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思ってたんとちょっと違った! でも…『リラックマとカオルさん』予想を裏切るビターな世界観を“全オトナに観てほしい”理由

思ってたんとちょっと違った! でも…『リラックマとカオルさん』予想を裏切るビターな世界観を“全オトナに観てほしい”理由

2019年4月19日よりNetflix独占配信をスタートした『リラックマとカオルさん』が、とても面白い! 2003年に誕生した人気キャラクター「リラックマ」初のアニメ化となった本作は、真面目なアラサーOL「カオルさん」と、カオルさんのアパートに居候しているリラックマ、コリラックマ、キイロイトリのマイペースでちょっぴりビターな日常を、メルヘン&ファンタジーとリアルを見事に融合させた世界観で描ききっている。

ストップモーションアニメの手法で丁寧に紡がれた『リラックマとカオルさん』は、リラックマ好きはもちろん、恋や仕事の狭間で人生に揺れる“オトナ女子”、「幸せに生きるとはどういうこと?」と自問自答しながら日々の生活を頑張っている全オトナに観て欲しい作品だ。「がんばる、を忘れる10分間。」がココロに刺さった、その理由とは。

文 / 阿部美香


可愛いキャラクターが暮らしているのは、意外にシビアな世界だった

配信がスタートした当初、『リラックマとカオルさん』を見始めての正直な印象は「思ってたんとちょっと違った!」というものだった。

もともと可愛いキャラクターには目がなかった私は、マスコットキャラとしての可愛いリラックマは好きだったが、シリーズについて知っていることといえば、“リラックマが単体の生物ではなく、謎の何者かがあのクマの着ぐるみを着ていること”とコリラックマやキイロイトリといった仲間キャラクターがいることくらい。なので『リラックマとカオルさん』もリラックマを主人公にして、キャラクターワールド内で仲間たちがワイワイとキュートに動き回る作品を予想していたのだ。

しかし『リラックマとカオルさん』は、とてもいい意味でその想像を裏切る、魅力的な「カオルさん」とリラックマの心温まるドラマになっていた。リラックマの知識が私と同程度の人に説明すると……そもそもリラックマは「いきなりOLのカオルさんの家におじゃましたまま、お世話になり続けている着ぐるみのクマ」という設定。カオルさんはこれまでも絵本にシルエットで登場していたものの、生身のキャラクターとして姿を現すのは本作が初めてなのだそうだ。

このカオルさん(声:多部未華子)が、ただのファンタジー世界の住人ではなく、リアルなアラサーOLとして物語が紡がれているのが、『リラックマとカオルさん』の魅力のひとつ。都内で働くカオルさんは仕事にも一生懸命だが、勤める会社は業績悪化中で、部署には新入社員も入らずボーナスも減額される状況。

大学時代の親友たちは、子育てに忙しかったり、海外で自分の生き方を見つけていたり、ママ料理研究家として活躍していたりで、同僚のイマドキな年下OLにも「なんか……取り残され感満載ですねぇ」と評されてしまう始末だ。もちろん恋人もいない日常だが、会社で一目見るなりときめいた宅配便のお兄さん・ハヤテ(声:山田孝之)にまた会いたくて、ネットショッピングでダイエット器具をたくさん買い込んでしまうという、奥手でけなげな女性だったりする。

そんなサエないカオルさんの生活に、そっと寄り添っているリラックマたちがまた素敵だ。リラックマとコリラックマ、カオルさんがもともと飼っていたキイロイトリの3匹は、けっして言葉を話すわけではないし、リラックマは毎日ぐーたら寝てばかり。おやつに目がなく好奇心旺盛に走り回っているコリラックマ、掃除と貯金が大好きなキイロイトリたちとの共同生活は、カオルさんの愚痴を聞いたり、慰めたり、時にはケンカをしながら、何気ない日常が何気ないまま、マイペースに彩られていく。それが観る人のココロを癒す。

時に自分の存在価値に疑問を感じたり、アラサーゆえの焦りを感じたりと、カオルさんの悩みに共感する人も多いはず。しかし、『リラックマとカオルさん』を観る人は、カオルさんが劇中でそうであるように、ゆるやかなリラックマたちとの触れ合いを共に経験することで、「まぁそんなに気張らなくても、いつかいいことあるよね」と、リアルに大らかな気持ちになれるのだ。

