Interview

東出昌大が「本当にキツかった」と語るドラマ『悪党 〜加害者追跡調査〜』撮影現場。瀬々敬久監督と共に明かすその真意とは

東出昌大が「本当にキツかった」と語るドラマ『悪党 〜加害者追跡調査〜』撮影現場。瀬々敬久監督と共に明かすその真意とは

元警察官で、今は小さな探偵事務所の調査員として働く佐伯修一。幼い頃、姉をレイプの末に殺された彼には、トラウマから不祥事を起こし、警察を免職となっていた。ある日、佐伯が勤める事務所に一件の依頼が舞い込む。それは「息子を暴行死させた男がどこでどのような生活をしているか調べてほしい」という、犯罪被害者の父親からのものだった──。
加害者側からの贖罪や葛藤を描いた『友罪』(2018年)をはじめ、犯罪と社会の関係を鋭く見つめ続けてきた名匠・瀬々敬久監督。『連続ドラマW 悪党 〜加害者追跡調査〜』(WOWOWプライム)は、その作家的テーマをさらに深く掘り下げた意欲作だ。原作は小説「友罪」と同じく薬丸岳。被害者遺族側の苦悩や憎しみをリアルに描いているという意味で、「友罪」と一対をなす重要作と言ってもいい。

「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」より © 2019 WOWOW INC.

主人公の佐伯修一を演じたのは、今や日本映画を牽引する俳優の一人となった東出昌大。瀬々監督とはすでに、2018年の映画『菊とギロチン』でタッグを組み、数々の映画祭・映画賞を席巻している。役作りのためにさまざまな犯罪ルポや家族の手記を読み込んで、「撮影期間は本当にしんどかった」と振り返る東出。そして「加害者=悪党とは決めつけたくない。むしろ葛藤を抱えた主人公が揺れ動く瞬間を撮りたかった」と話す瀬々監督。観る者の心にずしりと食い込むその内容について、二人に語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 荻原大志


僕にとってはかなり挑戦的な仕事でした(東出昌大)

監督は「悪党」という小説のどこに惹かれたのですか?

瀬々 今回の原作は薬丸(岳)さんの作品のなかでは少し昔のもので、すでに映像化された「友罪」や「Aではない君と」より前に書かれているんですね。物語はよく知られた事件もモチーフにしていると思うんですが、読んでみると良い意味でエンタテインメント性が強いというか……ドラマ向けの設定にもなっている。例えば主人公・佐伯修一の「懲戒免職を喰らった元警察官で、今はしがない探偵事務所員」というキャラクターがまず面白いし。彼がある依頼について調査していくうちに、次第に自分が抱えたトラウマと向き合い、最後はそれに決着を付けざるをえなくなる構成になっているでしょう。

そこがWOWOWの「連続ドラマW」に向いていると。

瀬々 そうですね。今回は全6話、トータル5時間くらいの尺になりますが、物語のなかにそういう明確な縦軸が存在するので。一つの大きなドラマとしても見てもらえるなと。自分自身の映画でいうと、『ヘヴンズ ストーリー』(2010年)に近いイメージですね。あれも9章のエピソードが一つの物語を織りなしていくという構造だったので。もちろん原作に描かれた事件──具体的には加害者と被害者の関係を通して今の社会そのものを描きたいという気持ちは、いつもと変わらずありました。

東出さんのキャスティングは最初から決めていたんですか?

瀬々 はい。『菊とギロチン』(2018年)を一緒に作って、東出さんの大きさは知っていたので。大きさって、身長のことじゃないですよ。

東出 ははは(笑)。

瀬々 こちらの意図を汲み取る“コール&レスポンス”に長けてるというかね。やみくもに「俺が、俺が」の俳優じゃないところが、僕はすごくいいと思っているので。今回の佐伯修一のような役には、特にぴったりだなと。

原作を読んで、東出さんはどのような感想を持たれました?

