Interview

関取花 彼女はメジャー・デビューに向けてどんなことを考え、その想いをどんなふうに音楽化したのか?

関取花 彼女はメジャー・デビューに向けてどんなことを考え、その想いをどんなふうに音楽化したのか?

メジャー・デビュー作となるミニアルバム『逆上がりの向こうがわ』は、前作からの1年の間に彼女のなかで生まれた変化が結晶化した1枚だ。それは、音楽家としての彼女にとってとても意味ある変化だったようだが、それがメジャー・デビューという機会を前に訪れたところに彼女の幸運を見て取る人もいるかもしれないが、この1年の間に彼女が感じ、また考えたことを知れば、それが決して単なる巡り合わせではないなと思うだろう。
ここでは、彼女がこの1年の間に何を感じ、何を変えて、何をやったのかということについて彼女自身の言葉でたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢
撮影 / AZUSA TAKADA


“独白のような曲こそが関取花の真骨頂だ”と思っているところがあったんですけど、お客さんが意味を与えてくれる場合もあるんだなって、すごく思ったんです。

前作をリリースして、ツアーもやって、その過程でいろんなことを感じたり、見たり聞いたりしたと思いますが、何か印象に残っていることはありますか。

バンド・セットで7本くらいツアーをまわらせていただいたんですね。それは、ホールもあれば小さなライブハウスもあったんですが、いろんな場所でお客さんの顔を見ながらやってて、今までにない経験だなあと思ったのが、自分で曲を書いた時には感じなかったというか、そこまでは考えていなかった意味が自分のなかに生まれてきたような感覚があったんです。その感覚が特に自分のなかで大きかったのが「君の住む街」という曲や「朝」という曲だったんですけど、それは自分の思想や経験から出てくる物語というよりも、聴いてくれた人たちが入り込む隙があるような曲というか、どこか人に提供するような気持ちで書いていた曲なんですよ。その2曲はどちらも、弾き語りでやってた時にはまだ持て余している感じが、自分のなかにすごくあったんです。自分のものに出来ていない感じというか…。

自分では作った曲なのに?

そうなんです。そういう感覚があったんですけど、そのツアーでやっていくなかで、その曲たちがすごくしっくり来た感じがしたんです。それで、“今だったら、メジャーに行っても大丈夫かな”と思ったことはすごく印象に残っています。

それ以前には持て余しているように感じていたその2曲が、いきなり自分のものになったように感じたのはどうしてだと思いますか。

元々音楽を作り始めたのは自分のためにやっていたようなところがあって、独白というか日記を書くような感覚だったんですけど、そういう感覚は今でもあって、その感覚を大事にしたいと思っているし、そういうサイドの楽曲もたくさんあるんですね。しかも、“そういう曲こそが関取花の真骨頂だ”とどこかで思っているところがあったんですけど、でもお客さんが意味を与えてくれる場合もあるんだなって、すごく思ったんです。特に広島で「君の住む街」をやった時に…。ライブをやったのが災害で大きな被害が出た、そのすぐ後だったんですけど、そこであの曲で歌っていると、お客さんが自分たちの愛する広島の街を絶対思い浮かべて聴いてくれているということがすごくわかったんですよね。「朝」も、自分のなかでは“朝のニュース番組のために書き下ろす曲”という意識だったから、例えばサラリーマンの方が朝その番組を見て“今日もがんばろう”と思えるのがいいだろうから前向きな内容にして、というふうにわりと論理立てで考えて作ったんですけど、でもその曲を例えば広島でやると♪どんな昨日だって超えていけそうで♪という歌詞がもっと意味を増すように感じられたりして。ライブ中に歌いながらお客さんの顔を見ていて、泣きそうになっちゃいました。

「お客さんが曲の意味を与えてくれた」という話を、敢えて違う言い方で言えば、「その曲のことがよりわかった感じがした」というようなことですか。

そうです! その曲と、よりわかり合えた気がしたんです。人についても、そういうことってあるじゃないですか。“この人、なんか好きだなあ。でも、なんかつかみどころがないなあ。どうやったら仲良くなれるんだろう?”って。「君の住む街」や「朝」も同じで、弾き語りでもやったしバンド・セットでもやった。ワンマンでもやった。フェスでもやった。でもやっぱり、なんかわかり合えない感じがあったんだけど、そこをお客さんがつなげてくれたっていう感覚がすごくあったし、それはいままで本当になかったものですね。