脚本を手がけているのは、映画『かもめ食堂』『めがね』『彼らが本気で編む時は、』など、ゆったりした空気感で何気ない日常をユーモアを交えた視点で繊細に描くことに定評のある個性派映画監督・荻上直子。『リラックマとカオルさん』の劇中に食事シーンが多いのも荻上直子らしさの表れだろう。

『どーもくん』のスタジオと監督による丁寧な作り込み

優れた脚本の力もあるが、なぜ『リラックマとカオルさん』の世界をただの絵空事としてではなく、観る人がリアルに受け止めることができるのかというと、キャラクターたちの造型、背景セット、キャラクターアクションが驚異的に作り込まれ、見事なストップモーションアニメで表現されているからだ。

アニメ制作とプロデュースを担当しているのは、NHK-BSキャラクターとしておなじみの『どーもくん』作品や『こまねこ』で知られるスタジオ・ドワーフ。監督の小林雅仁は、数々のCM映像やグローバル向けのどーもくん作品『DOMO!WORLD』の演出で知られる人物だ。

この作品は、2018年2月~8月までの半年間、黒い暗幕で仕切られた10個の専用スタジオにて、全12名のアニメーターによる10班体制で毎日撮影が進められたという。カオルさんには7体、リラックマたちには各10体ずつの人形が用意された撮影では、基本は1秒に12コマを撮影。アクションが多いシーンは1秒24コマ撮影により、滑らかな動きが表現された。1班あたり1日で5~10秒分を撮影。1話11分間の『リラックマとカオルさん』全体で、全13話合わせて10万コマを超える撮影が行われたとのことだ。

キャラクターを生き生きと動かす撮影の苦労も相当だったと思うが、各キャラクター造型のキュートさと美しさも、感嘆すべきポイントだ。リラックマと仲間たちの、思わず画面を触りたくなる“本物のもふもふ感”や、着ぐるみが動いた時のちょっとした布のくびれ方などは、CGアニメにはない温かみと、“そこにちゃんとキャラクターが生きているのだ”という素晴らしい存在感を示している。

さらに、細かいアイテムまでしっかりと作り込まれたセットと、自然光の表現が見事なライティングが相まって、彼らが暮らすアパートの室内外、カオルさんの会社、近所の川べりの四季折々の風景などが、じつに美しく描かれる。現実にはけっしてあり得ないカオルさんとリラックマたちの共同生活がリアルに感じられるのは、そういった情景作りへのこだわりも重要な役割を果たしている。だから何度でも見直したくなる。(各話のオープニングに流れる、リラックマたちが様々な表情を見せるアイキャッチも毎話違っていて、それを見るだけでも楽しい!)

これは“キャラクターありきアニメ”史上に残る作品なのでは!?

リラックマというキャラクターに興味のない人(とくに男性かな?)は、この作品を「へ~、リラックマがアニメになったんだ」程度で素通りしてしまうかもしれない。しかし、『リラックマとカオルさん』は数ある“キャラウターありきアニメ”史上に残る屈指の作品である。ここからリラックマワールドにハマってしまう人もたくさんいるはずだ。

カオルさんの何気ない日常は、13話のエピソードを通じて、ほんの少し変わっていく。人はきっと、頑張って、頑張って、無理に自分を変える必要はないのだ。必ず、自然に変わらなければいけない時は来る。そして、何が起きても“変わらないもの”がたしかに残るのだ。深みのあるテーマが、痛みを伴わずにココロをふわっと包み込むのも、『リラックマとカオルさん』の素敵な魔法なのかもしれない。

Netflixオリジナル作品『リラックマとカオルさん』

Netflixにて全世界独占配信中
13話・各11分/4K対応

出演:多部未華子、山田孝之ほか
脚本:荻上直子
音楽:岸田繁
主題歌:くるり「SAMPO」
クリエイティブアドバイザー:コンドウアキ
監督:小林雅仁
製作著作:サンエックス株式会社
監修:サンエックス“リラックマチーム”
アニメーション制作:ドワーフ

©SAN-X CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

Netflixオフィシャルサイト