東出 まず薬丸さんの文章の力が素晴らしく、読みながら映像がリアルに頭に浮かびました。ただ小説の場合、登場人物の心情なり思いをモノローグという形で表現できますが、映像になるとそれをある程度は台詞にしないと観る人に伝わらなかったりもする。その意味では、やっぱり別物なんですね。

瀬々 そうだね。

東出 今回、鈴木謙一さんが原作のエッセンスを見事に抽出した脚本を書いてくださいました。だからこそ、撮影現場に入ってからは、原作の印象はあえてリセットして。映像作品としていかにリアルな佐伯修一像を作れるかを考えた。でないとどっち付かずになってしまう気がしたんです。芝居そのものは抑えめかもしれないけれど、僕にとってはかなり挑戦的なお仕事でもあったなと。

挑戦的というのは、例えばどういった部分でしょう?

東出 さっき監督が仰ったように、佐伯という主人公はたしかに「俺が、俺が」というキャラクターじゃない。でもそれって、演者からすると諸刃の剣みたいな部分もあって。人によってはドキュメンタリーっぽく見えてしまうというか、「これ、ドラマのお芝居じゃないよね」って感じる方がたくさん出てくるかもしれない。逆に「俺が、俺が」の演技をやれば、それはそれで観られるものにはなると思うんです。でも今回は、そういう直球じゃない芝居に挑んでみようって決めた。たしか瀬々監督からも最初に「今回はハードボイルドにはしたくない」って言われましたし。

瀬々 ははは、そうだっけ?

監督はなぜ、今回の主人公を「ハードボイルドにはしたくない」と?

瀬々 うーん、なんだろうな。

東出 佐伯をかっこよく見せたくないってことなんですか? 監督のファンはたくさん映画を観ていて、かっこつけた演技なんてすぐ気付いちゃうし。

瀬々 まあ、わかりやすく言うと、東出君が演じる佐伯は、中村敦夫が演じた「木枯らし紋次郎」とは違うってことかな。よけいわかりにくいか(笑)。

東出 そうですね(笑)。

木枯らし紋次郎のようなニヒルな“ダークヒーロー”ではないと?

瀬々 要は、自分のなかで「加害者=悪」という図式を、あまり決めつけないまま撮っていきたかったんでしょうね。主人公の佐伯は、かつて犯罪で家族を亡くしていて。それが原因でせっかく就職した警察を追われてしまった。その意味ではまさに、タイトルである「悪党」を憎む存在なわけです。ただ物語のなかで彼はたえず揺れている。ある少年犯罪の被害者家族から、社会復帰した加害者の追跡調査を依頼されるなかで、さまざまな思いに囚われる。

東出 はい。

瀬々 ハードボイルドというのはいわば、物事を冷徹に突き放した目線で描くわけですよね。それよりはもっと人間的というか……主人公が揺れ動くさまを見せたかったというのは大きい。

「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」演出中の瀬々監督 © 2019 WOWOW INC.

何かの考えなりメッセージを伝えるよりも、むしろ登場人物が抱えた揺れそのものを描きたかったと。

瀬々 うん。心のなかに何かを抱えた主人公が、葛藤を乗り越えていく様子を切り取りたい。どんな作品でも、そこは変わらないと思います。もちろん、1本ごとにテーマは違うし役者それぞれの個性もあるので、どうすればその瞬間をゲットできるかは毎回やってみないとわからないんですけどね。逆に言うと、それが映画やドラマを作る面白さだと思う。

物語が最終的にはどういう着地の仕方をするのかは、自分でも予想が付かなかった(東出昌大)

では演出にあたっても、俳優から自然に湧き出てくる感情を大切にするというか……監督からあまり明確な方向付けはなさらない?

瀬々 そうですね。今回は撮影期間が1か月ちょいあったんですけど、その間、主人公の佐伯が経験していくことを、東出君もまたドキュメンタリーみたいに疑似体験していくわけです。さまざまな俳優が演じる人物と文字どおり出会い、1か月なら1か月かけて、いわば作品を生きていく。そのなかで主人公が最後にどういう地点に到達するかは、誰が演じるかによって変わるでしょうし、正直、やってみなければわからない。それを一緒に併走し、経験しながら作っていく行為が、僕にとっての映画制作であり、ドラマ作りなんですよ。

「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」より © 2019 WOWOW INC.

東出さんは、佐伯という人物を1か月“生きて”いかがでしたか?