ピンポイントで今響く共感というか、今みんなが思い浮かべやすいシーンや自分の身の周りのことに置き換えやすい出来事を描きたいなと思って。

今回のメジャー・デビューは花さんのなかでまさに機が熟するタイミングということだったということだと思いますが、その制作はどういうふうに進んでいったんですか。

基本的には「好きにやっていいよ」という形だったので、そのなかで自分のやりたいことと今やるべきことをいろいろ考えて進めていきました。以前との違いということで言うと、「太陽の君に」の話がわかりやすいと思います。この曲は前作の候補にもなっていたんですが、私のなかで合格にしなかったんです。その“関取オーディション”で落ちた曲が復活することはまずないんですけど、今回敗者復活ということになったのは、それまでになかったDメロやサビ前の決めだったりを足してみたんですよ。1年前だったら、“いやいや、そんなことはやらないよ”と思ってしまってたかもしれないですけど、今はそれがやりたいし、できるなと思って。自分の気持ちや曲作りに関することで言うと、そういう変化がありました。

復活することのないオーディション落選曲に手を加えたのは、何か思うことがあったんですか。

今回の制作を始めるにあたってスタッフに過去のデモも一応聴いてもらったら「この曲、いいね!」と、いきなり1位指名みたいな反応が返ってきたのが「太陽の君に」だったんです。しかも、今までずっと見てきてくれたマネージャーさんと、今回から一緒にやることになったユニバーサルの担当の方の意見が一致したんですよね。それに対して、私は最初“そうか…”という感じだったんですけど、よく考えてみると“この人たちには、この曲のポテンシャルを生かして出来上がった像が見えているんだな”と思ったし、実はそれは私にも見えているなって。だから、そのためにこういう要素を足したいなというイメージがあったから、言われる前にDメロも歌詞も用意していたんです。そしたら、担当の方から「Dメロを足してみない?」と提案されて、そこでまた一つ確認できたんですよ。私が考えている美しいJ-POPの作り方やラインというのは間違ってないなって。いわゆるお茶の間に届く音楽を作ってきた方々が言うことと、私が思い描くイメージはちゃんと重なっていることがわかって、自信にもなったし、曲に対する思いもグッと高まりました。

そこで、具体的な楽曲を通して、スタッフと花さんの間で“メジャーというもの”についてのピント合わせがなされたわけですね。

そういうことになりますね。

その後は、どんどん曲は書いていけたんですか。

レコーディングを始める前に6曲は出揃っていて、それまでにも数々の曲たちがボツになっていきました。今までだったら合格していそうな曲もガンガン落としていきましたから。

それは、“関取オーディション”の基準が上がったからですか。

そうですね。単純に、基準が上がったんだと思います。

それは例えば、今までは300人が「いい曲ね」と言ってくれそうな出来ならOKだったけど今回はそれでは足りないと感じた、いうようなことですか。

まさに、その通りです。例えば“ルーツ・ミュージック的な楽曲を300人と音楽好きの感覚として共有したい”みたいな感覚で曲を書いていたところがどこかあったように思うんですけど、そのルーツを知らない人でもその曲をいいと思えるように仕上げたいという気持ちがより強くなりましたね。歌詞の内容についても、なんとなく時代に即し過ぎてしまっているなと感じる表現や、時代の流れのなかで消えてしまうような表現は私のなかでずっとNGだったんですけど、今回「休日のすゝめ」という曲で携帯電話という言葉を使ってるんです。携帯電話は、私のなかでは超NGワードだったんですよ。だって、携帯電話なんていつ無くなるかわからないし、触ったことないという人もいるだろうし。

今やダイヤル式の電話があったことを知らない人もたくさんいますからね。

それから「カメラを止めろ!」という曲では、具体的には言ってないですが、昨今のSNSや写真のブームを扱ってて、そういうのも今まではやってこなかったんです。でも今回踏み切れたのは、ピンポイントで今響く共感というか、今みんなが思い浮かべやすいシーンや自分の身の周りのことに置き換えやすい出来事を描きたいなと思って。そういうことを頑なに拒否するのと、そこにきちんと寄り添ってお客さんと同じ目線に立つのと、どちらが聴いてくれる人との距離を縮められるだろうと考えたら、みんなと同じ言葉で話せたほうが縮まると思ったんです。そこで、メジャー・デビューという大義名分があるこのタイミングになんとか踏み出せました。

