【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 123

Column

CHAGE&ASKA 実は理性の大切さを教える「YAH YAH YAH」

CHAGE&ASKA 実は理性の大切さを教える「YAH YAH YAH」

今回は、この曲で最後まで突っ走りたい。で、ふと想い出した。あれはチャゲアスの取材の時のこと。その日のテーマは別だったのに、なぜかこの歌の話になり、僕は勝手に、もうすでに[殴りに]行ってしまった前提で喋っていた。

するとASKAが、僕を制し、こう言った。「あの歌はね、あくまで[殴りに行こうか]、ということだから…」。彼が言いたかったのは、つまり“行こうか?”と、仲間に投げかけた、または、単に自分の胸に訊いてみただけ、ということのようだった。

この歌は、人間の心に潜む欲望や野心について、丹念に掘り起こしていく歌詞から始まる。さらには世の中の建て前なんてものも、取っ払ってしまえ、と…。さらに問題の[殴りに行こうか]は、サビの直前だ。このあと、タイトルにもなっいる“YAH〜 YAH〜 YAH〜”と歌っている。これがサビである。

その行為が未遂だったか、はたまた遂行されたのか、言葉では説明されていない。ただ、二人はこのタイミングで、拳を突き上げる(客席も同調する)。[殴りに行こうか]が“遂行されたもの”と解釈する人は、おそらくこのステージ・パフォーマンスに影響されている。実は僕もそうだった。

言葉では説明されないなら、メロディから読み解こう。譜面を掲載するまでもなく、日本国民、この部分のメロディは知ってるだろう。順を追って説明したい。いの一番の“YAH〜”は、まさに武道の気合の一撃を想像させる。そこからの前半部分の(ここからカタカナにしちゃうけど)“ヤァ〜ヤ〜ヤァ〜ヤ”は、確かに威勢がいい。でも、その後の後半部分の“ヤァヤヤァ〜”は、押しというより引きの感覚である。早くもその怒りの矛(ほこ)を収めにかかっている印象なのだ。

また、我々が掲げた拳の行き先も確かめて欲しい。それは空に向かっているハズだ。相手をグーで殴る、という角度ではない。僕はなにが言いたいのかというと、つまりこの歌は、生きていると日々、怒りがこみ上げてくることはあるけど、どこかにはけ口をみつけ、やり過ごし、明日また、頑張ろうよ、というメッセージなのだ。

もしこの部分の歌詞が、“ハ〜ハ〜ハ〜”とか“ラ〜ラ〜ラ〜”とかではストレス発散に至らない。薙刀(なぎなた)を振り下ろすかのような“ヤァ”で始まるからこそイイのである。

おいおいちょっと待ってくれよ、というヒトもいるだろう。“YAH〜 YAH〜 YAH〜”は、『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』から来てるんじゃないの? さらにビートルズは、“間接話法のラブ・ソングの傑作”と言える「She Loves You」でも、“ yeah yeah yeah”と歌っている。そんな“相の手”が、重要な役割を担っているのだ。ただ、あれはあくまで“相の手”だ。

多くの人々が指摘してきたように、CHAGE&ASKAの「YAH YAH YAH」」には、具体的なサビの歌詞が存在しない。このアイデアを、ASKAはどのように発見したのだろうか。本当のところは不明だが、彼が“それでも歌は成立する”という、前例を知っていたのは事実だ。例えばそれは、由紀さおりの歌で大ヒットした「夜明けのスキャット」である。決めつける気持ちは1ミリもないのだが、ひとつの仮説として提出しておく。

ところでこの歌は、単純明快なようで、凝った展開をしていく。そもそもワン・コーラス目を受けたツー・コーラス目で、Aメロをフェイクして変化させている。さらにBメロに至っては、エモーションを炸裂させ譜割りを崩壊させ、それに続く二度目のサビの“ヤァ〜ヤ〜ヤァ〜ヤ”は、より熱いものになっていく。でもこのサビ自体、後半で怒りの矛を収める構造である点はワン・コーラス目と変わらない。

[首にかかった]からの、CHAGEのスウィートな声質を活かしたソロ・パートの部分は、様々な解釈が可能だろう。ここではASKAが追っかけコーラス風に入ってくる。とはいえ、ひとつづきの歌詞を分け合ったり“二度塗り”するのではなく、まったく文脈の違うふたつを交差させているのだ。もはやここは、実験的とさえ言える(細かくは歌詞検索サイトで確認を)。

特に重要と思われるのは、CHAGEが[首にかかった]のあと、[Tシャツを脱ぐように]と歌うところである。そもそも“首にかかったシャツを脱ぐ”とは、何を示唆したものだろう。なにかの比喩か? 普通に解釈するならば、焦ると上手くいかずイラつくことであっても、冷静さを取り戻しさえすれば、なんなく遂行できる、みたいなことの例えではなかろうか。これぞまさしく、“YAH〜 YAH〜 YAH〜”と叫んでみないか、ということにつながる。前半の“ヤァ〜ヤ〜ヤァ〜ヤ”でストレス発散して、でも後半の“ヤァヤヤァ〜”で、怒りの矛を収める。そう、その感じ、その調子…。

ここでむしろ穏やかじゃないのはASKAの追っかけコーラスの部分である。ここには[拳をツンと][強く強く突き出すように]とある。遂行しようという気配が濃厚なのは、むしろこのヒトだっ! でも…。これって会場の客席への“演技指導”かもしれない。

すでに場内は、ものすごい熱気である。我々は、ワン・コーラス、ツー・コーラスと、すでに二度も拳を突き上げて、日頃の憂さを晴らしつつ、いよいよ歌のエンディングに向かっている。でも、なかには腕組みして地蔵のように動かないヒトもいるだろう。そんなヒトも含め、みんなで最後に“YAH〜 YAH〜 YAH〜”と盛り上がりませんかと、粘りのASKAは、ここで再度、聴き手を誘っている。

この曲は、ブラスバンドで応援歌的に演奏されることで知られている。吹奏楽の楽譜販売「ミュージックエイト」のHPでも、“吹奏楽ヒットシリーズ”に選ばれていた。さらにそこには、こんな楽曲紹介も載っていた。

曲は最近チャゲアスのよく採用するシャッフル系の8ビート。メロディーは、前半は同音が連続するフレーズ、サビは単純な音型使用する、というユニークさ。それをチャゲアスの歌唱の魅力と、ベースのオルゲルプンクト(ハーモニーの変化に関係なく同音を保続する法)を多用した伴奏とで、素晴らしい効果を出している。

音楽の専門の方が解説すると、「YAH YAH YAH」はこのようになるんだなと、そう思いながら読んだ。

この曲が主題歌となったフジテレビ系ドラマ『振り返れば奴がいる』の話もすべきだったが、今回は楽曲中心にしてみた。なお、あのドラマといえばサウンドトラックも秀逸であり、ASKAが書き、S.E.N.S.などの協力を得た作り上げた劇中曲(そこには「YAH YAH YAH」のインストゥルメンタルも)は、どれも秀逸だったことを付け加えたい。

文 / 小貫信昭

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