東出 しんどかったです。特に後半は本当にキツかった。内心「早く終わってくれないかな……」とずっと思っていました(笑)。僕が演じた修一は、かつて自分の姉が暴行の末に殺されたトラウマを抱えてるんですね。その元少年犯を三浦誠己さん、山中崇さん、波岡一喜さんが演じておられましたが、現場ではとても気軽にはお喋りできなかった。三浦さんに「ごめんなさい。今回は役が役なので、休憩中にお話しするのも難しそうですし。無意識に睨んじゃうかもしれないけれど許してください。打ち上げで美味しいお酒を飲みましょう」とお話ししたら、「大丈夫。わかってます」と言ってくださって。救われました。

東出さん自身、主人公の着地点を探りながら演じていた感覚も?

東出 ありました。脚本に書かれたことをそのまま演じないというか……特に中盤以降は、とりあえず現場に行って共演者の方々と向き合って。その瞬間に自分が感じたことを表現するというお芝居が、ずっと続いていた気がします。例えば、誰かに何かを言われて驚くシーンに「!」という記号が入っていたとしますよね。でも、その「!」マークが喜怒哀楽どんな感情を伴ったものかは、事前には考えない。どちらに転ぶかわからないけれど、とりあえず演ってみる。後半はずっとそんな撮り方だったので。この物語が最終的にはどういう着地の仕方をするのかは、自分でも予想が付かなかったですね。

「ハードボイルドな主人公にはしたくない」という言葉以外に、監督から何か具体的なディレクションはありましたか?

東出 衣装合わせのとき、監督が「佐伯は復讐の鬼だから」と仰ったんですね。その言葉が僕にはすごく印象的だった。でも撮影開始から1週間くらいたって、監督が「うーん」と悩んでおられるので「どうしたんですか?」って聞いたら、「復讐の鬼の顔は撮れてるんだけど、逆に佐伯の日常が見えてこないんだよね。もうちょっとリラックスした表情も撮っていかないとね」と。そういう微妙な足し算や引き算は、現場でかなりありました。そこは前回『菊とギロチン』でご一緒したときとは、まるで雰囲気が違った気がします。実際、ちょっとした台詞やリアクションの間を変えただけで、物語の深みがまるで変わってきたりして……。正直、自分はまだ台本の読み込みが足りてなかったと気付かされる瞬間も多かった。「ああ、なるほど。やっぱり瀬々監督すごいな」と(笑)。

『菊とギロチン』の瀬々監督はどういう感じだったんですか?

東出 もう「うわぁ〜〜!!」みたいな(笑)。とにかく熱量! という印象が強かったかな。でも今回は静かに、「うーん……」と考え込んでいる姿が記憶に残っています。僕、助監督の海野(敦)さんにこっそり「瀬々さんってあんな監督さんでしたっけ?」と聞いちゃったくらいで。

瀬々 そりゃ作品によっても違うよ。この内容で「わぁ〜〜!!」とかやってたらアホじゃないですか(笑)。

他者への視線の優しさ。実は、東出君のお芝居の本質もそこにあるんじゃないかと思う(瀬々敬久)

『菊とギロチン』で東出さんが演じた中濱鐡は関東大震災直後の激動期を駆け抜けたアナキスト。ある種、破れかぶれの明るさを感じさせる人物でした。今回の佐伯修一とは正反対のキャラクターにも思えますが、監督、そこは気になりませんでしたか?

瀬々 いや、僕自身は意外に共通点が多いと思ってるんですよ。人を見る目の優しさという部分ではね。

ああ、なるほど。

瀬々 中濱鐡は、つねに大言壮語して「革命だ!」とか言っている男ですが、他者に対してどこか優しい。だからこそ、ああやって周りに人が集まってきたわけです。佐伯修一もそう。たしかにパッと見た印象は違うけれど、彼もまた(探偵事務所への)依頼者に対してある種の親和力を持っている。トラウマや憎しみを抱えているからこそ他人事と思えず、事件に没入していく。そういう没入の仕方があって、はじめて自分の問題と対峙できるようになるわけで……。二人に共通しているものがあるとしたら、他者への視線の優しさでしょうし。実は、東出君のお芝居の本質もそこにあるんじゃないかと思う。

そこもまた「ハードボイルドじゃない」という根本の部分と繋がりますね。東出さんは役作りにあたって、特に何を意識されましたか?