NG線のものすごい包囲網に囲まれていたんですが、それが徐々に解けていった先にこのアルバムが出来上がったという感じです。

2曲目が「春だよ」という曲で、3曲目のタイトルになっているフリージアも春の花です。春という季節は意識していたんですか。

そうですね。ただ、春も私のなかではNGワードだったんですよ。

それは、どうしてですか。

“春と言ってしまうと、春以外のシーズンに歌えないんじゃない?”という気がしてて(笑)。

それなのに、今回は歌詞に使うどころか、タイトルにまでしてしまったんですね。

そうなんです。今までだったら、絶対このタイトルにはしてないし、♪春だよ♪とは言っていない気がします。

それが言えてしまったのは、やはりさっき説明してくれたメジャーに臨む意識の変化のせいですか。

それがまずあって、その上で、これまでも自分のなかでは明らかに春のイメージなのに無理矢理のそのイメージを消そうとしていたことがあったんですが、そういうのはもういいなと思ったんです。自分の心に正直になったら春だよね、ということなんです。

「嫁に行きます」の主人公はもちろん女性だと思いますが、ここで歌われていることは未来に向けて過去とどう関わるかというような話で、性別はあまり関係ない、人としての歌という感じがするんです。

そうですね。あの歌はそういう歌だと思います。

そこでお聞きしたいのは、男の子が主人公の場合にはまさに男の子っぽい純情とか初恋が描かれることが多いけれど、女性が主人公の場合はその性別があまり関係ないような主題が扱われることが多くように思います。そういうことを意識することはありますか。

それはなかったですが、ただあの曲を書けたのはやっぱり大きな変化がこの数年の間にあったからなんです。というのは、花澤香菜さんに楽曲提供をさせていただいて、その前にはカサリンチュさんに歌詞提供をさせていただいたんですけど、そこで自分のなかでNGにしてきた女性性を出すということをすごくツルッと自然にやれたんですよね。それで、今28歳ですけど、この年齢になって初めて、“私みたいなキャラの人間がそんなこと言うの、なんか違くない?”なんて考えるのはやめようと思えたんです。それで「嫁に行きます」の話になるんですが、先に5曲できてて“これでいいかな”という雰囲気だったんですね。だから肩の力が抜けて、そういう時期にツルっとできたのがあの曲なんですけど、“今なら28の女性だから書けることを無理せずに歌えるな”と思って書いたというところもあったと思います。

今のお話を聞いていて思いましたが、自分で歌うことが曲作りにもいろんな制約を設ける理由になっているんでしょうね。

そうなんですよ。自分が歌うとなると、急にいろんなことがNGになるんです(笑)。“私が歌う意味があるんだろうか?”ということを考えてしまってたんですよね。“私みたいな人間が、こんな曲を歌うなんて…”というNG線のものすごい包囲網に囲まれていたんですが、それが徐々に解けていった先にこのアルバムが出来上がったという感じです。

このタイトルは、変わらない感覚と意識は持ったまま、自分が見る景色やみんなに見せる景色はもっとキラキラと輝くものでありたいなという気持ちですね。

このアルバムを聴き通して感じることの一つは、歌の表情が曲ごとに違ってカラフルだなということなんですが…。

私も、聴いてみて、そう思いました。

聴いてそう思ったということは、歌ってる時にはそういうことは意識していなかったんですね。

自分のなかでは去年の作品でも“この曲はこういうふうに歌おう”ということは曲ごとに考えていたし、その感覚で今回も歌ったんですけど、聴いてみると違うなあと思って。

どうしてどういうことになったでしょう?

