうなかなか簡単にいかないのも、また人間なんですよね(笑)。

「連続ドラマW 坂の途中の家」より ©2019 WOWOW

そういった考え方は夫婦間の関係にも置き換えられるような気がするんですね。劇中の里沙子と陽一郎の間でも、価値観の相違と、ちょっとしたボタンの掛け違いが問題を複雑化させてしまう。元をたどると、いたってシンプルなことだったりするのに…と。

里沙子が陽一郎さんに言う「どうして、そういう言い方をするの?」のひと言は、多くの女性が一度は口にしたことがあるんじゃないかと思います。「どうして理解してくれないの?」「なんで夫婦なのに、そんなに他人事なの?」といったように、子育てや仕事におけるバランスや考え方などで思い当たる方が、世の中にたくさんいらっしゃるんだろうなって。でも、逆に男性の視点に立ってみると、「そんなの、わからないよ」と言ってしまうのも、理解できなくはないんです。でも、素直にわからないという気持ちを口にしてしまったことが、相手をいかに傷つけてしまうかということも、自覚していない場合が多いんですよね。だから「え、僕は何か間違ったことを言ったかなぁ?」って思う気持ちもわからなくはないんですけど…人間って複雑ですよね(笑)。

本当におっしゃる通りなんです(笑)。里沙子と陽一郎の溝が深まっていくのを見ると、「自分もあの時こうすれば良かった」という自責の念がこみあげてくるという…。

しかもややこしいのは、お互いの性格の問題だけではないということですよね。ホルモンのバランスや脳科学的なことも関係していたりするので、「それは脳の物質的な問題でもあるんだよ」と2人が理解し合えたら、「そうだよね、子どもが乳児の今は事情が違うんだよね。よしっ、イソフラボンをたくさん採ろう!」と笑い合えたりするのかもしれないなって(笑)。

育児に追われる中で奧さんがセロトニンをたくさん出すにはどうしたらいいか考えよう、となれれば理想的なんですけど、特に初めての子育てだと夫婦ともに心に余裕がなかったりしますからね…。

そこが核家族社会の課題と言うと…紋切り型になってしまうかもしれませんけど、家族がそれぞれに孤立しているがゆえの悩みかもしれないですよね。かつて地域で自然とできあがっていたコロニーの中でお互いに支え合っていた時代の方が、もしかすると子育ての側面では良かったのかなと思えたりもするわけで…個人主義とのバランスになってくるとは思うんですけど、小さなコミュニティがあった方が助け合えるのかなって。でも、家族それぞれに抱えている問題が限界に達した時、そういう社会に回帰していくのかもしれないなと、何となく「坂の途中の家」に関わる中で考えたりもしました。

いわゆる「一周まわって」昔に戻っていくと。

横の繋がりで子どもたちを見ていくことによって、お母さんが交代で休めるのかなって。ただ、そのコミュニティの中でも子育てをめぐる方針でぶつかり合うだろうことは予想できるので…一筋縄ではいかないでしょうから、そこでまた「人間って難しい!」って思ってしまうんですけれども(笑)。

山咲文香 (松本笑花)「連続ドラマW 坂の途中の家」より ©2019 WOWOW

確かに(笑)。考えるほど難しくなってくるので、話題をちょっと変えまして…里沙子の娘・文香を演じた子役の松本笑花(えみか)ちゃんの芝居も真に迫るものがありました。彼女は5歳にして名優と言えそうですね。

笑花ちゃんの芝居には嘘がなくて…なおかつ衝撃だったのは、初めてのシーンでアドリブが出たことです。たぶん本人の中ではアドリブという概念はまだなかったのかもしれないですけど、スーパーで買い物をしているシーンで自然に的を射たひと言を足してきて、「わ、すごいなぁ!」と思わされました。お父さんお母さんから機会やきっかけを与えられて、子役のお仕事を始めたという先入観を勝手に抱いていたところがあったんですけど、そうじゃなくて、子どもたちが「やってみたい」と始めるパターンが多いみたいなんですよね。お兄ちゃんやお姉ちゃんがいる子は、その影響があって始めたりもするみたいですけど…何にしても「人間って、すごいな」と感じました。あんなに幼い時から自ら興味を持って、自発的にやりたいと思い、自然と芝居ができるというのは、まさしく天性だなって。
一つ焦った…というのも変なんですけど、撮影中にどんどん笑花ちゃんが成長して、大きくなってくるんですよ(笑)。クランクインしたころに穿いていたズボンが、アップするころにはパツパツになっていて、「足が長くなったねぇ」って感心したことを思い出しました。

