Interview

「原作があるなら最後までアニメ化したい」 アニメ「〈物語〉シリーズ」の10年を総監督・新房昭之が振り返る

「原作があるなら最後までアニメ化したい」  アニメ「〈物語〉シリーズ」の10年を総監督・新房昭之が振り返る

2009年7月に放送がスタートし、いよいよ10周年を迎えるアニメ〈物語〉シリーズ。ここではその最新作『続・終物語』の放送・リリースと、5月11日に幕張メッセで行われた10周年記念イベント「〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~」の開催を記念し、シリーズ総監督・新房昭之へのインタビューを敢行した。業界全体にも大きな影響を与えたアニメ〈物語〉シリーズの10年とは?

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス)


アニメ「〈物語〉シリーズ」ファイナルシーズン、ついに完結!

まずはアニメ『続・終物語』の制作、お疲れさまでした。アニメ『化物語』(2009年)から数えて約10年。原作「ファイナルシーズン」までを完走した感想をお聞かせください。

新房 お話の区切りという意味では、2017年の『終物語』で終わっており、『続・終物語』はファンサービス的な色合いの強い作品です。ですので正直に言えば、やり遂げたという喜びは2年前の方が大きかったですね。

『続・終物語』はファンサービス的な色合いが強いということですが、それはどういう意味ですか?

新房 登場するキャラクターがほとんど“別人”になってしまっていますから、これまでの作品を観ていないと(キャラクター本来の性格を知らないと)面白さが半減してしまいます。シリーズの中でもちょっと浮いている、特殊な位置付けの物語なんです。なので、これまでのシリーズを観てきてくださった人には、そういうところを面白がってもらえるのではないかと。

そんな『続・終物語』をアニメ化するに当たって意図したことはありますか?

新房 これは過去の作品も同様なのですが、限られた時間の中、物語の本筋をカットしてでも、キャラクター同士の面白い会話を残すようにしています。メインのお話をしっかり描くのであればカットすべきような場所も、あえて残しました。アニメ〈物語〉シリーズでは、そういうところこそ大切にしたいと思ったんです。

なるほど。新房監督はこれまでも多くの原作付きアニメに携わられていますが、それらにもその“意図”は当てはまるのですか?

新房 いや、これに関しては西尾維新作品だから、ですね。もちろん、他の作品にもそうしたところはあると思いますが、アニメ〈物語〉シリーズはかなり特化しています。

僕は『化物語』をアニメ化不可能だとは思っていなかった

2009年にアニメ『化物語』を世に送り出した時から、このアニメが10年続くという予感はありましたか?

新房 全くなかったですね。毎回、原作の最後に新作の予告が載っていて、あれ? 終わらないんだ、って(笑)。それを追いかけ続けていたらいつの間にか10年経っていたという。

『化物語』は、原作者・西尾維新さん自らが「アニメ化不可能」を謳っていた作品でしたが、新房監督はそのアニメ化を任された際、どう思われましたか?

新房 実は僕自身はそれほどまで「不可能」だとは思っていませんでした。世界名作劇場初期の作品に『赤毛のアン』(1979年)があったじゃないですか。あれも原作はアニメ化に不向きな内容で、ずっと会話ばかりしているんです。でも、高畑 勲監督はそれをテンポ良く見せて、とても面白い作品に仕上げていました。会話の隙間をぬって、ちゃんと物語も進んでいきますしね。そういう前例があったので、会話劇が中心の『化物語』もちゃんと面白くできるだろうと思っていました。

まさかここで『赤毛のアン』のお話が出てくるとは思いませんでした。なるほど、確かにそういう作品で、面白かったです。

新房 それよりも、当時、ライトノベルを中心に若者向けの小説を原作にしたアニメが増えていたので、それらとどう差別化するのかのほうが悩みましたね。

その差別化ポイントの1つが文字を使った演出だったと思うのですが、あれはどのようにして思い付いたのですか?

新房 よく聞かれる質問ですが、それについては「文字」を「映像」にすることに挑戦したと言っています。文字だって元々は象形文字、つまり絵ですから、それを上手く映像化できれば面白いと思ったんです。ちなみに、直接のヒントになったのは江戸川乱歩の『蠹』という小説。この作品ではあるページを開くと「虫」「虫」「虫」……と、虫の字が無数に書かれているんですが、そういうことをアニメでやれたら面白いのではないかと思ったんです。

そうした実験的な表現は結果として大変な評判となりました。まさにもくろみ通りだったわけですが、どのような手応え感がありましたか?

新房 ご存じのように進行が遅れに遅れていたので、正直、それどころではありませんでした(笑)。

……たしかに(笑)。とは言え、結果としてアニメ『化物語』は、当時のBD/DVD市場で伝説になるほどの大ヒットとなりました。さすがに数字で結果が出てくると達成感もあったのではないですか?

新房 西尾維新アニメプロジェクトの第1弾でしたし、ヒットさせたいという思いで作っていたのでうれしかったですよ。ただ、ネット通販の予約数ランキングで「まよいマイマイ」や「なでこスネイク」が、「ひたぎクラブ」を大きく上回っているのを見た時にはやっぱり皆さん幼女が好きなんだなぁって(笑)。演出的には「ひたぎクラブ」の方が凝っているんですけどね……。

アニメ〈物語〉シリーズがいつまでも“新しい”理由

アニメ〈物語〉シリーズを10年続けていく中で、新房監督の肩書きが「監督」から「総監督」に変わっていきますが(2012年『猫物語(黒)』から)、これによって新房監督のアニメへの関わり方はどう変化しているのですか?

新房 表記が変わっただけで、やっていることはさほど変わっていません。ただ、各作品のシリーズディレクターに任せる部分は確実に増えています。具体的には私は絵コンテを見るまでに抑えて、現場は彼らにお願いしています。

「任せる」ことに不安や不満はないのですか?

新房 全くありませんね。逆に、作り手が変わっていくことで、作品が古びないという大きなメリットがあります。

確かに新しい人が参加することで、表現の幅が拡がっていることを感じます。パロディシーンなんかも、いろいろなパターンが出てきていますよね。

新房 そうですね。たとえば、『続・終物語』で出てくるファミコン風のパロディシーンはスタッフの発案なんですが、ゲームをやらない僕には全くわかりませんでした(笑)。でも、30~40代の視聴者には絶対刺さるからやらせてほしいって言うんです。そういうのは邪魔したくないと思っています。

そんな中、アニメ〈物語〉シリーズで変えないようにしたことはありますか?

新房 これも特にないです。先程お話しした文字の演出なども、ずっとやっていたら飽きてきちゃいますから、僕自身はそうこだわっていません。実際、『続・終物語』でもほとんど使われていませんよね。でも、それで良いんですよ。

1 2 >