東出 そうですね……。一つ絶対忘れちゃいけないと思っていたのは、かつて少年犯罪で姉を失ったことで、佐伯という主人公の家族が崩壊したということです。たしかに復讐心そのものは、彼のなかでもかなり揺れ動いていると思う。だけど、その事件によって生活が一変してしまったという事実は、彼の人生にずっと付きまとっている。被害者とその遺族。加害者と、その家族。すべての人生が一瞬で一変してしまう重みは、今回ノンフィクションやルポをいろいろ読んで強く感じたことでもあるので。そこだけは裏切っちゃいけないなと。

「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」より © 2019 WOWOW INC.

瀬々 平穏だった生活が根底から覆されてしまうという事実は、たしかに重いよね。例えば加害者側の家族は、その後ずっと逃げるように生きていかなきゃいけなかったりするし。被害者側の遺族にしたって、今回のような性犯罪なら「そうは言っても、お前の娘にも落ち度はあったんじゃないの?」的な中傷を受けるケースはまだ山ほどある。そういう社会的な視線のなかで、どうやって生きていくかというのも、一つの大きなテーマなんですけど。でもその一方で、深い傷を負った人間がずっと深刻な顔をして生きていかなきゃいけないのかというと、僕は違う気がする。やっぱりそれって、大きな嘘じゃないかと。

東出 うん、そうですね。

瀬々 例えば、恐ろしい災害に見舞われたとき。避難所では誰一人笑ってないのかというと、決してそんなことはないわけですね。どんなに悲しい出来事があっても、日常のなかにはやっぱり可笑しな瞬間もある。そういう泣き笑いの両側面をみんなで共有しながら進んでいくのが、おそらく生きるってことだと僕は思うし。ものすごく突き詰めて言うと、死すべき存在だからこそ生が輝くという側面も、人間にはある気がするんですね。どんな作品であれ、やっぱりそこは伝えていきたいし。原作の薬丸さんも、きっと同じ気持ちじゃないかと。自分のなかでは勝手に思っています。

東出さんは先ほど、約1か月の撮影期間が役者として「本当にキツかった」と仰いました。逆に、本作に出演してよかったと思える部分は何ですか?

瀬々 とにかく早く終わりたかったんだよね?(笑)。

東出 いえいえ(笑)。『悪党』というドラマがどんな仕上がりになっているか、現時点ではまだ、僕には想像が付いてないんですけれど。ただ一つはっきりと言えるのは、共演させていただいた俳優が皆さん“瀬々監督愛”に溢れていて本当に素晴らしかった。それを最前列で感じられたのは、僕にとっては非常に幸せな時間でしたし。その力をもらえたからこそ、自分は最後までカメラ前に立てたんだと思う。この物語の佐伯修一という主人公自体、突き詰めればそういう役柄という気がした。最後にそう思えたことが、嬉しかったですね。

瀬々監督は今回、WOWOWの「連続ドラマW」枠で連続ものを撮られたわけですが、2時間の映画とはまた違う面白さ、醍醐味はありましたか?

瀬々 ええ。僕はもともと群像劇が好きで。さまざまな登場人物の人生が絡み合い、1つの大きな物語を織りなしていく世界を描きたいという気持ちが強いんですね。その意味で今回の『悪党』は、まず縦軸には佐伯修一という主人公の人生があって。さらに1話ごといろんなゲストも登場し、それらが交差しあって大きな物語を形作っている。曼荼羅世界とまでは行かないけど(笑)。ちょっとした大河小説みたいな要素も感じられると思うんです。それは2時間前後の劇映画では、なかなか表現しえない世界なので。そういう物語の広さであり深さは、オファーをいただいた当初からずっと狙いであったし。ドラマをご覧になった皆さんにも、きっと感じていただけると思います。

『連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~』

5月12日(日)WOWOWプライムにて放送開始(全6話/第1話無料放送)

原作:薬丸岳『悪党』(角川文庫)
監督:瀬々敬久(『64-ロクヨン-前編/後編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』)
脚本:鈴木謙一
音楽:大間々昂
出演:東出昌大 新川優愛 青柳翔 蓮佛美沙子
   山口紗弥加 寛 一 郎 篠原ゆき子 中島歩 / 渡辺いっけい
   三浦誠己 山中崇 波岡一喜 / 柄本明
   板谷由夏 / 益岡徹 / 松重豊
特設サイトhttps://www.wowow.co.jp/dramaw/akutou/

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原作本

悪党
著者:薬丸岳
角川文庫/KADOKAWA