なりたい自分と今の自分との距離が近くなってきた感覚というのはすごくあって、なりたい自分というのは前からいたんですけど、でもどこかで背伸びしている感覚があったし、“誰も見ていないのはわかってる。でも、私が見てる。だから、恥ずかしい”という感じがすごくあったんです。でも今回は、そういうことがなかったんですよ。初回限定盤に入っているドキュメント映像の歌入れのシーンを見たら、すごくいい顔して歌ってるなあって自分でもびっくりしました。

誰も見てなくても私が見てて、その私が“いかがなものか?”と思うんじゃないかというのが気になっていたけれど、今回は大丈夫だと思えたわけですよね。

そうですね。

その大丈夫だと思えた気持ちに名前をつけるとすれば、それは自信という言葉だったりするんでしょうか。

自信も持てたと思います。去年ライブをいろいろやらせていただいて。でも、あの制作の時のすごくいい顔は自信があるというよりも、向き合い方がわかったというか…、自分に対して素直になれた感がああいう表情になったんだと思います。

『逆上がりの向こうがわ』というタイトルはどのタイミングで決めたんですか。

私はいつも全部録り終わって、曲順を考えるくらいのタイミングで考えるんです。ただ、このタイトルはずっと温めてきたもので、これしかないなと思ってたんですけど、録り終わった時にやっぱりこのタイトルだなと思いました。この1年の心の変化をちゃんと表せているタイトルだなと思って。

花さんは、逆上がりはできるんですか。

撮影でやってみたんですけど、できなかったんですよ(笑)。昔はできたんですけど…。例えば走ると、前に進むから景色が変わるんですけど、逆上がりはグルンと回ってまた同じところに帰ってくるじゃないですか。なのに、逆上がりができた後って、逆上がりする前とは全然違って、鉄棒の向こうに見えた夕日や校庭がすごく綺麗にキラキラしてた記憶があるんです。だから、このタイトルは、「メジャーに行くので、違う景色を見ますから」というのではなくて、変わらない感覚と意識は持ったまま、だけど自分が見る景色やみんなに見せる景色はもっとキラキラと輝くものでありたいなという気持ちですね。それから、ちゃんと蹴り上げる地面ができたなという気持ちもあったんです。それは今までサポートしてくれたスタッフやミュージシャンの皆さんもそうだし、応援してくれたお客さんもそうだし。そういう方たちがきちんといてくれるなっていう。でも、そういう地面が“ありがたいな、温かいな”と思ってるだけでは何の恩返しにもならないから、どうしたらみなさんが一番喜ぶか考えると「やっぱり花ちゃんを応援してて間違いじゃなかったな」ということになった時だろうと思ったんです。だから、その“地面”を蹴り上げて「ちょっと、行ってくるわ!」っていう、そういう気持ちも込めました。

さて、これから1年後にはどうなってると思いますか。

1年後は29か。30歳までに達成したいことはたくさんあるんですけど…、1年後か。でも、こういうのは大きく出といたほうがいいですから、紅白ですね。「紅白歌合戦」に出たいです。実は、今回の発売日がおばあちゃんの命日なんですけど、おばあちゃんは私が中学3年生の時に亡くなったので、私が音楽をやっていることを知らないんですよ。どうやったら天国まで届くかなということを、最近すごく純粋に考えていて、その時に“紅白だな”と思ったんです。だから、ぜひ「紅白歌合戦」に出たいです。

期待しています。ありがとうございました。

その他の関取花の作品はこちらへ

ライブ情報

関取花弾き語りツアー“60分一番勝負2019”

4月26日(金) 北海道 musica hall café
5月12日(日) 岡山 MO:GLA
5月15日(水) 長崎 長崎香港上海銀行
5月16日(木) 鹿児島 LIVE HEAVEN
5月26日(日) 福島 THE LAST WALTZ
5月30日(木) 京都 someno kyoto
5月31日(金) 兵庫 旧グッゲンハイム邸
6月2日(日) 香川 高松sumus café
6月5日(水) 静岡 GARDEN CAFE LIFE TIME
6月8日(土) 新潟 GOLDEN PIGS YELLOW

関取花バンドツアー“梅雨だくツアー2019”

6月14日(金) 広島 クラブクアトロ
6月15日(土) 福岡 Gate ’s7
6月28日(金) 宮城 enn2nd
7月7日(日) 北海道 BESSIE HALL
7月12日(金) 愛知 ElectricLadyLand
7月13日(土) 大阪 梅田 BananaHall
7月18日(木) 東京 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

関取花

愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けている関取花。昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。 2019年春にユニバーサルシグマよりメジャー・デビュー。ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。

オフィシャルサイト
https://www.sekitorihana.com