Interview

誰もが心に閉まっている大事な気持ち──古川雄輝が舞台『神の子どもたちはみな踊る after the quake』で語る勇気

誰もが心に閉まっている大事な気持ち──古川雄輝が舞台『神の子どもたちはみな踊る after the quake』で語る勇気

阪神・淡路大震災をテーマにした村上春樹の短編小説集『神の子どもたちはみな踊る』から「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」を舞台化した、『神の子どもたちはみな踊る after the quake』が7月31日(水)からよみうり大手町ホールにて上演される。
本作は、蜷川幸雄が演出した舞台『海辺のカフカ』に続くコラボレーション「Ninagawa×Murakami」の第2弾として構想されていたが、蜷川の逝去により長らく中断していた。しかし、2014年に蜷川が手がけたカズオ・イシグロ原作舞台『わたしを離さないで』で脚本を手がけた倉持 裕に演出を託し、念願の日本初上陸となる。脚本は2005年にアメリカで上演されたフランク・ギャラティ版をもとに、地震そのものを体験した人々ではなく、地震のニュースを見た人々の心の変化、葛藤、あるいは目に見えない恐怖にフォーカスしている。
主人公で作家の淳平 役に古川雄輝、淳平の大学時代からの友人・小夜子 役に松井玲奈、物語の鍵を握る「かえるくん」役に木場勝己、冴えないサラリーマン片桐 役と淳平の友人で小夜子の元夫・高槻 役に川口 覚、小夜子と高槻の娘の沙羅 役にWキャストで横溝菜帆、竹内咲帆がキャスティングされ、少数精鋭の五人芝居となっている。
そこで、主演の古川雄輝にインタビュー。村上作品の魅力、そして“愛”という感情について、海外生活で自身が経験した孤独感について語ってくれた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望


舞台はいつも新しいことに挑戦できる

まず、村上春樹さんの大ヒット原作であり、日本初上陸となる今作への出演が決まったときの気持ちから聞かせてください。

マーティン・マクドナーの『イニシュマン島のビリー』(16)以来、3年ぶりの舞台になります。舞台はいつも新しいことに挑戦できるので、新たな自分の発見に繋がります。今回も「この舞台から何を学べるのか、どうやって僕は成長できるのか」というワクワク感や、村上春樹さんの原作作品の主演ができることへの嬉しさを胸に、千秋楽まで頑張っていきたいですね。

原作を読まれた感動はいかがですか?

村上さんの作品を読むのは今作が初めてでしたが、スラスラと読みやすく、ストーリーに自然と惹かれていきました。ですが比喩表現が多彩なので、深読みすればするほど、読者によって感じ方が異なる、読み手に解釈が委ねられていると思うところもあって。感想が各々ありそうだから、実は、演出家の倉持さんとお会いしたときに共通認識を持ちたくて、僕の疑問をぶつけたんです。

どのようなことを聞かれたのですか。

たとえば、小夜子と高槻の子供の沙羅に話す、淳平がこしらえた2頭の熊が出てくるお話があるのですが、それは僕が演じる淳平と友達の高槻のメタファーに見える、とか。それ以外にも、読み込んでいくと淳平と高槻と小夜子は依存し合っているので、淳平がいないとふたりの元夫婦関係が成り立たない、という複雑な関係性も浮かび上がってきて。一度、いろいろな考えが生まれると、そこに多くの解釈が頭の中に浮かぶので、それらを踏まえて「あの表現は、こういった解釈でしょうか?」と僕から質問しました。

倉持さんからはどのような答えが返ってきましたか。

当然といえば当然ですが、「稽古でね」と軽いノリで返されました(笑)。これからの稽古でお互いに理解を深めていければ嬉しいです。倉持さんの作品は、竹中直人さんと生瀬勝久さんの“竹生企画”第2弾の『ブロッケンの妖怪』(15)を拝見しました。ステージの使い方が巧みでとても感動しました。今作をどう舞台化していくのか、それから僕が投げかけた質問にどう答えてくれるか、稽古が待ち遠しいです。楽しみに待っていようと思います。

いろいろな解釈で成立しているお話だと伺いましたが、舞台版ではどなたの解釈が提示されるのでしょう。

もちろん皆さんの解釈が正解だと思いますが、やはり演出の倉持さんが中心となって作品の魅力を伝えてくれると思います。村上さんの作品は、様々な理解によって成立しているのが面白いです。マニアックに読もうと思えばいくらでもマニアックに読み通すことができる。村上春樹さんを読み込んでいる人で、このインタビューを読まれている方からは、「村上さんはこう思っているのに」とツッコミがありそうなぐらい(笑)。

会話劇という範疇に収まらない“普通ではない感”

(笑)。では、脚本の話を聞かせてください。フランク・ギャラティさんの脚本を拝見すると「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」の2本の短編を実にスムーズに繋げていらっしゃいますね。

ええ。とても不思議な世界観です。普通の会話劇ではなくて、たとえば淳平が、高槻が何を思っているのかを喋ったり、語り手に回ったりもする。ひとりの台詞のはずなのに、3人で喋ることがあったり。会話劇という範疇に収まらない“普通ではない感”が村上さんの原作を活かしていると思いました。原作と脚本の印象はだいぶ違いますが、おっしゃるように、ふたつのお話がブレンドされているのが今作の魅力になっていると思います。

淳平が恋をしている小夜子との関係性も気になりますが、松井玲奈さんとどのような関係を築いていきますか。

僕も人見知りだし、先ほど松井さんも人見知りだと聞いたので、どうしようかと……(笑)。それは冗談で、僕がお芝居をするうえで大切にしているのは、遠慮をしないことです。誰が演出家で相手役だろうと怯まずにお芝居をすることを意識しています。僕が今回テーマにしているのは楽しむこと。シンプルなことですが、舞台は苦しく感じることも多いので大変です。言い換えれば、楽しむために頑張ろうとするからつらいのかもしれません。ですが、僕はまだまだ未熟で、お芝居がヘタだからつらいとも言えるので、うまくなれば楽しさも自然と生まれると思うし、この座組みでレベルアップしていきたと思っています。

そうして、古川さんは今作で座長になりますね。どのようにカンパニーをまとめていきますか。

主演でも、そうでなくても、あまり何もしないタイプかもしれません(笑)。でも今作は木場勝己さんといった大先輩がいるので、先輩から学ぶことを心がけたいです。僕が好奇心を持って楽しもうとしていれば、カンパニーのみんなもリラックスして稽古をしてくれると思っています。

ちなみに、古川さんは、今作以外の舞台でもどのように役者の方と接しているのですか。

舞台は、演出家がすべてだと思うんです。演技やお芝居について疑問があれば、無理に役者同士で話をまとめないように、まず演出家と話すことを心がけています。

相手の台詞をノーヒントで返さないといけないシーンが多い

舞台の稽古にはいつもどのように臨んでいらっしゃるのですか。

映像だとすぐに本番を迎えるので演技プランはカッチリ決めていきますが、舞台は稽古があるので、台詞を頭に入れるぐらいで大丈夫、という気持ちで、お芝居の決め打ちはしません。ですが今作は相手の台詞をノーヒントで返さないといけないシーンが多いので、台詞をしっかり覚えることが大切だと思います。

古川さんは様々な映像や舞台に挑戦していますね。舞台の魅力はありますか。

役者として未知なる自分を発見できることの多い世界だと思います。お客様からすると、舞台はナマモノなのでその場所にいないと見ることのできないリアルなライブ感が映像とは違いますし、役者とお客様が一緒の空間にいることが舞台の魅力だと思います。

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