モリコメンド 一本釣り  vol. 118

Column

GRASAM ANIMAL 現実逃避的なエンターテインメントとは真逆の存在ともいえるロックバンド

GRASAM ANIMAL 現実逃避的なエンターテインメントとは真逆の存在ともいえるロックバンド

以前、シンガーソングライターの矢野顕子さんにインタビューさせてもらった際、“これから音楽家を志す人に一言お願いできますか”と聞いてみたところ、「まずは“いい音楽をできるだけたくさん聴くことかしら”」という答えが返ってきた。“若い時期に質の高い音楽をどれだけ聴くかによって、基準がまったく変わってくる”という話だったのだが、考えてみれば、それはごくごく真っ当で当たり前のことである。文字や言葉を知らないと文章が書けないように、基本的には、音楽を聴いてないと音楽を作ることはできない。優れた音楽をたっぷり聴いて、そのなかから自分の琴線に響く作品を吸収する。その前提を持っているアーティストこそが、真に豊かなオリジナル曲を生み出すことができるのだと思う。(ちなみに筆者はアーティストに取材するたびに「これまでどんな音楽を聴いてきたか? ふだんどんな音楽を聴いているか?」という質問をできるかぎり投げかけるようにしているのだが、その答えが貧弱だとちょっとガッカリするし、逆にその人がしっかりしたミュージック・ラバーだったりすると嬉しくなる。最近では、キンプリのメンバーが思った以上にいろんな音楽を聴いていることがわかり、“これは期待できそう!”と感じたのでした)

都内近郊を中心に活動しているロックバンド“GRASAM ANIMAL”のフロントマン、木屋和人(Gt/Vo)はとんでもなくディープな音楽愛好家である。彼が音楽にハマったのは、高校生の頃。流行りの音楽に物足りなくなった彼は「もっといろんな音楽を聴きたい」という純粋な欲望に従いながらいろいろとディグっているうちに、JERRY LEE PHANTOMとフジファブリックに出会い、この二つのバンドのルーツをさらに深く掘り始める。そのなかで彼は古今東西の様々な音楽——ニューウェイブ、パンク、ファンク、ソウル、ブラジル音楽など——に親しみ、それぞれのジャンルのつながりは共通点を探っていった。それは大げさではなく、好きな音楽を自らのDNAレベルにまで浸透させる行為だったのだと思う。

その後、木屋はメンバーを集め、GRASAM ANIMALを結成。自分自身のルーツミュージックだけではなく、メンバーの志向性、“どんな音にフェティシズムを感じるか?”を集約しながら、実験的とも言える試行錯誤を繰り返す。その最初の成果が、1stアルバム『ANIMAL PYRAMID』。オルタナティヴなロックミュージックが軸にしながら、根底にありながらも、ソウル、ファンクなどを取り入れたダンサブルなサウンド、さらにワールド・ミュージック的なエッセンスを加えた音楽性は、早耳の音楽ファンの間で話題を集めた。

その後、曲が思うように書けないスランプの時期を経験した木屋だが、2018年7月に約1年ぶりとなる新曲「LOVE OIL c/w あの子の心臓に」を配信限定でリリース。

この2曲に加え、バンド主催パーティのテーマソング「Bali High」、ヒップホップの要素を取り入れた「HERO」を含むニューアルバム『GOLDEN BAD』は、“ルーツミュージックを現代的なポップミュージック/ロックンロールへと昇華する”というバンドのコンセプトをさらに前進させた作品に仕上がっている。プライマル・スクリームの『スクリーマデリカ』(1991年)、ベックの『Golden Feeling』(1993年)など90年代前半の音楽、さらに細野晴臣の“トロピカル3部作”にも通じるエキゾチズムが感じられるサウンドメイクもきわめて魅力的だ。

さらに特筆すべきは、木屋が紡ぎだす歌詞の世界。『GOLDEN BAD』というアルバムのタイトルが示す通り、良くない感情、鬱屈とした空気に貫かれている。これは偽悪的とか捻くれてるというより、シンプルに現実を映し出しているのだろう。いろんな意見や価値観があるという当たり前のことを考慮に入れても、現在の社会の雰囲気はどう考えても“BAD”だ。現実逃避的なエンターテインメントとは真逆の存在ともいえるGRASAM ANIMALは、その空気をリアルに反映することで、自らの表現へと結びつけているのだと思う。

いまの音楽シーンの中心は、上手くデザインされ、平均化されているポップソング。その潮流に抗うようにGRASAM ANIMALは、自らの偏向的なフェティシズムを集結させることで、突出した存在を目指している(ように見える)。どうしようもない現実と格闘できる音楽とは、おそらく『GOLDEN BAD』のようなものだろう。ルーツミュージックに根差しつつ、2019年の世界にアゲインストするーーもともとロックバンドとはそういう存在ではなかったかと、彼らの音楽を聴くとどうしても感じてしまう。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://www.grasamanimal.com

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