そうですね、5歳くらいだと「月齢」で全然違ったりしますよね。その笑花ちゃんもさることながら、キャスト陣のお芝居はどなたも本当に見応えがあって、「連続ドラマW 坂の途中の家」というドラマの核をなすものになっています。

登場人物それぞれの問題が浮き彫りにされますけれども、裏の主人公とも言えるのは(水野美紀が演じる乳幼児虐待死事件の被告・安藤)水穂であって、裁判に関係する人たちは彼女に引き込まれていくところが、このドラマの特色になっています。特に里沙子は水穂に自分自身を重ねていくわけですけど、水野さんが一瞬、口の端だけを動かしてみせることで虚無感を表した“笑み”など、一つひとつの芝居に私自身も圧倒されました。そんなふうに、ドラマをご覧いただく方々にとって、何か心に引っかかるものがあればいいなと、作品に関わった1人としては純粋に願うばかりです。

スタイリスト / 岡本純子(アフェリア)
ヘアメイク / SAKURA(アルール)

「連続ドラマW 坂の途中の家」

WOWOWプライムにて絶賛放送中
毎週土曜よる10時~(全6話)

<ストーリー>
山咲里沙子(柴咲コウ)は、三歳の娘・文香と夫(田辺誠一)と三人で平穏な日々を送っていた。そんな時、裁判所から刑事事件の裁判員候補者に選ばれたという通知が届く。対象となる事件は、里沙子と同じ年頃の専業主婦の母親・安藤水穂(水野美紀)が、生後八ヶ月の娘を浴槽に落として虐待死させたという衝撃的な事件だった。裁判所での面談を経て、里沙子は、裁判員の誰かが急病などで欠席せざるを得ないとき、代わりに裁判員を務める「補充裁判員」に選ばれた。同じ子供を持つ母として、我が子を殺めた水穂に嫌悪感を抱く里沙子だが、裁判の開廷後、徐々に安藤水穂という被告自身の境遇に自らの過去の記憶を重ねていくことになる。家庭という密室で、夫婦、そして親子の間で交わされた言葉は、時に刃物のように突き刺さることがある。里沙子はやがて自身の心に眠っていた混沌とした感情に惑わされていく─。

原作:角田光代 「坂の途中の家」(朝日文庫刊)
脚本:篠﨑絵里子 (『人魚の眠る家』)
監督:森ガキ侑大 (『おじいちゃん、死んじゃったって。』)
音楽:山口由馬
出演:柴咲コウ 田辺誠一 伊藤歩 眞島秀和 桜井ユキ 松澤匠 松本笑花 西田尚美 / 倍賞美津子 高畑淳子 / 佐藤めぐみ 滝沢沙織 利重剛 酒井美紀
光石研 風吹ジュン 水野美紀

特設サイト
https://www.wowow.co.jp/dramaw/sakaie/

©2019 WOWOW

柴咲コウ

映画やドラマで女優として活躍し、2017年NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」では主役を演じる。2020年には映画「燃えよ剣」の公開を控えている。
2002年歌手としてもデビュー、昨年にはグローバルアーティスト名「MuseK(ミュゼック)」として国外へ向けても音楽活動を行っている。
その他、自身のファッションランド「MES VACANCES(ミ・ヴァコンス」を立ち上げたり、起業家としても注目を集めている。

オフィシャルサイト
https://koshibasaki.com/

フォトギャラリー

原作本

坂の途中の家

角田光代(著者)
朝日新聞出版

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